運営部長、統括SVのための実力養成講座- 部下へのコミュニケーション能力

2名のSVと店舗を徹底的にまわることにより、SVは店舗で10分間の間にかなりの項目をピックアップできる能力が身に付いた。しかし、同じ店舗を何回もチェックしていると、SVのQSCのチェック能力が向上したのに、店舗のQSCが向上してこない現象に気がついた。

1.指摘が多ければよいのではない

そこで、もう一度店舗でのMVRのチェック(店舗訪問時のQSCチェックリスト)を詳細に検討してみた。その結果気がついたのが、SVは店長のいない際に、経験の浅いアシスタントマネージャーやアルバイトのマネージャーであるスイングマネージャーにも詳細な指摘を行いすぎるということだった。相手によって説明の仕方を変更するという工夫をしていないのだ。また、MVRで指摘した問題点をその店舗のマネージメントチームが、どのように分析し改善行動を実行しているかのフォローアップもしていなかった。言いっぱなしで終わっていたのだ。
店舗のマネージメントチームも文句を言われたときだけ「はいはい」と聞いていれば、嵐は頭上を過ぎ去るわけだった。SVは一方的に指摘するだけで、相手がその指摘内容を理解したのか、問題点に対する優先順位をつけられるか、問題点の解決能力があるのか、その問題点よりも優先順位の高い問題点が店舗にあるのではないか、等を考慮していなかった。そこで、SVとマネージャーの双方に、問題点を優先順別に紙に書かせてそれを照らし合わせてみた。その結果、殆どのSVとマネージャーで、問題点の理解と優先順位が食い違っているということが判明した。

2.相手の問題点への理解度を把握する

SVはマネージャーの理解度を把握しないで問題点を機関銃のように指摘して帰ってしまいフォローアップをしていないから、相手の考え方とSVの問題点の考え方が異なるわけだ。そこで、まず、SVがMVRををマネージャーに見せる前に、お店の状況はどうだったか、マネージャーが気がついていた問題点を聞き、どの位の能力があるかを見定めるようにした。次にMVRをマネージャーに見せて、「何か質問がありますか?」「何か分からないことがありますか?」と聞くことにした。質問や分からないことがあるという場合にはその項目に興味がある場合だ。自分では気をつけてフロアーコントロールしていたのに、その部分を指摘されたり、内容が分から場合も聞いてくるだろう。その質問にたいして、理由を説明し、次に何故そうなっているのか、どこが問題か、どうやって解決するのか、を質問し、答えさせるようにする。そうするとそのマネージャーの能力がどの位かが良く理解できる。もし、知識がなければその場で教えられるだけ教え、その後に課題を出したり、店長と連絡を取り店長にフォローアップを依頼できるわけだ。

3.問題点の優先順位づけと必要なOJT

SVも漫然と説明するわけではなく、問題点に優先順位をつけ、優先順位の高い順に時間をかけ説明をする。問題点が30カ所もあったとしても優先順位の高い順に3項目も解決できればその店舗の問題点の90%は解決できるのだ。
そうやって説明した後で、帰る前にもう一度、SVとマネージャーの双方に優先順位の高い順に3つ記入させ、それが一致するまで説明を丁寧にさせるようにした。

勿論、言葉だけで説明できない場合にはSVにフロアーコントロールをさせて見せたり、調理機器のメインテナンスやカリブレーションをさせたりして、OJTによるトレーニングを行うようにさせた。問題点を解決しないで店舗を離れては、問題を繰り延べするだけだからだ。店舗訪問時には何か一つ問題点をマネージャーととももに解決するのだという姿勢を重要視させたわけだ。

4.店舗内のコミュニケーション

また、その場だけのトレーニングやディスカッションだけでなく、問題点をどうやって店舗のマネージメントチームで共有するのかも重要だ。店舗の問題点は1人のマネージャーで解決できる簡単な物もあれば、マネージャーチームやクルーが一丸となって解決しないとならない複雑な物もあるからだ。
そこで各店舗の過去のMVRのファイルとマネージャー連絡ノート、各マネージャーの目標管理、評価表をチェックしてみた。MVRというのは店舗のQSCのチェックリストであり、健康診断と同じだ。たった一枚の健康診断だけでは良くなっているのか、悪くなっているのかという経時変化をとらえることが出来ない。幾ら店舗のQSCが悪い状態でも段々改善されているのであれば問題ないが、悪化しているようであれば明確な対処や療法が必要だからだ。

店舗ではそのMVRを保管し、現場にいなかったマネージャーにその指摘事項を伝え、具体的な対策、誰が担当するかを決定し、改善を図らなくてはならない。そして、MVRの問題点を自ら分析し、具体的な改善策を立て、各マネージャーの作業分担を行うわけだ。

まず、MVRをきちんとファイルし、全員が閲覧をし、問題点を理解しなくてはならない。そのためにはファイルだけでなく、その時の状況、指摘事項、自分の気がついた問題点、改善へのタイムプランなどをマネージャーノートに書き、全員が閲覧しなくてはいけない。そして、店長はその問題点を解決するために問題点に優先順位をつけ、分野別に担当をきめ、各人の目標管理にそれを取り入れ、進行状況をチェックする。各マネージャーやクルーへの評価には割り当てられた店舗の目標管理の進行状況を取り入れなくては、誰も問題点を解決する気持にならないのだ。当たり前のことだが、店長の評価はSVの指摘した問題点の進行状況により左右されるのだ。

5.計画的にQSCをチェックしなくてはならない

これにより現場でのSVのマネージャーへの説明能力は向上したが、どうもMVRそのものをスポット的な道具として考えがちであった。マネージャー達への評価はQSCと人物金、自己管理、の7項目だが、そのQSCのコメントが曖昧であった。本来はMVRに基づいてそのマネージャーのQSCの能力を評価するのだが、中には半年以上もそのマネージャーにQSCの評価であるMVRをつけていないケースが発生していた。つまり、MVRを計画的に使用していないと言うことだった。店舗を巡回する際に無計画に目的を持たずに訪問するからそういうことになるわけだ。店舗のマネージャーのスケジュールを把握し、どのマネージャーに何時MVRをつけたのかの記録をつけていなかったわけだ。そこで、SVがスケジュールを作成する際に、店舗を訪問する理由、何をしに行くのかを明確にさせた。そして、最低各マネージャーに対して2ヶ月に一回はMVRを万遍なくつけさせるようにした。
また、各SVはそれぞれの目標を持って自己研鑽しないと能力が伸びないのだが、その目標をチェックしてみると、店舗の目標と異なる場合も散見された。つまり、SVはその日暮らしの予定を立てていたわけだ。そこで、SVのスケジュールや目標を作る際にまず、SVの評価をきちんと行うことにした。SVの評価もマネージャーと同じでQSCと人物金、自己管理の7項目だが、一枚の紙だけでは具体性が出ない。そこで、数枚の紙に一緒に同行した際のSVの行動評価、具体的な問題点を記入し手渡すようにした。勿論、行動だけでなく、損益計算書、利益管理などの数値管理もそれに細かく入れたことは言うまでもない。

6.人事評価

マクドナルドではマネージャーの評価を年に2回(初期の頃は年に4回)行う。部下の評価を人事部に提出し、自動的に評価がつけれられるわけではない。各、SVや統括SVがつけたマネージャーの評価を元に全マネージャーの評価一覧を作成し、誰がどの評価をもらっているかを、SVと統括SV、運営部長、運営本部長、人事、で検討する。そして、各担当SVはどういう理由でその評価をつけたかのコメントを言うわけだ。他の統括エリアと自らの統括エリアのマネージャーの評価を比較されるわけだ。さて、ここの評価会議を聞いていると人により甘いSV、辛いSVがいるのは当たり前だが、QSCや損益、売り上げの状況を聞いても具体的な言葉が返ってこないのに気がついた。そこで、提出されたマネージャーの評価表をみたら、MVRと同じく、具体的な指摘事項が全くないということだった。観念的にイメージで評価を行っているのだった。例えばクレンリネスの評価が低い場合には、店舗訪問時のクレンリネスだけでなく、開店時、閉店時の準備や清掃状態、清掃用具の整理整頓、洗剤の正しい知識などの評価を行わなくてはいけない。MVRは営業中だけでなく、開店、閉店時にも問題点の指摘に使えるわけで、そのためには評価期間中の各マネージャーに対しては各時間帯万遍なく訪問しQSCに対するチェックを加えなくてはならないわけだ。

7.評価はつけるだけでない

もう一つ気がついたのは店舗のマネージャーにこの評価が正しく伝わっていないのではないかということだった。各店舗をまわってマネージャーにどんな評価を受けているかと聞いたところ、評価の結果、給与や賞与が決まるがその金額だけでなぜその評価を受けたのが具体的に聞いていないと言うことだった。どうもSVが店長に正しい評価を伝えていないようだった。決まった昇給額や賞与額は結果であって、なぜそうなったか、今後どうすればよりよい評価をもらえるのかと言うことの方がより重要なのだ。そして次回までに何を改善、向上すれば評価が上がるかを明確にすれば、店舗のマネージャーも目標を立て、店舗のQSCと人物金を具体的に向上させることが出きる。
当時はマクドナルドが急成長しているだけでなく、日本の経済もバブルに向けて驀進中で、人手不足が大きな問題であり、部下とのコミュニケーションをとると言うことが優先であり、それが部下に厳しい注文を付けないと言う結果となっていたようだ。コミュニケーションをとれと言うと酒を飲んだり、ゴルフや麻雀をやったりというなれ合いになってしまって、本来の正しいコミュニケーションをとっていなかったのだ。

8.評価は公式なコミュニケーションだ

ビジネスの世界における、上司と部下の正しいコミュニケーションとは、部下に対する評価を具体的に行い、それに対するフォローアップをきちんと行うと言うことだ。そこでコミュニケーションデーというシステムに評価をきちんと伝えることを取り入れた。
評価にはスタッフパフォーマンスレビューとマネージメントパフォーマンスレビューという評価システムの2種類がある。スタッフパフォーマンスは本社のスタッフのように定型的な作業でなくプロジェクト作業をやるような場合は各人の作業が異なるので、目標を個別に立てさせ、その目標の達成度で評価する。店舗のマネージャーのようにQSC、人物金、自己管理、の7項目の職務基準に対して評価をする場合には、職位により異なる職務基準の達成度で評価する。従来は店舗のマネージャーにもその2つの評価を混同して使用していたが、マネージャーパフォーマンスレビューの職務基準評価に一本化した。

9.評価は具体的でないといけない

QSCの評価であれば店舗訪問時のMVRと年に一回のコンサルテーションリポート(店舗総合診断)を元に具体的に説明する。
人の管理のうち、部下の育成であれば、マネージャーに対してはMDP(マネージメント・デベロップメント・プログラム)、スイングマネージャーに対してはスイングマネージャー・トレーニング・プログラム、アルバイトのクルーに対してはSOC(ステーション・オブザベーション・チェックリスト:各部署の詳細な作業手順書の習熟度チェック表)の進行状況で評価する。

人材の採用面では、年間のリクルート計画と実施度、退職率、在籍人数などの数値で評価する。人の扱い方では、店内のマネージャーミーティング、連絡ノート、クルーミーティング、ラップセッション、従業員満足度調査、等の客観的なデーターを元に評価をする。

物の管理は、オープンとクローズ時の清掃状況、メインテナンス(夜間清掃)へのオープンマネージャーのチェックリストの内容、調理機器や設備へのプリベンティブメインテナンスカレンダー(定期清掃、修理カレンダー)の実施状況と機器の状況、等で具体的に評価をする。

金の面では、ウイークリー・オペレーティング・リポート(W.O.R.週報)、マンスリー・オペレーティング・リポート(M.O.R.月報)、金銭管理表、監査報告書、損益計算書、小口現金報告書、販売促進報告書、等で、売り上げの状況から、現金差、スタット差(食材ロス)、レイバーコントロール(人件費管理)、水道光熱費使用チェックリストなど、詳細な報告書に基づいて、詳細に評価をする。

このように店舗にある全ての帳票を各マネージャーの評価表の項目に必ず反映するようにすることで、店舗のQSCと人物金の管理はどんな状況で、誰に責任があるのか明確になり、店舗の状況は具体的に向上を遂げることが可能になる。

チェーンによってはこのマクドナルドの帳票、教育システム、マニュアルを、取り入れたり真似をしたりしているが成功をしているところは少ない。それは、マネージャーからアルバイトのクルーに至るまで、評価を中心に組み立てていないからだ。幾ら一生懸命に仕事をしても、評価に具体的に反映しなければ誰も仕事に具体的に、真剣に取り組むことがないのだ。

統括SVの最大の仕事は部下の育成だ。

このシステムを組み上げたのは筆者が統括SVとなってから5年半という経験が必要だった。しかし、このシステムを組み上げることにより後の店長、SV、統括SVへの育成が具体的になったのは言うまでもない。やはり部下には何を期待しているのかを明確に伝達し、良かったら誉め、悪かったら指摘し、弱いところを鍛え、良いところはより高度なレベルまで引き上げるという地道な作業をを行わなくてはいけないのだ。
以上
お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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