嚥下障害と介護食「調理方法別にみる嚥下食」 第6回目(日本厨房工業会 月刊厨房)

前回は姿勢、飲み物、主食のお話をした。今回はそのほかの食材の話の前に料理方法によっての食材の嚥下問題を説明し、食材ごとの嚥下のしやすさしにくさを説明しよう。
1)調理による嚥下問題
入院している際は安価な食材でありながら良質のたんぱく質や栄養分を豊富に含む卵が良く出てきた。卵は基本的に食べやすいのだが、調理法によって食べやすさが異なる。コレストロールの少ない白身は生でも加熱してもつるつるとして喉越しが良いのだが、黄身は調理方法により異なる。黄身は加熱しすぎると、固くなりざらついて飲み込みにくい。卵サンドの具のようにマヨネーズをあえると食べやすくなる。卵で一番食べやすいのは、温泉卵や生卵だ。写真①生卵②卵焼き③卵サンド
卵を使った料理では茶わん蒸しが食べやすい。写真?ただし具材がないほうが良い。卵の白身を使った料理は食べやすい。写真⑤
加工した魚で食べやすいのは海老真丈だ。海老のすり身に山芋のすりおろしと卵白身が良いのだろう。蒸して椀種にしたりあんかけが食べやすい。揚げたものは表面が固く嚥下しにくいので蒸した方が良い。
嚥下しやすい調理品は、すりおろした山芋のとろろだ。とろろは粘度がある割にさらっとしているので飲み込みしやすいし、燕口蓋に付着しにくい。ただしとろろは加熱すると粘性が出て、嚥下しにくくなる。
このように食材の調理加工による変化を知ることが必要だ。

以下食材の種類による食べやすさを見てみよう。

2)魚介類
ほとんどの貝類は固く嚥下しにくいだけでなく、咀嚼も困難だ。筆者はアワビや赤貝が大好きであったが、現在は咀嚼も嚥下もできない。一般的な食材は加熱すると固くパサついて嚥下しにくくなるが、例外は、鮑の酒蒸しだ。写真⑥ 生だと固くて咀嚼しにくいし嚥下も難しいが、蒸し焼きにすると、軟らかく食べやすくなる。
生の貝類で唯一食べやすいのは柔らかいホタテ貝柱の刺身だ。ただしホタテの貝柱も加熱調理すると固くパサついて食べにくくなる。
ウニ、いくら、鰯、鯵、サーモン、マグロ大トロが一番食べやすい。筆者は鮮度の高い、白身魚の刺身が大好きであったが、現在はコリコリとした刺身は嚥下困難になった。鯛、平目、ハマチなどは、日を置いて軟らかくなった方が良い。またマグロは、質の良い大トロは良いが、赤身等で筋が多いのは難しい。魚は基本的に生の方が嚥下しやすい。鰯や鯵などの青魚は柔らかく生だと大変食べやすい。ただし鰯などは小骨があるので、注意が必要だ。健康な人であれば、鰯の小骨など問題ないが、嚥下障害を持つ人にとっては大敵なのだ。
魚介類で食べやすいのは、エビ類である。活け車エビの加熱していない刺身はつるっとした食感で嚥下しやすい。ただし慣れるまで小さく切ったり、叩くとよい。ただし、茹でたり焼いたりすると固くなりぱさぱさして、ざらつくので嚥下しにくくなる。

おでんの具に使うちくわ、はんぺん、ちくわぶ、さつま揚げ、つみれ、じゃこ天、ごぼう巻きなどの魚肉練り製品は加工方法により食べやすさが異なる。かまぼこは食感がプリププリしすぎ、咀嚼後食隗をうまく作れず、飲み込みしにくい。
魚の練り製品を加熱する方法として、「焼き」「蒸し」「茹で」「揚げ」が代表的である。
焼きは、ちくわ、笹かまぼこ、伊達巻など。蒸しはかまぼこ(カニカマ、すじかまぼこ、簀巻き)、魚肉ソーセージなど。茹では、はんぺん、つみれ、鳴門巻きなど。揚げは揚げかまぼこ(さつまあげ、テンプラ、つけあげ、えび天、じゃこ天、がんす)等。があるが、焼きと揚げは身が固くなり嚥下しにくい。筆者が一番食べやすいのは、蒸した鰯のつみれだ。

<魚調理方法>
入院時は、カロリー(主として脂身の少ない)の少ない白身魚が良く出てきた。写真⑦⑧カレイや赤魚をミンチにして蒸し上げ、ソースをかけたりとろみをつけていた。しかし、白身魚は調理するとぱさぱさで食べにくい。トマトソースやホワイトソースを絡めると嚥下しやすかった。
煮魚と焼き魚を見てみよう。グリルで焼く魚は水分を失いパサつくので食べにくくなるので、鰯や鯵も3枚におろして、蓋をしたフライパンで低温で焼くと水分を失わず食べやすい。写真⑨切り身の場合、ブリなどの脂の多い魚を、フライパンでタレをからめて照り焼き風に焼くと食べやすい。焼く際に、途中でワインや酒などを入れると魚肉が更に柔らかくなり食べやすい。筆者は一度に焼き上げ、冷蔵庫に入れ保存する。再加熱は電子レンジであるが、水分を失って固くなるので出汁や日本酒をかけて加熱する工夫をする。旨み調理量を使わず、昆布や削り鰹節で丁寧に出汁をひき冷蔵庫に保存して使う。筆者の場合、うま味調味料を大量に使用すると血圧が上がるので、出汁を代替えに使う。味付けは、醤油では塩分が高すぎるので、トマトソースやホワイトソースをかけるととろみが加わって嚥下しやすく、塩分も少なくできる。刺身の醤油も、減塩醤油にさらに出汁を加えて塩分を抑える。

一番食べる時に注意が必要なのは、煮物だ。骨があるからだ。特に骨付きのアラ煮は危険 なので一度圧力釜で十分煮て、骨まで軟らかくするとよい。煮魚で一番食べやすいのが煮凝りだ。

<肉は>
豚、羊、鳥、牛の順で食べやすい。豚・羊は繊維質が細かく柔らかいので食べやすいが、牛肉は国産和牛のA4からA5の脂肪分のない部分は良いが、輸入牛のように固いのは難しい。
病院でよく出てくるのは、安価な割に良質なたんぱく質を含む鳥むね肉だ。むね肉は脂分が少なく体に良いのだが、パサパサで嚥下しにくい。骨と皮を外した手羽元や、もも肉の方が食べやすい。鳥牛豚のモツは噛み切れず、飲み込みもしにくい。ただし、栄養のあるレバーは柔らかく食べやすい。
日本では入手が難しいが、豚・羊・牛の血のソーセージはビタミン、ミネラルが豊富であり、豆腐のように柔らかいので良い。血のソーセージは仏独英国や、中欧、中国、韓国など牧畜が盛んで冬に温度が低く野菜不足な地域で食べられている。筆者は、中国東北料理の鍋を食べる際に、羊肉と血のソーセージを食べる。写真⑩
<肉の料理法>
魚と同じく、生のユッケ(牛肉)が食べやすいのだが、食品衛生上の問題がある。肉はグリルやステーキは固くなるのでお勧めできない。肉は煮物にすると水分が補われ軟らかくなる。豚肉(脂分の多いバラ肉でなく脂分の少ないもも肉)のチャーシューが食べやすい。本格的なチャーシューは焼き上げるのだが煮るチャーシューは肉が柔らかくなる。圧力釜で、軟らかく煮て、それから味付けをすると固さを調整できる。
肉の煮物では軟らかく煮た、肉じゃがが食べやすい。煮物の具で一番食べやすかったのが、肉を細かく引いた鶏肉団子で入院中にはよく提供されていた。鶏肉団子はシチューや和風の煮物にも使える。
写真⑪
すべての肉でひき肉料理が食べやすい。特に豚肉や鶏肉を主としたハンバーグ、ロールキャベツが食べやすい。ただしひき肉のメッシュは細かく、箸で食べられるようにする。
鶏唐揚げは小さく柔らかくないとだめだ。鳥の皮は嚥下しにくいので取ってから揚げる。
肉の場合食べやすいのは鍋だ。すき焼き。しゃぶしゃぶなどの薄切り肉にすると食べやすいし、葉野菜も柔らかく食べやすくなる。
肉料理で食べやすいのは、シチューだ。特に牛舌の柔らかく煮込んだタンシチューが食べやすい。ビーフシチューはすね肉などは筋があり食べにくいので注意する。筆者は比較的軟らかい部位を圧力鍋で軟らかく煮て使う。
焼肉の場合は、国産和牛のA4からA5の脂肪分のない部分が食べやすいが、輸入牛は固くて難しいので避けた方が良い。
シチューやカレー(スパイスによって喉を刺激するが)、ハヤシライス、トマトシチューは食べやすい。筆者は、ホールトマトを煮詰めてソースを作り、鳥豚牛の骨を圧力釜で煮込んでスープベースを作っておく。それを冷まして一晩冷蔵庫に入れると、表面に白く脂が固まるので丁寧に掬い取るとよい。そのスープベースで、肉や人参、ジャガイモ、玉ねぎなどを別々に圧力釜で軟らかく煮込む。それらを組み合わせて、カレールーや、ビーフシチュールー、ハヤシルーを入れれば、簡単にカレーやビーフシチュー、ハヤシライスができる。市販のルーは油脂含有量が多いので注意が必要だ。スープ、具材は圧力釜で加熱し、急速冷却すると日持ちが良いので便利だ。

<豆腐>  入院中は健康的な豆腐が良く出て閉口した。病院では崩れにくい木綿豆腐が良く出てきたが、ざらざらして食べにくいからだった。嚥下障害がある場合は絹ごしの方が良い。煮物でも、高野豆腐、厚揚げ、がんもどきが出てきたが、ざらざらした食感に閉口した。高野豆腐の煮物の場合、十分に水で戻していないと喉を通らなかった。料理でいうと揚げ出し豆腐は表面がぬるっとした粘度があり食べやすい。納豆は豆も柔らかく咀嚼できるが、和辛子を加えるとむせるので避けた方が良い。薬味のネギなどは誤嚥しやすいので、慣れる前は醤油と出汁だけで味付けするとよい。  <野菜類> 一番難しい食材が野菜だ。レタスやキャベツなどの葉野菜は生では難しいので、鍋料理にする。人参ジャガイモなどの根菜は固いので、圧力釜で軟らかくする。 <果物類> 入院中は食後のデザートとして果物が必ず出てきた。その経験から言うと、果物は案外難しい。筆者は林檎、梨、柿は固いのが好きであったが、嚥下しづらいので固いリンゴはあきらめ、柿は熟し柿のように、熟して軟らかい喉をするっと通り抜けるものを食べるようになった。パイナップルは生だと固い繊維があるので軟らかい缶詰の方が良い。 熟れていない苺も固く苦労する。見た目でなく柔らかさを重視して買うようにする。梨の場合、ラフランスのような西洋ナシが柔らかく食べやすい。缶詰の果物は高温で処理されているので柔らかく食べやすい。 食べやすいのは、熟したマンゴー、パパイヤ、メロンなどで、とろりとした食感と適度に粘度のある果汁が食べやすい。キウイ、桃(特に缶詰)、バナナも食べやすい。固いリンゴやナシ、柿が難しいのは、咀嚼に力が必要だし、咀嚼後食隗を作りにくいからだ。  スイカは柔らかいが果汁に粘度がなく、種を吐き出すのが難しいので、種無しスイカを少量から食べるとよい。皮ごと食べるブドウは皮が難しいし、種がある場合はより困難だ。 <お菓子> 和菓子と洋菓子があるが、日本人の好きな和菓子は難物だ。一番難しいのは、餅だ。主食のところでも述べたが、日本人は、もっちりとした米を好み、その最たる難物が餅である。健康な老人であっても、嚥下力が衰えると、餅を喉に詰まらせて亡くなることがある。地方自治体によっては、地元の集会などでの餅つきを禁止にするくらいである。つきたての餅は特に危険である。もしどうしても食べたい場合は、健康な頃に食べていたサイズの1/4くらいに切って食べる。餅単体でなく、お汁粉(餡は漉し餡)のような粘度のある液体に絡ませるとよい。餅を食べる際には介護する人の立ち合いが望ましい。餅の代替えとして、上新粉(米粉)で作った、白玉団子の方が喉に付きにくい。白玉団子で問題なければ餅を食べられる。写真⑫きな粉餅は喉を通らないので避けた方が良い。餅を使う菓子に、桜餅や柏餅があるが、食べる際には小さく切り、介護人の立ち合いが必要だ。 羊羹は柔らかく食べやすいように思われるが、粘度がありすぎて飲み込みしにくい。こし餡と粒餡であるが、粒餡は小豆の皮が燕口蓋を強く刺激するのでこし餡が望ましい。  湯葉は 柔らかく飲み込みやすいが、薄すぎると喉に絡みやすい。 麸饅頭は以前は一口で食べていたが,今は4つに小さく切って食べないと喉に詰まる。 お煎餅も難しい。乾燥しているし咀嚼しにくいからだ。口中で咀嚼して、お茶などを含んでも、水分を吸収して軟らかくならず、燕口蓋を刺激しむせる。 和菓子に比べ洋菓子は全般に食べやすい。一番食べやすいのは卵を使った、カスタードプリンだ。中華点心のマンゴープリンも食べやすい。 ケーキ生地、ホットケーキなどは口の中で溶けやすく食べやすい。和菓子で一番食べやすいのがケーキ生地に似たカステラだ。  ケーキはフルーツ(ケーキ用のフルーツは崩れないように堅めだから)の入っていないシンプルなロールケーキや安いショートケーキが食べやすい。写真⑬チョコレートケーキやティラミス等は,ココアやチョコレートの粉末がかかっている場合があり、呼吸と共に肺に入りむせるので注意が必要だ。 洋菓子で食べやすいのは、アイスクリーム、特にソフトクリームは咀嚼しなくても口中で溶け、適当な粘度の液体となり嚥下しやすい。 和菓子で煎餅が食べにくかったが、小麦粉のクッキーやビスケットは、お茶やコーヒーなどの水分に溶けやすく、食べられる お断り 筆者は医療関係者や栄養学の専門家でなく筆者の体験を語っているだけであり、専門用語や内容に誤りがあることをご承知おき頂ければ幸いである。 食事記録の写真入りの詳細な記録は筆者のfacebook(https://www.facebook.com/toshiaki.oh)に詳細にアップしてある。2012年9月29日から10月22日まではアップしていないが、それ以降は急性期病院から、リハビリ病院の嚥下食の推移、入院中の車椅子での外出・外食までアップしているので、アクティビティ・ブログをご参照いただきたい。 王利彰 略歴 立教大学卒業後、レストラン西武(現・西洋フード・コンパスグループ株式会社)、日本ダンキンドーナツを経て、日本マクドナルド入社,運営統括部長、機器開発部長、などを歴任後,コンサルタント会社清晃を設立。 その他、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授、関西国際大学教授、などを歴任。現在(有)代表取締役 E-MAIL            oh@sayko.co.jp

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