今、ユーザーが求めるファーストフードの厨房設計 シリーズ第19回 「機械の洗浄殺菌と洗剤その1」(日本厨房工業会 月刊厨房)

何故洗剤の知識が必要か
従来、清掃作業は調理機器のユーザーの責任であり、調理機器製造メーカは関知しなくても問題がなかったが、P/L法の施行に伴い、調理機器の清掃殺菌作業等を機械取扱説明書に明記する必要が出てくるだろう。しかしいくら衛生管理が重要であるからといっても、人件費の高騰した現在ではユーザーは簡単な作業を要求するという矛盾がある。調理機器を開発する中で洗剤とその効果的な使用方法を考慮し、ユーザーに負担をかけないで清掃殺菌性を向上する責任があるのではないだろうか。
洗剤の働きの原理と、配合成分の知識
洗剤の洗浄力と中性洗剤
水、洗剤、物理的作用(ブラッシング、撹拌、噴射、循環、振動、温度)の3つの作用が洗浄の3大要素だ。

例えば、厨房で使用するダスターの洗浄を考えてみよう。厨房で使用するダスターには種々の汚れが含まれる。油状の汚れ(動物、植物性の油)、蛋白質汚れ(卵、ミルク、肉、植物蛋白)、炭水化物汚れ(ご飯、でんぷん、糖分)、無機質汚れ(土砂、金属)、特殊な汚れ、等だ。その汚れは、ダスターの表面に付着したり、染み込んだり、場合によっては変色するほどの汚れだろう。図1。ダスターをきれいにするには、普通の水で洗浄する場合と、中性洗剤をといだ水で洗浄する場合があるだろう。では、水を入れたバケツと、中性洗剤をといだバケツを用意してみよう。

汚れが付着したまま乾燥したダスターを水中に入れても水がなかなか染み込んでいかないはずだ。そこで、ダスターを手で水の中に浸け、無理に水を染み込ませてみる。それだけでは汚れは落ちてこないはずだ。そこで、ダスターをごしごしこすったりもんだりすると、汚れが落ち、水が濁ってくるはずだ。水ではなく、湯を使用すると汚れ落ちはもっと良いはずだ。このごしごしこするのと、湯を使用するのを物理的な力という。

では中性洗剤を希釈した水で洗ってみよう。ダスターに直ぐに水が染み込むのが分かるだろう。これを浸透作用という。

次にダスターをごしごしもみ洗いしてみよう。中性洗剤を使用した方が水の汚れが多いはずだ。これは洗剤が汚れに吸着し、水に溶かすつまり乳化作用が働くからだ。

次にそれぞれのダスターを絞ってみよう。当然の事ながら、洗剤を使用したほうが汚れが落ちているはずだ。これは、洗剤を使った方が汚れがダスターに、再び付く事がなくなるからで、洗剤の分散作用という。

水で洗うより中性洗剤で洗った方がきれいになっているだろう。この中性洗剤の主成分が界面活性剤であり、上記の浸透、吸着、乳化、分散の4つの作用をもつ。本来洗浄作業は水でも時間をかければ可能である。しかし、乾いたダスターに水が染み込むのに時間がかかるのは、汚れに水が届きにくいと言うことなのだ。水を乾いたダスターの上に一滴落としてみよう。水は玉のようになって、ダスターになかなか浸透していかないだろう。これは、水の表面張力が布への浸透を防ぐからだ。この表面張力を押さえれば水はダスターに容易に浸透するはずだ。この水の表面張力の力を減少させるのが界面活性剤なのだ。界面とは何かというと、表面のことだ。表面張力を落とすことにより、繊維の中の汚れまで水が達するのだ。これを浸透力という。図2

汚れまで到達した界面活性剤は図3のように親水基と親油基に分かれている。親油基が汚れに浸透して汚れの周囲をとりまいていく。この汚れに付着する作用を吸着という。次に汚れを取り去り、水に取り入れていく。この水に汚れを取り去る作用を乳化という。水が濁っている状態のことだ。

水にとけ込んだ汚れが、また、ダスターに吸い込まれては困るので、ダスター表面にとりついた界面活性剤は汚れが再度付着しないようにする。この作用を分散作用という。

以上の4つの作用が、界面活性剤の働きである。

界面活性剤の種類とそれ以外の成分
界面活性剤は4種類ある
アニオン(陰イオン)界面活性剤、
コストは低いが洗浄力が高いので最も一般的に使用される。
カチオン(陽イオン)界面活性剤、
洗浄力はないが、殺菌剤や繊維の柔軟仕上げ剤として使用されている。
非イオン界面活性剤、
コストが高いが水の硬度に影響されないので、洗浄力を高める必要のある難しい条件で 使用される。
両性界面活性剤
水溶液のP.H.によって、アルカリ側で陰イオン系、酸性側で陽イオン系に変わる界 面活性剤である。洗浄力、殺菌力、柔軟効果を持っているが価格が高いため特殊な用途 で使用されている。
洗剤に使用する界面活性剤は、一般的にアニオン界面活性剤と非イオン界面活性剤だ。アニオン界面活性剤が最も多く使用されるが、汚れの対象、条件によっては非イオン界面活性剤も使用される。殆どの場合は数種類の界面活性剤を組み合わせて使用する。

ビルダー、添加剤
中性洗剤は界面活性剤の組み合わせだけでない。水はカルシウムとかマグネシウム等の金属分を含有している。例えば温泉で石鹸を使用してもあまり泡立たないが、それらの水中の成分が邪魔しているからだ。そこで、添加剤のキレート剤を含有させ、洗浄力が落ちないようにする。
添加剤の効果は、洗剤の効果向上、金属腐食防止、軟水効果、溶解度の向上、粘度調整、泡安定、肌荒れ防止、等いろいろあり、用途により配合を変える。 中性洗剤を購入する際には単に値段だけで比較しないで配合成分、濃度が使用用途に適合しているかを考慮して、購入する必要がある。

化学洗剤
洗剤は中性洗剤だけではない。アルカリと酸性の洗剤が存在し、用途により使い分ける。

アルカリ洗剤
洗剤は全て中性洗剤で良いわけではない。厨房で使用したダスターは油でまみれているはずだ。いくら中性洗剤の濃度を高くしても油の汚れを完全に落とすことは難しいのだ。油の汚れを落とすには、アルカリ系の化学洗剤を使用する。アルカリ度を表すにはPHを使用する。PH7が中性だ。数字は1から14までだ。7より数字が大きくなると、アルカリ度が強くなる。数字が7より小さくなると酸性になる。8位までは弱アルカリであるが、12前後になると強アルカリになり、目に入ると失明の恐れがあるし皮膚を侵す。メーカーによりアルカリ度は異なるので使用説明書を良く読み、取り扱いを十分注意する必要がある。店舗には最低限、目を保護するゴーグルと、手袋が必要だろう。また、アルカリ、酸性の洗剤は保管場所を限定し、誤って使用しないように容器の色を目立つようにする。
酸性洗剤
髪の毛を洗浄した後、リンス剤を使用する。これはシャンプーの成分と水中の金属分(カルシウム、マグネシウム)が作用し、金属石鹸が出来、それが髪の毛に付着し、ざらざらするためだ。昔は、レモンなどでリンスをしたが、レモンは弱酸性であり、付着した金属石鹸分を取り去る働きがあるからだ。つまり、中性洗剤、アルカリ洗剤、の他に、酸性の洗剤が必要になる。お風呂の清掃する場合に使用するのは酸性の洗剤が多い。
食器洗浄機でリンス剤を使用するがこれもリンス水の中にカルシウム、マグネシウムが入っており、そのまま高温でリンスすると金属成分がグラスなどに付着し白くなるし、水切れが悪くなるからだ。その為に酸性の洗剤でリンスする。

酸性の洗剤もアルカリと同様に取り扱いに注意が必要になる。

洗剤の種類
家庭で使用する洗剤だけをを見ても、中性洗剤、ブリーチ、研磨剤、台所用強力洗剤、風呂場洗剤、トイレクリーナー、洗濯石鹸、柔軟剤、シャンプー、リンス、と数多くある。飲食業のように厨房から、客席、建物等、幅広く洗浄するにはもっと数多くの種類の洗剤が必要であり、その特性や使用上の注意点を理解しなければならない。
中性洗剤
「洗剤の洗浄力と中性洗剤」の項目を参照

殺菌剤
シェイク、アイスクリームマシンの洗浄殺菌
調理機器の洗浄は大変重要だ。単に洗浄するだけでなく殺菌をすることが必要である。FFなどではシェイク、ソフトクリームが大きな売上を占めるが、保健所による乳製品の検査は大変厳しく、夏になると頭を悩まる。従来は、機械を水でリンスしてから、中性洗剤をといだぬるま湯で洗い、それから水でリンスし、今度は次亜塩素酸ナトリウム100ppmの溶液で5分間殺菌する。それから再度水でリンスするという複雑な作業が必要であった。しかし、ミックスの配合成分は、油脂分と、蛋白質、カルシウム、マグネシウム等であり、中性洗剤では完全に洗浄できないことが判明した。シェイクやソフトクリームミックスを製造している乳製品の工場ではラインの洗浄に中性洗剤を使用していない。それは、中性洗剤では乳脂肪、蛋白、カルシウム、マグネシウムを除去できず、金属分がラインにたまり、乳石となり、細菌の巣になってしまうためだ。ライン洗浄では殺菌よりもまず汚れを落とすことを重視する。汚れが落ちないとその内部の細菌に洗剤が到達しないため、殺菌効果を発揮することができないからだ。
そのために、特殊なアルカリ系の粉末洗剤を使用する。殺菌効果を出すために次亜塩素酸ナトリウム溶液ではなく、ジクロルイソシアヌール酸ソーダを使用する。ある温度にといだジクロルイソシアヌール酸は殺菌効果を出すだけでなく、油脂分と蛋白質を分解する能力が高いのだ。その他に洗浄能力を高めるために界面活性剤を混ぜて洗浄効果を最大限にだす。洗剤を最大限に生かす湯の温度も重要である。熱い方が油脂の汚れ落ちがよいが、殺菌剤の安定性が悪くなる。洗剤に最も適した温度に設定する必要がある。

更に、カルシウム、マグネシウムが洗浄効果を落とさないように、キレート剤を配合する。泡が立ちすぎると、リンスが大変なのであわ立ちを少なくする配合もする。

また、機械を洗浄するわけであるから、金属、プラスチック、ゴム部分の腐食がないかが重要だ。その為に腐食防止剤を配合するが、更に腐食度の経時変化を調べ部品の交換時期を明確にする。

シェイク、アイスクリームマシンの取り出し口にはプラスチック部品を多用するが、プラスチック部品は傷つきやすくそこに細菌が繁殖しやすいと言う問題がある。従来の中性洗剤では浸透力が弱いが、ジクロルイソシアヌール酸ソーダを使用すると汚れに対する分解度と浸透度が強く、プラスチック部品が真っ白に綺麗になるために衛生度は格段に向上した。

殺菌効果を持続させるために一回分づつに洗剤を分け、完全密封した状態にパックし殺菌効果が落ちないように加工する必要がある。また、粉末洗剤であるので、水への溶解性が良くないと、有効でないので粉末粒子の大きさと溶解性の設定をきちんとする。

この洗浄殺菌剤は高価であるが、清掃時間が短縮出来るので人件費が低く、使用水量も少ないので、トータルコストはかえって低くなると言うメリットがある。洗剤の選定に当たっては単にコストだけでなく、人件費、水道光熱費等、総合的に考慮するべきだろう。

なお、大腸菌を0にするにはこの洗浄殺菌剤だけでは力不足である。シェイクやアイスクリームを作るには、冷媒を通したシリンダー内部にミックスを入れて冷却し、凍り始めたミックスをスクレーパーブレードで掻き取り、撹拌して粘度の高い飲み物やソフトクリームを製造する。そのスクレーパーブレードはモーターからチャンバーを貫通したドライブシャフトを通して回転される。このドライブシャフトからミックスが漏れないようにゴムのOリングと可食性潤滑剤のグリースを使用する。この部分のグリース内部に混じったミックス内部に大腸菌などが繁殖しやすい。また洗浄ブラシにもグリースが付着するがその内部に細菌が繁殖する。洗浄ブラシとシャフトに付着した潤滑剤グリースを分解する洗剤の使用が必要になる。可食性潤滑剤のグリースに最も適した界面活性剤の配合をした特殊洗剤が必要になる。

次亜塩素酸ナトリウム溶液(ブリーチ)
厨房の殺菌剤として一般的に使用されているのは次亜塩素酸ナトリウム溶液だ。一般的には次亜塩素酸ナトリウム溶液濃度が5‾6%の物が多い。購入時に価格で購入を決定する場合が多いが、性能に大きな違いがあるので注意されたい。
筆者は以前12%濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用していたことがある。ある大手メーカーの製品で、6%の物より濃縮してあるのでスペースを使用しないし、高級なのだという触れ込みであった。しかし、シェイクマシンに対する殺菌効果が弱いので、調べてみたところ大きな問題があった。開封しない状態で5カ月後に有効塩素濃度が60%まで低下していたのだ。開封している店舗の物はもっと低下していた。原因を調査したところ、次亜塩素酸ナトリウム溶液は液のPH数値が高いと(アルカリ度が強い)安定度が下がり、有効塩素の低下率が高くなるということであった。つまり、濃縮度が高いのがかえって良くなかったのである。また、容器が10KG入りであり、開封後の使用期間が長いため、実際の店舗での有効塩素量の低下が著しいという問題があった訳だ。そこで、濃度を6%、容器を1kg入りの小型にして、有効塩素量の低下を防ぐようにした。この改良で、小型容器にしたためにコストは上がったが、殺菌という大事な作業の為にはやむを得なかった訳だ。

次亜塩素酸ナトリウム溶液のPHが高いと安定性が悪いと言うことは殆どの文献に書いてあるにも関わらず、大手メーカーでもこの様な初歩的なミスをするのである。これ以後、全ての洗剤をチェックしスペックを明確にせざるを得ず、この作業に数年を費やさざるを得なかった。

しかし、文献に書いてあることもあてにならないことがある。殆どの洗剤の本に次亜塩素酸ナトリウム溶液は水でといで使用する、湯を使用すると安定性がない、ということであった。しかし、どの本も全く同じ表現であったのでおかしいと思い、確認テストを実施したところ、湯でも安定性は損なわれず、かえって洗浄性が向上し殺菌効果が高まることが分かった。文献が間違っていたわけではなく、実は製造方法がより安定性の良い物に変更されたのが大きな原因のようである。文献は必ずしも最新の情報に基づいているわけではないので、必ず自らの確認テストが必要だろう。

手洗い洗浄殺菌洗剤
衛生的にするというとまず大事なのが殺菌剤による殺菌だ。例えば手洗いだが、どうやって洗っているかが重要だ。完璧な殺菌が必要な病院などでは、石鹸で手を良く洗ってからクレゾール液に手を浸し殺菌する。洗浄工程は最も重要だ。洗浄で手の汚れが落ちていれば、汚れの内部に存在する細菌も洗い流されてほんの少ししか残留していないはずだ。手洗いはまず洗浄効果が最も重要なのだ。次にだれでも間違いなく殺菌をすることが出来るという事が基本だ。飲食店は病院のように専門家を採用しているのではなく、殆どアルバイトが中心だからである。
飲食店では手を石鹸で洗ってから塩化ベンザルコニウムなどの逆性石鹸で手を殺菌する方法が一般的である。塩化ベンザルコニウムは陽イオン界面活性剤の殺菌効果を利用した物だ。しかし、普通の洗剤は陰イオン界面活性剤なので、両方を同時に使用すると殺菌効果がなくなってしまうという重大な欠点がある。石鹸をよく洗い流してから、逆性石鹸を使用しないと、殺菌効果が打ち消されてしまうのだ。正しく使用すれば逆性石鹸の殺菌力は高く効果的なのだが、 アルバイトを多く使用する飲食業ではいくらトレーニングをしても、手洗いを正しくやらない危険がある。

そこで洗浄と殺菌を同時に出来る手洗い洗剤の開発を行い、化粧品などの殺菌剤に使用される、イルガサンDP300を使用し、洗浄と殺菌をかねるようにした。化粧品などに使用する殺菌剤を採用したのは手荒れを防ぐためなのだ。手荒れをおこすと、ブドウ球菌が発生し食中毒の元になるからだ。採用する際には殺菌剤の濃度と、手あれ防止剤が配合されているかをチェックする必要があり、実際の使用テストが望ましいだろう。現在では殆どの洗剤メーカーがイルガサンDP300入りの手洗い洗剤を販売しているようだ。 手の殺菌をアルコールで直接行う場合があるが、アルコールの種類や使用頻度によっては手荒れを引き起こすので、使用方法と頻度に注意が必要だ。手洗いは重要であるが、あまり洗いすぎると手が荒れるので、適度な手洗いにとどめるべきだろう。おにぎり、寿司、サラダ等のなまものを作るときには使い捨てのプラスチック手袋を使用し、その外側をときどきアルコールスプレーなどで殺菌するのが望ましい。

酸性洗剤
シェイク、アイスクリームマシンは乳製品を使用するのでいくら完璧に洗浄しても長い間にはカルシウム、マグネシウム等が溜まって乳石となり、細菌の巣になりやすい。定期的に酸性の洗剤で乳石を除去する必要がある。

また、スチームコンベクションオーブンのスチームジェネレターや加湿保温庫等は水分中のカルシウム、マグネシウムが沈殿する。やかんを長い間使用していると、内部に白い軽石状の付着物ができるのと同じだ。これは水中のカルシウム、マグネシウムの堆積物だ。これを除去するには酸性の洗剤で溶かし流す。あまり堆積物が厚くなるとなかなか溶けず作業時間がかかるので、定期的に作業をする方が効率がよい。金属によっては酸性の洗剤で腐食が発生するから、用途、金属等機械別にきめ細かく選定する必要がある。

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