マックの裏側 第7回

マクドナルド時代の話

<教育訓練部、ハンバーガー大学、トレーニング、評価>
新規開店に伴い採用した社員を計画的にトレーニングする。教育訓練という
場合が多いが、本来の業務は教育(エデュケーション)ではなく、実務訓練(
トレーニング)である。学校教育は、義務教育の小学校から大学まで、16年も
教えているが、記憶されず、身につかない場合が多い。それは習ったことを使
わないから身につかないのだ。米国企業は、教えたことをすぐ使わせて、身に
ついたか確認しながら次のステップに進める。

トレーニング項目を明確にしておき、各職種に合わせたMTPプログラムを
元にトレーニングを進める。一定の能力が付いたら、その職種に合わせた集合
トレーニングを実施する。トレーニング内容はあくまでも現実的な内容で、社
会人としての常識とか、社内の報告方法などの幼稚園的な内容は教えない。

トレーニングは人事に所属せず、店舗の運営ラインの所属とし、店舗管理の
SV,統括SV、運営部長と一体となってトレーニングに当たる。
人事評価も同様に運営ラインが責任を持つ。昇級、昇進などは全て運営ライ
ンで評価し、資格試験などのペーパー試験での評価はいっさい行わない。ペー
パー試験で昇進を行うことにより、机に何時も座って楽をする人間が出世し、
現場で本当にお客を満足させられる人間は出世できなくなり、サービスレベル
が大きく低下するようになるからだ。ペーパー試験を行うのは経営トップが現
場を知らくなっている証拠であり、現場さえしっかり把握できる能力があれ
ば、実績を評価に反映することが可能なのだ。現場主義を忘れてはならない。

<機器開発部。厨房機器、レイアウトの開発開発>
厨房の機器のレイアウトと機器の数量の設定をする。売上が大きいのに店舗
面積が十分とれないときには、特別に能力の高い調理機器を開発する必要もあ
る。メニューが絞り込まれ、時間当たりの売上が高い場合には、能力の高い調
理機器が必要になる。売上は月間の売上だけでなく、時間当たりの売上も考慮
した店作りをする。オフィス街であれば平日の売上は高いが土日は会社が休み
で売上が低い。広域型繁華街や、郊外型の店舗では土日の売上が平日の3ー4
倍にもなる場合がある。同じ月間売上でも要求される厨房の能力は異なってく
るのである。厨房機器の開発には店舗運営の知識が必要であり、技術部門管理
でなく、運営ラインの管理だ。

<新商品開発部>
食材業者が開発した新商品を採用するだけでなく、独自性を出すために社内
で商品開発をする。まずマーケティング調査に基づき、競合との対策上必要な
商品や、顧客の好みの変化による新商品のニーズを探る。その調査に基づき商
品開発に当たる。原材料では年間安定して供給でき、国内だけでなく海外から
も安定して輸入できるかの安定性や、農薬等の安全性を検討する。次に現店舗
の既存の調理機器で調理でき、かつ基準の調理時間内で調理できるかの検討を
する。

<運営技術開発部>
新商品の販売や、増加に伴い作業が複雑になったり、品質向上の為に作業を
変更する必要がある。また、生産性を向上するために作業手順の変更や、調理
機器、清掃機器、洗剤の開発を担当する。新店舗の開店に当たっては常に標準
レイアウトが守られているか、基準の能力を満たした調理機器を使用している
かを確認する。
店舗建物や厨房の基本デザインや、レイアウト、標準機器の選定の最終決定
をするのは設計や、機器開発ではなく、運営技術開発である。運営開発の担当
者は店舗の店長から、SV、トレーニングマネージャー、統括SV、などの実
務を経験していなければならない。その店舗経験の豊かな担当者が店舗オペレ
ーションに影響を与える技術を学ぶ方が店舗に良い成果が出る。

<物 技術ライン >

<店舗開発部>
土地や建物を借りたり、購入したりする業務。年間の出店計画に基づき、店
舗を開店するための出店情報を集め、土地の地形や、形状、ロケーションが条
件に合っているか判断し、その物件の売り上げ調査を行い、土地を購入した
り、賃貸借契約を結ぶ。

<広告宣伝部>
店舗の売上を上げるには、広告、販売促進、広報の3つの働きが必要だ。広
告はテレビ、ラジオ、新聞などのマスメディアを使用する。戦争で言えば空軍
の爆撃部隊に当たる。空から広範囲にテレビコマーシャルという爆弾を大量投
下し、商品や店舗の知名度を短期間で浸透させる。テレビコマーシャルは売上
を上げるのに最も効果の高い手段だ。しかしながら爆撃部隊だけでは対象の地
区を完全制覇することはできない。地上軍としての歩兵部隊が地上制覇をする
必要がある。それが店舗網であり、その店舗網の市場占有率を高める具体的な
手段が、販売促進だ。販売促進は、店舗入り口の垂れ幕から、看板、テーブル
テント、チラシ、新聞折り込みチラシ、クーポン券、子供用景品などがある。
広報の第一の機能は会社イメージを伝えることであるが、会社の日常活動で
ある、新規開店や、新しいプロモーション活動、新製品開発などを正しく顧客
に伝える活動も行う。一般的にはプレスリリースなどを情報媒体各社に配布し
たり、記者会見を開いたり、イベントを企画開催する。企業の広告宣伝活動だ
けでは、数多くの顧客に正しい情報が伝わり難いし、企業広告を信用しない場
合がある。それを広報活動により、新聞、雑誌、テレビ等が取り上げてくれる
ことにより補えるのである。優秀な広報活動は広告宣伝より売り上を上げる効
果が高いときがあるので、大変重要である。

<設計管理部>
店舗の設計は一般的には外部の設計業者を使用するが、マクドナルド独自の
設計仕様をチェックする必要がある。また、面積の大きい物件の場合、開発計
画を慎重にする必要があり、建築基準法等の法的な問題をクリアーするように
社内での作業が必要になる。
店舗出店調査部の出した売上予測に基づき、適正規模の大きさの駐車場、客
席数、必要厨房面積を算出する。そして予算によりデザインの規模を決めてい
く。次に設計業者と店舗担当のSV、店長、フランチャイジーと特別注文など
の打ち合わせをする。設計終了後店舗施行業者が決まったら、施工上の注意事
項を指導し、必要なら施工管理をする。建物完成後は設計業者による施行検査
を監査し必要ならやり直しの指示をする。
一軒一軒のデザインを最初から設計していては、時間もかかるし、コストも
かかる。そこで売上規模により数種類の店舗パターンを決めるという、標準店
舗パターンを作成しておく。ただし、あまり標準化にこだわり全店同じ店舗デ
ザインになると、デザインの新鮮さがなくなるし、古くなると全店同時に陳腐
化するという問題があり、毎年時代にあったデザインに少しづつ変更する工夫
をおこなう。

<購買部>
店舗建設資材、業者の選定、食材の購入など、全ての購買業務を担当。購入
だけでなく、配送センターから店舗までの配送手順の決定と、必要な供給食材
をスムーズに供給できるようにする。常時、食材供給業者を開発しておき、新
規エリアでも出店できるように準備をしておく。指定業者であっても常時、製
造する食材原料の品質管理をチェックする。食中毒の問題からHACCPの導
入に力を入れており、品質を独立運用するQA(クオリティアシュアランス品質
保証)も担当する。

<金 金銭と書類の管理ライン>

<総務部(法務含む)>
土地や建物の所有者と賃貸または買い取りの契約を締結するが、その際に契
約内容に漏れがないかチェックを行う。また、会社の登録商標や、名称を他の
会社が無断で使用していないか常時チェックする。その他、社内の契約、法律
関係、訴訟問題、等の対外折衝に当たる。
消防、保健所、労働基準監督局への届け出を担当する。社内の細かい業務を
担当し、書類の流れを総合管理する。

<人事部>
年間の予測開店数、退職率に基づき、年間新規必要採用数を算出し、トレー
ニング期間を加味して開店日までに間に合うように採用する。新卒採用だけで
は4月時の負担が高く、給与負担の偏りの問題もあり、中途採用と新卒採用の
バランスをとって採用をすすめる。
安定した採用人数の確保のためには、自社の給与水準が他社より良くなくて
はならないので、常時給与水準に注意する。また、昇級評価、ボーナスの査定
は店舗運営ラインが担当するが、その評価に偏りがないか、フェアーな評価方
法をしているかをモニターし必要ならアドバイスをする。従業員が会社に対し
て不満や要望を持っているかを、定期的にアンケート調査し、待遇など改善必
要な個所を改善する。
新規開店の人事異動に伴い、社員用の借り上げ住宅の手配が必要になる。ま
た、その他の福利厚生を担当する。社員やクルーの給与支払いのシステムを構
築し、全国どこの地域でも振り込みが出来るようにする。人事は店舗運営部の
人事評価は一切行わない。

<経理部>
店舗建設資金支払い及び、購入食材支払い、店舗小口現金準備、売り上げ入
金方法と取引先銀行決定、給与支払い口座の開設など金銭の流れと資金繰りの
全てを管理する。

<情報管理部(コンピュータシステム)>
経営管理を合理的に行う、店舗、本社の経営管理システムを構築管理する。
一般的にはコンピューターシステムの運営管理と、新システムのプログラムの
開発を行う。経営企画部と一体になっている。

<監査部>
会社運営における、金銭の取引上において会社や税務上の基準、規則、にの
っ取って、正しく行われているかを抜き打ち調査する監査業務である。店舗の
金銭管理だけでなく、設計業者、施行業者、食材供給業者の選定を会社の基準
通り入札で行っているかなど会社の支出が妥当で不正がないかもチェックす
る。勿論、金銭上の取引だけでなく、従業員の採用で労働基準法状問題がない
か、外人の場合労働許可書を持っているか、賃金支払いは妥当であり、架空の
従業員への支払いはないかなど日常業務まで細かく監査する。店舗の監査業務
はSVの責任であり、毎月行われているので、そのSVの監査業務へのトレー
ニングと、SVが監査業務を正しく行っているかをモニターする。

米国の組織を元に2代目の運営部トップで初代運営本部長の合志綱恭氏と共
に上記のような組織を綿密に作っていったのだ。ジョン朝原氏は米国の組織を
参考にしながらも、純米国式でなく日本の良さを取り入れた、和洋折衷であっ
た。その理由は3つあり、一つは藤田田の米国嫌い。2つ目は日本のボトムア
ップ(全員参加型)の良さ、3つ目は日本は直営店舗中心の展開だった。など
だ。
米国式人材教育は、ミキサーに鉱石を入れガラガラ掻き回し、鉱石同士が研
磨され、中にはダイヤモンドが見つかるという乱暴な方式だ。米国式はダイヤ
モンドかもしれないとわかる運営部長クラスから丁寧に育てる。途中で脱落す
るものは退職するか解雇という厳しいものだ。

ジョン朝原氏は日本人のきめ細かい人材育成法に注目し、早い段階から抜擢
しきめ細かくフォローするというものだった。人材育成には環境が大事だ。環
境とは、忙しい店、暇な店、都心型店舗。郊外型店舗、地方の店舗などの物理
的に異なった環境だけでなく、誰と一緒(上司の店長,SV、統括SV、運営部長な
どの組み合わせ)に働いたかまで、配慮する。上司によっては、マーケッティ
ング、忙しい店舗の運営、人材育成、利益管理、品質管理、クレンリネス、サ
ービスなど得意や不得意な分野もあるし、マネージメントスタイルも異なるか
らだ。

人材育成を見るには、年に4回の人事評価で行う。ジョン朝原氏は、人事評
価を人事部に任せず、米国と同じく直接の上司と、その上の上司に任せる。当
時は年に2回の昇給と、賞与があったのでその査定会議が必要だった。店長以
下全運営部の社員を,SV、統括SV、運営部長が集まり、地区本部長と運営本部
長立ち合いで評価させる。店舗の社員の評価を発表するのは、担当店舗のSVで
あり、さらにその上司やの統括SVや運営部長がフォローする。評価の際に重視
されるのは、売り上げや利益の伸びだけでなく,QSCのレベル、部下の人材育成
だ。売り上げや利益は損益計算書など医数字で明らかだし、QSCのレベルはコ
ンサルテーションレポートの得点で明らかだ。部下の人材育成は何人の時期店
長を育てたか、何人のアルバイトを社員まで育て上げたかという人数で明らか
だ。

この会議では、担当エリア以外のSVや統括SV、運営部長も発言できる、多面
的でオープンな会議だった。店舗の社員だけでなく、同時に評価するSVや統括
SV、運営部長も評価される。部下に厳しいだけでなく、どのように部下を育成
するかも見られるからだ。
筆者の運営部長時代の「人身御供を作る店長」という経験をお話ししよう。
ある大型店の新任店長は、昇格したばかりのせいなのか,店舗のQSCが決
まらないし,人も不足している。SVに聞くと店長を補佐するべきファーストア
シスタントマネージャーが能力がないし,やる気がないという。次の評価会議
でそのファーストアシスタントマネージャーの評価を下げ,タイトルダウン(
降格)をするか退職を迫るという。SVの上司の統括SVも同じ意見だった。どう
もおかしいなと思った筆者はその夜店舗を訪問し、そのファーストアシスタン
トマネージャーとじっくり面談した。そうしたらそのマネージャーは泣き出す
ではないか。驚いた筆者は、他の社員やクルー、スイングマネージャーから状
況を聞き出した。

その結果判明したのは能力の不足する新任店長が,人手不足やQSCの問題
点をファーストアシスタントマネージャーの個人的な目標課題として押し付け
たと言うことだった。ファーストアシスタントマネージャーに目標課題を言い
つけるのだが、その課題に取り組めないようなきついスケジュールを組んでい
た。そうして目標課題の達成率が悪い,能力がない,やる気がないと言う評価を
担当SVにあげ、自分に能力がないことを隠そうとしたわけだ。

この件については担当のSVにも問題があった。ずいぶん調子の良いSVで筆
者が何か言うと、ニコニコしてはいそうですねとしか言わない。実に素直なS
Vで、もう少しでその調子の良さにだまされるところだったが,店舗を訪問し
て問題点に気がついたわけだ。そこでさらに、店舗の状況だけでなく、SVの
過去の状況を調査していったら、前任の地区で大きな問題に巻き込まれてい
た。 彼の担当のエリアの元上司の統括SVが社員フランチャイズになる際に,
取得した店舗の改装や備品の購入を他店舗を利用して行っていたことが判明し
た。さらに、自分の店舗への社員の斡旋などを行わせていた。当然先輩の命令
だから従わなくてはいけなかったのだが、その不正が発覚しそのSVの評価が
下げられ,このエリアに左遷されてきたのだった。先輩の言うことを聞いたの
に処罰を受けたわけだから会社に対しては不信感を持っており、これ以上処罰
を受けたくないと言う気持ちを持っていた。

QSCなどのオペレーションが強ければ挽回できるのだが、調子が良いだけで
能力の無いSVであったから、店舗のQSCを改善できないと自分の責任問題と
なるので、新人の店長とともにファーストアシスタントマネージャーを人身御
供にして難を逃れようとしたのだった。このように評価といっても実際の店舗
や、人の状態をきめ細かく把握する必要があるのだ。

この店舗の問題点を見つける手法は、ジョン朝原氏の店舗訪問時に全員と面
談する(立ち話も含めて短時間で聞き出す)手法に学んだのだった。

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務める。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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