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10店舗を越えるチェーン店の店長になるために
シリーズ第22回
体験的店長実務ステップアップ講座第14回目


「店長への教育はどこまでするのか」

マクドナルドの店長教育は優れたハンバーガー大学と厳しいスーパーバーザーによるオンザジョブトレーニングだけではない。折に触れていろいろな教育をしている。教育とは単に教えるだけでなく、勉強を必要な環境に置くというやり方だ。当時行っていた環境教育をちょっと紹介しよう。

  1. 社外研修に積極的に取り組む

    店長への教育で必要なのは社内の研修だけでなく社外の研修も必要だ。その中でも食品を調理するわけだから社内研修で食品衛生を教えるだけでなく、保健所の主催する衛生管理者の講習を受けさせ、その資格が店長に必要不可欠なようにしていた。保健所の指導はうるさいことをいうだけだと思い込んでしまう方が案外多いようで、実際に店舗設計の際に保健所の指導で厨房の出入り口に設置を指導された手洗器を営業許可をもらった後に撤去してしまう例をみる。こんな姿勢では大腸菌o157の攻撃から逃れることはできない。

    マクドナルドでは店長になったら強制的に研修を受けるようにし、研修を受けた後は店に戻り部下や、アルバイトに対する衛生教育を行わせる。習ったことをすぐに教えるということは正しい知識を身につけていないとできないからだ。人にちゃんと教えられるようになるとそれは身に付いているということになる。 次に大事なのは防火管理者だ。多くの従業員とお客様を抱えているわけだから、火事を出して死亡者がでては大変だ。そのために消防署の主催する防火管理者の講習を受けさせ、それを元に防火計画を実際につくらせる。そして避難訓練や緊急連絡先を常に明確にさせておく。また、調理機器や空調機、電気設備、消火設備などの修理点検のPMCというプリベンディブメインテナンスの手法をハンバーガー大学のAOCで教えているが、この防火管理者の講習後その知識を元にPMCをより具体的にできるように連動させている。

    普通の場合、保健所や消防署がうるさいからスーパーバイザーや場合によっては本社の人間が資格を取り、従業員には真剣に受講をさせないという例が多いようだ。しかし、そんな態度を取っていると本当に緊急事態が発生したときに問題が更に大きくなる。

    マクドナルドでは、緊急時のためには、従業員の住所、緊急時の連絡先等をしっかり記録し、緊急時にすぐ持ち出しをできるようにしている。筆者も従業員の連絡先のコピーをいくつか持ち常に携帯しているようにしていた。そんな普段の訓練が役に立ったのが非常災害時だ。先年の神戸の地震でかなり多くの店舗が被災にあったが、その普段からの救急連絡体制で24時間以内に従業員の安否を確認することができたといわれているのはその成果だろう。また、衛生管理、防火管理者研修を受けさせそれと社内のPMCと連動させることにより、火事や食中毒が社会問題になってもすぐに対応が可能になっている。

  2. 情報の公開と工場見学

    マクドナルドの店長への教育の基本は会社の全ての情報をできるだけ従業員へ公開することにある。その中で驚かされたのは食品の仕様書の公開と工場見学だ。なぜそれらを教えるかというと店長は品質の最終責任者であり、店長自身が商品の正しい品質を理解し、もし業者から搬入時に問題がある品を納品されるときに拒絶できるだけの知識を与えなくてはいけないからだ。

    まず、AOCでは各食材の配合成分、製造工程をきちんと教え、マクドナルドで使用している原材料の特徴、品質管理のポイントを教える。主要食材の仕様書を惜しげもなく公開している。

    次にその知識を元に食材工場を見学させる。百聞は一見にしかずだからだ。食材工場でどんなよい原材料をどれだけ品質に注意して製造しているかを見ると、店舗に帰ってからも調理の際の品質管理に真剣に取り組むようになる。

    また、食材工場の行程を見てどんな品質管理と安全管理をしているかを理解させると、お客様からのクレーム処理を店長が行うことが可能になる。たとえば食品工場で大事なのは食品の衛生的な加工と、異物混入をどうやって防ぐか。どんな問題点があるかだ。また、衛生管理の行き届いた工場を見ることにより清掃方法や、掃除のしやすい設備の設計方法、従業員教育などを学ぶことができる。

    筆者は、ミート、バンズ、ミルク、チーズ、シェイクミックス、アップルパイ、コカコーラ、ケチャップ(トマトの畑まで)、ショートニング、魚の加工、鶏肉加工、豚肉加工などほとんどの工場を見学させたもらった。本社の品質管理担当者以外では最も工場見学をしたほうだろう。

    その中で大変勉強になったのは外資系の食品工場だった。炭酸飲料の原液製造工場のきれいさには大変驚かされた。その品質管理は厳しく、工場内にちり一つ落ちておらず、床はぴかぴかの状態だった。そのクレンリネスの基準を店舗に持ち帰ったのは言うまでもない。

    また、やはり外資系の最先端のチーズ工場では、チーズの製造工程から、品質管理、チーズの種類、食べかたなど、商品知識もしっかり学ぶことができた。だから、アルバイトのメンバーに対するチーズバーガーのキャンペーン時の事前ミーティングで商品と特徴説明をきちんと行うことができるようになり、キャンペーンの効果が大変高くなった。

    よい工場に基本的に共通しているのはまず、従業員の身だしなみ、態度、挨拶がきちんとしていることだ。ユニフォームは染み一つなく、工場内に入るときには靴を履き替え、手をしっかりと洗浄し、殺菌し、乾燥させてから入る。我々外部の顧客と会う場合でもきちんと挨拶をする。これだけで工場のレベルはすぐ理解できる。この従業員の教育ができていない工場は必ず品質管理の問題が多発する。また、従業員が楽しそうに働いていなかったり、工場内が薄暗く、床の汚れが放置されているような、クレンリネスの悪いのはクレーム多発工場の共通的な症状だ。

    工場見学で学ぶことは、その会社の経営ポリシー、従業員の躾と身だしなみ、清掃の重要性、商品知識、衛生管理、等だ。

    商品知識だけでなく当時問題だったシェークマシンの洗浄殺菌も随分参考になった。保健所は乳製品の製造機械であるシェークの完成品から大腸菌がでるかどうか定期的に検査する。そのために常にどうすれば衛生的な清掃方法ができるのかを考えていたのだが、ミルク工場の洗浄殺菌の際に、特殊な洗剤と湯を使用しているのを見た。そしてミルク工場の衛生管理担当者からそのポイント、洗剤メーカーを教えてもらい、後にシェーク用の洗浄殺菌洗剤を開発することが可能になった。

  3. 工場見学と品質管理

    実はこの工場見学の手法は品質管理で大変重要だということを後の地区運営部長になったときに気がつかされた。食品メーカーにおける品質管理というのは単によい会社だけではすまない場合がある。マクドナルドのように全国に店舗展開している場合には地方で独自にバンズや、野菜などの生鮮食料を入手しないとならない。地方によってはバンズなど小さなメーカーから購入しなければいけないことがある。もちろん品質管理は本社の購買部の品質管理担当者の責任と仕事なのだが、それだけではうまくいかない場合が多い。

    筆者がある地方の地区運営部長の際に問題になったのはその地区のバンズの品質のひどさであった。その地方では大手のパンメーカーであったが、マクドナルドのその地方での店舗数がまだ少なくそのため食品メーカーとしても利益が出ないため、手作りで製造しなくてはいけないという状況で、品質はとても許容できるのものではなく、出来上がったバンズに焼けこげがついていたり、手粉がついていたり、カットがまっすぐでないなど、基準以外であった。いくらクレームをいっても改善は遅々として進まなかった。

    そこで筆者がとった手法は工場見学だ。店長、アシスタントマネージャーを全員引き連れバンズ工場見学を行い、問題点をみんなの目で確認した。そして工場見学のあとその問題点と、店舗でのクレーム状況をバンズ工場の従業員とにミーティングでディスカッション行った。

    そして、なぜ我々がそこまで品質にこだわるかを理解してもらうために、先方の従業員を店舗に招待し作業の研修をしてもらうことにした。そしてバンズ工場の人たちに店舗の従業員がどれだけ品質に気を使っているか、品質の悪いバンズがどういう問題を引き起こしているのかを実際に体験してもらうことにした。このお互いの工場と店舗の交換研修は大変効果があった。クレームを100編いうよりもお互いがその仕事を体験し、理解し合うことは、現場レベルでの相互理解をもたらし、品質の向上にとってものすごい効果があった。バンズ工場の従業員も店舗で販売にたづさわっている社員やアルバイトが真剣に品質管理に取り組み、製造後10分たったハンバーガを廃棄して事実を実際に目で見て体験することにより、彼らも自分たちの作っている製品をそこまで大事に扱ってくれることにプライドを持つようになり、工場に帰っても真剣に品質管理に取り組むようになった。それ以来、クレームの件数は1割以下に減少するというドラマチックな効果をもたらした。

    社員の教育もそうだが、相互のコミュニケーションによる理解と、人間のプライドに訴えるというのがいかに効果があるかということだろう。

    このような手法は後に米国マクドナルドでプロダクトカッティングと言う手法で公式に採用された。マクドナルドではブラックブックという食材毎のレシピー、製造、品質管理、のマニュアルがあり、世界中のマクドナルド各社で使用する食品はそのマニュアルに従わなくてはならない。しかし、その厳しいマニュアルがあっても同一の品質を確立することができないという状況だった。そのために品質管理の責任者は毎年シカゴ本社に集められ、厳しい品質管理の研修を受けていた。それでも、なかなか品質の統一ができないことに気がついたマクドナルド本社の品質管理部では新しい手法を考案した。それをプロダクトカッティングといい、商品毎、たとえばバンズならバンズを世界中から一ヶ所に集め、そして世界中の品質管理担当者だけでなく、商品毎の製造メーカーの責任者も集められ、品質の比較チェックを行う。同じ商品を一同に集め比較するのだから、製造責任者にとって品質が他社より劣るというのはメンツにかけても避けなくてはいけない状態になったわけだ。マクドナルドの品質管理責任者はその現場で悪い商品を作っている食品メーカーの担当者を怒る必要は全くない。その品質の差は歴然としているからだ。もし、品質が悪いのが理解できないようであればその食品メーカーの技術や企業姿勢そのものが問題あるのであり、マクドナルドとの取り引きに向いていないということになる。この手法を取り入れてからの品質の向上には著しいものがあり、世界中の品質の向上と統一に成功した。この品質管理の手法があるから、後にワールドパーチェシングといって世界中から最も品質が良く安価な原材料を購入することを可能にさせ、低価格なハンバーガーの販売の成功をもたらしたのだろう。

    この実に人間的な手法がマクドナルドの最高の品質管理であるというのが10数年して気がつかされた。昨年の堺市の大腸菌o157による食中毒の事件の際にHACCPと言う管理手法に脚光が浴び、それをいち早く導入しているマクドナルドの手法がテレビなどで放映された。マクドナルドの店長たちはハンバーガー大学での教育と、食品工場見学、顧客からのクレーム処理、衛生キャンペーンなどを通じて、他社の品質管理責任者と同じくらいの衛生管理の知識と手法を身につけているのが公になった。この事実は決してここ数年の付け焼き刃ではない。普段からの地道な教育システムが最も重要だという実例だろう。

  4. 現場第一主義とは

    マクドナルドの教育の特徴は現場第一主義だった。マクドナルドは世界で20000店舗を越えるチェーンになったが、社内で一度もいわゆるチェーン理論などという言葉を聞いたことがない。マクドナルドは徹底して青臭いチェーン理論や、システム的な発想を排除している。それは創業者のレイ・クロック、当時の本社社長フレッド・ターナー、藤田社長に共通した考え方だ。理論を元に何かを発言しようものなら偉く怒られる。どんなに世間でいわれている理論や、常識であってもそれを自分で確認、検証しないと述べてはいけない様になっていた。そして品質を上げろ等とあいまいなことは言わない。バンズの切り口の焼けが悪ければその理由を徹底的に追求される。バンズトースターの温度、トースター熱板の汚れ、清掃方法、バンズの賞味期限、保管方法、納入時の品質チェックの手法まで、細かく具体的にチェックして原因を明確にしなければいけない。

    その現場第一主義を徹底するために時々、米国本社からレイ・クロック氏やフレッド・ターナー社長の巡回が行われた。その際の質問は以上のような具体的なものでその質問に正確に答えられないと大変なことになる。また、現場の店長やSVであってもバンズ工場でのバンズの製法をどのようにチェックしているか、切り口が悪ければそれはスライサーの歯の状態なのか、バンズの冷却が不十分なのかと言う専門的なことを聞かれる。そんな質問に答えられるようになるためには当然のことながら食品工場の見学をかかすことはできないわけだ。

    大手チェーンによっては機密保持だといって工場見学などとんでもないという風潮があるようだが、

    自社の社員が理解していなければ品質などを維持するのは不可能だろう。

    自社工場がなくても取引先の工場を見学することは大変有効だ。工場見学を快く受け入れて、丁寧に説明してくれる食品工場というのはそれだけ品質管理に自信と責任を持って望んでいるわけでありそれだけで安心して調理販売することが可能になる。

    衛生管理を向上させるためにはHACCPを導入をしなければならないと言われているが、店舗の衛生管理だけでなく、使用している原材料を加工する食品工場の視察は必要不可欠だ。そのためには普段から食品工場を見学し、良い会社悪い会社を目で確認しておく必要があるだろう。

  5. その外の工場見学

    店舗の調理機器のメインテナンスの勉強も同じだ。調理機器の工場を見学するのがもっともわかりやすい。機械を組み立て製造する工程を見るとどうやって分解修理したらよいかがわかるし、機械の性能に問題があれば食品工場の見学と同様にそこで問題を提議し解決することが可能になる。

    この手法で問題解決したのが、コーラのディスペンサーの冷却不足の改善だった。当時は新規開店の際にコーラ無料などの販促を行っていたが、その際にコーラのカーボネーターポンプが焼けて壊れるという問題が発生した。売上が高いからだと思っていたが製造工場を訪問しその問題を発見することができた。工場見学の際に工場の設計の責任者から機械の構造、作動原理の説明を受けた。

    コーラのディスペンサーというのは正式名称ポストミックスディスペンサーという。コーラなどの炭酸飲料の成分の大半は水分だ。ビン入りや缶入りが一般的であるが、マクドナルドのように大量に売れる販売店ではビンや缶の保管する場所がないし、搬入や、倉庫からの異動も大変だ。コーラのシロップの原液を店舗で製造した炭酸水と混合することにより搬入時の容量、重量が大幅に削減できるわけだ。その炭酸水は炭酸ガスと水道水を攪拌するカーボネータータンクで製造する。炭酸ガスをタンクに接続すると内部の圧力が上がるからそれに負けないだけの水圧をかけるため、カーボネーターポンプで水を強制的に送り込む。水は水道水を使用するのだが、水道水中の殺菌効果を維持するための塩素分が混入すると薬臭くて美味しくない。そこで、カーボンフィルターに水道水を通し、塩素分を除去するわけだ。

    説明は更に続く。カーボネーターポンプの能力は1時間に100ガロンの水を送ることができる。その濾過するフィルターの水処理の能力は1時間に30ガロンだと言う。???と言う疑問が吹き出た。水の流れは、水道水、カーボンフィルター、カーボネーターポンプ、カーボネータータンクとなっている。つまり、カーボネーターポンプの方がカーボンフィルターより能力が高くそのため水がこなくてカーボネーターポンプが空回りしそれで焼き切れるのではないかという疑問だった。

    何故そうなったかというと、元々は能力の低い機械を使用していたが売上が高いため冷却能力と炭酸水の製造能力を上げたわけだ。ところが肝心の水のカーボンフィルターの濾過能力をすっかり忘れていたわけだ。そんなことは簡単な足し算引き算だが、エンジニアというのは案外全体像をつかみきれないことがあるわけだ。

    それから、冷却能力の問題など数多くの問題を発見し、ボタン式の自動ディスペンサーの開発などそれから10年ほど改善に時間がかかった。その成果はマクドナルドのコーラの温度とそして購入する原液のあっと驚く値段に現れている。その発端が店長時代の工場見学に始まっていたのだ。

続く
お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。


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