今、ユーザーが求めるファーストフードの厨房設計 シリーズ第6回 「クックチル」(日本厨房工業会 月刊厨房)

クックチル

クックチルの定義と歴史
クックチルとは、調理で加熱殺菌した食品を急速に冷却し、正確に温度コントロールされた冷蔵庫で3℃以下で保管し、必要なとき再加熱し提供する調理システムである。

食品の保管方法として、この方法を採用することにより、食品の調理をセントラルキッチン方式で行い、必要な場所に配送し、サテライトキッチンで再加熱し提供できる、合理的なシステムである。食品の保管法には、缶詰、レトルトパウチ、冷凍食品などがあるが、それらは食品の味が劣化するという問題がある。また、冷凍食品にしても日持ちを長くするために、食品添加物を使用しなければならない。この、クックチルを使用すれば特殊な食品添加物を使用しないでも、保管が可能であり、味も良いという利点がある。

クックチルの歴史

1960年にスウエーデンのストックホルムの政府が病院における合理的な調理法の研究を開始した。同時に、ローエンストローム病院で小規模な調理後急速冷却のクックチル方式のテストを開始していた。その成果を基に1963年に、スエーデンの北部のナッカという町の新規開業した大きな病院で、クックチルを本格的に導入したのである。

ナッカ方式というのは、図1のようなプロセスである。このシステムでは、調理場は従来の調理機器である、フライヤーやオーブン、ゆで機、スチームケトルを使用していた。また、真空包装のための大型の機器と、7mの長さの冷却機などの大型装備でいっぱいであった。この方式を導入することにより、従来の方式では1日、1200食の調理能力であったのが、7500食の能力に増強されたのである。そのため10の病院へ配送することが可能になり、300kmも離れた病院にも配送することができたのである。

このシステムの欠点は、100℃の高温の加熱処理を含み、食品の加熱を3回も行うため、味の劣化が発生することである。そのため、ヨーロッパや北欧で普及する際に、図2の改良型が採用されている。

大量の食品を包装する材料の開発の過程で、包装材料メーカーであるグレース社のクライオヴァック部門がその、将来性に気がつきその改良に取り組みだした。その結果、包装材料のみならず調理、包装、冷却、の総合の過程の開発が必要なことに気がつき、米国の厨房機器メーカーの協力を基に、1968年にサウスカロライナ州の3つの病院でのテストを開始した。3つの病院の名前の頭文字を組み合わせ,AGS方式と呼ばれている。その調理法は図3である。この方式の特徴はナッカ方式の食品の味の低下を抑えるべく比較的低温で加熱調理をしていることである。また、保管温度を低くすることにより保管期間を60日まで可能にしている。現在の米国の法律では45日が最大保管期間である。

この結果が良かったので更に米国の厨房機器メーカーのGROEN社の協力を求め調理システムを見直し、完成度の高いクックタンク方式が開発されたのである。現在このシステムが米国でのクックチルの主流となっている。

また、このクックチルと起源をまったく同じにするのが、フランスで生まれた真空調理である。図4がそのシステムである。クックチルと異なるのは、食材によって温度を微妙にコントロールすることである。クックチルのように機械化して調理すれば、品質の安全性は高いが、レストランでシェフが実施する場合は、手作業によるバラツキが考えられるので、保管期間は5日から1週間と短くなる。

クックチルの必要な理由
現在のフードサービス業界、給食サービス業界の現状を見てみると、原材料、人件費、などの経費は増大しているが、その反面経験のある調理師は減少してきている。消費者は安定した高い品質、メニューの多用化、食品の栄養と安全性等を要求し出している。競争の激化により、セントラルキッチン化による配送と保管の必要性が出て来た。近年公営の中央卸売り市場が週休2日になり、生鮮食品が週に2日は入荷せず、まとめて購入して調理しておく必要が出て来ている。等の種々の問題点が発生し、従来の調理方法の見直しを迫られるようになってきた。

店舗での調理方法に頼らない場合、調理済みの冷凍食品、レトルト、缶詰等を使う必要があるが、コストが高かったり、味が悪く競争相手との差別化が出来にくいと言う問題点がある。このクックチル方式を使えば、味は従来と同等かそれ以上であり、自社のセントラルキッチンを活用し低コストで食品の製造、保管配送を行うことが出来、かつ、長期の保存が出来るので人件費が下がる等、味とコストの両方の差別化が可能になるのである。

日本におけるクックチルのプロセスの2 種類の方式とその違いについて
現在のクックチル方式は冷却方式により2種類に分けられる。食品を真空包装し加熱調理後、水冷のタンクで冷却するクックタンク方式(タンブルチラー方式とも言われる)と、それを簡略化した空冷のブラストチラー方式である。それでは以下にその違いをみてみよう。

ブラストチラー方式(従来の調理方式+ 空冷方式)
通常の調理方法を使用し、調理後の食品をホテルパンなどの比較的浅い容器に移し(最大深さ5cm)ラックに入れる。ラックごとブラストチラーにいれ、ー20℃位の強い冷風で2時間以内に4℃以下に冷却し、その後氷温域の温度帯で保管する方式である。保存期間は製造日を含めて5日間である。ブラストチラー方式の最大のメリットは、従来の調理方法をそのまま使用出来るので、導入時のメニュー開発等が比較的簡単であると言うことである。ただし、従来の調理方法を使用するので大量の調理が必要な場合等には限界があったり、パンにいれて保管する為に配送の際、細菌の汚染に注意しなければならないどちらかというと規模の小さい、同じ構内での配送など限定されたシステムである。

クックタンク方式(タンブルチラー、大 量真空調理タイプ方式+水冷方式)
スープやソース、シチュー類等の流動物の調理と、肉や鳥、魚などの固形物の調理とに分かれる。この方式の構造の詳細については、月刊厨房?月号で井上康男氏がCAPKOLDの紹介をしているのでその記事を参考にして戴きたい。

クックタンク方式では従来、流動物の調理のみに焦点が当たっていたようであるが、この調理法の最大のメリットは、クックタンクを使用した真空調理法の活用である。

肉や鳥、魚等にシーズニングとソースを加え、プラスチックバッグに入れ、真空パック用の機器で真空引きをし、クリップで密閉する。それをクックタンクのバスケットに入れてから湯で時間をかけ中心温度を希望する温度に加熱する(低温調理)。調理は時間でコントロールするか、または温度センサーを調理食品の内部に差し込み、温度を計測して管理する。調理が終了後湯を排出し、冷水を導入、循環しながら冷却する。真空パックしているので肉汁の損失が少なく歩留がよい。一般の調理方法だと歩留は65~70%位であるが、クックタンクを使用すると90%~95%と高くなる。歩留がよいということは食品原価率が下がるのと同時に、肉がジューシーで味が良くなるのである。調理のコンセプトは真空調理と同様で、真空調理のレシピーの応用が可能である。

食品の保管可能期間は30~45日でありブラストチラー方式に比べかなり長く、計画的な生産スケジュールが可能になり従業員数の大幅な削減が可能である。

クックタンク方式の調理レシピー例
それでは、調理レシピーを見てみよう。

魚の調理・鱒料理
材料
鱒 100kg
精製塩 0.4kg
調理温度 74℃
水温度 76℃
調理時間 30分間
調理手順

鱒の内臓を取り出し洗う。
鱒に塩を振りかける。
鱒を6匹づつプラスチックバッグにいれる。
真空引きし、クリップで封をする。
一つのプラスチックバッグに温度センサーを差し込む。
クックタンクのバスケットにプラスチックバッグに入った鱒をいれる。
調理をスタートし、冷却まで終了したら、途中の温度記録を確認し、保管する。
ソースの調理
調理機器はケトルを使用する。
ケトル
容量 90リットル
材料
マーガリン 2kg
オニオン(冷凍スライス) 10kg
白ワイン(辛口) 8リットル
精製塩 0.05kg
魚のだし汁(乾燥) 2.7kg
ベシャメルソースベース 7.35kg
マッシュルーム(冷凍スライス) 7.5kg
生クリーム 8リットル
濃縮レモンジュース 1.4リットル
水 100リットル
調理温度 85℃
調理時間 35分間

調理後、ケトルからポンプステーションに圧送し、包装後タンブルチラーで冷却し保存しておく。

クックチルの今後の方向
日本では現在までのところ、投資コストや設備が簡単であることから、ブラストチラー方式のクックチルの導入が多かったようである。しかし、クックチルが最もメリットがでるのは、セントラルキッチンなどで集中加工し、レストラン、給食のサテライトキッチン等に配送することによる、生産システムの工業化が可能なことである。そういう意味でブラストチラーのタイプだけを使用するとその配送の難しさと、保存期間の短さの問題が出てくるものと思われる。今後は生産性を考えて、クックタンク方式とブラストチラータイプの組み合わせが必要になってくるであろう。

すでに、ブラストチラー方式は数多くのメーカーのものがあり、百貨店の社員食堂や、大手自動車メーカーの社員給食、成田のフライトキッチンなどで採用されだしており、本年度は更に普及するものと思われる。

クックタンク方式は現在までまだ、3カ所ほどしか導入されていないが、味が良いという利点から、より高級なレストランでの普及が考えられる。特に真空調理を大量に安定して製造しなければならないホテルの宴会料理に最適である。また、食品添加物を使用しなくても保管期間が長いので、病院の給食に向いている。従来病院では同じ病院敷地内での調理しか認められていなかったが、今後院外給食の可能性も出てくるので、導入の可能性があると思われる。また、生産能力が高いことから、オリンピックなどの大量給食にも適しているのである。

現在米国GROEN社のクックタンク方式である、CAPKOLDを輸入している三洋電機が、真空調理の高級料理を数多く開発しており、今後の展開が注目される。

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