今、ユーザーが求めるファーストフードの厨房設計 シリーズ第5回 「ハンバーガーの厨房」(日本厨房工業会 月刊厨房)

ハンバーガーの厨房

ハンバーガーの歴史
ハンバーガーの語源はドイツのハンブルグという地名からきていると言われている。ドイツ料理にタルタルステーキというのがある。牛の生肉を細かくチョップして生のまま食べる料理である。ちょうど韓国料理のユッケと似ている。このタルタルステーキを焼いたのがハンバーグである。このハンバーグが移民により米国へもたらされ、万国博覧会でそのハンバーグをパンにはさんでサンドイッチにしたのを売出し、ハンバーガーと名付けたというのが、ハンバーガー誕生の通説である。

バーベキューとして炭火で焼くのが伝統の調理方法であるが、それをレストランで提供するのは、煙が多く安全上むずかしかった。そこで、代わりに鉄板のグリドルで焼くようになってきたのである。網でハンバーグを焼くのはこつがいって大変難しいが、鉄板であるとひっくり返すのも簡単であり、中の肉汁も内部に閉じ込められ、肉のロスが少なく一般的な調理方法として普及してきたのである。

第2次世界大戦の前から、米国では車社会となりつつあり、また、新天地である西海岸への人口の移動が発生した。これにより、ドライブインレストランが増加していったのである。そこで新しいサンドイッチであるハンバーガーは人気者になったのである。

カリフォルニアのある町で、ディックとマックという、マクドナルド兄弟が1950年にまったく新しいファーストフードレストランを考案した。今までのドライブインレストランと異なり、ウエイトレスや陶器の皿を使わない、セルフサービス方式のドライブインレストランである。これが現在のマクドナルドの原型である。そこでは、一種類のハンバーガーとフレンチフライ、シェイク、コーラという限定メニューであった。

シェイクを作るマルチミキサーのセールスマンをしていた、レイ・クロックがマクドナルド兄弟の店と出合い一目惚れし、兄弟からマクドナルドの権利を買い取り、シカゴのディスプレインというオヘア空港からすぐ近くの町に1号店を開いたのである。現在は記念として博物館として当時そのままの姿を保存してある。そのレイアウトを見ると現在のマクドナルド社の厨房と余り変わらないので驚く。それだけ、マクドナルド兄弟の考案した厨房の設計は素晴らしかったのである。

マクドナルド兄弟は、テニスコートに原寸大のレイアウトを描き作業性を検討したといわれている。その素晴らしいシステムに、優秀なセールスマンであり、人に対する偉大なモチベーターである、レイ・クロックが出会ったのがマクドナルド社が今日まで生き残り、世界最大のレストランチェーンとなった秘密である。

勿論マクドナルド社の成功を指をくわえてみているわけはなく続々とチェーン店が出現した。バーガーシェフ、バーガーキング、ハーディーズ、ウエンディーズ、カールスジュニアー等であり、ハンバーガーチェーンのビジネスは巨大なものになった。

ハンバーガーの調理機器
ハンバーガーの調理にはグリドルと、バンズトースター、作業テーブル、ホールディングビンとに分かれる。そのほかに、フライヤー、飲物のシェイクフリーザー、コークディスペンサー、コーヒーマシンなどである。 ミートパティの調理方法は2種類ある。鉄板タイプのグリドルを使用するのが、マクドナルド、ウエンディーズ、ハーディーズ等のハンバーガーチェーンである。グリドルは簡単であり、他の朝食メニューの卵料理などを調理でき、汎用性が高いので最も一般的に使用されている。また、厚さの異なるミートを焼く場合でも、時間を長くすれば良いのでメニューの多角化には向いている。

しかし、グリドルの場合は片側を焼いた後ひっくり返す必要があり、重労働で調理時間が長いという問題がある。それを解決するために、サンドイッチ方式の鉄板で、ミートパティを上下から挟んで同時に焼くという、クラムシェルグリドルが開発された。日本でも採用され出しているが、やや問題があるようである。上下から挟むときにその間隔が正確でないと、生焼けが出たり、焼け過ぎでドライなミートになったりするのである。機械とミートパティそのものの精度は0.1mmを要求されるのである。

もう一つの方法は伝統的なバーベキュー直火タイプのオーブンにコンベアーを組み合わせて、上下から自動的に焼くシステムである。このコンベアーグリドルを使用するのは、バーガーキングとカールスジュニアーである。92年度の米国のベストの新商品は、バーガーキングのバーベキューチキンサンドイッチ「BKブロイラー」である。これは伝統的なバーベキュータイプの直火焼きのコンベアーグリドルの良い面が最大限出ているサンドイッチであるといわれている。

ハンバーガーの提供方法
従来のレストランの調理システムは、オーダーが入ってから調理をする、クック・ツー・オーダーであった。ハンバーガーは出来たてで温かく品質はよいが、調理に時間がかかるという欠点があった。しかしながらいまだにその利点を生かしているチェーンはある。米国ではカールスジュニアー、日本ではモスバーガーであり、手作りの品質の良さを訴え成功しているのである。

マクドナルドの初期の頃のメニューはハンバーガーが1種類であり、そのため全メニューで10品目くらいであったのである。そのためハンバーガーを事前に調理してウオーマーに保管しておき、オーダーがあったらすぐに提供できるようにしていた。これをストック・ツー・オーダーシステムと呼ぶ。このシステムによりテイクアウトのビジネスを成功させることが出来、かつドライブスルーのような新しいビジネスチャンスを物にする事が出来たのである。

しかし、チェーンが出来てから15年もするとお客様は、大型サンドイッチやソースの異なるサンドイッチ、チキンサンドイッチ、朝食メニューや、多国籍料理を望むようになってきた。そのため、数多くの商品を保温する必要があるが、商品の保管時間を過ぎて破棄する必要が出たり、製造に時間がかかり、サービングタイムに問題が出るようになってきた。

完成品のサンドイッチとして保温しておくと、ソースや肉汁がバンズに染み込んでしまうという問題が出てくる。そこで、調理に時間がかかるミートなどを事前に焼いておき、それを正確な湿度コントロールが出来る保管庫に保管しておく方法が出てきた。これにより、焼いたミートを30分から1時間も保管する事が出来、作業が分散化し商品の破棄も少なくなり、オーダー後の商品のサービングタイムが格段に早くなるというメリットが出てきた。これをアッセンブル・ツー・オーダーシステムと呼ぶ。現在では、多くのチェーンで採用されるようになってきている。

今後の方向
現在のハンバーガーチェーンの厨房は時間帯売上が高い場合で、1時間50万円も売り上げる事が可能になっており、メニューも、最初の頃の13から、50まで拡大してきている。

そのため売上は伸びているのであるが実は客数は変わっていないというのが現状である。しかし、メニューが増加したことと、新型の専用機器の採用により、厨房機器の投資金額は巨大になってきている。これは、日本だけではなく、米国でもまったく同じ状況である。そのため損益分岐点が上昇しこの不景気と重なり、店舗展開が思うように行かない状況になってきた。

この大手チェーンの梗塞状態を見て新たなビジネスチャンスを見つけたチェーンがある。それは、客席をなくし、ドライブスルーで全ての売上をとるドライブスルーオンリー店舗である。ドライブスルーで成功するには、サービングタイムを1台の車あたり、30秒以内にする事である。大手ハンバーガーチェーンはドライブスルーを持っているが、メニューの多角化により、サービングスピードが落ちてきていたのである。その間隙を縫って、メニュー数を15品目くらいに絞り、ストックを十分に出来るようにし、サービングタイムの短縮をはかったのである。そして、客席をなくし、そのスペースをドライブスルーラインを2つ備えたダブルレーンにし、ピークを捌くというシステムである。

また、ドライブスルーがメインであるので、駐車場、建物は小さくても済むので、投資金額は従来の1/3以下で済む。敷地のサイズが小さくてすむため、交差点の角のベストの場所を確保できる事が可能になり商圏が広がり、従来のハンバーガーチェーンとは競合しない新しい顧客層の開拓に成功したのである。さらに、小型の店舗でよいので、工場で予め組み立てておき、トレーラーで現場に運んですぐに営業を開始できる事が可能になり、多くの店舗を短期間で開店する事が可能になった。

このシステムで急速に展開をしているのが、ラリーズとチェッカーズである。ラリーズは510店舗、チェッカーズは375店を持つに至っている。 大手ファーストフードのタコベルは3年前にある地方の40店舗に過ぎないハンバーガーチェーンであったホット&ナウを 買収し、今年度にその店舗数を240店舗にまで急拡大している。成功の秘訣は、メニューを16品目と初期のマクドナルドと同じ数にしぼり、かつ特別注文を受け付けないというシステムである。

そして、値段はマクドナルドより30%以上も安い。サービングタイムは現在のハンバーガーチェーンで最も早く、20秒のスピードを誇っている。図はそのキッチンのレイアウトである。図面からみてもわかるように、特別なレイアウトではないし、特別な機器を使用しているわけではない。秘訣は商品の絞り込みによる作業の単純化である。これにより、サービングタイムを早くし、投資コストを抑える事による損益分岐点を下げ、急成長が可能になったのである。

噂では375店あるチェッカーズを買収しダブルドライブスルーオンリーのハンバーガーチェーンでは最大手になろうとしているとのことである。チェッカーズの平均年商は100万ドル、ホット&ナウは70万ドルである。(最大手のマクドナルドの平均年商は150万ドルといわれている)

日本ではバブルの時期、各ハンバーガーチェーンは、メニューの多角化、特に、ライスメニューの開発に全力を注いだのである。そのため厨房のシステムは崩れ、サービングタイムは長くなり、主力のハンバーガーの品質が落ちるなどの問題が出ているのである。そして、バブルが終わり、スカイラークグループはガストやバーミヤンのディスカウントレストランの展開に入ってきたのである。これらの商品価格は、ハンバーガーチェーンより実質的に安い物があり、今後、ハンバーガーチェーンもディスカウント戦争に巻き込まれる事は間違いではないであろう。

しかし、ハンバーガーチェーンの最大のメリットは食材は、牛肉、豚肉、鳥肉、魚、小麦粉、野菜と世界中から安定して確保できる、もっともポピュラーであるという事である。この円高の中、豊富にある輸入食材を使用する事により、原価を下げ商品売価を下げても利益がでる事は可能であり、今後可能性が大きく広がるジャンルである。しかし、メニューを絞り、輸入食材を増やし、売価を抑える事を努力しないと新しいチェーンに侵攻されるであろう。

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