運営部長、統括SVのための実力養成講座- 情報の収集と伝達

部下への教育はオンザジョブトレーニングとオフザジョブトレーニングの両方の組み合わせが必要だ。スーパーバイザーは店舗の最前線で戦う指揮官だから、彼らに戦場の正確な情報を常に与えることが必要だ。玉の飛び交う戦場では、何か困ったことがある時に上官の命令を待つようでは敗戦は必至だ。戦況を確実に把握し、どんな状況でも自分で適切な判断を下す能力を持たせなくてはならない。

店舗現場での戦闘能力は店舗を巡回しながら教える。会社の状況がどうなっているか、競合の戦略はなにか、それに対してどう戦うのかという情報は会議を通じて正確に相手に伝える。部下が多くなると会議を通じて効率よく正確に情報を伝えるようにする。

統括SVは先ず本社の各会議に出席し、競合の状況や会社の戦略などの情報を収集し、その情報をわかりやすく具体的に咀嚼し、部下に伝達するのだ。

情報収集と伝達には3つの分野があ

「会社の方針、上司の方針の把握」

フォーマルな会議:受動的な参加

会社の方針を把握するのは大変重要だ。統括SVは100億円の経営者だから、会社の方針を正確に把握していなければならない。出店戦略に合わせて新人の採用、育成計画を立てないと新店舗を運営できなくなる。しかし、あまり早く採用を行うと人件比率が上昇してしまう。
広告や、販売促進計画も十分に把握して準備をする。ハンバーガーのような単品のファーストフードはコカコーラのように、商品の広告と販売促進を連動させ、商品の売り上げを大幅に上げることが可能だ。マクドナルドの場合、時間当たりの売り上げが高いから、広告や販売促進を行う際には人、物、金の十分なる事前準備が必要だ。十分な人数のアルバイトも必要だが、人海戦術や精神力だけでは売り上げを達成できない。クオーターパウンダーなどの大型ハンバーガーを売るにはグリドルの能力アップが必要だし、コカコーラなどとタイアップしてコーラ無料の企画を立てるには、コーラ飲料機器の冷却能力アップも必要だ。当然、投資が絡むから事前に予算化をしておかなくてはならない。

当時のマクドナルド本社に於ける会議は攻撃的な戦略会議が中心であった。まず、店舗展開を決める店舗開発会議。広告と販売促進計画を決める広告宣伝会議。経営トップの方針発表と計画の発表、各部の活動報告をする定例部長会議。新店舗の設計、レイアウトを決定する建設会議。など新店舗出店に必要な会議が中心であった。

店舗の運営を司る運営本部内部の会議では、会社の方針を元に各統括エリアでどう具体的に運営していくかを決める。そして、成果を上げた店長やSVを正しく評価するために、評価会議を開催する。先月号でファーストトラックの話をしたが、統括が新卒や中途の採用面接に関わっているので、全社員の評価を正確に把握することが必要になる。社員の評価はQSCと人物金、自己管理の7項目と簡単だが、それを数値で簡単に表すことは出来ない。アシスタントマネージャーであれば上司の店長が評価をしSVが調整を行う。そしてSVの評価は統括が行い、それを部長と本部長がチェックするという、2重のチェックシステムだ。そして、全統括と部長、本部長が立ち会いの元に評価をチェックし、異議があれば他の統括や部長が申し出る。評価をする側も人間であるから偏りが出るので、それをチェックしバランスをとるために全体で評価を行うのだ。全員の中で評価のコメントを発表することにより、その人がどんな見方で具体的に評価しているかもわかり、評価者への評価ともなる。

プロジェクト会議:決定に参加

本社のもう一つの重要な会議はプロジェクト会議だ。先回もお話ししたようにまだ、運営統括部という戦略スタッフ部門がなかったから、統括SVやSVが会社の数多くのプロジェクトに参加し戦略決定に加わる必要があった。「1-1.フォーマルな会議:受動的な参加」の会議は連絡会議であり、自ら意志決定に参加することが出来ない。そんな会議になれてしまうと上の命令がないと動けないサラリーマンになってしまう。プロジェクト会議に参加し意志決定に加わることにより自分で判断し決定する能力を身につけるようになるわけだ。
当時のプロジェクトは売り上げの増大にどう対応するかということと、2度に渉る石油ショックのための省エネルギーと言う相反する課題であった。その中で、照明の見直しというプロジェクトに参加したことがある。このときには、プロジェクトリーダー、建設担当者(新店舗建設担当者)、機器開発担当者(設計者)、購買担当者、運営(筆者)、の5名というシンプルな構成であった。ここで色々な省エネルギー対策をした、内容は後で詳細に述べるが、環境ISO14000の省エネルギーについてはその当時殆ど対策を行った。省エネルギーの中で大きな比率をしめる照明システムの改善をしていた。このときには先ず、基準となる照度を定めた。日本に進出の当時は詳細な設計基準がなかったが、やっと米国の設計基準を手に入れ、それに基づき照度などのスペックを明確にしていった。

その作業の課程で照度だけでなく照明の色温度も重要だという勉強をした。以前、当時の社長フレッド・ターナー氏の作った初期のマニュアルの紹介をしたが、その中で、店舗の色の基準の話をした。普通のレストランは温かい感じを出すために演色性の高い白熱球を使用するがエネルギーを消耗するので、マクドナルドは省エネルギーの蛍光灯を使用していた。蛍光灯はやや青ざめた色になるのでステンレススチールは暖かい色のSUS304を採用していたわけだ。

マクドナルドの創業当時は持ち帰りが中心であり、照明は厨房内だけであり、蛍光灯だけで問題はなかった。しかし、段々、客席を設けるようになると普通のレストランのように暖かな色の照明の必要性が出てきた。そこで当初は蛍光灯と白熱灯を混ぜて使用し、温かい色合いを出していた。だが、電気代が高くなるので、白熱灯と同じ色を出す蛍光灯を米国では使用するようになってきた。しかし、日本では当時は昼光色と白色の蛍光灯しかなかった。看板に昼光色、客席に白色蛍光灯と白熱灯を使っていた。

そして、省エネルギープロジェクトで看板内部に反射板を使い、蛍光灯の本数を減少させたり、客席から白熱灯をなくしたりすることにより、電気代の削減を試みるようになった。電気代の削減には成功したが、看板は暗くなるし、客席は白々しい殺風景な色となってしまった。客席に貼るポスターも寒々しい食欲をそそらない色だった。

そこで、演色性の高い蛍光灯をテストしてみると、消費電力は同じでも色の発色が良くなり、カラフルになることが分かった。看板にそれを使用すると、赤黄白がくっきり明るくなる。ポスターも生き生きとした色になった。客席には温白色の蛍光灯を使用することによりより暖かい色になり、座っている客の肌色が綺麗になり、外から楽しそうな温かい雰囲気に見えるようになった。

そこで、この蛍光灯の提案をするわけだが、提案書などの書類で、蛍光灯の色合いの原理を科学的に言っても説得が難しい。そこで、会議でプレゼンテーションを効果的に行う必要が出た。ここで役に立ったのがハンバーガー大学のプロフェッサーの知識だ。教室の設備のメインテナンスや設計もプロフェッサーの仕事だから、照明の効果的な使い方を知っているのは当然だ。ハンバーガー大学の教室はビジュアルな教材を効果的に使用する。教壇には全ての電気のスイッチを集中させ、カーテンの開閉、照明のON/OFF、照度の調整、16MMテープのON/OFF、音楽の音量調整、スライドの操作を、教えるプロフェッサーが1人で操作する。

教室の設計にはノウハウが必要だ。日本の企業はプレゼンテーションを重視しないのでそのノウハウの構築がないが、米国企業にとって人を説得するプレゼンテーションルームの設計は重要だ。VTR16mm、スライド、オーバーヘッドプロジェクターを効果的に使用するには、照度をきめ細かく調整できなくてはいけない。照明には蛍光灯と白熱灯のダウンライトを使用する。VTRなどを上映する際には色がはっきり出るように照明を消すが、あまり暗くすると寝てしまう。店舗の人間は座りなれていないし疲れているから、映画館のように暗くして上映を開始するとすぐに寝てしまうわけだ。また、暗いと重要な内容のメモを取ることが出来ない。そこで、蛍光灯を消し、ダウンライトの照度を調整して、画面を鮮明で且つノートが取れる照度にする。その際に重要なのはダウンライトは教壇に平行な列毎に照度調整とON/OFFをできるようにすることだ。そうすれば、画面に近いサイドの照度を落として、生徒の机の照度を維持することが可能になる。つまり、教室の照明はブロック毎にON/OFFや照度の調整ができるようにしてある。

このような設計の会議室のコントロールの仕方を熟知するのがプロフェッサーの仕事だ。この知識を利用し、プレゼンテーションの前に列毎に蛍光灯を代えておき、それぞれの列にポスターを貼っておいた。そして、プレゼンテーションの際に色の異なる蛍光灯を使用し、それぞれの蛍光灯の特徴と見え方の違いを具体的に説明することに成功した。このようなプレゼンテーションスキルは統括にとって大変重要なのだ。

インフォーマルな情報収集

ハンバーガー大学時代に身につけたのはプレゼンテーションスキルだけではなかった。本社勤務時代に各プロジェクトに関わることにより、各部の実務担当者と個人的な人間関係を確立する事が出来た。また、各部の部長とも個人的な面識を深めることにより、提案書などを上げて相談することも個人的なベースで行え、効率が高くなった。各部長と面識を得るために、各部の部長を外部から採用して店舗研修をする際になるべく筆者のエリアで行うようにして、各部のトップと直接のコミュニケーションすることが可能になった。定例部長会議などで発表される内容だけでは会社の方針を100%理解することが出来ない。やはり、各部の部長と直接話すことにより、かみ砕いた生きた情報を入手することが可能になる。
統括SVが主催するSV会議も、専門的な内容は各部の部長や担当者、業者にやってもらうわけだが、そんな交渉も面識があれば気楽に頼むことが出きる。会社は大きくなればなるほど、そんな個人的な人間関係も仕事をスムーズに運営するために必要になる。

「部下へ会社の方針を伝える」

SV会議:フォーマルな会議

SV会議の主な目的は会社の方針を伝えることだ。「1.会社の方針、上司の方針の把握」で収集した、会社の情報を元にわかりやすく具体的な内容にして発表する。しかし、発表と言うのは一方通行であり、相手が理解したかどうかの測定が出来ない。そこで、何か重要な会社の方向性を発表した後には必ずグループディスカッションを行い、各グループの意見を発表させる。ディスカッションに参加したり、発表を聞くことにより、各SVの理解度を測定できるし、問題点も事前に把握できる。
また、統括エリア毎の店舗状況またはプロジェクトの進行状況の発表をさせる。これにより他の統括SVエリアがどんな活動を行っているか分かるので、勉強したければ実際のそのエリアにストアーツアーに行って見学することが出きる。

SV小会議:インフォーマルな会議

SV会議はグループディスカッションを行っても、全てのSVを細かく把握できるわけではないし、教育をするという時間もない。そこで、SV会議のようなフォーマルな会議だけではなく、少人数のSVを集め会議を開く。統括SVは6人のSVを部下に持っており、2名づつのSVでチームを組ませる。新人のSVとベテランのSVだ。新人のSVはベテランのSVと仕事をしながら学ぶことが出きるし、新規開店や人事異動の際にはお互いの協力を仰ぐことが出きる。また、夏休みなどの長期休暇や海外出張の際の店舗のフォローアップもお互いにすることが出きる。このチームのSVと統括SVの3人で小会議を開くのだ。ここでは、SV会議で出来なかったそれぞれの店舗の個別の問題点や、解決策を話しあう。統括SVが一方的に話すのではなく、SVに報告させ、疑問があれば質問をして、必要であればきめ細かなフォローアップを行う。この際に重要なのは店舗の損益計算書と週報、月報、運営日報の数字だ。マクドナルドの場合に数字を大変重視するので、観念的な話や報告ではなく、数値に基づいた具体的な会議を行う。
店舗訪問

会議だけでは店舗の把握は出来ない。上記のSV小会議も本社で座って行う場合もあれば、店舗を訪問しながら、店舗の運営状況と数字を照らし合わせてチェックする。店舗訪問はSVチームと回る場合もあれば、担当のSVとだけ回る場合がある。店舗訪問には色々なやり方があり、QSCを具体的にチェックするストアビジテーションリポートや、より詳細にQSCのグレードをつけるコンサルテーションリポート等の種類がある。コンサルテーションリポートはチェックするのに3日も必要であり、QSCを朝昼晩の全時間帯で評価していく。QSCの評価は具体的であり、サービスなら、何分何秒、調理時間も秒単位、と言う数値管理をきちんと行う。
それ以外にSVは店舗を把握する上で、監査業務を行わなくてはいけない。店舗の社員の現金管理、勤怠管理、在庫管理等の管理をきちんと行っているか、不正がないか、のチェックを抜き打ちで行う。監査にはノウハウが必要であり、統括SVはSVと共に店舗を訪問し、具体的な作業を教えていく。

その他に社員の評価、店内マネージャー会議、店内クルー会議、スター会議、ファーストアシスタントマネージャーチェック、MTPチェック、スイングマネージャーチェックなどのSV業務があり、それを一緒に参加しながら具体的に指導する。

SVプロジェクト:経営の決定に関与させる

「1.会社の方針、上司の方針の把握」の「1-2.プロジェクト会議:決定に参加」で述べたようにSVも会社への影響力を出さなくてはならない。統括SVになってから急にプレゼンテーションが出きるわけはない。プレゼンテーションの技術ををSVの内に学ばせなくてはいけない。SVの部下の店長やアシスタントマネージャー、クルーへの教育の際にもプレゼンテーションが役に立つ。プレゼンテーションでは命令でなく、ロジカルに説得しなければならないから、正しいオペレーションをわかりやすく相手に伝える能力も必要だ。
SVのプレゼンテーションの教育で役に立ったのが厨房機器の知識だ。売り上げを上げるためには老朽化した厨房機器の入れ替えが必要になるが、それを新人のSVに任せてみた。厨房機器の入れ替えには業者との交渉や、店舗毎の必要性を判断しなくてはならない。また、入れ替え工事のスケジュール化、予算と提案書の作成、損益の計算など色々な仕事をする必要がある。特に重要なのはこの仕事を行うに当たって、会社のスタッフや業者などの社外の人間との交渉という仕事をする事により、交渉能力が身に付くことになる。また、SV会議などで同僚のSVの前でプレゼンテーションをすることにより、自信と度胸を身につけることになる。このように現場の店舗管理だけでなく、同僚や上司への影響力を身につけさせるプレゼンテーション能力や交渉能力をSVに教育するわけだ。

ここでハンバーガー大学で身につけたプレゼンテーションスキルや、調理器機器の知識が役に立つのだ。

「外部との交渉」

統括SVとしての交渉事は会社の上下だけではない。社外に対しても必要だ。ではどんな種類の交渉があるのだろうか
新店舗運営交渉

店舗開発部はあくまでも店舗の家賃や保証金などの交渉をするわけだ。その後の細かい交渉は担当店舗のSVが行わなくてはいけない。家賃の他に必要な経費として、倉庫事務所の経費や水道光熱費の計算と支払方法。売上金の納金時間と書類の受け渡し。現金差の処理方法。打ち間違えの報告方法。ゴミ処理。店舗への従業員通路と従業員の交代時の報告方法など、細かいルールの打ち合わせを行う。細かい金額の交渉のようだが、10年も借りるのだから細かい金額もつもりつもると巨大になる。しかし、一旦店舗を借りてしまうと交渉は難航することが多く苦労する。ここで苦労すると店舗の増築や新店を借りることが容易になる。
店舗倉庫の交渉

店舗が決まっても倉庫事務所が決まっていなかったり、手狭になり新規に借りる必要なども出てくる。このような交渉は店舗の店長とSVで行わなくてはいけない。
店舗改造交渉

売り上げが予想よりも向上したり、老朽化した場合には店舗の改造が必要になる。改造する場合に2階の客席を増床したり、事務所倉庫を移動する必要性が出る。大改造の場合には家賃の改定の必要性も出るがなるべく採算が合うように大家さんと交渉が必要だ。そのためには普段からのコミニュケーションが大事になるので、店舗訪問時、大家をSVと訪問して普段どんなコミニュケーションをとっているかチェックする。
クレーム対策

・従業員の事故
傷害事件、過大な借金、自己破産、家庭内トラブル、自殺、交通事故、等
・食中毒
・異物混入
・新店舗建設へのクレーム(暴力団などの嫌がらせ)
クレームは店舗の数とマクドナルドの知名度に比例して増加していった。本社に担当のクレーム処理の担当がいるのだが、1人ではよほどの大事件以外対応が出来な。そこで、SVや統括SVが対応に当たるわけだ。クレームの対応を見てみるとSVの交渉能力を判断できる。クレーム処理くらい出来ないと将来統括SVになれないからだ。

以上のように情報の伝達は上意下達だけでなく、相互伝達と情報収集も必要なことがおわかりいただけるだろ。部下に命令ばかりしていると気分はよいが部下は育たないと言う事になる。

さて、統括SVになって1年ほど経過した頃の筆者の月次目標を見てみよう。

1979年10月の月次目標

各店舗のCの向上
ストアツアーによるCチェック
店舗目標への折り込み
メインテナンスのモラルアップとトレーニング
オープニング、クロージング、メンテのチェックリストの使用
プリベンティブメインテナンスマンの育成
スイングマネージャーの育成
Aスイングマネージャーの育成

社員の育成
セカンドアシスタントマネージャーとファーストへの育成

CREWのトレーニングシステムの確立
面接チェックリストの使用
オリエンテーション
BCCの開催
トレーナー制度
CREWの定期評価
店舗当たりの社員数の削減
書類作成の軽減、秘書制度

以上
お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

著書 経営参考図書 一覧
TOP