今、ユーザーが求めるファーストフードの厨房設計 シリーズ第4回 「フライドチキンの厨房」(日本厨房工業会 月刊厨房)

フライドチキンの厨房
フライドチキンの歴史
数十年前、K.F.Cの創始者であるカーネル・サンダースがケンタッキー州カービンという町の州道沿いにモーテル、ガソリンスタンドを経営していた。立ち寄る旅行客の為に、モーテルの横でサンダース キャフェという食堂を営業していた。南部ではフライドチキンはポピュラーな食べ物であり、旅行客にも当然フライドチキンを提供していたのである。特殊な調味料と、圧力鍋での調理に工夫を凝らしていたので、フライドチキンは人気商品であった。
しかし、州道の代わりにハイウエイが建設され、店舗前の通行量が減少した為、売上が激減し、商売をやって行く事が出来なくなった。そこで、カーネル サンダースはフライドチキンの調味料を売り出し、やがては調理方法や経営の方法の指導までするフランチャイズチェーンの経営に発展したのである。

1号店のサンダース キャフェは現在では博物館になっており、当時そのままの状態を再現してある。厨房は普通のレストランと同じであり、当初はレンジの上で一般的な圧力鍋を使用し調理していたのが良く判る。では、骨付きのチキンを圧力鍋で調理するメリットを見てみよう。

圧力フライの原理
オープンフライヤーで調理した場合、肉温が70℃以上になっても、骨の内部の髄温は60℃位であり、骨から血の色をした髄液が流れ出して食欲を減少させるのである。180℃の油温でフライしても、常圧では水は100℃ で沸騰するので、水分がある限りは品温を80℃ 以上にすることは難しい。肉の温度を上げようとすると、肉は水分を失い固くなってしまうのである。
圧力をかけてフライを行うと、水の沸点が上昇するため、加圧の程度に応じて100℃よりも高い温度にフライ材料を短時間で加熱することが出来る。1.85気圧~2.0気圧でフライすると、水の沸騰温度は116℃~121℃ になり、肉の内部温度は90℃ に容易に達する。その為に、骨からの肉離れがよく柔らかい。髄液の温度が80℃以上に上がり固まって、流れ出す事がなくなる。その為、肉の内部の黒ずみがなく髄液の臭いも出難い。圧力をかけて短時間で調理する為、肉の旨味を含んだ水分を失う事がなく、ジューシーなフライドチキンになるのである。

180℃に加熱した油にチキンを入れ、蓋をする。加熱されたチキンから水蒸気が出て釜の内部の圧力を上昇させる。一定の圧力に上昇した後は、圧力調整弁から余分な蒸気を逃がしながら、一定の圧力を保つようにする。180℃の油に入れられたチキンは表面がキャラメライズされ、内部の水分の流失を防ぐ。

チキンを入れてから数分で油の温度は130℃まで下がってくる。その温度でも、水の沸点が116℃以上なので肉の調理は充分に行えるのである。油の温度を130℃以上に保つように火の調整をする。余り温度が低すぎるとチキンの出来上がりがオイリーになるので、好みにより温度を調整する。

フライドチキンの調理作業の流れ
冷凍庫からチキンを出す。
冷凍チキンを使用する時は、十分な大きさのプレハブ冷凍庫が必要である。普段はフレッシュチキンを使用する場合でも、時期により冷凍物を使用せざるを得ないし、フレンチフライやその他の冷凍食材もあるので、ある程度の大きさの冷凍庫は必要である。

冷蔵庫で解凍する。
冷蔵庫の内部で解凍するが、間に合わない時はシンクで冷水解凍するので、大型のシンクが必要である。

使用するチキン。
チキンは中ヒナ、中抜きの丸1.2kgを使用する。フレッシュと冷凍のチキンがある。冷凍のチキンは、調理後、骨が黒く変色し、味も変化し易いので、品質を考えるとフレッシュのチキンを使用するのが望ましい。ただ、季節的に冷凍物を使用しなければならない時があるが、その場合でも、新鮮な物を使用するようにしなければならない。

日本や東南アジアでは、魚粉を飼料として与える場合があり、冷凍後時間が経過すると、異臭が出て、フライにしても匂いが消えない。南米産の物は味は良いが、概してパーツが大きく、不揃いな場合が多い。パーツの大きさが一定の物を仕入れる必要がある。

一般的にチキンのカットは8カットであり、フライドチキンチェーンで用いられる9カットは入手がし難く、丸で仕入れて自店で加工するか、特別に注文する必要がある。

パーツで購入する事も可能である(ドラムとサイまたは、ドラムのみ)。米国ではホワイトミートの部位が好まれるが、日本ではドラム、サイ等のダークミートが好まれ、特に子供はドラムを好む傾向が強いが、丸で購入する場合に比べ値段が高くなる。

チキンの下処理。
チキンの余分な脂肪分、内臓、血、羽等を取り冷水で洗浄後、水切りを行う。サイの骨の内側に腎臓が残っていると、味が苦くなるので、完全に取り去る必要がある。皮と身の間に黄色い脂肪分があるが、なるべく取り去る。フライドチキンは通常100%植物油のショートニングを使用してフライするが、ショートニングの中に、チキンの脂肪分が溶けだし、ショートニングを傷めるとともに、スパイスの香りに脂肪の匂いが混じり客に嫌がれる。しかし水洗いをあまりやりすぎると、チキンの旨味が流出するので注意する事。

バッターリング。
バッター溶液は、玉子、ミルク、小麦粉等を混ぜたものである。バッターを付ける事により、揚げ色がゴールデンブラウンになり、衣の付着がしっかりし、チキンの旨味の流出を防ぐ事が出来る。バッターは濃度の濃い物と、薄い物でフライドチキンの仕上がりの差が出てくる。一般にクリスピータイプのフライドチキンでは、濃いバッター溶液を使用する。バッターの前に、調味液に浸潤させ、味を整える方法もある。バッターは栄養があるので、チキンに付着している細菌類が増殖し易い。その為、使用したバッターミックスは数時間で廃棄しなければならない。また、出来るだけ冷たく保管する事が望ましく、使わない時には冷蔵庫で保管する。

ブレディング。
スパイスと塩の混ざった小麦粉をまぶす際に、小麦粉にダマが出来るが、ダマは毎回ふるいに掛け、取り去る。スパイスの混ざった小麦粉は、使用している間に、各成分の重量の違いで、重たい物が順次容器の底になっていくので、時々混ぜる必要がある。良く混ざるように容器は大き目のほうが作業がし易い。また成分の微細な粉末ほど、チキンに付着し易い為、回数を重ねまぶすほどに、味が変化していく。一定回数まぶしたら、追加のスパイス入り小麦粉を入れ、味の変化を押さえる工夫が必要である。

フライヤーで揚げる。
骨付きチキンを使用する場合、骨の中迄充分加熱しなければならない。火通りを良くするように、圧力式のフライヤーを使用するのが望ましい。圧力式のフライヤーには一回の調理で、必ず一定量のチキンを調理する必要があり、顧客の要望に合わせて、1個だけ調理するわけにはいかない。そのため、保温庫に一定時間保温し、保温時間内に販売するようにしている。

油切りと冷却をする。
揚げて熱い状態のフライドチキンをそのまま保温庫に入れると、蒸気が出すぎて衣の状態が柔らかくなり過ぎるし、油っぽくなる。

ホールディング。
保温の温度は、細菌が繁殖出来ない温度以上で、顧客が食べた時に熱いと感じる温度でなければならない。通常70℃程度が適温である。但し、チキンの中心温度を70℃に保つ為には、保温庫の温度は80℃~85℃程度、中心温度の10℃~15℃アップ程度にしなければならない。これは保温庫の扉の開け閉めによる庫内温度の低下などを考慮に入れる為である。保温庫は温度だけではなく加湿をしないと、フライドチキンが乾燥してしまう。一般的な加湿保温庫の場合、保温時間は1時間程度であるが、湿度コントロールの良い物では、3時間保温出来る。保温庫の選定はフライヤーと同じく重要である。

フライドチキンショップの必要機器
図は圧力式のフライヤーを使用するレイアウトである。
冷凍庫、冷蔵庫、等は配送頻度により、容量を決める。チキンは案外場所を必要とするので、充分容量を確保する必要がある。

圧力式フライヤーの台数は1台あたりの調理可能能力と売上予測により決定される。

一般的に使用されている圧力式フライヤーは1回に最大1.2kgの鳥を4羽フライする事が出来る。
9カットであると1回に36ピースのフライドチキンを製造できる。
一回の調理時間は15分間であり、一回毎に油をろ過するのに5分間、温度を回復するのに5分間、計20分間が一回の調理サイクルになるので、
1時間に3回、108ピースが最大調理個数になる。
2台のフライヤーで、1個180円として、1時間に38,800円の売上が可能である。
また、保温庫で用意しておけば1時間に最大77,760円の売上が可能である。
フライドチキンの売上が70%であれば、1時間に約11万円の売上が可能になる。
ブレディングマシンは自動と手動がある。目的は、小麦粉に出来るダマの除去と香辛料の分布を均一に保つ事である。一般的に手動が用いられている。

その他に、フレンチフライ用フライヤー、加湿保温庫、保温ショーケース、飲料ディスペンサー等が必要になってくる。

今後のフライドチキンマーケットの方向
1)セントラルキッチン化
圧力フライ法はフライドチキンにとって最適な調理法であり、フライドチキンの品質を考えるのならこれ以上の調理方法はない。
しかし、工場で圧力フライヤーで集中調理後冷凍し、店舗で再加熱する方法等の新しい調理法が出て来ている。

店舗での加熱調理方法
工場の圧力フライヤーで調理したフライドチキンを店舗で、オーブン等で加熱しても良い。加熱機器は電子レンジ、エアーインピンジメントオーブン、スチームコンベクション等があり、ピザのチェーンではエアーインピンジメントオーブンを使用している。ハンバーガーチェーン等では、スチームコンベクションオーブンをテストしている。これらの方法は、メニューの多角化がし易いので、今後普及すると思われる。
2)フライ以外の調理方法
ローティサリーチキン
米国では、ハンバーガーチェーンがオープンフライ方式のフライドチキンを販売する等の競合の激化と、栄養の問題から大手フライドチキンチェーンの売上が低迷している。また、フライドチキンではなく、丸毎の鳥をローティサリーオーブンで調理する中小のチェーンが大成功している。その為大手フライドチキンチェーンもローティサリーチキンを、全店にフライドチキンの追加メニューとして導入する予定である。しかし、ローティサリーオーブンでの調理には90分間位かかるので、サービング時間が長すぎるという、客からの声が出ており、新たな調理法の必要性が出てきている。
チキンは日本人に大変好まれ、食材供給も安定しており、健康的な見地からも、更に、普及するものと思われる。

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