アメリカ最新外食トレンドを徹底解説(柴田書店 月刊食堂1997年4月号)

“バリュー”が一段落したFFS市場

アメリカの外食業界において、最も大きなマーケットボリュームをもっているのは、マクドナルドに代表されるファーストフードである。アメリカの有力なレストラン業界誌「ネイションズ・レストラン・ニューズ」が発表している、売上高トップ100チェーンのフォーマット別マーケットシェアの統計をみると、FFSを含む「サンドイッチ」のフォーマットが42%を占めている。
つまり、アメリカの外食市場において半分近い人々の胃袋を満たしているのがFFSということになる。FFSの動向はそのまま、アメリカの大きな食トレンドを示すものであるといえるだろう。

そのFFSでは、90年代に入ってから「バリュー・メニュー」戦略が大きな潮流になってきた。日本でもマクドナルドが同じ戦略をとっているのでお分かりだろうが、従来と比べてメニュー価格を大幅に引き下げるというものである。

この先鞭をつけたのが、メキシコ料理のタコスを主力商品とするタコベル。タコス1個が39セントからという驚異的な低価格を打ち出し、業界に旋風を巻き起こした。その背景には徹底した組織のリストラ、店舗のしくみの再構築があったのだが、このバリュー戦略の成功が、タコベルが一気に6,000店を超えるチェーンに成長する原動力となった。

大手ハンバーガーチェーンもそれに追随した。マクドナルドでいえばビッグマック、店舗数2位のバーガーキングでいえばワッパーといった主力商品を組みあわせたセットを3ドル台で販売するディスカウント戦略が主流になってきたのである。

しかし、低価格戦略のインパクトもいずれは薄れる。FFSチェーンはみな、低価格に慣らされた消費者にどうやって新しい価値を訴えるかを迫られるようになってきた。

それが最も鮮明に表れたのが昨96年であった。そのことはマクドナルドとバーガーキングの数字にはっきりと出ている。マクドナルドは昨年、既存店の対前年売上を3%ほど落としている。逆にバーガーキングは既存店を3%伸ばしており、明暗がくっきり分かれた格好である。

この差をつけたポイントは、まず商品に求められよう。マクドナルドのハンバーガーと比べてバーガーキングはフレームブロイルド(直火焼き)のパティを使用するという特徴があり、それが品質面での高い評価につながっている。

同じ価格レベルであれば、品質は高いほうがよいに決まっている。単に安いことではなく、価格に見合った「価値」をFFSにおいても要求する、という傾向が顕著になってきたのである。それだけ、FFSがアメリカ国民にとって日常的になっていることを示すものであるが、同時にお客のニーズはきわめてシビアなものになっているのが現状である。

また、マクドナルドは96年にマーケティング上の失敗があった。秋に大人向けをうたった新商品シリーズ「デラックスライン」を、単品価格2ドル台で発売。これを武器にそれまでマクドナルドの弱点であった「大人の顧客が少ない」ことを克服しようと、大人に訴求するテレビCM、販促キャンペーンを積極的に行ったのである。しかしこれが裏目に出た。アダルト向けというイメージが強すぎて、それまでの主客層である子供客の客離れを招いたのである。

逆にキングバーガーは昨年、ディズニーと提携し、ヒット映画「ポカホンタス」のキャラクターを使った販促策を展開。こちらは、これにより子供客に新しいイメージを植え付けることに成功した。それが既存店好調の要因ともなっている。

これを受けてマクドナルドも広告宣伝担当者を変えて、ディズニーと10年間のタイアップ契約を締結。イメージをとりもどすことに躍起になっている。FFSにおいてはマーケティングが重要、と日本でもいわれるが、アメリカにおいてはより顕著であり、各チェーンともそこに多大な労力を使っているのである。

エンタテイメント系も価格意識は明確

では、テーブルサービスフォーマットについてはどうだろうか。アメリカで最大1、500店を超える店数を持つファミリーレストランのデニーズは、いまひとつ元気がない。FRというフォーマット自体がアメリカでは業態としてやや中途半端なものになってきているようだ。もともとこの種のフォーマットは、朝食を営業の大きな柱にしていたが、FFSが朝食メニューに力を入れるようになってから、そちらにお客をとられているのも大きい。
一方で、好調なフォーマットがディナーハウス、なかでもステーキハウスの新興勢力チェーンである。その筆頭各に位置しているのが、約300店の店数を持つアウトバックステーキハウス、200店近いローンスター・ステーキハウス&サルーンの2チェーンである。

後者のローンスターは、西部劇に出てくる「サルーン(酒場)」がテーマ。席につくといきなり、付出しとして殻つきピーナツが沢山入った大きな壷が置かれる。食べた後の殻はそのまま床に捨てる。従業員がその殻を踏みしめて歩く音が店内に響きわたっている。アメリカ人にとっては一種の郷愁を感じさせる、面白い演出を打ち出している。

アウトバックも、映画「クロコダイルダンディ」に題材をとり、オーストラリアをテーマにした自然の雰囲気を店作りで演出している。

この2つのチェーンに共通しているのは、店に「テーマ柱」を持たせているということだ。外食ならではの楽しさを提供していることが、人気の大きな要因になっている。

店づくりにエンタテイメント性を全面的に打ち出した「テーマレストラン」がアメリカ各地で大ヒットしているのも同じ傾向である。これらのなかでは、アーノルド・シュワルツェネッガーをはじめハリウッドのスターたちが経営に参画している映画をテーマにしたプラネット・ハリウッドが有名だ。 また、今もっとも注目を集めているのがレインフォレストカフェ。その名が示すように、店内は熱帯雨林をイメージしたデザイン、象やワニの動く模型がいたるところに置かれ、ジャングルの中で食事をしているような雰囲気である。最近、シカゴの2つのショッピングセンター内で立て続けにオープンし、大繁盛しているが、これは子供をターゲットにしたテーマレストランである。最もこういうエンタテイメント性を重視したレストランにおいても、商品の価格設定は「お値打ち」なラインをきちっと押さえているのが重要なポイントだ。ローンスターのステーキは最高価格でも18ドル。600gのボリュームがあってこの価格だから、確実に値打ちがある。テーマレストランにおいてもフードメニューの中心価格帯は10ドル前後である。

これらの店は、特別な一部の客層のための店ではない。もちろん、FRなどと比べれば商圏は大きいが、ターゲットはあくまでも大衆である。狙いとする客層を明確に想定し、それに合わせた価格設定がとられていることにこそ注目したい。またそうでなければ、競争の激しいアメリカの外食業界では生き残っていけない。FFSのところでも触れたように、外食に対する消費者の価格意識は、きわめてシビアなものがあるからである。

“中食”をめぐって激しい争奪戦が展開

もう一つアメリカの食市場で注目される動きに、いわゆる「中食」マーケットの台頭がある。ここでは「ホールミール・リプレイスメント(家庭の食卓代行)」という新しいフォーマットが生まれている。この分野で急速にチェーン規模を拡大したのがボストンマーケット。既に1,100店を超える店舗数になっている。もともとは、ロティサリー(あぶり焼き)チキンを主力とするFFSで、店名もボストンチキンであったが、2年前に店名を変更。それに合わせてメニューの幅を拡大していき、現在のフォーマットに至っている。
ロティサリーチキンが商品の柱であることに変わりはないが、ミートローフやポットパイといった「コンフォートフード」を多く揃えるようになった。コンフォートフードとは「おふくろの味」と訳すが、要は昔から家庭で食べられていたようなメニューである。全出のテーマレストランでも、このコンフォートフードはメニューの柱になっている。

ボストンマーケットではさらに野菜を多用したヘルシーな、そうざい的なメニューも揃えている。ボストンマーケットのターゲットは、団塊の世代。アメリカの団塊の世代は日本よりひとまわり上で、高齢化が進行している。そうした層が求める「健康的」というニーズに合致したメニュー構成をとっているわけである。また、団塊の世代は外食業の産業化と共に育ってきたこともあって外食ということに抵抗がない。というより家庭で料理を作るということを面倒がる傾向が顕著になっている。その点で、家庭的な料理が数多く、気軽に買えるというコンセプトが大きな支持を得たのである。ボストンマーケットのレジ単価は10ドル前後。家で手の込んだ料理を作る手間を考えれば、非常に便利で値頃感もあるというわけである。

もうひとつ、同様の市場をねらったコンセプトに、カジュアルレストランを展開するブリンカー・インターナショナル社が開発したイーチーズがある。ロティサリーやミートローフにはじまって、パスタ類やサラダ、グローサリー類までを販売するもので、96年初頭にダラスにオープンしている。まだ1店舗だけであるが、日本の小売業関係者の間でも「イーチーズ詣で」がはじまっているほど大きな注目を集めている。

ボストンマーケットやイーチーズのようなコンセプトは、アメリカでは外食業よりも小売業に大きなインパクトを与えている。特にボストンマーケットの成功は、中食という市場、食品のテイクアウトニーズの大きさを、小売業に再認識させることになった。実際にアメリカのスーパーでは対面販売形式で、その場で料理を作って提供する食品売り場のコーナーを設ける事例が急増している。その中には店内にテーブルを置いて喫食できるスペースを持っているところもある。

成熟したアメリカの外食市場では外食企業間だけの戦いではなく、業種の枠を超えた激しい「胃袋の争奪戦」が展開されているのである。日本でも大店法という垣根が取り払われることで、大型スーパーの時代がくるといわれている。また、そこでは食品が大きな比重を占めることになる。そういう点でも中食という市場をめぐるアメリカのトレンドは、日本の外食業は常にマークしておく必要があるだろう。

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