今、ユーザーが求めるファーストフードの厨房設計 シリーズ第7回 「FF設計14のステップ」(日本厨房工業会 月刊厨房)

ファーストフードのキッチンデザイン

従来の厨房は最大公約数の設計をせざるを得ない。お客様自身が何を売るのかわからないので、何でもできるようにデザインしなければならない。また、どんな料理でも出来るようにあらゆる調理器具をいれておく必要がある。しかし、予算は決まっているから、余り性能の良い機械は入れられない。売れ筋のメニューは店ができるまで決まっていないから、店ができてから作業導線に問題がでてくる。

レストランのシェフは美味しいものをつくれば売れると思い、コストを考えないでメニューを作る。

しかも厨房の設計になかなかお金をとれないことが多いから、調理の経験がない厨房デザイナーが設計をする、等、問題点は山積みである。

景気の良い時代は高い値段であっても味がそこそこであれば売れて、商売もやっていくことができ、上記の問題は表面化しなかった。しかし、バブルがはじけてからお客様の飲食店に対する選別は、一転して厳しくなったのである。この時代、美味しいだけではお客様は満足しないのである。美味しいのは当たり前、量があって、安くなければならない。なおかつ待たないですぐ食べられることが要求され出したのである。そこに出現したのがガストである。

昨年度中に、すかいらーくグループは既存店舗を220店ガストに切り替え、本年度はさらに200店舗を切り替えようというのである。ガストの戦略はメニューを35品目に絞り値段を下げる事により、客単価は落ちるが客数を増加させる。原材料費は上昇するが、合理化した厨房の設計で人件費を下げ、トータルのコストを下げる。ある店のデータによると、売上が6%上昇し、コストが2%下がり、利益が大幅に増加しているのである。

店舗オペレーションを見てみよう。店舗の損益分岐点を75%以下に落とせるように、人手を削減し、テーブルの案内などの余分なサービスはしない。ナイフ、フォーク等のテーブルセッティングはしないで、バスケットに入れ、客席に置く。ドリンク、水はセルフサービス。従業員のユニフォームは、自分のジーパンであり、シャツは既製のクリーム色の物にガストのバッジを付け、ネームを刺繍するコストを落とす。メニューは、写真の入っていないワープロで打ったクリーム色の紙をパウチしてあるだけである。すかいらーくからガストへの変更に際し実施するのは、看板を代え、コンベアーオーブンを入れるだけである。変換に必要な日数は5日の休業だけである。

厨房ではメニューは35品目に絞り、コンベアーオーブンを入れ、作業を自動化し、サービスのスピードを早くする。ほとんどのメニューがこのオーブンとフライヤーで調理し合理化している。その為サービスはすかいらーくよりも格段に早く、必ず10分間以内に出てくるようになった。厨房機器の自動化により、従来の専門のコックによるグリドルや、フライヤーを使い、目視の勘に頼った調理から脱皮したのである。

しかしコンベアーオーブンや、オートリフトフライヤーという自動化の機器で、調理するためには、ファーストフードの様に、ポーションサイズや調理時間を正確に設定しなければならないのである。商品開発は、機械の特性に合わせて、同じ温度や時間で調理出来る様にしなければならないのである。機械の温度、時間を統一する商品開発は大変な作業であり、ポーションの重量、厚さ、温度、水分率、脂肪含有量等のスペックを厳格にコントロールしなければならないのである。

従来のフードビジネスのモットーはQSCであった。それがガストの出現により QUALITY(品質)、SERVICE(丁寧さ)、CLEANLINESS(清潔さ)から、QUANTITY(量) SPEED(速さ) COST(安い) に変わったのである。

和食の世界でもファーストフード化が進んでいる。「てんや」である。従来職人芸であったてんぷらを、仕様書発注の粉、油、冷凍エビを調達する、温度加減の難しいてんぷらを自社開発の赤外線加熱自動コンベアーフライヤーで調理する、などの開発により、500円以下でおいしい天どんを販売することを可能にして急成長を遂げているのである。皮肉なことに、てんやのメニュー数はファーストフードの本家マクドナルドより、はるかに少なく、すっきりした厨房である。それもそのはず、「てんや」の岩下社長は日本マクドナルドが日本で発足したときの最初のメンバーであり、ファーストフードの原理原則を完全に理解して実践しているのである。

これからのフードビジネスははファーストフードのようにメニューを絞り込み、生産性を向上させ、最大限の利益がでる厨房にしなければ生き残れなくなるのである。

過去、何回かにわたって、業種別のファーストフードの厨房をご紹介したが、これから、なぜそのようなレイアウトになるのか、なぜその機械を使用するのかの理論的な裏付けをしていく。そして、ガストが取り入れだしたファーストフード的なキッチンデザインとは何であるか見てみよう。しかし、読者の皆さんの中にはファーストフードを馬鹿にされている方もいるようであるので、まずファーストフードの定義を見てみよう。

従来ファーストフードというと、早いだけの、脂ぎった、安っぽい、貧しい食事であるという風に思われていた。例えばハンバーガー等はジャンクフードの代表として軽蔑されているようである。ジャンクフードとは何であろうか?単に脂ぎった商品を意味するのだろうか?

従来、外で食べる食事の条件は、バランスのとれた栄養、カロリーのたっぷりある食事であった。しかし、現在の豊かな世界では栄養バランスや、カロリーよりも大事なものがある。それは安全な食事であるかどうかということである。安全とはどういうことなのであろうか?食品添加物を最小限しか使用していない。農薬の残留濃度がない。毒性のある重金属類の検出がない。ホルモン剤の残留がない。塩分の濃度が低くコントロールされている。原材料中に有害な食中毒菌が付着していない。調理後の食品に有害な細菌は付いていない。等であろう。

現在の一般的なファミリーレストラ等ではメニュー数は100以上ある。1つのメニューの原材料の構成数は20以上になるのである。ということは、およそ2000品目の原材料の安全を確認する必要があるのである。実際にレストランの商品管理でそこまでの安全確認をしているところ少ないと思われる。ほとんどは外部の業者から購入する際に、商品に付いたラベルを見るくらいで、実際に全原材料の成分検査、細菌検査を実施しているチェーンは数少ないであろう。商品数が多ければ殆どやれないのである。ファーストフードのように商品アイテム数が少ないのは、原材料の安全管理からも重要な要素なのである。

ちなみに、ファーストフードの代表的なハンバーガーの構成を見てみよう。バーガーの構成は、バンズ、ひき肉、ピクルス、ケチャップ、マスタード、オニオンとシンプルである。ハンバーガーの挽き肉は、肉の脂の成分を一定量にコントロールする。さらに肉を挽き肉にする際のメッシュと温度を正確にコントロールする。肉の成形は機械で自動的に行う。全行程において温度コントロール摂氏0℃以下でその作業をする。そして成形されたハンバーガーパティはすぐに窒素ガス冷凍し、マイナス20℃まで急速冷却される。そのため、食品添加物を使用して保存期間を長くする必要はないのである。また、肉をつなげるための結着剤の使用も不要なのである。冷凍保管するので当然のことながら、色をきれいに見せる発色剤も不要なのである。大手ハンバーガーチェーンで使用するハンバーガーパティは一切無添加なのである。

いや、レストランは冷蔵の食材を使っているのに対し、ファーストフードは安い冷凍食材を使っているのでジャンクフードなのだという人もいる。

それでは、レストランで販売するハンバーグミートパティを冷蔵で、サプライヤーから購入しているとどうなるであろうか、冷蔵で流通するために、保管期間を長くする必要があり、数種の合成保存料を使用しなければならない。発色をよくするための発色剤、肉質が柔らかくなる水分保留剤、細菌が発生しないよう合成保存料、匂いをよくするための香料と最低でも5種類の食品添加物が入っているのではないだろうか。

最近では、冷凍食品に対する考え方が変わってきている。例えば、共同農場を運営する山岸などは、ハム、ソーセージ、豚肉、餃子などは、冷凍で流通している。理由は保存のための食品添加物を使用しなくても良いからであるといっているのである。冷凍食品の宅配で急成長している、シュガーレディーも同じである。安全のために食品添加物を使用していないので、高級な冷凍品であるといって売上を延ばしているのである。

また、いつでも同じメニューを提供するために、安定した原材料の供給を図らなければならないのである。そのためには、世界各国から食材を購入する必要がある。現在多くのレストランで使用されているフレンチフライは、多くが冷凍で輸入されている。フレンチフライを生から作るには、皮剥き、カット、ゆであげ、1次揚げ、2次揚げと複雑な手間が必要なのである。更に産地、収穫時期により、糖分の含有量が変化し、揚げ色が変わるなどデリケートな商品でもある。生のままで輸入すると発芽を抑えるため、ポストハーベストなどの農薬を使用せざるを得ないので、産地で一時加工後冷凍し日本に輸入した方が安全であり、一時加工の排水処理や、廃棄物などの公害問題の処理もスムーズなのである。また、冷凍食品であるので、日持ちが良く安定した値段で購入でき、お客様に安価に提供できるのである。

以上、ファーストフードが単なるジャンクフードでないこと、冷凍食品を多用するメリットを述べた。しかし、冷凍品を使用することによる、厨房デザイン上での難しさもあるのである。冷凍品を多用する場合には、冷凍負荷が高いので強い火力の厨房機器が必要であり、最大限の利益を出すためにはエネルギーコストの低い熱効率の高い機械でなくてはならない、等の問題点もでるのである。更に、アルバイトでも扱え、人件費を下げられる機械であることピークとアイドルの両方の場合で生産性が高いこと、等の条件も満たさないとならないのである。

それらの問題点を頭に置きながら、ファーストフードのキッチンデザインを以下のステップで見ていく。

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