体験的SV業務 -SVの開発業務の基本は売り上げと利益を最大限に確保する事だ

(商業界 飲食店経営1998年9月号掲載)

売り上げを上げるにはハードだけではなくハートも必要だ

ここ数回、調理機器の開発の話をした。マクドナルドの場合、調理と販売に当たる人間は全てアルバイトであり、調理機器の性能が正しくないと、品質が低下するか、ピークの売り上げを確保できないと言うことになる。シェフの料理の腕に代わる物が機械なのだ。だから、調理機器の開発と整備に全力を挙げていたのだ。

しかし、店舗によっては調理機器の性能に問題ないが売り上げが上がらないばあいがある。売り上げが上がらないと利益が出ない。そうすると、例の軍事顧問の「王君、この店どうするの?」と言うプレッシャーに何か行動を起こさなくてはいけなかった。

  1. SVは店舗開発も兼ねるSVの仕事は店舗の管理だけでなく、不動産オーナーとのコミュニケーションも含んでいる。筆者が直前まで店長を務めていた駅前のO店では、頻繁にオーナーと接触しており、時々コーヒーなどを持って遊びに行っていた。ある日オーナーから「会社の取引先が本屋街の学生の多い街で不動産を持っており、それをマクドナルドに貸したい」と言っていると言う情報をもらった。筆者はすぐにそこを訪問し、トントン拍子に新店舗の開店がまとまった。当然の事ながら筆者がその担当SVとなった。

    事務所兼住宅の物件であったから、間口は5メートル弱と狭いが、奥行きの深い店だった。総面積は十分にあり、2階を3階を客席、倉庫、事務所で使えるので、家賃比率も低いと好条件だった。学生街で人通りの絶えない忙しい街だったので、売り上げはかなり上がるだろうと予測していた。しかし、開店してその予測は物の見事にはずれてしまった。

  2. 売れない状況すぐ近所の筆者のもう一つの担当のO店は客席がないにも関わらず駅前で通行量が多いので売れていた。このKO店はそれよりも店前の通行量は少ないが、2階に客席を100席ほど持っているのでO店と同じくらい売れるはずだった。ところが開店してみると売り上げはO店の1/4以下という惨状だった。
  3. トラブル続き第3回目で書いたが、中途で入った年齢の高い店長が担当だった。顔は鬼瓦のようで体も声もでっかくこれならモラルも安心だと思い、新店舗の開店を任せたら、開店2週間くらいで激務にぎっくり腰でリタイアーしてしまった。之が災難の始まりで、アシスタントマネージャーは交通事故を起こすし、屋上から水漏れは絶えないし、とまあー不幸の固まりの店舗だった。
  4. 新しい広告会社の採用そんな不振の店舗を抱えて四苦八苦している最中、会社は新しい広告宣伝会社を採用した。広告宣伝会社はテレビなどの広告企画と店舗の販売促進を企画提案する。SVは広告宣伝会議に出席し店舗の状況を報告する義務があった。

    新しい広告宣伝会社は色々な企画を立てた。その中で傑作だったのは店舗外観を派手にし、目立たせると言うことだった。当時のKO店は2階に客席があることがわかりにくい店舗であったから、外からそれが分かるようにしようというアイデアで、階段に赤いカーペットを敷こうというものだった。マクドナルドの客席の床材はタイルと決まっていた。客数が多いので耐久力とメインテナンス性を考えていたからだ。カーペットではシェイクをこぼされたら大変なので、大反対をしたが、広告宣伝会社が責任をとりますと言って強行採決された。

    案の上、2ヶ月ほどで飲み物をこぼされどろどろの状態で赤いカーペットが黒くなってしまった。「おい、責任をとれ」と広告宣伝会社に迫ったが「すいません」の一言で逃げられ、店舗の費用で回収をせざるを得ず、店舗の赤字はよけい拡大してしまった。そんな犠牲を払ったにも関わらず売り上げはいっこうに伸びなかった。普通であれば「誰だこんな売れない店舗を探してきたのは!」と他人を非難できるが、筆者が探してきた店舗で逃げようがなかった。

  5. いよいよ人員整理の必要が迫ってきた店舗の累積赤字はどんどん増加していき、社内でも問題になりだした。やらなくてはいけないのは経費削減か閉店だ。経費で出来るのは社員とアルバイトの削減だ。開店時は4名でスタートしたが鬼瓦店長がリタイヤーしすでに3名になっていた。3名いないと週休2日をとれないと言う問題があったからだ。しかし、店舗の赤字の累積状態はそれを許さず、初めて2人の社員で店舗を回すことを強いられた。そこで、特別な手当を出してもらう許可をもらい2人マネージャーでスタートした。

    しかし、それだけでは済まなかった。馴れてきたアルバイトも削減すする必要が出てきた。売り上げが低かったためか家庭的な雰囲気で良いアルバイトが集まっていた。特に女子のアルバイトは優秀で美人揃いだった。

  6. 問題点を整理してみた
    1. 売り上げを上げるには調理能力と販売能力のバランスが必要だそこで、もう一度この店舗の問題点と機会点を整理してみた。当時のマクドナルドは歩行者天国に面した百貨店の一階と言う立地で客席がないのに大繁盛していた。売り上げを確保する方法は、十分な人手と調理機器の能力だった。だから、調理機器の能力アップに努力を払ってきたわけだ。しかし、この店舗で気づいたのは売り上げを確保するには、製造能力(調理能力)、と同時に販売能力が必要だと言うことだ。販売能力というのは実は店舗の間口だった。
    2. 店舗の間口は販売能力を大きく左右するマクドナルドの日本上陸時の繁盛店舗は全てテイクアウト中心の店舗だった。銀座店を筆頭に新宿二幸店、新宿三越店など百貨店などの一階の店舗だった。偶然の事ながら、百貨店の一階というのは間口は広いが奥行きは狭いという形式だった。その偶然が十分な販売能力をもたらしていたのだ。広い間口にはレジを8台以上おけたわけだ。当時はスエダの機械式レジスターで2名の女子クルーが操作に当たった。販売担当の女子クルーは一人当たり、接客時間は90秒で応対できる。そうすると1時間に40人の客をさばけるので、8台のレジで640人という客をさばけることが出来たわけだ。客単価500円として、30万円以上の販売能力があった。当時の歩行者天国の店舗は日曜日の売り上げが異常に高かったので、瞬間的な販売能力が必要だったわけだ。

      当時も今もレジスターの巾というのはだいたい500mmだ。それよりも広くても狭くても使いにくい。人間の肩幅というのは500mmであり、それが専有面積だ。その前に並ぶ客の肩幅も同じであり、並んで注文するラインと、買った後帰るラインで1000mm必要だ。そうすると3台で3メートル必要になる。この店の実質的な間口は5メートルだったから、2階に上がる階段の巾1メートル(人間がすれ違えるには必要)を引くと4メートル。カウンターからの出入りを考えると3メートル、すなわち3台しかおけなかった。

      そこで、この店舗のピークの売り上げを見てみると、学生が集中する昼に売り上げが十分にとれないと言うことだった。この店舗は昼のピークでも6万円しか売れなかった。

      間口が狭いためにレジスターを3台しかおけなかったが、計算式では12万円は売れる筈なのに?

    3. レジ前の混雑感は間口だけでなく、奥行きも影響するテイクアウトのカウンターはなるべく道路に近い方がよいと思っていた。ところが、忙しいときにレジスターの前に数人並ぶと、通行している人からはすごく込んでいるように見える。

      昼のピークを見てみると6万円の売り上げでも間口が狭く、カウンターの前のスペースが十分にない。1時間に12万円の売上能力があると言っても、ある10分間の売り上を見ると、1時間で24万円位のペースで売上げ、その後は4万円位のペースに下がるなど、売上には波がある。売上が瞬間に高まるとお客様は並ぶわけだが、入り口からカウンターまでの距離が短く、2人並んだら道路にはみでるようであると、ものすごく混んでいるように見え、買わないで帰ってしまう。

      ここで分かったのは売り上げの波を吸収するだけのスペースをカウンター前に2mから3m確保しなくてはならないという事だ。しかし、店舗のカウンターをセットバックする改造工事は莫大な費用が必要であり、このままの間口、奥行きで何とかしなくてはいけないのが現実だった。

      最近店頭公開したオリジン東秀は当初ファミリー弁当という、「ほっかほっか弁当タイプ」を展開していた。しかし、コンビニエンスなどのCVSの競合の増加により苦戦をしいられた。そこで、30坪ほどの大型の面積で、店内にお総菜を置き、奥のカウンターで弁当を注文生産する形態のオリジン弁当の店舗を開発し大成功させた。お総菜を置いてはいるのだが、売れ筋はあくまでも弁当だと言われている。なぜ従来より弁当が売れるかというと、弁当屋は注文してから待たされるが、数人の人が待っているのを見ると、すごく込んでいるように見える。また、女性は道路で待っているのが何となくみすぼらしく感じる。ところが、オリジン弁当の場合は広い店内の奥にカウンターがあるから、10人くらい弁当を待っていても込んでいる感じがしない。また、待っている間にお総菜を見たりして飽きることがないし、空調の効いた店内にいるから待っていても快適だ。オリジン弁当の成功の秘訣は色々あるだろうが、筆者はこの待つことが出来る空間作りが消費者に受けピーク時の売り上げに貢献していると思っている。

    4. 客席と売り上げとの関係間口と奥行き以外に売り上げを阻害するもう一つの要因があった。それが客席数だった。ファーストフードの大きな特徴は持ち帰り(テイクアウト)と店内飲食(イートイン)に分かれる。ファミリーレストランのようにイートインしかない業態では、客席の数が売り上げを決める。当初FFではテイクアウトが中心であり、客席に関係なく売り上げを高く保つことが出来た。そこで、その効率の良いテイクアウトに2階の客席100席を加えたら、さらに売り上げが伸びるのではないかと思った。しかし、それが見事に裏目に出た。

      銀座店、新宿二幸店、新宿三越店など百貨店などの歩行者天国に面した店舗は客席のない持ち帰り専門の店舗に思われていたが、実は数百席の巨大な客席を持っていた。歩行者天国に置かれた簡易型のテーブルとテントがそれであった。このO店は客席があるから良いと思ったが、実は2階に4人掛けで25テーブル、100席しか無かったと言うわけだ。

      [イートイン率]

      客席を構えた店舗はイートイン(客席で食べる)とテイクアウト(持ち帰る)との比率が能力に影響する。歩行者天国に面した店舗は実質的にテイクアウトであり、客は買った後どこで食べるか決定する。しかし、店舗として客席を構えてみると、客は客席の状況を見て、買うかどうかを決定するようになる。

      ここで大事な数字がイートインとテイクアウト比率だ。この店は学生街で、学校や塾に来た学生が昼休みや休憩時間に、短時間でも座って食べて、煙草を吸ってくつろぎたいと言う要望が高かった。その為、イートイン比率は何と50%近くもあった。

      そうするとピーク時の昼の最大能力を考えると(レジの販売能力12万円/1時間)イートインの客が120名(正確には組数)もいると言うことだ。次に一組あたりの同伴人数が重要だ。学生街だから、一組あたりの客数は2人だった。そうすると1時間で200人の客が座るスペースが必要だと言うことだ。ハンバーガーの場合はセルフサービスで、注文してから待つと言うことがないので、30分間もあれば食べることが出来るから、1時間で2回転するはずだ。そうすると100席あれば十分な筈だった。ところが、昼の最高売り上げは6万円、イートイン、テイクアウトを会わせて120組の客しか裁けていない。

      6万円でイートイン比率が50%と言うと、組数は60人、客数で120人だから、100席2回転もあれば十分な筈なのに、それでも昼のピーク時には客席に座れず待たされる客がいる。店内で食べようとする客は2階を見て、空いていれば一階のカウンターで商品を買う。上を見て空いていないと帰ってしまう。買い物をして2階に上がっても客席が空いていないと、階段を上がり下りして入り口まで並んで混雑ぶりはよけい目立つようになる。

      ここで分かったのが、客席の設計が間違っていたという事だ。100席あったが、4人掛けの客席が25テーブルだった。店舗デザインの設計者や設計担当が、米国の客席デザインの原理原則を理解しないで設計していたわけだ。

      一組の客が必ず4人であればこの客席には100人の客が座ることが出来る。しかし、一組あたりの客数は、曜日、時間帯、ロケーションにより異なる。郊外のファミリー客が多いばあい、1家族4人の同伴人数だと、1つのテーブルに4人掛けの椅子があるのは適正だが、この店舗のように学生街で同伴人数が2人と少ないと100席の客席があっても、50人座れば満席状態となってしまう。

      昼時には相席をしてもらえればよいのだが、相席がし難いという問題もあった。マクドナルドのイートインの場合、一階のカウンターでプラスチックのトレイに商品を乗せてもらいそれを客席に運んでいく。本来、テーブルの大きさは2人掛けのテーブルには2つのトレイが、4人掛けには4つのトレイが並ぶように設計するのが原則だ。しかし、この店の客席テーブルは楕円形の小さい形状であり、トレイが真ん中に一つしか並ばない。さらに悪かったのはテーブルを間に挟んで2つのベンチシートが並ぶ形式にして、分離をしていなかった。そうすると、客は自然に椅子の中央にかけてしまい、後から来た客が相席をしずらいわけだ。

      昼の売り上げを1時間に12万円にするにはイートインの組数120、客数240名を収容できなくてはいけない。50人で満席では1時間に5回転、12分間で食べてもらう必要があり、現実的に不可能だった。改善するために客席のレイアウトとサイズを変更するのは費用がかかりすぎ、利益の出ていないこの店舗の財務状態では不可能だった。

      当時の問題点は、何故その機械を使うのか?、何故その部品を使わなくてはいけないのか?、何故そのレイアウトが必要か?、と言う原理原則、理論をしっかり把握していなかったから、そんな問題が発生したわけだ。ハードから改善するには、店舗の標準化システムを完成するまで5年以上の時間を要した。最終的には筆者が統括スーパーバイザーになって米国の店舗設計デザイナーと、米国の家具屋を採用するまで問題点は解決できなかった。

      [米国の研修旅行時に測定して分かった客席の人間工学]

      そんな悩みを持ちながらの米国研修旅行で、米国マクドナルド社の合理的な店舗レイアウトと、寸法を学ぶことが出来た。米国でもどうしてそうなるのかの理由はマニュアルでも述べていないので、店舗で実測し、インチをメートルサイズに変換してみた。

      2人がけの標準テーブルは横幅500mm、奥行き600mmである。トレイのサイズとテーブルのサイズは関連がある。2人がけのテーブルであれば、トレイは2枚乗せられなければならない。

      4人がけは横幅1000ー1200mmとなる。テーブルのサイズはこれより小さくしても人間のサイズがあるので無理である。客席の背と背の間は1600mmから1800mm必要である。

      テーブルとテーブルの間は400~600mmないと人が入ることができない。

      通路は通行量が多くないところで、600~700mm、行き違うメインの通路で1200~1400mm必要になる。

      以上は当時の店舗設計である。元々マクドナルドなどのファーストフードはメインテナンスの問題から、椅子テーブルを固定式にしていた。移動式の椅子では客が勝手に移動したり、掃除の際にどけなくてはいけないからだ。しかし、その後、客席利用率の分析手法の確立から、全部固定の椅子では立地、曜日、時間帯別の満席率の変動に対応できないことが分かり、移動式の椅子、テーブルを用意し、2人がけのテーブルを2つ組み合わせれば4人がけになるようにフレキシブルにして、満席率を向上させるようになった。

    5. 販売の人間工学ここで学んだ客席レイアウトの原理原則を見てみよう

      [客数]

      営業時間中に来店した顧客の数。客数とは来店組数に同伴人数を掛け合わせた物をいう。POS等を使用する場合には同伴人数を入力しないと正確な客数が出ない。組数を客数と言う場合が多く、同伴人数の数により組み当たりの客単価が変化する。

      [客席回転率]

      1時間当たりの客席の利用度を言う。客が席について食事を終わって出るまで30分かかったら、その客席の1時間の回転率は2回転となる。客単価が500円、4人掛けが25席、合計100席ある場合は、1時間の売り上げは100、000円となる。しかし、客の同伴人数は何時も4人とは限らない。同伴人数が平均2名なら同じ客席回転率でも売り上げは半減し、50、000円となってしまう。

      [満席率]

      相席をさせない状態で全てのテーブルに客がいる状態の総客数を総客席数で割った数字。総席数100席で満席時の客が50人であれば50%という。客席テーブルレシオ(テーブルあたりの椅子数)が4で客同伴人数が4であれば稼働率は100%となるが、同伴人数が2であれば50%にしかならず、時間帯売り上げは半分となる。客席稼働率を高めるには客席テーブルレシオと客同伴人数の数値が同じになるようにレイアウトを作る。

      [客同伴人数]

      客席テーブルレシオを決定する要素として客同伴人数を考慮する。同伴人数は時代の変遷と立地、業種により異なる。定期的に調査をし、それに見合った客席テーブルレシオを設定することにより売り上げを最大限確保できる。

      [テーブルレシオ]

      総客数を総テーブル数で割った数字。従来は一つのテーブルに4席が標準であったが、世帯当たりの人数が3に近くなり、単身者の数値が増加している現状ではこの数値はなるべく低くする必要があり、業種と立地により異なる。駅前立地では1人または2人客が圧倒的に多く、テーブルレシオは2が望ましいが、郊外型では3ー4人客が多いのでレシオは4が望ましい。また、平日は2人客が多いが土日は家族連れが多いので客席テーブルレシオを変えられるようにしておくと良い。

      [客席レイアウト]

      店舗を計画する時、来店客予測に基づき、客席の位置、数、照明などを計画すること。客席回転率、客席稼働率、客同伴人数、客席テーブルレシオ、などの数値を考慮し、同一の客席面積で最大限の売り上げを達成できるようにする。また、ゾーニングも重要で厨房からの導線、客の導線を見ながら、サービングタイムが最小限になるようにする。

    6. 暇な時間帯も売り上げが低い昼時などのピーク時に客席の基本設計が悪くて売り上げが取れないのは理解できた。しかし、昼以外の時間帯は客席のキャパシティは十分にあるのに売り上げが取れない。何故だろうかと客席に座ってじっくり観察をしてみた。

      この店舗は厨房と販売カウンターが一階ににあり、客は一階で購入後、トレイに乗った商品を持って2階客席に行って座って食べる。暇な時間に1人で座って食べてみたら、1人で食べるのは寂しくて落ちぶれた感じがする。主力の予備校に行く学生は授業中の仲間は競争相手であり、勉強で疲れて食事に来る。その時に2階でひとりぼっちで食事をするのはよけい気が滅入ってしまうと言うことが分かった。一階に客席があれば、従業員の接客の元気の良い声が聞こえて活気があるが、2階ではその活気が全く失われていた。

      つまり、ピークの売り上げを取れないだけでなく暇な時間帯の売り上げも取れないと言う八方ふさがりの状態だった。

    7. 調理機器がピカピカなのは売れないからか?ある時、店舗の機械が何時もきちんと修理されて何時もピカピカな状態であるのにのに気がついた。当時は機械の修理を頼んでも時間がかかり、なかなかなおしてくれない状況だった。なぜこの店だけ機械の修理が早いのか聞いてみたら、何と本社の施設部の担当者が、電話一本で駆けつけるのだと言う。施設部の担当者になぜそんなに早くくるのか聞いたところ、アルバイトの女性が気に入っているからすぐに来るのだというではないか。彼の言い分によると「色々な店舗に行くけれど何時も業者と同じ扱いをされて面白くなかった。でもこの店のアルバイトの女の子はかわいいだけでなく、僕の名前をちゃんと呼んでくれる」と言うではないか。そこで女子のアルバイトを観察すると、お客様にも名前で呼びかけているではないか。にこにこした笑顔でかわいい女子アルバイトが名前を呼べば固定客になるわけだ。

      筆者のようなSVは店舗のチェックマンであるから普通は緊張して笑顔が出ないのは普通だが、この店の女子アルバイトは筆者を名前で呼んでにこにこしながら応対してくれる。当然筆者も気分が良くなるから、店長や社員に対しても厳しいことを言わなくなる。この女子アルバイトがいるおかげで店の雰囲気が全然違うわけだ。そこでこの笑顔と人なつこさを利用しようではないかとひらめいた。

  7. 起死回生の活動

    [売り上げを上げるにはハードだけでなくハートも必要だった]

    米国研修の際に学んだのはフロアーホステスと言う制度だった。ピーク時に客席を回り、テーブルを片づけたり、コーヒーのお代わりを注いだり、子供客にはプレミアムを上げたり、赤ちゃんにはエプロンをかけて上げたりする。何時も来る客にはファーストネームで呼びかけ、固定客作りをしている。元々、マクドナルドの店長はフロアーコントロールと行って、厨房だけでなく、客席を周り、フロアーホステスの仕事を自らやらなくてはいけない。しかし、この店舗は2階立てて店長が頻繁にフロアーを回ることは不可能だし、2人マネージャーにしたからよけい負担がかかっていた。

    「そうだ、そのフロアーホステスに上記の女子クルーを活用しよう」とひらめいた。店長に代わりにフロアーに出るのだから、女子クルーの格好ではなく、マネージャーのユニフォームを着せ、ネクタイをさせて見た。当時はまだ女子のマネージャーユニフォームがないから、彼女たちが男物のシャツを自分たちで仕立て直し、大胆な紺のミニスカート(自分たちで選んだ)を着用して、2階のフロアーをコントロールしだした。

    彼女たちの仕事は3つあった。

    [仕事その1:アウトサイドオーダーテイカー]

    まず、混雑するカウンター前の整理とアウトサイドオーダーテイカーだ。アウトサイドオーダーテイカーとはカウンター前に並んだ客のオーダーを取り、メニューチケットという表に注文を書き込んで客に渡す。客はレジの女子クルーが接客に当たったときにそのメニューチケットを渡すと、そのまま商品を取りそろえてくれる仕組みだ。これにより、注文時間を大幅に短縮することが出来る。また、一旦オーダーを取ってしまうと客は待ち時間が長くても待ってくれるので、ピーク時のロスが無くなった。

    [仕事その2:2階の回転率の向上]

    昼のピーク時の客席の効率アップが必要であった。まず、満席率を向上するために相席をお勧めするようにした。厳つい男子マネージャーに「相席をお願いします」と言われると嫌な気持ちになるが、かわいい女子のフロアホステスが鈴のような声で「お願いします」と言われると、客も思わず笑顔で「いいよ」と気持ちよく席をあけてくれる。さらに回転を良くするために、食事が終わった客のテーブルのトレイを片づけたり、灰皿を頻繁に換えるようにした。決して帰ってくれと言うのではないが、彼女たちが一生懸命働いて、他の客が待っているのを見ると客も食事が終わったら気持ちよく席を空けてくれるようになった。また、テーブルの大きさを変更できないのでとりあえず、小型のトレイを使い、テーブルに最低2つ乗るようにもした。

    また、2階と一階のフロアーホステス同士で2階の客席状況を連絡させ合うようにして、階段の客の流れをスムーズにすることにも成功した。

    [仕事その3:アイドルタイムの売り上げ向上]

    忙しい時間だけでなく、なるべく彼女たちを2階に上げテーブルの清掃や、灰皿の交換をさせるようにした。その際に単に働くのではなく、客に1人1人に声をかけさせるようにした。2ー3ヶ月すると驚いたことに彼女たちのファンクラブが出来て、暇な時間も客がひっきりなしに来るようになった。

    [副産物]

    このフロアーホステスの制度は大成功で売り上げは30%近くも上昇してきた。しかも売り上げが上昇するだけでなく、店舗のモラルが大幅に向上したことにも気がついた。マクドナルドは従来からスイングマネージャーと言う制度があり、男女にその仕事を解放していた。社員のマネージャーの代わりとなって、朝の開店と夜の閉店業務を担当するという役割だ。しかし、女子の場合、安全上の問題から昼間の時間しか任せられず、女子よりも男子の方が重用されるという傾向が一般的だった。しかし、このフロアーホステスの仕事は売り上げを向上させると言うことが明らかであり、女子の貢献度が飛躍的に高まり男子スイングマネージャーと同等の地位を与えることが出来た。その結果女子クルーのモラルが大幅に上がり、競争してフロアホステスの仕事に就きたがるようになり、サービスのレベルが全体に大幅に向上した。この結果フロアホステスを4名ほど育成することに成功し、彼女たちはフロアーホステスの仕事だけでなく、新人女子クルーのトレーナーとしても活躍してくれるようになった。

    [フロアーホステスからSTARプログラムへ]

    このフロアーホステスはこの店舗だけのシステムだったが、その成果から段々他店へ普及しだし、マニュアルを作成し本格的なシステムとして採用されるようになった。同じ頃米国でもその効果に注目し、STARプログラムと言う制度に進化させるようになった。フロアーホステスはあくまでも店内のサービスが中心であるが、STARプログラムは店外の販売促進活動まで含む物だった。この詳細についてはまた別途紹介しよう。

    マクドナルドのセルフサービスのシステムは時間当たりの高い売り上げを実現するだけでなく、合理的な人件費削減の手段でもある。しかし、合理的な切りつめた無駄のないサービスが全て良いかというとそうでもない。客から見て人間のぬくもりが必要だ。この店の主な客は田舎から都会に1人で出てきた学生が多く、孤独感にさいなまれ、ぬくもりを求めていた。それなのに1偕と2階が断絶していたのだ。その断絶感を補ったのが無駄だと思っていたフロアーホステスだった。非効率が転じて効率につながったのだ。理性的に考えたらフロアーサービスは人件費の増大を招くので、経営者サイドから見たら無駄に見えるが、客のサイドから見ると人間味にあふれたサービスとなる。トータルとしては合理的だが、ちょっとした人間味のあるサービスが、客に対してもの凄くインパクトがあるわけだ。

    このフロアーホステスのシステムはよく考えてみると、ホテルのサービスコンシェルジェに近い。小さなホテルだと誰でもその町の事を知っているから、どの従業員に聞いても親切に教えてくれる。しかし、大規模なホテルだとパートタイマーも多くいるから、客の質問に何でも応えられるわけには行かない。だから、大規模なホテルはコンシェルジェを置いて、客のあらゆる要望に応えるようにしているわけだ。

    最近は銀行に行っても、ロビーには振り込み、引き出しが自動で出来る機械が置いて合理化を図っている。銀行には老人や女性など機械に不安を感じる人が多く来店する。そんな不安を防ぐようにパートタイマーの女性が操作の説明や、困ったときに助けるようにしている。

    新幹線の切符も自動発券が増加している。新大阪の自動発券の機械には夕方のラッシュになると数人の女性のアシスタントがついて、説明したり、必要な人には領収書を書いて上げている。

    このように自動化の機械で全て合理化する場合、ちょっとした手助けをすることによりもの凄く人間味のあるサービスが可能になるのだ。

お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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