嚥下障害と介護食「嚥下食 外食にまつわる注意点」 第7回目(日本厨房工業会 月刊厨房)

2013年2月19日 火曜日に 昼から エネコン常菜(普通食)に昇格した。本格的な退院(出所)に向け大きく前進だ。写真①

リハビリ病院の食事は、段階的に固い食に移行していく。普通食になったらご褒美が待っていた。それはメニューを選べるということだった。2週間分のメニューを選べる。朝昼晩の献立が、洋食・和食から選べる。和食には中華も含まれている。
リハビリ病院には4か月半入院し、毎日、理学療法による歩行訓練と、作業療法による手の運動、そして私の一番苦労している言語聴覚療法による嚥下訓練(1日3食が訓練)を受けた。歩行能力については入院中ほとんど車椅子であったが、退院1か月前には、杖歩行の訓練までこぎつけた。作業療法においては、左手の細かい作業の進歩はなかった。嚥下訓練においては、美味しいものを食べたいという執念で、ペースト食、軟食を経て、退院一か月前にやっと常菜(通常食)を食べられるようになった。ペースト食、軟食、常菜は一度に切り替えるのではなく、主食と副菜別に少しづつステップアップし、ステップアップの際は、言語聴覚療法士が筆者の食べ方を確認するという慎重なものであった。

そして退院1か月前には退院の準備を始めた。このリハビリ病院は外出しての食事も許可するように、患者の自ら行動を起こしてやる気が出るようにしている。言語聴覚療法士が何か希望がありますかと聞くので、メイン厨房を見せてほしいといった。患者の厨房見学は初だと驚いていたが、退院の数日前の3月26日に6階のメイン厨房見学させてくれた。このリハビリ病院は、急性期病院のように大規模でなく、160床×3食の調理能力に過ぎず、真空包装機とブラストチラーがある程度のこじんまりした厨房であった。偶然、施工はH社であり、施工を受注した担当者の方が、知り合いであった。特徴は和食の調理人3名、洋食の調理人3名、管理栄養士8名、おり、患者の容態によりきめ細かい調理を提供できるようにしている。従業員食堂の調理場は別である。写真②③
3月18日には、病院で誕生祝をしてくれたが、特別食でないしアルコールも出ないので筆者のスタッフに来てもらい最後の外出をした。入院中の最後の外出食事なので気に入ったKホテルのカウンター天ぷらであった。写真④天ぷらは熱いので難しいが挑戦することにした。食べられなかったのは海老頭の唐揚くらいで、お酒も水割りで2合は飲めるようになった。
そして外出しての外食にも励んだ。リハビリ病院の普通食とはいえ嚥下しやすい料理になっている。
武道で他流試合というのがある。同じ道場の門人同士で、戦っていては実用的でない。他流と試合をすることによって、本当に強くなる。それと同様に、外食でいろいろな形態の食事をして、実践的に嚥下の練習をする必要があるのだ。

2013年3月01日 金曜日 外出しちょっと難しいKホテル 中華料理Nのランチ。中華料理は私には難しいので挑戦だ。四川料理の辛さ、麺の汁と高温、炒めものの熱さ、高カロリー、等が難しいのだ。一応言い訳として「高級素材を使用しながら低カロリーを実現した、ヘルシーディナーコース」を食べることにした。写真⑤

70kcal特製ヘルシー前菜
63kcal絹笠茸とふかひれの蒸しスープ
14kcal中国野菜の上湯煮びたし
80kcal白身魚の蒸しもの、塩漬けレモンのせ
108kcal牛フィレ肉の紙包みオーブン焼き
138kcal中国オリーブリーフ入り、汁ビーフン

上記のメニューで苦労したのは、前菜のクラゲ、大根の酢の物、野菜の チンゲン菜、汁ビーフンの手打ちのビーフンだった。

その数日後、リハビリ病院の血液検査の結果タンパク質不足と言われ、「御心配無用です」と答え、即、昼に外出し、Kホテルの鉄板焼きに駆けつけた。2回目だった。やはり、牛肉をガッツリ食べないとリハビリに力が出ない。ワインも頼んだが、喉にきついので、情けないが水割りにした。写真⑥

料理は
アミューズ
洋風お造り前菜
国産 活き伊勢海老
季節の焼野菜
神戸牛サーロイン(120g)またはフィレ(100g)
ガーリックライス
味噌汁
香の物
デザート
コーヒー

を注文。これで暫く私もやる気が出た。

2013年3月22日金曜日

朝 エネコン常菜1600[洋食] 血糖値対策で1日1500Kcal キャロットパン 85g
ポタージュスープ/かぼちゃ
スクランブルエッグ/野菜添え
トマトサラダ/ノンオイル
低脂肪牛乳
低カロリージャム ブルーベリー
696kcal
塩分3.1g
写真⑦

昼 外出 誕生日祝い Kホテル 天ぷら S
コースは以下の内容だった。

先付  河豚の煮凝り
お造り 中トロ、鯛
巻き海老(2本) 魚(3品) 季節の野菜(3品)
御食事 (かき揚げ小天丼)
デザート
【グラスシャンパン付き】
写真⑧

夜 エネコン常菜1600(洋食)
ご飯 90g
コンソメスープ/セレスティーヌ
鶏肉のソテープロバンス風
ほうれん草のサラダ/ノンオイル
フルーツ/キウイ
443kcal (Ⅰ日1500kcal)
塩2.9g
写真⑨

退院2週間前には退院後に大丈夫なように家の確認を理学療法士と作業療法士と共に行った。外出時は杖を使えるが、家の中では杖なしなので、手すりの設置や風呂の椅子などを確認し、家の中の段差をなくす場所の確認などであった。
また、言語聴覚療法士と管理栄養士により詳細な栄養指導を受けた。筆者の課題は、摂取カロリーのコントロールと、塩分脂肪分の注意であった。特に厳しく言われたのは、アルコール飲料のカロリーとデザートのカロリーであった。写真⑩⑪
ということで、3月末には杖で退院できるようになったが、課題は嚥下困難な私の食生活であった。リハビリ病院は通常食とはいえ、比較的食べやすい料理だが、退院するとそうはいかない。専業主婦がつきっきりで料理をしてくれればよいが独り身ではそうはいかない。会社のスタッフが買い物や調理用食材の下ごしらえなどしてくれるが、調理と後片付けは自分でやらないといけない。面倒くさい場合は外食しなければいけない。
前回は食材の嚥下しやすさ、調理との関係を述べた。今回は、外食時の注意点をお話ししよう。
筆者は入院中6回ほど外出して、外食を楽しんだが、どちらかというとホテル内の高級なレストランを選んでいた。車椅子を置くスペースやタクシーの乗り降りのしやすさや、無理の利く料理がその理由だった。入院中本当に食べたかったのは、実はB級グルメだった。ラーメン、焼き餃子、牛丼、天ぷら定食、天丼、かつ丼、ハンバーグ、タンシチュー、焼き鳥、広東料理、台湾料理などであった。

退院後、すぐ食べに行ったのは、新宿の老舗てんぷらやT、牛丼のY家、ファミリーレストランのハンバーグであった。

入院中の食事はあっさり系の薄味で、その反動から、まず飛び込んだのが牛丼のY家だった。注文は特盛。何とジャンキーなと思われるが、Y家は栄養表示をしているからだ。でも特盛はなんと1000Kcal 超えだが。

翌日も昼に肉を食べたくなり、近所に開店した新業態肉屋の定食屋 F食堂 に飛び込んでハンバーグを食べた。

筆者が東京を離れたのは、サラリーマン時代のサンフランシスコ2年と、関西3年だけであった。その際も懐かしかったのが、ラーメン、焼き餃子、牛丼、天ぷら定食、天丼、かつ丼、ハンバーグ、タンシチュー、焼き鳥、焼肉、広東料理、台湾料理、であった。関西にはおいしい和食はあるが、関東風の味が必要な、ラーメン、焼き餃子、牛丼、天ぷら定食、天丼、かつ丼、ハンバーグ、タンシチュー、焼き鳥、はあまりなかった。それらは濃い口醤油と甘めなこってり味が必要であったからだ。

でもそれらの料理を食べるのに注意が必要だった。ラーメン、焼き餃子、牛丼、天ぷら定食、天丼、かつ丼、ハンバーグ、タンシチュー、焼き鳥、焼肉、広東料理、台湾料理、の中で一番難しかったのはラーメンであった。

特にチャーシューや野菜のたっぷり入ったラーメンは難しい。ラーメンは、脂肪分、塩分、うまみ調味料(昔は化学調味料といった)が多くあまり体に良いとは言えない。また有名店のラーメンは火傷をするほど熱く、汁と?をすするとき、ずるずるという音を出して、冷却のため空気を一緒に吸い込む。この高度な技術が、嚥下障害を持った筆者にはできないのだ。また、汁、麺、チャーシュー、野菜、といった異なった食材を一緒に食べるのも困難であった。写真⑫
今でも、ラーメンは外食では最も苦手であり、麺以外は自家製だ。大型の圧力釜を使い、鶏ガラと豚の骨でスープを作る。チャーシューは脂の少ない腿肉をそのスープにつけ、崩れるほど軟らかく煮てから、醤油、味醂、日本酒の味付けで煮上げる。(店舗のチャーシューは歩留まりをよくするため、硬くて喉を通らないので、切ると崩れるほど柔らかにする)こってりとした味のスープは一晩冷蔵庫で冷却し、上に浮いた脂を丁寧に掬い取る。チャーシューの煮汁も冷蔵庫で冷却し、上の浮いた脂を掬い取る。チャーシューの煮汁はラーメンスープの味付けに使う。うま味調味料を使わないので、魚系の出汁を加える。麺は昔風の伸びやすい卵麺を柔らかく茹でる。 餃子も焼き餃子は焼いた面が、硬くて食べられない。水餃子や、ワンタンにする。
以前申し上げたが、東京の中華料理は辛い四川料理が多く筆者には無理だ。東京にあまりない、広東料理や台湾料理にする。

大好きな鰻の場合、嚥下障害者には難物だ。高タンパクの鰻と炭水化物のご飯を口に入れるとバラバラになって気管に入ってしまう。また、生の鰻を調理する専門店は難しい。小骨があるからだ。牛丼チェーンなどで提供するレトルトの鰻のほうが食べやすい。また、牛丼チェーンにはとろろを置いてあるのでそれと一緒に食べると喉越しがよい。

焼き鳥は逆に専門店のほうが食べやすい。筆者の友人がオーナーシェフの麻布十番の一見さんお断りの高級焼き鳥Sだ。コースを頼んだのだが、筆者は無理を言って、ささみ一本、レバー2本。つくね2本、スープを頼んだ。高級な焼き鳥屋は、生の鮮度の高い国産銘柄鳥を軽く焼いて出すので柔らかいのだ。親父とは中学、高校と同級で、社会人となって、京橋の老舗I店での修行時代、六本木の独立開業時代から通っていた。やわらかいレバーの醤油ダレのレバーはフォアグラのように柔らかく、ミディアムレアで食べやすい。焼き鳥で難しいのは、コリコリとした砂肝、ネギと肉のネギ間、皮、小骨のあるボンジリ(鳥のしっぽ部分)、骨のある手羽、そして辛い七味だ。

外食でおすすめは、ビュッフェだ。それもホテルなどの高級なビュッフェがおすすめだ。元気なころはたくさん食べられたが、嚥下障害でそんなに食べられない。それなのにビュッフェを勧めるのは、食べられる料理と食べられない料理を学ぶのによいからだ。特にホテルのビュッフェは、和洋中の料理があるので自分に食べやすい料理と食べ方の勉強になる。写真⑬問題は、自分でお皿に盛りつけることができないので、家族や同行者の介助が必要不可欠だ。
街のレストランのビュッフェは注意が必要だ。和風の野菜中心のビュッフェが多く、食べにくいからだ。洋風のビュッフェが一番良い。筆者がよく利用するのが、ファミレスの低価格ビュッフェだ。写真⑭
ファミリーレストランも使いやすい。席がゆったりしているし、和洋中がそろっているからだ。しかもフォーク・ナイフに加えて、箸も用意してあるからだ。筆者は左半身がマヒし、失調(手が震え、コントロールが効かない)なので、左手にフォーク、右手にナイフという使い方ができない。箸を右手で使い、切れる料理を選ぶ。右手もちょっとうまく動かないので、子供用の小さなスプーンをもらう。ファミリーレストランのステーキは輸入肉が多く硬くて箸で切れないので、ハンバーグを頼む。最近のハンバーグは、肉を強調するため、粗びきにして、野菜などを混ぜないが、筆者には食べにくい。筆者の食べやすいハンバーグは、高級なハンバーグでなく、札幌に本社があるBチェーンの箸で食べられるハンバーグだ。
写真⑮
また、ビーフシチューやハヤシライス、オムライスが食べやすい。とんかつもあるが、食べにくいのでかつ丼にする。とんかつのカリッとした衣が喉を刺激するので、卵とじしたかつ丼が食べやすい。退院したばかりは慣れるまで、テイクアウトし家で食べた。肉が大きいので調理用のはさみで細かく切って食べられるようにする。ファミレスのカレーライスは子供でも食べられるマイルドなものは良いが、辛めのものは、ビーフシチューなどのデミグラスソースやトマトソースを混ぜて食べるとよい。筆者が洋食で一番好きなのが、根岸のK屋のタンシチューだ。写真⑯
焼肉は要注意だ。輸入肉は硬いし筋が多くてダメなので焼いた後、調理用の鋏で細かく切るとよい。写真⑰ 焼肉屋で案外難しいのは、辛いキムチや、野菜のナムルだ。キムチの場合、唐辛子を使わないものにするか、コップの水で唐芥子を洗い落として食べるとよい。焼肉の肉は国産ブランド牛のやわらかいA4-A5がよい。写真⑱ 高いのだが、少量しか食べられないので問題ないだろう。国産牛でも、ホルモンやタンは噛み切れなく飲み込みも難しいので避けたほうがよいだろう。筆者は退院したては苦労したので、テールスープの柔らかい肉だけからスタートした。

大好物の牛丼も難しい。健康なころは特盛プラス牛皿特盛をぺろりと食べていたが、病後は、並盛でも嚥下に苦労し、胃袋も受け付けなくなっていた。代替えとして、豚丼は肉質が柔らかく、?み切りやすく、飲み込みも楽なのでお勧めだ。サイドオーダーでとろろや生卵があれば、一緒に食べると飲み込みしやすい。

天ぷらは、海老や白身魚を塩で食べるようになってきたが、天つゆで食べるようにする。カリッとした衣を柔らかくし、温度も下げられるからだ。写真⑲ 最初は天丼から食べるとよい。野菜のてんぷらは難しいので避けたほうがよいだろう。

麺類はラーメンで述べたように難しい。冷たい冷や麦、ソーメンを、蕎麦汁につけて食べることから始めたほうがよい。食べやすいのはとろろそばだ。日本蕎麦の場合、色の黒い玄蕎麦はざらついて難しいので白い御前蕎麦にする。冷たいそばで慣れてから、温かい蕎麦にする。温かい蕎麦は良く冷まして。麺に汁を吸わせて食べる。蕎麦が柔らかくなり、味もしっかりつくので良い。天ぷら蕎麦の場合、つゆにつけて、衣を柔らかく温度を下げると安全だ。うどんは難しいので避けたほうがよい。どうしても食べたい場合は、細い稲庭うどんがお勧めだ。

筆者はステーキが好きだが、ナイフ・フォークを使えないので、箸で食べられる鉄板焼きステーキを多く使う。

中華料理は、関東では注意が必要だ。辛い四川料理が多いからだ。お勧めは広東料理や台湾料理、広東の飲茶だ。
デパートの食堂街の台湾小籠包で有名な台湾料理Dが大好きだ。しかし、小籠包は熱いので避けたほうがよい。シュウマイやエビワンタンを冷まして食べるほうが安全だ。また、大根もちも食べやすい。骨があるが豚足も柔らかくて食べやすい。どうしても麺を食べたい場合は海老そばを良く冷まして食べる。一番食べやすいのが、海老入り蒸しクレープ、デザートのマンゴープリンだ。写真⑳
エネルギー源の炭水化物とタンパク質を安全に食べられる食事が水餃子だ。家の前のS餃子で2人前12個(600円と安価)を鍋を下げて買ってきてもらった。写真?さすが数千年の歴史をもつ中国、嚥下食にはぴったりであった。

私は体が丈夫な時代には焼き餃子が好きだったのだが、嚥下問題を抱えると、焼き餃子は焼いた面が固く食べにくい。水餃子の本場瀋陽(昔の奉天)出身のスタッフに頑張って手作りの水餃子を作ってもらっている。

和食の訓練はO弁当で行った。和食で難しいのは野菜サラダや、総菜だからだ。O弁当にはいろいろな総菜があるので、少しづつ食べて訓練をできる。写真? セルフサービスは難しいのだが、従業員にお願いすると手伝ってくれる。野菜は生では食べにくいので、しゃぶしゃぶやすき焼きなどで野菜を柔らかくするとよい。肉は、羊・豚・鶏肉が食べやすい。鶏肉はすり身にして、卵白、とろろと混ぜてから団子にすると柔らかい。
最近のコンビニは総菜に力を入れておりいろいろな食材を学べる。サンドイッチで食べやすいのは、卵やツナサンドなどだ。
デザートはソフトクリームが最も食べやすい。デザートでお勧めは郊外型の珈琲店のパンケーキやスフレなどだ。

お断り

筆者は医療関係者や栄養学の専門家でなく筆者の体験を語っているだけであり、専門用語や内容に誤りがあることをご承知おき頂ければ幸いである。

食事記録の写真入りの詳細な記録は筆者のfacebook(https://www.facebook.com/toshiaki.oh)に詳細にアップしてある。2012年9月29日から10月22日まではアップしていないが、それ以降は急性期病院から、リハビリ病院の嚥下食の推移、入院中の車椅子での外出・外食までアップしているので、アクティビティ・ブログをご参照いただきたい。

王利彰 略歴

立教大学卒業後、レストラン西武(現・西洋フード・コンパスグループ株式会社)、日本ダンキンドーナツを経て、日本マクドナルド入社,運営統括部長、機器開発部長、などを歴任後,コンサルタント会社清晃を設立。
その他、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授、関西国際大学教授、などを歴任。現在(有)代表取締役
E-MAIL            oh@sayko.co.jp

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