嚥下障害と介護食「飲食に適した施設」 第9回目(日本厨房工業会 月刊厨房)

飲食に適した施設

過去何回か入院中の外食でホテルのレストラン利用をご紹介した。杖歩行も車椅子利用の場合も一番のお勧めはホテルだ。ホテルのレストランは和洋中とあらゆるカテゴリーが備わっているし、電話で予約しておけば車椅子をタクシー乗り場に用意してくれるからだ。帰りも玄関でタクシーが待機している。欠点は高級な料理が多く、普段食べたいB級グルメがなく、費用が高いことだ。
ホテル内レストランのメリットは地下に駐車場があり、レストランまでエレベーターで直行できる構造が多いことだ。これが足の悪い筆者にとってうれしいことだ。筆者はたまには懐石料理が食べたくなる。ホテルの高級レストランは3種類ある。ホテル独自で運営する場合と高級店をテナントで入れる場合、高級店のブランドをフランチャイズ方式で使う場合だ。竹芝桟橋のIホテルには和食高級店Wがフランチャイズとして運営している。本店の麻布は超有名建築家が設計したので有名だが、2階の客席まで階段を利用しなくてはいけないし、駐車場も備えていない。しかし,Iホテルの店は地下駐車場に停め、エレベーターで上がればほとんど歩かなくてもよい。老舗球団の名誉監督のN氏は、大学の先輩でもあるし、脳梗塞で倒れた先輩でもある。N氏とはリハビリ病院時代の外来リハビリで同じ時間にリハビリをしていた。N氏は美味しいものが好きで、レストランで出会うことが多い。麻布十番の高級焼き鳥のSと懐石料理のWだ。写真①
N氏ほどの有名人となると、マスコミの取材やファンのサイン要求などが多いので、あまり目立つレストランに行きにくい。その点Iホテル和食高級店Wは目立たないし、エレベーターのそばに車を止めれば上の階に行きやすく目立たない。麻布の高級焼き鳥のSは一見さんお断りだ。紹介でも、紹介者が同行しないと入れてくれない。筆者はオーナーシェフと中高同級生だったので通わせてくれる。この店に駐車場はないが、大通りから近いし、ワンフロアーに1店舗しかなく、エレベーターも備えているので目立たず入れるメリットがある。筆者は有名人でないがアクセスの良さが助かる。
ホテルの次に利用しやすいのは百貨店のレストランだ。百貨店は面積が広いため、新設や改造の際に身体障碍者が利用しやすいようにしなければならない。ほとんどの百貨店の入口はタクシーが乗り付けられるし、車椅子の貸し出しもしてくれる。写真②以前の百貨店のレストランは、大衆的な料理が多かったが、最近の百貨店はかなり有名店を誘致している。買い物をしない客も引き寄せようという工夫だ。筆者は、中学から大学まで池袋にキャンパスがある、R学院で過ごし、病で倒れるまで大学や大学院で教鞭をとっていた。また父親が昔から池袋で飲食店を経営していたホームグラウンドで、母の時代から池袋西口の東〇
百貨店をよく利用している。
池袋西口には東〇百貨店、東口に西〇百貨店があるという、初めて訪問する人には間違えやすい名称だ。病気前は東〇百貨店、西〇百貨店の両方を使っていたが、病後足が不自由になってからは、もっぱら西口の東〇百貨店の利用だ。理由は建物の構造だ。線路の上の駅ビルということで、両方の百貨店は線路に沿って細長くなっている(長年の間に増築したため)。百貨店の食堂街は、多くは最上階にあり、導線が長い。体が元気で歩くのに問題ない時にはどちらでもよかったが、足が不自由になるとほとんど東〇百貨店を利用している。
東〇百貨店は開業1962年の老舗百貨店で線路に沿って細長く増築を繰り返ししていたので鰻の寝床のように細長い。30年近く前にレストラン街のあるビルを作りストラン街をコンパクトにまとめて、S館と銘打って開業した。地下2階の駐車場からレストラン街に直接いけるエレベーターを設置している。エレベーターホールに近い側に身体障碍者用駐車スペースを設けているのも助かる。百貨店のエレベーターは込み合うので足の悪い筆者は困るのだが、1台のエレベーターを身体障碍者や、車椅子、ベビーカー利用者専用にしている。このエレベーターにはエレベーターガールが同乗しており、行きたい階に親切に案内してくれる。そして2016年2月にレストラン街を大改装した。
従来のレストラン街は買い物客の空腹を満たす、比較的リーズナブルの価格帯の店が多かったが、改装を機にレストランだけでも集客できる有名店や高級業態を誘致した。筆者がよく利用するのが、国産牛A5を使う焼肉C写真③や台湾小籠包の名店D写真④などだ。また、身体障碍者用の多目的トイレの設備や、混雑時のウエイティングの際の椅子の用意などもきちんとしているので安心できる。
対照的なのが東口の西〇百貨店だ。百貨店ビルの一番端に多層階の駐車場ビルを設けている。そこから鰻の寝床のような長い通路を通って、本体のレストラン街にたどり着かないとならない。しかもレストラン街が細長く目的のレストランにつくにはかなり歩く必要がある。レストラン街には筆者の好きな回転寿司や日本蕎麦、中華点心の店があり元気な時にはよく通ったが、体が不自由になって以来、導線が長いのでいったことがない。
このように百貨店のレストラン街は利用のしやすさが分かれつつある。銀座の老舗M百貨店は、数年前に隣接する駐車場ビルを改造し、上階をレストラン街に改装した。JA経営の野菜などのカフェやレストランのスペースを広くとっている。12階にはなんと沖縄の鉄板焼きレストラン(従業員は全員女性)写真⑤や和洋中の高級レストランを入れており、こじんまりまとまっており、無料休憩スペースも多く、体が不自由な人でも使いやすい。
ショッピングセンターも最近は、こじんまりまとまった使いやすい施設ができている。従来のショッピングセンターは大型すぎて、筆者や高齢者のような歩行困難者にとっては使いにくくなっているからだ。
ショッピングセンター元祖の米国も同じ問題にぶつかっている。ショッピングセンターには、広い範囲から顧客を引き寄せる魅力をつけるため、百貨店やGMS(総合小売業)のような強力なキーテナンを強大な建物の周囲に2つか3つ配置する。顧客はそのキーテナントの間にある小売店舗を回遊する。大型のショッピングモールになると一周するのに1時間以上かかる場合もある。駐車場に停めて目的の店舗に行くのに30分以上もかかる場合もあるし、車を駐車した場所を忘れ迷子になる場合も多い。買い物をして大きな荷物を抱えて歩くのも大変だ。米国も高齢化の波が押し寄せており、ショッピングセンターの巨大化が見直されつつある。ショッピングセンターの役割も変わってきている。豊富に揃った商品を買う場から、人と交流する場の提供だ。物から事消費という変化だ。豊かな時代を迎えて、特に何か買わなくてもよくなっており、友人と会ったり、人と交流する場を求めるようになった。2004年ころから米国ではショッピングモールの新業態 Lifestyle Center が目立つようになった。
日本では米国のショッピング・センター(以下SC)を視察する際の分類はNSC、CSC, RSC、SRSC、Power Center、Outlet Centerの6分類であるが、国際ショッピングセンター協会
The International Council of Shopping Centers (ICSC)によるSCの定義http://www.icsc.org/ を調べてみるとやや異なる。SCという言葉は1950年代初頭から使われだし、当初は基本的にNSC、CSC、RSC、SRSC の4つに分類していた。しかし業界が成長し成熟するに従い多様化し、9つに分類をし直した。従来の6つの分類と追加になった3つの分類だ。
2004年ころのICSCのショッピングセンターの定義は、最初の6つは
<1>Neighborhood Center ネイバーフッド
<2>Community Center コミュニティ
<3>Regional Center リージョナル
<4>Superregional Centerスーパー・リージョナル
<5>Power Center パワー
<6>Outlet Center アウトレット
であり、以下の3つが追加された分類だ。
<7>Fashion/Specialty Center ファッション・スペシャリティ・センター
品質と価格が高い衣料品販売店や工芸品小売店が多くなっている。このタイプはキーテナントが必要なく、その代わりにレストランやエンターテイメントの施設が併設されることが多い。デザインは洗練されており、お洒落な内外装が施されており、所得層の高い地域に存在する。
<8>Theme/Festival Center テーマ・フェスティバルセンター
主力顧客は観光客であり、魅力のあるレストランや遊戯施設を備えている。主に都心部に立地し、古い歴史的な建物等を使ったり、他の施設との複合の場合がある。
<9>Lifestyle Center ライフスタイル・センター
一般的に裕福な住宅地に隣接する。消費者の追求する好みやライフスタイルに合わせた店舗をテナントとする。形態はオープンエアータイプである。チェーン展開をする高級店やファッション性の強い衣料品系デパートを入れる場合が多い。
レジャーを楽しむ色々な要望に応えられるようにしていることであり、高級なレストランやエンターテイメントの施設を備えている。街全体のイメージは統一されたデザインで、噴水や中庭に高級なベンチや花壇などを設置して、顧客がくつろげるようにしている。大型レストラン前には広場を作り、映画無料鑑賞会やコンサートのようなイベントを毎日開催して住民が集うような街作りをしている。写真⑥レストランは大型繁盛店や、ファスト・カジュアルの超人気店が入っている。
現在のショッピングセンターの分類はより細かくなっている。http://www.icsc.org/research/references/c-shopping-center-definitions
日本ショッピングセンター協会の分類サイトは

SCの定義/用語解説

日本もこの影響をうけて新型のショッピングセンターが出てきて、ここ数年の間に、湘南に2つの対照的なショッピングモールが開店した。一つは大手自動車メーカー工場跡に大手不動産企業が開店した大型ショッピングモール。もう一つが、T書店やDVDレンタルのC社が開業した小型ショッピングモールのTだ。
米国グルメバーガーチェーンのC社が2016年に開業したLショッピングセンターに2号店を開業したので食べに行ったのだが、広大な敷地で探すのに時間がかかった。写真⑦駐車スペースから店舗まで距離が歩きすぎるので、同行の運転者に店舗まで車を移動してもらい、筆者が下車後、再び駐車場に移動する手間をとらせた。このショッピングモールは最大級の大型ショッピングモールで、キーテナントは大手GMSのIと、個性的な商品をそろえるTHだ。GMSのIは、GMSでなく食品スーパーに特化した新業態であり、湘南の特産物を扱ったり、イートインスペースを設けるなどの工夫を凝らしている。ハンバーガーのC店舗の隣のMドーナツ店舗は店舗で粉からドーナツを作るキッチンを見せるなどの工夫を凝らしている。写真⑧しかし、他の飲食店はそこから離れた場所に集中しており、足の不自由な筆者は見に行けなかった。
それと対照的なのが湘南Tという2014年12月開業の小さなショッピングモールだった。 T書店やDVDレンタルのC社が開業した小型ショッピングモールのTだ。キーテナントが大型小売店でなく書店という風変わりなものだ。T書店を中心に、30以上のテナントがシームレスにつながっている。全部で3館から成り、1号館では趣味とエンターテインメント、2号館ではスローフード&スローライフ、3号館では親と子のコミュニケーションを提案している。湘南の食材を使ったグルメを味わえたり、サーフィンカルチャーなどスポーツに関する情報が得られたりと、湘南にマッチしたコンテンツが充実しているのが印象的だ。ある棟には子供の遊び場とテラスもあるので、ファミリーも楽しめる。写真⑨カフェもユニークな店が多く、表参道の「PとE」というお店は、T書店の中のカフェという趣で、隣接しているT書店にはパンやコーヒーの本を並べた関連販売をしている。写真⑩写真⑪のんびりと時間を過ごせるよい施設だ。この原型はC社が2010年に開業した代官山のTだ。
旧山手通り沿いに面した低層階の複数のビルをそなえている。本屋を中心にカメラのK(ドイツ高級カメラLショップ)、バイクショップ写真⑫、輸入高級オモチャショップ写真⑬、カフェ、イートインスペースのあるコンビニ写真⑭、ペットクリニック、小児科、等が取り囲んでいる。「犬と暮らす喜び”を発見できる場所。」がコンセプトだ写真⑮。日曜日に行ったのだが、通行人がほとんどいないのに各店舗は人で一杯だ。2階建ての大型T書店内にはシアトル系大手コーヒー屋があり本を読みながらコーヒーを飲める。建物外にも広いテラス席があり、犬を連れて珈琲を飲めるので愛犬家が多い。写真⑯写真⑰
このジャンルの最新版が2016年5月に開業した二子玉川駅隣接のSショッピングモールだ。元の遊園地の跡地と駅前バスターミナルの再開発物件だ。この二子玉川駅は高級住宅街の田園調布(高台)の隣にありながら川に面しているためあまり良い街でなく、T電鉄はやむなく、ださい遊園地を長年運営していた。駅からちょっと離れた場所にT百貨店が日本初の郊外型ショッピングセンターとして1969年に開業した大型の高級ショッピングセンターがある。新しいショッピングモールは、単なるショッピング街でなく、住居、仕事場、憩いの場、映画館などのエンターテイメント、ホテル、食品スーパーを備えている。特に重視しているのがオープンスペースと子供のいる家族重視だ。オフィスではネット通販大手のR社が入ったことで話題だ。また、C社が個性的なT家電を出店して話題となった写真⑱。
レストランも充実しているが、一番注目されているのがスープ専門店を展開するS社の子供向けのレストラン2号店だ。メニューは多くないのだが、すべてのメニューに大人の半分のサイズを用意している。料理のサイズだけでなく、食器類のサイズも子供用をそろえて、食事のマナーを学ばせようという趣旨だ。店内に入り客席に着くと。簡単なメニューと色鉛筆がおかれる。メニューの裏は塗り絵になっており、子供は料理が運ばれてくるまで大人しく一心不乱に塗りたくっている。従業員もサービスが良いだけでなくお母さんが食事をする間、子供を抱いてくれたりする。ガラス張りの広い店舗の横には噴水公園があり、元気な子供でも飽きない写真⑲。
そう言うとお子様べったりのダサいレストランのように思われがちだが、おしゃれなお母さん方へのアピールも忘れていない。店舗入り口にはおしゃれなバーを設置し、お母さん方はちょっとお洒落なカクテルを楽しめる。子供は小型ワイングラスに入れた子供用のドリンク(200円)を楽しめる写真⑳。
R本社横にはRカフェがあり、店内にはイートインスペースとRモバイルのカウンターがある。レストランも多いのだが、オープンスペースでも飲食が出来るのでシアトル系グルメコーヒーのSやハンバーガーのM、日本初のスペイン王室御用達のパン屋がある。
特筆すべきは、私のような身体障碍者にとってアクセスがしやすいことだ。通常のショッピングモールは駐車場から店舗が遠いのだが、駐車場を1階に設置し、その上に人口基盤を作り店舗を配置していることだ。店舗の場所を把握していれば、その真下に駐車し、エレベーターで目的の店舗近くまで行ける。電車利用でも駅と直結しているので便利だ。
日本にもこのような高齢者や身体障碍者に優しいショッピングモールが増えることが予測される。

続く
******************************** お断り

筆者は医療関係者や栄養学の専門家でなく筆者の体験を語っているだけであり、専門用語や内容に誤りがあることをご承知おき頂ければ幸いである。

食事記録の写真入りの詳細な記録は筆者のfacebook(https://www.facebook.com/toshiaki.oh)に詳細にアップしてある。2012
年9月29日から10月22日まではアップしていないが、それ以降は急性期病院から、リハビリ病院の嚥下食の推移、入院中の車椅子での外出・外食までアップしているので、アクティビティ・ブログをご参照いただきたい。

王利彰 略歴

立教大学卒業後、レストラン西武(現・西洋フード・コンパスグループ株式会社)、日本ダンキンドーナツを経て、日本マクドナルド入社,運営統括部長、機器開発部長、などを歴任後,コンサルタント会社清晃を設立。
その他、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授、関西国際大学教授、などを歴任。現在(有)代表取締役
E-MAIL            oh@sayko.co.jp

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