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体験的SV業務
第6回
最初の開発業務


どこの会社でもそうだが米国研修旅行等に行くと研修報告書を出さなくてはいけない。マクドナルドの場合、単なる報告書だけではなく成果を出す必要がある。報告書だけに終わるともう海外旅行には連れていってくれなくなるわけだ。成果とは当然の事ながら店舗のQSCに直接貢献する内容でなくてはいけない。

1)最初の開発業務

マクドナルドに入社したての新人教育の際に、グリドルの磨き方、シェイクマシンの洗浄殺菌、フライヤーの洗浄、シンクでの器具洗浄などをやらされた。マクドナルドを外から見たときには全て全自動の機械を使用している様に見えたが、実際の作業は相変わらず前近代的な手作業だったのにはがっかりさせられた。グリドルをピカピカに磨いたり、器具洗浄を真夏にやらされたら、パンツまで汗びっしょりになる。新人アルバイトにやらせたら次に日にはこないのは請け合いだった。

その新人の時のつらさと、客のハンバーガーに鉄屑が混入したクレーム事故が筆者を洗剤の開発に追い立てたのだ。そして米国の研修旅行の際にマクドナルド店舗で使用している合理的な洗剤を目の当たりにして、帰国後直ちに開発を開始したのだ。

2)開発方針とスペックの決定方法

洗剤の開発は米国のサンプルがあるからそれを洗剤会社の専門家に見せれば最適の配合をして、洗浄能力も優れた物を作ってくれると思ったら大間違いだった。米国と日本は水質が異なる。米国の水はカルシウム、マグネシウムの含有量が多い硬水が中心で、日本の水は軟水だという事だった。カルシウムマグネシウムの少ない水で米国の洗剤を使うと、キレート剤という配合成分が強すぎ手あれがひどくなったり、金属部品の腐食が発生しやすいと言う問題だった。そのため、米国の配合成分を元に日本の水にあった洗剤の開発をしなくてはならなかった。また、米国人と異なり日本人は品質にうるさく、米国製のグリドルクリーナーなどの洗浄能力ではOKが出ないと言う問題にもぶつかった。米国のグリドルクリーナーの発想はグリドルの上についたカーボンを落とすことであり、グリドルの色が研磨剤で磨いたのと同じ仕上がり状態を要求しないと言うことだった。しかし、日本人のアルバイトの品質基準は大変高く、手作業で研磨剤を使い鏡のようにピカピカになったのと同様の仕上がりでないとOKを出してくれない。また、米国と日本の安全に対する考え方が異なっており、米国では多少グリドルクリーナーの成分がグリドル上に残っても気にしないが、日本では少量でも残留する可能性がある以上、配合成分が全て食品添加剤を使用しないと安全で無いという厳しい要求が出てきた。

ステンレスクリーナーも食品の触れる部分にかかるおそれがあり、米国のような鉱物性の成分ではだめで、食品添加物にしろという問題が発生した。つまり、米国の洗剤を元に開発するがそれ以上安全で、効力があるようにしろという厳しい要求だった。そのためには新規に配合成分を求める必要があり、出来上がった洗剤はその洗浄能力を評価しなければならなかった。

筆者は、洗浄能力などは何か汚れのサンプルを使用して、機械で自動的に計算できると思ったらどうもそうではないと言うことがわかってきた。店舗の調理機器で一定量の調理をして作った汚れを研究所で再現することが不可能だという事だ。つまり、店舗で実際に使用した後に機械の洗浄を行って評価をしなくてはいけないと言うことだ。では誰がやるのかというと、現場の作業を熟知している同じ人が作業をして、評価をしなくてはいけないと言うことだ。なんと、洗剤の評価は筆者が毎日清掃作業をしながら行わなければいけないのだった。

そこで当時の担当店舗を毎晩3店舗回り、グリドル、フライヤー、シェイクマシン、床、ステンレス板、を洗浄して回ったのだ。開発には4年はたっぷりかかっただろう。お陰で洗浄作業は会社で一番うまくなってしまった。今でも目隠しをしても掃除ができるくらいだ。

食品を調理する機械を洗浄するのであるから、洗剤の安全性が最も重要である。飲食業は安全性が大事であり、使用する機械を洗浄する際に、有害な成分の多い洗剤が残留してはいけないのである。使用する洗剤の安全性を確認してから使用する義務がある。安全性といってもただ一つだけではなくいくつかの要素に分かれている。しかし素人の筆者には皆目分からなかった。でも勉強をじっくりしてから開発に取りかかる余裕も時間も無かったから、開発をしながら勉強をすることにした。

開発に当たって洗剤メーカーの選定を行わなくてはならなかった。選定基準は会社の大きさよりも担当者の熱意と誠実さだった。洗剤の専門家からレクチャーを受けながら開発を行おうと思っていたので、誠実な辛抱強い会社が必要条件だった。まず、洗剤の洗浄原理、成分とその働き、日本と外国の水質の違いが与える洗剤への影響、安全性、洗浄能力、殺菌能力の判断基準、等のレクチャーを受けながら開発を進めていった。ここで筆者が何も知らないと言うことが大きな武器になった。筆者が素人であることは専門家には一目瞭然であり、筆者をだますことは簡単だった。筆者は専門家の言うことを聞きながらメモを取るのが精一杯だった。ところが面白いことに素人の筆者を相手に教えるのだからあまり難しい専門的なことを行ってもだめだ。素人にでもわかりやすく辛抱強く教える必要がある。そんな何人もの専門家とつきあううちにその人となりや会社の姿勢が良くわかるようになった。素人に対してもわかりやすい言葉で、相手が理解したかどうか確認しながら辛抱強く教えられる人が本当の専門家だという事が理解できた。物事の原理を基本から理解できている人は素人にもわかりやすく説明することが可能だと言うことだ。

勿論、あまり信用してはだまされるから、専門家の説明内容が正しいかどうか確認しなくてはならない。そこで、専門書をじっくり読むことにした。化学的な知識なしで洗剤の専門書を読むと眠くなるし、内容がちんぷんかんぷんだが、実際の洗浄作業を行い、それから専門家のレクチャーをたっぷり受けているから、難しい専門書の内容がすらすら理解できるようになる。理解できるだけでなく、問題点も発見できるようになった。

本を読んで気がついたのは2つの事だった。従来使用している殺菌剤の次亜塩素酸ナトリウム溶液の問題だった。当時使用していたのは最大手の洗剤メーカーの10kg容器入りの12%溶液の濃縮タイプだった。6%のものより濃縮であり、性能が高くスペースをとらないというのがうたい文句だった。しかし、数多くの文献を講読した結果、次亜塩素酸ナトリウム溶液のPHが高いと殺菌効果の安定性がなくなる、つまり、効果が薄くなるということだった。PHは濃縮の溶液の方が高いので、使用している次亜塩素酸ナトリウム12%溶液に問題があることが実験結果からも判明した。そこで濃度を6%に下げて安定性を増すことを実施した。また、次亜塩素酸ナトリウム溶液は太陽光線に当てたり、容器のふたを密閉していないと殺菌効果が低下することもわかった。その結果、コストアップになるが容器を小型にし安定性を高めることにした。大手メーカーの専門家でも気がついていない盲点だったようだ。

次に気がついたのはどの文献を読んでも次亜塩素酸ナトリウム溶液の希釈を湯で行うと安定性が低下すると書いてある。どの文献もそのデーターの出所がはっきりしていない。同じ資料を使用しているようだった。次亜塩素酸ナトリウムの製造の技術は進んでおり昔より安定度は増加しているはずなのにと疑問がわいた。そこで複数の洗剤メーカーに湯で希釈させるテストをさせたところ、安定度は水と変わらないことがわかった。殺菌の際に湯を使用するようにした方が油汚れが落ちやすいと言うメリットもあるのだ。このように文献をただ読むだけでなく、内容の確認を行うようになると洗剤メーカーの専門家もこの人には嘘をいえないと思うようになり、より、開発のスピードが上がるようになっていった。

開発に当たる洗剤業者の選定は単なる会社の規模や専門家の能力だけでなかった。テストとミーティングは当然店舗閉店後の真夜中だから、開発の技術力より、体力と忍耐が無くてはつとまらなかったわけで、数多くの洗剤業者が脱落していった。洗剤の開発はあくまでも実践であり、それが数多くの実用的な洗剤の開発の秘訣だった。 その経験を通じて洗剤の性能や、安全性の知識を学ぶことが出来た。素人でどれだけ学ぶことが出来たか、その当時の検討資料と、洗剤の分類を見ていただきたい。まあちょっと固い内容だが、衛生対策に必要な洗剤の知識なので読んで見よう。

  1. 環境問題

    洗剤の主成分は界面活性剤である。界面活性剤といっても種類があり、多少の知識が必要だ。10年以上前に合成洗剤の安全性を騒がれたことがある。安全性の中でも特に生分解性の問題だった。使用する界面活性剤が分解されないで残ってしまい、動植物に残留する危険性があるというものであった。現在では、生分解性の高い物を使用するのが当たり前になり、問題は少なくなっている。初期の界面活性剤はABS(分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩)であり、生分解性が悪く問題があったが、現在はLAS(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)などの生分解性の良い物を使用するのが当たり前になり問題は少なくなっている。

    もう一つの問題はトリポリ燐酸ナトリウムなどの燐酸塩をカルシウム、マグネシウムへのキレート剤として使用することにより、排水が河川などに流れ込んだ際に、栄養素が高すぎ、藻などが発生するという問題である。現在では燐酸塩に変わるキレート剤が使用される用になった。この燐酸塩に関しては日本では厳しい基準があるが、海外の洗剤は水が日本とは比較にならないくらい硬度の高い水のために、まだ、燐酸塩類を使用している場合がある。キレート剤の配合が多い場合は、金属腐食や手荒れが多いので併せて注意が必要だ。

  2. 毒性

    毒性には、急性毒性と、慢性毒性、重金属類の含有、の3つが考えられる。

    急性毒性とはLD50で判断する。どんな物でも一度に大量に摂取すると死亡する危険がある。例えば少量の塩とか、醤油は無害なのは当然だが、それを大量に摂取すると、死亡することがある。そういう意味ではどんな物も安全と言うことはあり得なず、どのくらい摂取したら危険かと言う危険度のバロメーターとして使用される。LD50とは半数致死量という。Lethal Dose Fiftyの略で、急性毒性を表す数値だ。ある物質を動物に経口投与した場合、それにより50%の動物が死亡する量を動物の体重1kgに換算した数値である。ある洗剤のLD50が4.5g/kgであったとすると、体重50kgに換算すると225gになる。つまりこれだけの量を摂取すると大人でも死亡することになる。ちなみに食塩のLD50は3.7g/kg、つまり、体重50kgの大人が185gの塩を摂取すれば死亡するのだ。つまり此の洗剤は塩より急性毒性という意味で安全と言うことになる。勿論だからといって食品に混入して良いと言うことではない。食品に混入して良いのは食品添加物でないといけないのだ。

    重金属とは、砒素、カドミウム、有機水銀などの毒物だ。これはJISで検査項目が指定されているので、メーカーに公的機関の分析レポートを提出させる。砒素重金属は基準以下でなければならない。

  3. 手あれ、

    次に安全性で問題になるのは、手荒れだ。手荒れを引き起こすとそこにブドウ球菌が発生して不衛生であるばかりか、皮膚障害を起こし、危険なのだ。できるだけ皮膚に優しい洗剤が必要だ。これは配合成分などを見て判断するしかないし、使用して手荒れを判断する必要がある。家庭用の洗濯石鹸などは、皮膚にサンプルをつけ手荒れの問題をチェックするが、業務用ではそこまでは実施していないのが現状だ。業務用の洗剤は洗剤の濃度を守り、使用時には保護手袋を使用したり、使用後は保護クリームを使用して手の脱脂を防ぐのが基本だ。

3)洗剤の配合成分と働き

  1. 洗剤の洗浄力と中性洗剤

    水、洗剤、物理的作用(ブラッシング、撹拌、噴射、循環、振動、温度)の3つの作用が洗浄の3大要素だ。

    例えば、厨房で使用するダスターの洗浄を考えてみよう。厨房で使用するダスターには種々の汚れが含まれる。油状の汚れ(動物、植物性の油)、蛋白質汚れ(卵、ミルク、肉、植物蛋白)、炭水化物汚れ(ご飯、でんぷん、糖分)、無機質汚れ(土砂、金属)、特殊な汚れ、等だ。その汚れは、ダスターの表面に付着したり、染み込んだり、場合によっては変色するほどの汚れだろう。ダスターをきれいにするには、普通の水で洗浄する場合と、中性洗剤をといだ水で洗浄する場合があるだろう。では、水を入れたバケツと、中性洗剤をといだバケツを用意してみよう。

    汚れが付着したまま乾燥したダスターを水中に入れても水がなかなか染み込んでいかないはずだ。そこで、ダスターを手で水の中に浸け、無理に水を染み込ませてみる。それだけでは汚れは落ちてこないはずだ。そこで、ダスターをごしごしこすったりもんだりすると、汚れが落ち、水が濁ってくるはずだ。水ではなく、湯を使用すると汚れ落ちはもっと良いはずだ。このごしごしこするのと、湯を使用するのを物理的な力という。

    では中性洗剤を希釈した水で洗ってみよう。ダスターに直ぐに水が染み込むのが分かるだろう。これを浸透作用という。

    次にダスターをごしごしもみ洗いしてみよう。中性洗剤を使用した方が水の汚れが多いはずだ。これは洗剤が汚れに吸着し、水に溶かすつまり乳化作用が働くからだ。

    次にそれぞれのダスターを絞ってみよう。当然の事ながら、洗剤を使用したほうが汚れが落ちているはずだ。これは、洗剤を使った方が汚れがダスターに、再び付く事がなくなるからで、洗剤の分散作用という。

    水で洗うより中性洗剤で洗った方がきれいになっているだろう。この中性洗剤の主成分が界面活性剤であり、上記の浸透、吸着、乳化、分散の4つの作用をもつ。本来洗浄作業は水でも時間をかければ可能である。しかし、乾いたダスターに水が染み込むのに時間がかかるのは、汚れに水が届きにくいと言うことなのだ。水を乾いたダスターの上に一滴落としてみよう。水は玉のようになって、ダスターになかなか浸透していかないだろう。これは、水の表面張力が布への浸透を防ぐからだ。この表面張力を押さえれば水はダスターに容易に浸透するはずだ。この水の表面張力の力を減少させるのが界面活性剤なのだ。界面とは何かというと、表面のことだ。表面張力を落とすことにより、繊維の中の汚れまで水が達するのだ。これを浸透力という。

    汚れまで到達した界面活性剤は親水基と親油基に分かれている。親油基が汚れに浸透して汚れの周囲をとりまいていく。この汚れに付着する作用を吸着という。次に汚れを取り去り、水に取り入れていく。この水に汚れを取り去る作用を乳化という。水が濁っている状態のことだ。

    水にとけ込んだ汚れが、また、ダスターに吸い込まれては困るので、ダスター表面にとりついた界面活性剤は汚れが再度付着しないようにする。この作用を分散作用という。

    以上の4つの作用が、界面活性剤の働きである。

  2. 界面活性剤の種類とそれ以外の成分

    [界面活性剤は4種類ある]

    *アニオン(陰イオン)界面活性剤、

    コストは低いが洗浄力が高いので最も一般的に使用される。

    *カチオン(陽イオン)界面活性剤、

    洗浄力はないが、殺菌剤や繊維の柔軟仕上げ剤として使用されている。

    *非イオン界面活性剤、

    コストが高いが水の硬度に影響されないので、洗浄力を高める必要のある難しい条件で使用される。

    *両性界面活性剤

    水溶液のP.H.によって、アルカリ側で陰イオン系、酸性側で陽イオン系に変わる界面活性剤である。洗浄力、殺菌力、柔軟効果を持っているが価格が高いため特殊な用途で使用されている。

    洗剤に使用する界面活性剤は、一般的にアニオン界面活性剤と非イオン界面活性剤だ。アニオン界面活性剤が最も多く使用されるが、汚れの対象、条件によっては非イオン界面活性剤も使用される。殆どの場合は数種類の界面活性剤を組み合わせて使用する。

    [ビルダー、添加剤]

    中性洗剤は界面活性剤の組み合わせだけでない。水はカルシウムとかマグネシウム等の金属分を含有している。例えば温泉で石鹸を使用してもあまり泡立たないが、それらの水中の成分が邪魔しているからだ。そこで、添加剤のキレート剤を含有させ、洗浄力が落ちないようにする。

    添加剤の効果は、洗剤の効果向上、金属腐食防止、軟水効果、溶解度の向上、粘度調整、泡安定、肌荒れ防止、等いろいろあり、用途により配合を変える。

    中性洗剤を購入する際には単に値段だけで比較しないで配合成分、濃度が使用用途に適合しているかを考慮して、購入する必要がある。

  3. 化学洗剤

    洗剤は中性洗剤だけではない。アルカリと酸性の洗剤が存在し、用途により使い分ける。

    [アルカリ洗剤]

    洗剤は全て中性洗剤で良いわけではない。厨房で使用したダスターは油でまみれているはずだ。いくら中性洗剤の濃度を高くしても油の汚れを完全に落とすことは難しいのだ。油の汚れを落とすには、アルカリ系の化学洗剤を使用する。アルカリ度を表すにはPHを使用する。PH7が中性だ。数字は1から14までだ。7より数字が大きくなると、アルカリ度が強くなる。数字が7より小さくなると酸性になる。8位までは弱アルカリであるが、12前後になると強アルカリになり、目に入ると失明の恐れがあるし皮膚を侵す。メーカーによりアルカリ度は異なるので使用説明書を良く読み、取り扱いを十分注意する必要がある。店舗には最低限、目を保護するゴーグルと、手袋が必要だろう。また、アルカリ、酸性の洗剤は保管場所を限定し、誤って使用しないように容器の色を目立つようにする。

    [酸性洗剤]

    髪の毛を洗浄した後、リンス剤を使用する。これはシャンプーの成分と水中の金属分(カルシウム、マグネシウム)が作用し、金属石鹸が出来、それが髪の毛に付着し、ざらざらするためだ。昔は、レモンなどでリンスをしたが、レモンは弱酸性であり、付着した金属石鹸分を取り去る働きがあるからだ。つまり、中性洗剤、アルカリ洗剤、の他に、酸性の洗剤が必要になる。お風呂の清掃する場合に使用するのは酸性の洗剤が多い。 食器洗浄機でリンス剤を使用するがこれもリンス水の中にカルシウム、マグネシウムが入っており、そのまま高温でリンスすると金属成分がグラスなどに付着し白くなるし、水切れが悪くなるからだ。その為に酸性の洗剤でリンスする。 酸性の洗剤もアルカリと同様に取り扱いに注意が必要になる。

4)店舗での洗浄テストと効果測定

洗剤の基本的な原理と配合成分の勉強をしながら、試作をして店舗での洗浄テストを重ねていった。 洗剤の効果測定は汚れの除去であるからかなり主観的な物であり、自分で納得がいくまで数年の時間がかかってしまった。殺菌剤の開発の場合には汚れの落ちだけでなく、殺菌効果の測定が必要だ。試験室でテストピースにシェイクを塗りそれを異なる洗剤で洗浄殺菌してその効果を確かめることも行っていたが、店舗での実際の状況、つまりリアルワールド(現実の世界)でのテストが最も大事なデーターだ。そこでシェイクマシンの洗浄殺菌剤の開発の際にはテスト店舗を広げ、完成品の一般生菌数と大腸菌群のチェックを非テスト店と平行して数ヶ月慎重に行っていった。問題のある数値が出れば、洗剤の問題か、使い方の問題か店舗を訪れて分析と対策を行っていった。

5)PR活動とトレーニング

新しい作業はどんなに優れている物でも現状のやり方と異なれば、慣れるまで違和感があり、現場の抵抗があるのが予想された。そこで、現場の抵抗がないように開発の初期の段階から定期的に開発状況をスーパーバイザー会議でスライドを交えながら報告を絶やさないようにした。まず、身内に対するPRが大事だという事だ。しかし、あまり効果があることを強調した物だから、開発に時間がかかりすぎたときには遅いと言って怒られてしまった失敗もあった。

また、どんなに優れた洗剤を開発してもその使い方がいい加減では効果が出ないし、使い方を誤ると危険でもある。そのために、トレーニングマニュアルの作成とハンバーガー大学での教材を作成しなくてはならなかった。ここで、マニュアルを専門家に任せればよいのだが、ハンバーガー大学のプロフェッサーにマニュアルの作り方を教えてもらったり、スライドや写真の取り方をしっかり教えてもらった。このときに一眼レフを自分で購入し、難しいスライド写真の取り方をじっくり勉強することが出来た。

6)洗剤の採用決定の手順

  1. 洗剤の経済的効果測定

    マクドナルドは超現実的な会社だからいくら綺麗になっても、衛生的になっても従来よりもコストが大幅に上昇しては採用の許可は出ない。そこで、正確なコスト比較も必要だった。

    従来の簡単な中性洗剤よりも専用の洗剤のコストは上がるが、洗剤を使用することにより、人件費、水道光熱費がどうなるかという総合的なコストで評価をおこなった。そのためには店舗の週報における水道光熱費や人件費のモニターと現場での使用方法の指導を綿密に行うようにした。

  2. 安全性の確認

    配合成分毎の安全性は各製造メーカーに提出させたが、第3者の安全性の評価を行うために、専門の検査機関や、洗剤を多量に使用する大手食品メーカーに分析を依頼した。また、衛生的な見地から保健所の権威のある人にデーターを見てもらい適切な助言を仰ぐことなどの多面的な安全性の確認をした。このためにデーターは数百ページに及ぶことになった。

    作業する人体への影響についてはテスト店をくまなく回り、作業者の手あれなどの状況をじっくり時間をかけてみていった。勿論自分で毎日洗浄作業に携わり手あれのチェックをするのは当然だった。

  3. 機械への影響

    アルカリや酸性の洗剤を開発する段階で人体などへの安全性の確認も大事だが、洗浄する機械への影響も評価しなくてはならない。各機械で使用する部品毎の洗剤のテストをメーカーで行い、どの位腐食するかをミリグラム単位でチェックするだけでなく、店舗の機械の観察を平行して行っていった。テストだけでなく、現実の世界の方が重要だからだ。

  4. 値段の交渉

    筆者は購買部の専門家でないから値段の交渉に戸惑ったが、社内にも化学の専門家は居ないから筆者がやらざるを得なかった。ここで役に立ったのが、配合成分の知識だった。開発の過程で成分の配合を変更しながら作り上げていったので、配合成分は明確であり、原材料毎の単価を提出させ、相場と照らし合わせながら価格を決定していくことが出来た。配合成分が明確であるため、複数の会社から合い見積もりをとり、各項目の単価をチェックすることによりよりコストを正確に算出することに成功した。

  5. 法律的な問題とトラブル

    開発が全てスムーズに行くわけではない。思わぬところで旨く行かないことがあった。ある洗剤の開発の過程で、同じ洗剤が競合他社に販売していることが判明した。筆者は常に競合他社の情報を綿密に収集しており、他社がどんなことをしているのか全てわかっていたので。隠して販売したのがすぐに露見したわけだ。大手の洗剤メーカーであり開発担当者が熱心で信用していたのだが、販売の担当者がつい他社に販売してしまったようだ。素直に謝れば済む物が、さらに嘘の上塗りをしたので筆者も忍耐の緒が切れて、けじめを付けることにした。かなりユニークな開発であり、洗剤メーカーは密かに特許を申請していたが、正式な謝罪をさせ、ペナルティとしてマクドナルド社に譲渡させた。これは開発当初から秘密保持契約と開発途中の経過をきちんと文書化してあったために可能になったわけだ。

  6. 上司への提案

    以上の膨大な資料を基に上司と社長へ提案書(稟議書)を提出した。その際に注意したのは提案書を出すだけでなく、自分で説明に赴いたのだ。洗剤の選定という難しい提案書を上司に出しても机の上の肥やしになるのが落ちだからだ。提案書を採用する条件は簡単だった。当時の社内にその内容を判断できる人は居なかったから、上司の「何かあったらおまえが責任をとれ。俺はしらん。」の一言だった。

7)学んだこと

会社に専門家が居ないことが幸いだった。基礎研究から、開発テスト、ツール開発、パッケージデザイン、マニュアル作り、トレーニング、洗剤メーカー決定、コスト決定、安全性確認、法律的な交渉、など全部自分で行わなければならなかったからだ。この手順を全部記録して一冊の本にしておき、後に筆者が携わることになった開発業務のマニュアルになるように出来たことは後々までプラスとなった。一つの事に真剣に取り組むことにより、最初は多大な時間と労力を費やさなくてはならないが、開発システムを構築することにより、その後どんな分野でも開発出来るようになったし、部下に開発をさせる場合にも具体的な指導を的確に出来るようになった。

8)開発した洗剤の種類

家庭で使用する洗剤だけをを見ても、中性洗剤、ブリーチ、研磨剤、台所用強力洗剤、風呂場洗剤、トイレクリーナー、洗濯石鹸、柔軟剤、シャンプー、リンス、と数多くある。飲食業のように厨房から、客席、建物等、幅広く洗浄するにはもっと数多くの種類の洗剤が必要であり、その特性や使用上の注意点を理解しなければならない。

  1. 中性洗剤

    「洗剤の洗浄力と中性洗剤」の項目を参照

  2. 殺菌剤

    [シェイク、アイスクリームマシンの洗浄殺菌]

    調理機器の洗浄は大変重要だ。単に洗浄するだけでなく殺菌をすることが必要である。FFなどではシェイク、ソフトクリームが大きな売上を占めるが、保健所による乳製品の検査は大変厳しく、夏になると頭を悩ませる。従来は、機械を水でリンスしてから、中性洗剤をといだぬるま湯で洗い、それから水でリンスし、今度は次亜塩素酸ナトリウム100ppmの溶液で5分間殺菌する。それから再度水でリンスするという複雑な作業が必要であった。しかし、ミックスの配合成分は、油脂分と、蛋白質、カルシウム、マグネシウム等であり、中性洗剤では完全に洗浄できないことが判明した。シェイクやソフトクリームミックスを製造している乳製品の工場ではラインの洗浄に中性洗剤を使用していない。それは、中性洗剤では乳脂肪、蛋白、カルシウム、マグネシウムを除去できず、金属分がラインにたまり、乳石となり、細菌の巣になってしまうためだ。ライン洗浄では殺菌よりもまず汚れを落とすことを重視する。汚れが落ちないとその内部の細菌に洗剤が到達しないため、殺菌効果を発揮することができないからだ。

    そのために、特殊なアルカリ系の粉末洗剤を使用する。殺菌効果を出すために次亜塩素酸ナトリウム溶液ではなく、ジクロルイソシアヌール酸ソーダを使用する。ある温度にといだジクロルイソシアヌール酸は殺菌効果を出すだけでなく、油脂分と蛋白質を分解する能力が高いのだ。その他に洗浄能力を高めるために界面活性剤を混ぜて洗浄効果を最大限にだす。洗剤を最大限に生かす湯の温度も重要である。熱い方が油脂の汚れ落ちがよいが、殺菌剤の安定性が悪くなる。洗剤に最も適した温度に設定する必要がある。

    更に、カルシウム、マグネシウムが洗浄効果を落とさないように、キレート剤を配合する。泡が立ちすぎると、リンスが大変なのであわ立ちを少なくする配合もする。

    また、機械を洗浄するわけであるから、金属、プラスチック、ゴム部分の腐食がないかが重要だ。その為に腐食防止剤を配合するが、更に腐食度の経時変化を調べ部品の交換時期を明確にする。

    シェイク、アイスクリームマシンの取り出し口にはプラスチック部品を多用するが、プラスチック部品は傷つきやすくそこに細菌が繁殖しやすいと言う問題がある。従来の中性洗剤では浸透力が弱いが、ジクロルイソシアヌール酸ソーダを使用すると汚れに対する分解度と浸透度が強く、プラスチック部品が真っ白に綺麗になるために衛生度は格段に向上した。

    殺菌効果を持続させるために一回分づつに洗剤を分け、完全密封した状態にパックし殺菌効果が落ちないように加工する必要がある。また、粉末洗剤であるので、水への溶解性が良くないと、有効でないので粉末粒子の大きさと溶解性の設定をきちんとする。

    この洗浄殺菌剤は高価であるが、清掃時間が短縮出来るので人件費が低く、使用水量も少ないので、トータルコストはかえって低くなると言うメリットがある。洗剤の選定に当たっては単にコストだけでなく、人件費、水道光熱費等、総合的に考慮するべきだろう。なお、大腸菌を0にするにはこの洗浄殺菌剤だけでは力不足である。シェイクやアイスクリームを作るには、冷媒を通したシリンダー内部にミックスを入れて冷却し、凍り始めたミックスをスクレーパーブレードで掻き取り、撹拌して粘度の高い飲み物やソフトクリームを製造する。そのスクレーパーブレードはモーターからチャンバーを貫通したドライブシャフトを通して回転される。このドライブシャフトからミックスが漏れないようにゴムのOリングと可食性潤滑剤のグリースを使用する。この部分のグリース内部に混じったミックス内部に大腸菌などが繁殖しやすい。また洗浄ブラシにもグリースが付着するがその内部に細菌が繁殖する。洗浄ブラシとシャフトに付着した潤滑剤グリースを分解する洗剤の使用が必要になる。可食性潤滑剤のグリースに最も適した界面活性剤の配合をした特殊洗剤が必要になる。

    [次亜塩素酸ナトリウム溶液(ブリーチ)]

    厨房の殺菌剤として一般的に使用されているのは次亜塩素酸ナトリウム溶液だ。一般的には次亜塩素酸ナトリウム溶液濃度が5〜6%の物が多い。購入時に価格で購入を決定する場合が多いが、性能に大きな違いがあるので注意されたい。

    12%濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液が問題になった。ある大手メーカーの製品で、6%の物より濃縮してあるのでスペースを使用しないし、高級なのだという触れ込みであった。しかし、シェイクマシンに対する殺菌効果が弱いので、調べてみたところ大きな問題があった。開封しない状態で5カ月後に有効塩素濃度が60%まで低下していたのだ。開封している店舗の物はもっと低下していた。原因を調査したところ、次亜塩素酸ナトリウム溶液は液のPH数値が高いと(アルカリ度が強い)安定度が下がり、有効塩素の低下率が高くなるということであった。つまり、濃縮度が高いのがかえって良くなかったのである。また、容器が10KG入りであり、開封後の使用期間が長いため、実際の店舗での有効塩素量の低下が著しいという問題があった訳だ。そこで、濃度を6%、容器を1kg入りの小型にして、有効塩素量の低下を防ぐようにした。この改良で、小型容器にしたためにコストは上がったが、殺菌という大事な作業の為にはやむを得なかった訳だ。

    次亜塩素酸ナトリウム溶液のPHが高いと安定性が悪いと言うことは殆どの文献に書いてあるにも関わらず、大手メーカーでもこの様な初歩的なミスをするのである。これ以後、全ての洗剤をチェックしスペックを明確にせざるを得ず、この作業に数年を費やさざるを得なかった。

    しかし、文献に書いてあることもあてにならないことがある。殆どの洗剤の本に次亜塩素酸ナトリウム溶液は水でといで使用する、湯を使用すると安定性がない、ということであった。しかし、どの本も全く同じ表現であったのでおかしいと思い、確認テストを実施したところ、湯でも安定性は損なわれず、かえって洗浄性が向上し殺菌効果が高まることが分かった。文献が間違っていたわけではなく、実は製造方法がより安定性の良い物に変更されたのが大きな原因のようである。文献は必ずしも最新の情報に基づいているわけではないので、必ず自らの確認テストが必要だろう。

    [手洗い洗浄殺菌洗剤]

    衛生的にするというとまず大事なのが殺菌剤による殺菌だ。例えば手洗いだが、どうやって洗っているかが重要だ。完璧な殺菌が必要な病院などでは、石鹸で手を良く洗ってからクレゾール液に手を浸し殺菌する。洗浄工程は最も重要だ。洗浄で手の汚れが落ちていれば、汚れの内部に存在する細菌も洗い流されてほんの少ししか残留していないはずだ。手洗いはまず洗浄効果が最も重要なのだ。次にだれでも間違いなく殺菌をすることが出来るという事が基本だ。飲食店は病院のように専門家を採用しているのではなく、殆どアルバイトが中心だからである。

    飲食店では手を石鹸で洗ってから塩化ベンザルコニウムなどの逆性石鹸で手を殺菌する方法が一般的である。塩化ベンザルコニウムは陽イオン界面活性剤の殺菌効果を利用した物だ。しかし、普通の洗剤は陰イオン界面活性剤なので、両方を同時に使用すると殺菌効果がなくなってしまうという重大な欠点がある。石鹸をよく洗い流してから、逆性石鹸を使用しないと、殺菌効果が打ち消されてしまうのだ。正しく使用すれば逆性石鹸の殺菌力は高く効果的なのだが、 アルバイトを多く使用する飲食業ではいくらトレーニングをしても、手洗いを正しくやらない危険がある。

    そこで洗浄と殺菌を同時に出来る手洗い洗剤の開発を行い、化粧品などの殺菌剤に使用される、イルガサンDP300を使用し、洗浄と殺菌をかねるようにした。化粧品などに使用する殺菌剤を採用したのは手荒れを防ぐためなのだ。手荒れをおこすと、ブドウ球菌が発生し食中毒の元になるからだ。採用する際には殺菌剤の濃度と、手あれ防止剤が配合されているかをチェックする必要があり、実際の使用テストが望ましいだろう。現在では殆どの洗剤メーカーがイルガサンDP300入りの手洗い洗剤を販売しているようだ。

    手の殺菌をアルコールで直接行う場合があるが、アルコールの種類や使用頻度によっては手荒れを引き起こすので、使用方法と頻度に注意が必要だ。手洗いは重要であるが、あまり洗いすぎると手が荒れるので、適度な手洗いにとどめるべきだろう。おにぎり、寿司、サラダ等のなまものを作るときには使い捨てのプラスチック手袋を使用し、その外側をときどきアルコールスプレーなどで殺菌するのが望ましい。

  3. 酸性洗剤

    シェイク、アイスクリームマシンは乳製品を使用するのでいくら完璧に洗浄しても長い間にはカルシウム、マグネシウム等が溜まって乳石となり、細菌の巣になりやすい。定期的に酸性の洗剤で乳石を除去する必要がある。 また、スチームコンベクションオーブンのスチームジェネレターや加湿保温庫等は水分中のカルシウム、マグネシウムが沈殿する。やかんを長い間使用していると、内部に白い軽石状の付着物ができるのと同じだ。これは水中のカルシウム、マグネシウムの堆積物だ。これを除去するには酸性の洗剤で溶かし流す。あまり堆積物が厚くなるとなかなか溶けず作業時間がかかるので、定期的に作業をする方が効率がよい。金属によっては酸性の洗剤で腐食が発生するから、用途、金属等機械別にきめ細かく選定する必要がある。

  4. 強力油落とし洗剤

    厨房では多くの油を使用しているのでそれぞれの用途に応じた効果的な油落とし専用強力洗剤が必要だ。

    [グリドルクリーナー]

    従来はグリドルの表面のカーボン落としには金だわしなどを使用していたが、ステンレスの破片が客の喉に刺さり大騒ぎになった経験があり、グリドルクリーナーを開発した。グリドルクリーナーの条件はグリドルが高温のまま100℃前後で清掃できるように、耐熱の溶剤と、浸透性が必要になる。グリドルの汚れ自体はまだカーボン化していないので比較的簡単に汚れを落とすことは可能なのだが、問題はグリドルの鉄が錆びたり、高温でアルカリ反応を起こし変色してどす黒くなることであった。その色変化を押さえるのが最も苦労した点である。その結果、清掃後のグリドルの金属の色がきれいなステンレス色になるようになった。もう一つ注意しなければならないのは、洗浄作業が完璧に行われず、洗剤成分が残留する恐れがあるので、配合成分は食品添加を中心にする必要があることだ。一般的には苛性ソーダーが20%前後含まれるのが一般的であり、その他に、キレート剤、界面活性剤、金属腐食防止剤、粘度調整剤が配合される。

    [フライヤーボイルアウト]

    フライヤーの熱交換部分は高熱になり油分が焦げ付きカーボンとなる。カーボンは断熱材であり、熱伝達を妨げ、油の温度回復を遅くする。その為に3カ月に一度は洗浄しカーボンを落とす必要がある。堆積したカーボンはグリドルより堅いのでより浸透性の高い界面活性剤と、強いアルカリ成分が必要だ。油槽に水を張りそこに洗剤を入れ30分間ほど煮沸するのだが、フライヤー内の残存油分と、カセイソーダーが反応し石鹸になるので泡が多く立ち、ふきこぼれ、コントロールパネルを痛める危険性がある。消泡剤の配合と、金属腐食防止剤の配合が必要になる。温度は沸点100℃より低い95℃前後で煮沸する。その為にフライヤーが温度コントロールが出来る仕様が必要になる。さもないと油槽から泡が吹き出る危険がある。此のフライヤーボイルアウト洗剤もアルカリ度の弱い物が開発されている。しかし、完全に中性と言うわけではないので取り扱い、特にゴーグルの使用は必要だ。

    [オーブンクリーナー]

    コンベクションオーブンの汚れの清掃は大変であり、グリドルクリーナーのような強力なアルカリ洗剤をスプレーし、しばらくしてからふき取る。内部を洗うことが出来ないので、グリドルクリーナーのように食品添加物で作った安全な物が望ましい。

    最近では、スチームコンベクションオーブンが増加している。熱交換器の内部やファンの内側まで付着したカーボンを溶解する必要があり、グリドルクリーナーのタイプを使用する。吹きかける際に洗剤の濃度が高すぎるとうまく噴霧が出来ないので、水で薄め粘度を下げて使用する。スプレーには色々な種類があるが、粘度の高い溶液を噴霧出来る特殊なポンプ式のスプレーを使用するのが望ましい。ポンプ内部の部品は耐アルカリ性でなければならない。オーブンクリーナーの基本成分はグリドルクリーナーとほぼ同様であり、最近では低アルカリの安全性の高い物が出ている。

    [安全性の問題と取り扱いの注意]

    上記の洗剤は基本的に強アルカリのカセイソーダーを20%〜40%含有しており取り扱いには十分な注意が必要である。目に入れば失明する危険があるので取り扱う際には必ずゴーグルを着用する。耐アルカリ性のネオプレーンゴム手袋を使用する必要がある。低アルカリであっても皮膚に直接触れたり、目に入ったりすると危険であるので注意が必要である。誤って飲み込んだ場合には、すぐに水やミルクをを大量に飲んで洗剤分を吐き出し、直ちに医者にいく必要がある。また、目にはいった場合には、直ちに水で洗浄し医者にいく必要がある。いずれにせよ洗剤の種類により、毒性と対応方法が異なるので、使用説明書を普段から良く読み適切な対処が可能にするべきだろう。

    筆者の20年間の経験で1件だけアルバイト従業員がグリドルクリーナーを目に入れ失明寸前になったことがある。マニュアル通りゴーグルを使用していなかったためであるが、それでも企業責任からより安全な洗剤に切り替えざるを得なかった。とりあえず苛性ソーダから苛性カリに切り替え、さらに、界面活性剤の浸透性を向上したアルカリ分の弱い中性に近いものに改善した。

    アルカリの弱い洗剤の必要性は、調理機器にステンレス以外のアルミを使用する傾向からも必要になっている。クラムシェルグリドルの上側のグリドルは重量の関係からアルミにメッキをしたものを使用しているが、アルカリの強い成分の洗剤であると腐食し、表面が凸凹になる危険性があるので、アルカリ分の弱い洗剤の必要性がある。また、スチームコンベクションオーブンの清掃の際、アルカリ系のクリーナーを噴霧すると発生する蒸気と臭いがきつく作業が危険でありアルカリ分の弱い洗剤の必要性が出てきている。

    各種金属にはアルカリに対するPH限界値がある。鉄鋼は無いがアルミ、亜鉛は10、黄銅は11.5、と金属により異なるので、洗剤使用時のPHを計測し、設定する。

    アルバイトの多い職場等や、ステンレス以外の金属を使用する場合にはできるだけアルカリ分の弱い洗剤の採用を是非検討すると良いだろう。ただし、強アルカリ洗剤より、溶解性が落ちるので、ブラシ掛けをするとか、清掃の頻度の向上や、洗剤の適正量など使用上の注意が必要である。また、安全性が高いといっても洗剤を直接皮膚に触れたり、目に入れることは危険なので、手袋とゴーグルは必ず着用が必要だ。

  5. 床用洗剤、コンクリートのコーティング

    厨房の床は油分が多く清掃するときに、アルカリ度の高い洗剤で清掃することがあるが、アルカリ分が多いと、コンクリートの目地や、タイルを痛めることがあるので、床専用の洗剤の仕様が望ましい。アルカリ度の強い調理機器用の洗剤で床を洗浄すると、油は落ちるが、リンス性が悪くかえって滑る恐れもある。油落としの能力だけでなく、滑りにくい成分でなくてはならない。また、床の清掃が不十分であると悪臭の元になるので、殺菌剤を含んだ床用洗剤を使用するとよい。

    上薬のかかったタイル、ガラス、アルミ材をアルカリ度の高い洗剤で洗浄すると、腐食し、ガラスなどは曇り、タイルは艶がなくなり、アルミはざらざらになってしまう。洗剤の特性に留意して使用する必要がある。 厨房や倉庫に床をコンクリートむき出しで使用すると、強い洗剤で腐食されるし、ひび割れが出てくる。出来たら、コンクリート専用のコーティング剤を使用するべきだろう。

  6. 窓ガラスクリーナー

    窓ガラスクりーナーの主成分は、界面活性剤とつや出しのシリコンとグリコールなどだ。界面活性剤は汚れ落としをする。シリコンはつや出し剤だ。車の洗車機のワックスは油性のワックスではなく、シリコンを使用する。シリコンを使用すると艶が出て、水がかかっても水滴になり、きれいに流れ落ちる。ただし、日持ちがしないので毎日使用する必要がある。グリコールは車の不凍液と同じ成分だ。粘度があってガラスに付着し清掃性が向上し、寒冷地でも清掃中に凍ることがないからだ。

    つや出しが必要なかったり、寒冷地でければ普通の中性洗剤でも汚れが落ちるので、十分だろう。特にガラスに輝きがほしい場合にはガラスクリーナーを使用するなど使い分けると経済的だ。ガラスの清掃の秘訣はダスターなどで拭かずにゴムのスクイジーを使用することだ。やや慣れが必要だが、スピードが速くなるし仕上がりがきれいなので検討する価値があるだろう。スクイジーの使用方法は、パチンコ屋などのガラスを多く使用するビルの清掃業者のやり方を見ると良い。秘訣は、一回ごとにスクイジーの汚れをダスターでふき取り、直線ではなく∞字型にスクイジーを動かすことだ。また、スクイジーのゴムのエッジがきちんとしていないと汚れが落ちないから日頃の交換頻度をきちんと守ることがこつだ。

  7. 研磨剤

    長く清掃していない、鍋などのカーボンがぎっしりついたりした物は、強アルカリ洗剤を使用しても落ちる物ではない。金ダワシなどでこする必要がある。そんなときにはクレンザーなどの研磨剤が必要になる。研磨剤の主成分は、ガラスの原材料になる珪砂と界面活性剤、アルカリ剤等が主である。研磨自体の能力は珪砂の粒子の大きさに左右される。フライヤーなどの油槽についた汚れを毎日清掃する際に、研磨剤を使用するが、油に混入するので、珪砂などの食品に混じっても良い物だけを使用する場合がある。

    金属を研磨する際には珪砂の粒子の大きさにより、傷つき方が異なるので、清掃対象の金属にあった大きさの粒子を選定すると良い。厨房では他の洗剤と混ぜて使用されることが多いのでなるべく、珪砂だけの方が汎用性があって良いようだ。

  8. 真鍮磨き

    専用の研磨剤を使用する。この場合も清掃頻度をきちんと守らないと汚れが落ちなくなるので、日頃の注意がいる。最近では真鍮色のメッキがある。メッキは真鍮の様に色が変色しなくて便利だが、間違って研磨剤などをかけてこするとメッキが剥げてしまうので、金属の素材に注意すると良い。

  9. 家具クリーナー

    日本の清掃方法は何でも水拭きするという基本的な欠陥がある。テーブルとか椅子などの家具を水拭きするのは最も良くないのだ。木で出来た家具はニス塗りしてあるが、ニスが水溶性であり、水で剥離し、汚れが染み込んでしまうのだ。なるべくカラ拭きが望ましいのだ。しかし手指で触れることが多く、手垢が付いて汚くなる。ニスを落とさないで手垢を落とすには専用の家具クリーナーが必要だ。ワックスをかけても良いのだが、客席では臭いが出てあまり向いていないし、作業性が良くない。水溶性のスプレータイプの家具クリーナーが作業性がよい。ただし、一般に市販している物は香料が入っているので、営業時間外のみに使用する注意が必要だ。

    木の家具を使用するにはかなりの手入れが必要だが、どうしても水拭きで済ませたい場合には、家具の塗装をしっかりした物にする。ニスではなくウレタン塗装などをすると耐水性があり良いだろう。市販の家具はウレタン塗装が多いが厚めにかけた方が持ちがよい。いくら持ちがよいウレタン塗装でも2年位すると部分的に剥がれれてきて、そこから汚れが染み込むので、定期的な塗装をすると長持ちするようになる。

    木部だけでなく、レザーや、プラスチックも家具クリーナーで清掃すると艶が出て汚れがつきにくくなる。一度きれいに清掃した後は、家具クリーナーを含ませた、ダスターで軽く空拭きすれば簡単にきれいになる。

  10. ステンレスクリーナー

    厨房で使うステンレスは汚れが目立たないようにヘアーライン加工してある。ステンレスを水拭きで使用すると、水分のカルシウム、マグネシウムがステンレス表面に付着して白っぽくなり輝きが出ない。ステンレスの汚れは、油性のステンレスクリーナーで落とし、同時につや出しをする。ステンレスクリーナーの油性の成分がヘアーラインの細かいところに入り、それが艶を出すのだ。油の付いた指などで触っても跡がつきにくいのはそのためだ。ステンレスクリーナーの欠点は油性の成分のため食品にかかってはいけないと言う点であり、厨房で使用するには注意が必要だ。また、同じつや出しでも家具用とは使い分けするという手間がかかるので、筆者は水溶性の家具用クリーナーの溶剤を工夫し、ステンレスには原液、家具には水で薄めた物を使用するようにしたことがある。いずれにせよ、日本的な水で拭き掃除をするという習慣は止めるべきだろう。

  11. 外部の金属、プラスチックの汚れ落とし

    外部の金属、塗装部分、プラスチック部分は、車の排気ガスや、雨水のカルシウムマグネシウムの水垢がついている。普通の洗剤では落ちにくいのだ。この場合には車用の水垢クリーナーが有効だ。水垢クリーナーで汚れを落とした後ワックスを掛けると効果的だ。最近ではワックスに水垢を落とす成分を混合してあるのが一般的なのでそれを使用すると良いだろう。ただし、ワックス成分中に研磨剤が入っているとプラスチックや塗装部分にダメージを与えるので注意が必要だ。

  12. トイレクリーナー

    便器に溜まった、尿石を落とすには酸性洗剤を使用するものが多い。あまり溜まりすぎると落ちなくなるので定期的に洗浄するか、クレンザーなどの研磨剤を使用する必要がある。ただし、研磨剤などには次亜塩素酸ナトリウム等が入っている場合があるので、酸性のトイレクリーナーと混ぜて使うと塩素ガスが発生し危険なので注意しなければならない。

    安全性のために中性タイプのトイレクリーナーが出ているので洗浄性に問題がなければ使用しても良いだろう。アルカリ系の洗剤のところでも述べたが、安全な洗剤は洗浄能力は決して高くないので、清掃の頻度はきちんと守る必要があるという事を理解して使用しなければならない。

お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。


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