店長の勉強法

(商業界 飲食店経営1996年4月号掲載)

小さなチェーンだと大チェーンと違ってマニュアルもないし、教育体系も整っていないから、勉強できないと不安がる必要はない。店舗数が数店の小さなチェーンの時代が本格的な勉強をするチャンスだ。

筆者はダンキンドーナツ(レストラン西武、現西洋フードシステム)、マクドナルドと人材教育の優れた企業を経験してきた。正確に言うと今現在人材教育に優れた企業を経験してきた。どんな大きな企業でも最初は1店舗からスタートするのであり、最初はみなさんのいる小さなチェーンと同じ状況だった。マニュアルも整備されていないし、教育システムも試行錯誤だった。ただし、小さくても大きくなるかならないかの差がある。それが、従業員に勉強をさせる会社かどうかということだろう。経営者が従業員に自由に勉強をさせる気を起こさせるか、勉強する機会、時間を与えているかが、将来企業が大きくなるかそのままで終わるかの分かれ道になる。

幸いダンキンドーナツの所属する西武グループは若い人に積極的に仕事をさせる会社であり、伸び伸びと仕事をさせてくれた。

もちろん、会社が自由にさせてくれるといっても自分で時間を作り、勉強をしなければならないのは当たり前のことだ。大手のチェーンだと独自の教育体系があってよいようだが、その教育体系は自社のチェーンにとって必要な人材の短期育成であり、外食産業でのプロを目指そうとすると、足りない部分も結構ある。小さいチェーンの内に基本的な外食産業の勉強をするべきだろう。

皆さんの中には大学をでていないから難しいことがわからないと言うような人がいるがそれは間違っている。大体大学の勉強など実社会では殆ど役に立たない。学校を出てから実践で鍛え、必要性に駆られて勉強することで身に付く知識となるのだ。 しかしながら仕事を通してのみの勉強では限界がある。どうやって具体的に勉強したらよいか筆者の経験を元に説明しよう。

1.新聞をきちんと読もう
新聞は情報入手の基本だ。新聞は記事だけを読むのではない。新聞の1面の広告がもっとも大事な情報源だ。1面下部の広告の中心は本や雑誌だ。各社の新聞を比較してみよう。新聞社により広告の内容が異なるはずだ。朝日新聞であれば文芸関係の本、読売であれば娯楽関係の本、日本経済新聞であれば経済、経営関係の本となる。つまりどの新聞を読むかでみなさんの情報量は大きく異なるのだ。学生時代と異なるのだから、新聞も経済、経営に強い日本経済新聞を読む。筆者の時代は日本経済新聞だけだったが、現在は同社から、流通新聞、産業新聞が発行されており、できたら3紙は読むべきだろう。

中には経済新聞は難しいから嫌だという向きもあるだろうが、門前の小僧習わぬお経を読むとやらで、毎日読んでいるとだんだんわかるようになる。

新聞は読むだけでなくスクラップしきちんと整理するとよい。新聞というのは情報の細切れだ。毎日毎日の情報はほんの少しであっても、それを体系的に分類し、整理するとかかなりの情報量になる。筆者は飲食店経営の姉妹紙の食品商業へも寄稿するのだが、新聞のスクラップのみで記事を書くことがある。以前、コンビニの防犯対策ということで記事を書いたが、防犯対策の内容や、どのくらい強盗の被害に遭っているかを発表をする企業がなく取材できないので困った。警察も同様で、犯行内容、状況、対策を公開することはできないということだった。そこで、新聞の3面記事のコンビニエンスの強盗事件を全部調べ上げ、それを表計算でもって分類し、傾向と対策を見いだしたことがある。膨大な資料だったのだが、細切れな新聞記事を1年間分読んでいくと何が問題で、どんな対策が必要なのかのがみえるようになった。そういう意味でスクラップは1年分以上たまって初めて効果があるのだから気長に続けなければいけない。

2.雑誌
飲食店経営などの外食チェーン向けの雑誌を読むべきだろう。そのほかにいくつかあるのだが、選定の基準はチェーン指向雑誌かどうかだ。雑誌によっては個人営業の飲食店を対象にしたものがあり、チェーン経営を目指す諸君には向いていないだろう。いずれにせよ、各誌を比較して読み比べ良さそうな雑誌を継続して読むことだ。

雑誌記事を読むときには筆者のバックグランドが重要になる。どんな人も一度入れた情報をその人のフィルターにかけて記事を書くからだ。有名店や、チェーン店の記事が載っていた場合でも鵜飲みにしてはいけない。必ず、自分の目で確認するべきなのだ。ある意味では雑誌の記事はどんなチェーン店をみればよいのかの道しるべとして使うということだ。

記事でもっとも参考になるのは外食チェーンのインタビューだ。データーを公表してあればそれを積み重ねることにより貴重な経営データーとなる。また、雑誌会社は雑誌だけでなく専門書を数多く出版している。商業界も長らく流通、外食の専門の本を数多く出版しており、過去の本でも素晴らしいのがある。何かわからないことがあったら過去の出版リストを見て、在庫があれば目を通させてもらい、なければ図書館で探すとよいだろ。

3.本
新聞、雑誌は、毎日の鮮度の高い情報であるが細切れであることは否めない。基本的な外食の経営に関する勉強には本を読むことが必要だ。本を読むにはまずよい本を探すという当たり前のことをしなければいけない。日本経済新聞の1面の広告から新刊を探す。次によい本屋を探す。本当に勉強になる本というのは実はあまり売れない本だ。そういう本は普通の本屋にはおいていない。

以前は、本屋の親父に聞けばどの本がどの書棚にあるか、場合によっては内容まで教えてくれたものだが、現在そんな本屋は少なくなった。筆者の愛好する本屋は2つある。銀座の近藤書店と神田の書泉グランデだ。近藤書店は小さな本屋だが、ビジネス書の最新刊を常においており、本の分類、種類ともぴか一だろう。書泉グランデも本の分類がよく、得に専門分野の本をそろえられるメリットがある。

本を読む上で注意しなければならないのは、ここで読むべき本は基本的な知識を得るということだ。新聞や雑誌では日々のニュースが入手できるから、本は基本的な知識を養うものでなければならない。最近の本屋のビジネスはひどいものがあり、売れる本しか置かない。売れる本とはノウハウものだ。読んだらすぐに役立つ本しか売れない。基本的な勉強になる本は地味でほとんど売れないから本屋に並ばない。特にここ10年ほどの出版業界はひどい状況で、本当に役に立つ本は出版されていないと断言してもよい。

筆者が参考にする本は結構古く、商業界の本の中でも25年前に出版されたものを愛読している。特に海外文献の翻訳物に良いのが沢山あった。基本的な知識を得られる本の内容というのは25年もたっても不変のものだから是非探して読むと良いだろう。

本は漫然と読んではいけない。必要に迫られて読むとその知識が身に付く。筆者がマーケティングで悩んだダンキンドーナツ時代には、そのマーケティング関係の本をじっくりと読んだものだ。片っ端から読む前に本のリストアップをし、その内容をチェックする。そしてリストに基づいて購入し、読むわけだ。参考にマーケティングの勉強の時に読んだ本と作成した本のリストを以下に掲げる。

4.中小企業診断士を学ぶ
本は基本的な勉強に役立つが、経済や経営学を体系的に学んでいないと、知識が不足する分野がある。もちろん必要なときに勉強すればよいのだが、それでは間に合わない場合がある。ビジネスはスピードが大事だからだ。そこで最低限度の知識を満遍なく勉強するべきだ。

外食流通の分野では中小企業診断士の制度がある。中小企業向けのコンサルタントコースだ。このコースは近頃人気がある。それはサラリーマンが定年後や、リストラ後の転職のために勉強している訳なのだが、それでは遅すぎる。もっと若い時から勉強する方が実社会で役に立つ。

この中小企業診断士の勉強は大学で経営学を学ばなかったり、大学をでていない人へお勧めしたい。大学というのは実務を教えない象牙の塔なのだが。優れているところが一つある。それは勉強の仕方を教えるということだ。大学の授業なんか一回も聞かなくても卒業できる。大学の授業というのは勉強そのものを教えず、勉強方法を教えるだけだからだ。勉強方法とは端的に言うとその授業の元になる本を教えてくれるということだ。各科目の教授の書いた本と、その本の中にある参考文献を読めば試験では少なくとも80点は取れる。後は代返を頼むだけだ。

授業はあまり勉強にならないが、ゼミは実社会に役に立つ勉強の方法を教えてくれる。それはグループディスカッションだ。グループディスカッションのために与えられたテーマの本を図書館で探して読みディスカッションに臨まなくてはならない。当然のことながらレポートも書かなくてはいけない。このように、何を学んだかよりも、どうやって学ぶかという勉強方法を学べるのが大学に行った最大のメリットであり、大学をでていない人はその勉強方法を学ばなくてはいけないわけだ。

それらを教えてくれるのがこの中小診断士の通信教育講座だ。毎月、本が送られてきて、 それを読んでから、レポートを書き、その評価が送られてくる。教材の本の筆者の各講師は殆どが一流大学の現役の教授だ。そして、その本の中に各教授の本と、読むべき参考文献が書いてある。当然のことながらその本を読まないと、レポートをきちんと書けないわけだ。この通信講座を受講することにより、大学と同じ勉強方法を学べるというのが最大のメリットだ。

通信教育というのは大変な努力がいる。でも、完全に終了し中小企業診断士の試験に合格しなければいけないとプレッシャーを感じる必要はない。正直に白状すると筆者も途中で脱落したし、中小企業診断士受験もあきらめた。でも、法学部出身の筆者が少しでも経済、経営の知識がついたのはこの通信教育のおかげだ。今でも当時の教材をとってあり、何かわからないことがあると参考にしている。

講座は、商業コースと工業コースに分かれている。普通は商業コースだけをとる人が多いのだが、筆者は工業コースも受講した。なぜかというと、品質管理や、新製品開発、購買管理など商業コースで教えていない項目があるからだ。これによりIE(インダストリアルエンジニアリング)、作業分析の手法を学ぶことができ、後のマクドナルド時代の厨房の標準化や作業分析に大きく役に立ったわけだ。以下に当時の講座内容と教授陣を紹介する。

5.店舗見学

今までに述べたのは、どうやって勉強するかだ。しかしいくら勉強してもその知識、能力を使わなければ身に付かない。勉強したことを自分の店舗で活用するのは当たり前だが、他の成功しているチェーン店舗や、競合店、目指しているチェーン店舗などの仕事を見ることも実務に役に立つ。ただ見るだけでなく、参考にするべきとこと、反省するべきところを明確に出来るようになる力を付けなければならない。他の店の善し悪しを判断できるということは、自分の店舗の善し悪しを客観的に見ることができるということになるからだ。
しかし、ただ見学するだけでは何の役にも立たない。見学対象のチェーン店舗に関する新聞、雑誌のスクラップ、本で得た情報をとりまとめ、予め頭に入れてから店舗見学をする。

ダンキンドーナツの競合相手はミスタードーナツだった。そこで、各雑誌、新聞の切り抜きを集め、店舗の収益構造、オペレーションを分析した。当時は大阪中心に店舗展開していたので、6店舗ほどを自分の休みを利用して訪問し店舗のレイアウト、オペレーションの状態を記録してきた。頭の中に情報があるだけではだめで、その情報を実際に記録し、報告書を作ることにより正確な知識となる。そこでそれをレポートにまとめてみた。内容は、ロケーション、建物と全体のレイアウト、推測のP/L(損益計算書)などだ。このレポートづくりは後のマクドナルドでの企画書作りで大いに役にたったのだった。

次号では、数店舗の時点で作らなければいけないマニュアルと、作業手順書の作成方法を紹介しよう。

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