土風炉に探る新しい居酒屋業態の可能性(柴田書店 月刊食堂1999年2月号)

およそ居酒屋ほど、新旧の交代が激しい業態もないだろう。これまで大衆居酒屋チェーンの代表格であった天狗が急速に勢いを失い、代わって和民など新しい勢力が台頭しているのは、その好例だ。また、こうした客単価2,000~2,500円の居酒屋業態の上に、3,000~4,000円の上位業態も生まれており、ここでも新旧の勢力が入り乱れてしのぎを削っている。
その中で、今最も注目すべき存在は、居酒屋の「にほんばし亭」などを展開してきた(株)ラムラの新業態「土風炉」であろう。1号店は東京・高田馬場駅前のビル4階にあるが、店づくりから演出のうまさ、商品力を含めて、居酒屋の上位業態のなかでは確実に頭ひとつ抜け出たレベルを実現している。

この店は元映画館だった物件だが、その天井の高さを生かして、実に変化に富んだ空間を作りだしている。500席はある巨大店だが、カウンター席から2人掛け、4人掛けのテーブル席や、大小さまざまな広さの座敷数まで、多様な利用動機に対応できる客席を備えている。

とりわけ、居酒屋業態にとって儲けの源泉である宴会需要を、きめ細かく取り込める客席配置になっている点は、まず注目に値しよう。にほんばし亭ももともと個室の作り方が非常にうまいチェーンであったが、土風炉ではそこにさらに研究を重ねたあとが見られる。

ここで貫かれているのは「地域一番店をめざす」という思想である。高田馬場には大小さまざまな居酒屋が軒を並べているが、規模、店づくりのグレードでは、土風炉が断トツの存在だろう。居酒屋というのはチェーンのブランド力があまり通用しない業態で、それが勢力交替が激しい要因のひとつでもある。あくまでその地域で選ばれる存在になることが重要なのであるが、土風炉はそのことがよくわかっている。

価格設定が実に巧み

そして最大のポイントは、やはりメニューである。一品一品の品質も非常に高いものがあるが、何より注目すべきは価格設定のうまさだ。
フードメニューのうちで、メニューブックの最初に出てくるのが刺身であるが、別掲のメニュー表を見てもわかる通り、550円と580円の二つのプライスポイントを設けている。そして、品質については、<魚一丁など、いわゆる刺身居酒屋のレベルを超えるものを提供している。

それに続く一品料理にしても同様だ。一品料理は280円から680円まで21品を揃えるが、ここでも300円台を戦略価格に据えていることが明確だ。350円の大根そぼろあんかけなどは、味、仕上がり状態ともに割烹レベルである。

その他、土風炉のメニューには中華やイタリアンなどもあり、ジャンルの幅はきわめて広いが、食事メニューなどを除いては戦略価格が非常に明確になっている。その結果として何が実現できるかといえば、それは「グレージングの楽しさ」である。こういう価格設定で客単価3,500円前後を確保できているのは、お客一人当たりの注文品目数が多いからに他ならない。

とりわけ、低価格の一品料理が充実していることは、少人数で来店してもグレージングを楽しめることにつながる。これは同様の客単価の刺身居酒屋とは大きく異なる店だ。たとえば、<魚一丁の刺身は、ボリュームからすれば確かに安いが、ある程度の人数のグループで来店しなければ複数のアイテムを楽しめない。その点、土風炉は2人で来店しても十分に満足度がある。これは客層、来店動機の幅を広げ、来店頻度を高めることにつながる。

アルコールについても生ビールが中ジョッキで390円。これは和民の420円よりも安い。店に入ったときに受ける高級感からすれば、メニューブックを見たとたん「これは安い」と思わせるものがある。それがこの客単価のなかで、高い値頃感を生み出している。

また、価格設定で巧みさを感じるのは、品揃えのなかで原価にメリハリをつけていることだ。刺身などはしっかり原価をかける一方で、中華メニューやスパゲティ、ピザなど比較的低原価のものを揃え、トータルの原価のバランスをとっている。

同レベルの客単価をとる居酒屋に北海道があるが、北海道のメニューは原価率を平準化しすぎ、結果として「どれもそこそこのお値打ちだが目玉がない」ものになっている観がある。それと比べると土風炉のメニューの原価コントロールの手法ははるかに優れているといえる。

素材だけでは勝てない

こうした原価コントロールの部分も含めて、トータルなお値打ちの提供を可能にしているのは、やはり店舗にしっかりとした調理人を抱えていることが大きいだろう。カウンター席の内側では焼き物などの作業を行う調理人の姿が見え、これが高いライブ感を生み出しているが、それが単なる演出に終わっていないという点に強みがある。
調理人の技術が商品力に確実に結びついていることは、先述した一品料理の煮ものの完成度の高さからも明白だ。刺身の切り方ひとつをとっても、調理人ならではの仕事がしてあるし、中華メニューの火の通しかたなども絶妙である。

すしやそばなど、いまの外食のなかでトレンドとなっているアイテムもきっちり抑える一方で、ここの品質については手抜きがない。これはグレージングの楽しさを提供する上で不可欠のポイントであろう。

細かいことを言えば、器の選び方にも調理人の存在を感じる。商品だけでなく、器や盛りつけ方などを含めて高い価値を提供できているのである。これによって周辺の大衆居酒屋と明確に差別化し、軽い接待需要なども取り組むことに成功している点は見逃せない。

高田馬場の土風炉の近くには、チェーン一番の売上を誇る和民もあるが、和民は学生客、土風炉は40歳前後と、その客層は見事なまでに違っている。和民の客層には、価格の絶対的な安さ、商品そのもののお値打ちが要求されるが、土風炉の客層には商品及び提供方法、店づくりやサービスも含めた総合的なお値打ち度が重要なのである。

土風炉はすでに、高田馬場の他に六本木、巣鴨に出店している。これから多店化を進めていく上での課題は、いかに調理人を確保し育成していくかという点に集約されようが、首都圏のターミナル立地はほとんど抑えられるだけのフォーマットの潜在力は秘めていると見る。そして、客単価3,000円を超える居酒屋業態の確立のためには、どのような要素が必要なのかを教えてくれる格好の事例だといえるだろう。

こうした居酒屋上位業態の市場は接待のダウンサイジング化などにとまなって注目を集めているが、マーケットのボリューム自体は決して大きいものではない。和民のような大衆居酒屋チェーンと比べると多店化は容易ではないし、そこでの競争も当然シビアなものになる。

特に注意すべきは「素材だけでの差別化は難しい」と言うことであろう。素材特化型の代表格が刺身店酒屋だが、素材だけに頼るとどうしても同質間競争に巻き込まれてしまう。これだけ流通の精度が上がっている現在は、なおさらである。

そうなると、やはり最大のポイントは「いかに店舗段階で、しっかりとした技術を持つか」ということになる。そのうえで、想定している客単価のなかで利用頻度を高められる価格戦略を打ち出すか。土風炉のヒットは、そのことの重要性を雄弁に物語っている。

フードメニュー一覧
刺身 550円
まぐろのほほ身 550円
じゃぽねねぎとろ 550円
びんちょうとろ 580円
上まぐろ赤身 580円
上まぐろ中とろ 980円
北海活ほたて貝 380円
北海ポッチ 400円
北海ぼたんえび(3尾) 480円
朝獲り生イカソーメン 580円
北海生うに 780円
から付き生がき(1個) 230円
ほっき貝 480円
釜上げ地だこ 550円
活だこ 550円
かつお 580円
かつお香菜たたき 680円
●一品料理
本もずく酢 280円
酢の物盛り合わせ 580円
セロリ漬 300円
カクテキ 300円
上新香 350円
いかおいしいな漬 280円
かに味噌 300円
青菜の煮びたし 350円
里いものそぼろ煮 350円
大根のそぼろあんかけ 350円
手造りざる豆腐 380円
穴子の厚焼玉子 380円
梅たたききゅうり 400円
地鶏の大根ステーキ 400円
焼きもちの揚げ出し 450円
手造り豆腐の揚げ出し 450円
香菜と地鶏のたたき 530円
手造りおでん盛り合わせ 580円
網焼カマンベールチーズ 550円
じゃぽね生春巻 550円
オムソバ 680円
●小鍋
寄せ湯豆腐 450円
鴨鍋 450円
ちゃんこ鍋 520円
蟹団子と鶏団子のみぞれ鍋 600円
●揚げ物
ポテトフライ 300円
北海道かぼちゃ団子の揚げ磯辺 300円
チーズとまぐろのロールサンド揚 380円
北海道玉ねぎコロッケ 400円
揚げなすのスタミナ風 450円
若鶏の唐揚げ 480円
地鶏の箕揚げ 500円
カキフライ 580円
大さつま揚げ 500円
まぐろほほ身の立田揚げ 500円
キムチ入り手羽餃子 500円
● 炒めと蒸し料理
蒸し餃子(3個) 280円
かに焼売(5個) 300円
焼餃子(4個) 380円
空心菜炒め 500円
ポテトとベーコンの炒め 500円
ニラとベーコンの玉子炒め 500円
棒々鶏/TD> 580円<
地鶏のチリソース 580円
豆腐となすの麻婆 620円
カキと黒豆の炒め 620円
● 串焼き・炭火焼き
串焼き各種 1本 120~260円
子持ちししゃも 350円
北海活ほたて貝バター焼き 430円
いかの姿焼 480円
むつ西京焼 500円
活はまぐり(3個) 500円
まぐろの上かま焼 530円
いかの漁師焼 550円
● サラダ
トマトサラダ 350円
大根サラダ 430円
ヘルシーサラダ 550円
土風炉サラダ 580円
豆腐とザーサイのサラダ 580円
香菜と牛肉のサラダ 580円
ピータン豆腐サラダ 580円
● 食事メニュー
お好み鮨 1個 50円~
上鮨盛り合わせ 1300円
まぐろにぎり鮨盛り合わせ 1380円
ペペロンチーネ 520円
明太子と青じそのスパゲッティ 700円
シーフードとなすのトマトスパゲッティ 820円
ガーリックピザ 520円
ミックスピザ 550円
明太子ピザ博多風 550円
じゃぽねピザ 550円
ざる茶そば 380円
冷やしとろろ茶そば 600円
お茶漬け 320円
梅入り茶漬け 380円
鉄火三色丼 750円
ねぎとろ丼 750円
いくらと鮭の親子丼 850円
いくら丼 850円
ドリンクメニュー抜粋
● ビール・サワー
びんビール 中390円
生ビール 中390円・大580円
赤富士地ビール 中450円
銀河高原ビール 中500円
酎ハイサワー 大330円
レモンサワー 大330円
生レモンサワー 大350円
生すだちサワー 大400円
● 特選銘酒
あさ開 超辛口(岩手) 380円
黒松高砂(北海道) 400円
国土無双(北海道) 420円
越の雪椿(新潟) 450円
雪の松島(宮城) 480円
上善如水(新潟) 550円
● カクテル
黒ぐすりの実のカクテル 350円
ジンライム 400円
ジントニック 450円
カルーアミルク 450円
モスコミュール 450円
ピーチダイキリ 480円
ストロベリーダイキリ 480円
● ソフトドリンク
ウーロン茶 250円
オレンジ100%ジュース 280円
グレープフルーツ100%ジュース 280円
ジンジャーエール 280円
スムージートロピカル 330円

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