特別ルポ「1995年 米国NAFEMショー」(日本厨房工業会 月刊厨房)

特別REPORT
NAFEM95及びアメリカ厨房施設
NAFEM訪問 第一回
9月12日から20日までラスベガスで開催されたNAFEM展示会に厨房工業会視察団の一員として参加した。その他、サンフランシスコ地区においてレストラン、ファーストフード、アウトレットモール、ホテル厨房、学校給食のセントラルキッチンを、ラスベガス地区においてテーマレストラン、サンディエゴ地区において刑務所のセントラルキッチンなど幅広く見学したので数回に分けて報告をする。
まず、今回のNAFEM展示会がどうだったか見てみよう。
米国の外食関係の展示会の種類と主催者
米国における調理機器の展示会で有名なのはNRAレストランショー(National Restaurant Association Restaurant ,Hotel-Motel Show)と言い、毎年シカゴで開催される。本年5月で76回目にもなる歴史の古いレストランショーである。主催者は全米レストラン協会(National Restaurant Association )である。その他に地区のレストラン協会が主催する地区単位のレストランショーがある。有名なのは西海岸とニューヨークのホテルレストランショーであろう。日本から参加する場合シカゴのショーが多いようだが、ニューヨークのショーも比較的大きなショーであり、ヨーロッパからの参加者が多い。優れた最新のデザインとコンセプトを誇るレストランが多いので、レストランクリニックに向いているのが特徴だ。西海岸のショーはサンフランシスコかロサンジェルスで開催されるが、ニューヨークと同じく、周辺の優れたレストランと、小売業のチェーンを見れるので参加する価値のある良いショーである。

以上のショーはレストラン協会の主催であるので、調理機器の展示だけでなく、内装、ユニフォーム、食材等まで幅広く展示する。また、調理機器も単なる展示だけでなく、実際に食品を調理してそれを食べさせるのが大きな特徴である。シカゴで開催されるNRAショーは最も規模が大きいショーであり、大手食材メーカがこぞって展示をしているのが特徴だ。特にコカコーラ、アンハイザーブッシュ(ちなみに製造しているビールのブランドは日本でも有名なバドワイザーである。バドワイザーはバーゲンビアー、安売りのビールといわれスーパーなどでのディスカウントの目玉であり、米国で最も安いビールとして有名だ。日本ではバドワイザーのマーケティング戦略上で高級なイメージで販売されているが、それを信じてアメリカ人に飲ませると「俺にバーゲンビアーを飲ませて」と不評なので注意が必要だ。同じブッシュのビールではミカロブの方が高級であり、味もこくがあり美味しい。)、クアーズ等が大型のブースを開きビールなどの飲み放題をするような派手さである。そばにはタイソンなどがフライドチキンの試食品の提供をしており、それをつまみに飲み放題の騒ぎになる。

レストランチェーンの経営者だけではなく、個人営業のレストラン、コック、レストラン学部の学生、一般大衆など幅広く参加するお祭りだ。シェフの調理コンテストを行い、調理面でのプレゼンテーションを行うという、いわばレストラン業界の宣伝の一環でもあるのが特徴だ。

その為、ユーザーに調理機器をじっくり説明するのには適しておらず、20年ほど前より米国厨房機器製造メーカーのNAFEM(NATIONAL ASSOCIATION OF FOOD EQUIPMENT MANUFACTURER)が独自の展示会を2年に一回開くようになってきた。今回のショーは12回目に当たる。

NAFEMの展示会の特徴
この展示会では個人的なユーザーよりもホテル、給食会社、レストランチェーン、政府(軍隊の給食)、学校関係者(給食担当)等の大手チェーンの機器開発の担当者をメインにした展示会であり、単に見せると言うよりじっくり商談をしようというショーである。その為会場内では厨房機器を実際に使用した調理を禁止し、顧客に試食させていない。また、最新鋭の調理機器を展示するためノウハウの流出を恐れて、一切の写真撮影が許可されていない。昨年まではまだ、各メーカーの許可を取れば写真を撮ることは可能であったが本年から、写真機を会場内に持ち込むのも禁止すると言った徹底ぶりであった。

会場では各調理機器メーカーとチェーンの担当者が実際の商談を行うことが多く、展示品以外に開発中の商品を見せていた。勿論担当者と面識のあるチェーンの開発担当者でないと開発中の商品を見せてくれない。

各厨房機器メーカーのチェーン対象の開発状況を聞いていると、各レストランチェーンの戦略が良く見えてくるのが此のショーの最も面白い点であろう。特にレストランチェーンは海外の進出をしているが、それに伴い現地での調理機器調達をするようになっている、その為、各調理機器メーカーもそれに対応する形で現地進出や、現地企業の買収を行っており、どこのチェーンがどこの地区にでるかが良くわかる。

また、ユーザーや厨房設計者、厨房機器製造メーカーに対するセミナーを幅広く行っているのが特徴だ。今回は時間がなく参加できなかったが、時間のある方は参加されると米国の状況がどうで、今後どのような方向に進んでいくかが参考になる。例えば今回展示会のあとサンディエゴの郡刑務所のセントラルキッチンを視察したが、その責任者であるLouise Mathews氏もクックチルのセミナーを担当していた。また、マクドナルド社で厨房の空調設備の設計を長くつとめている、Joe Knapp氏が厨房空調設備の防火安全管理や、環境問題のセミナーを担当していた。氏はマクドナルド社の仕事のみではなく、排気ダクト防火安全規制法規委員会の委員を務めており、実際の現場に即した安全管理の規則を作成している。(米国ではこのような規制は政府が一方的に定めるのではなく、民間の実務に強いメンバーを入れ、現実に即した規制を定める。いったん定めた規制でも現実に問題が生じると直ちに規制改正をフレキシブルに行い、現実離れした規制を行わないように運用している。日本でも規制の緩和を考える際に参考するべき制度であろう。)このように実務に強い人にセミナーをしてもらうのが特徴である。

今回実施されたセミナーを簡単に紹介すると、調理におけるスチームの活用、レストランの売り上げ増大策、厨房機器メーカーがユーザーに売り込むための実演プレゼンテーションの手法、3次元のCADソフト活用による厨房設計、レストランの効果的な改造計画、効果的なクックチルの運用、レストランのマネージメント、レストランメニューのトレンド、厨房設計としてのスチーム加熱機器の導入方法、食品品質管理の手法、厨房空調設備における防火安全対策、健康と環境問題、厨房機器販売店の厨房設計への関与のあり方、フレオンガス規制による冷却機器設備の更新、厨房機器のメインテナンスと水処理、HACCP食品衛生問題、など盛りだくさんであった。

米国と日本では色々状況は異なるが、米国の経済文化は日本の約5年ほど先をいっており、じっくりと見ることはかなり参考になる物と思われ、みなさんもセミナーに積極的に参加されると良いだろう。

もちろん堅い話ばかりでなく、初日には写真のようにウエット&ワイルドというプールなどのある遊園地でインタナショナルの参加者を招いたパーティが催された。ラスベガスというとギャンブルの町というイメージがあるが、現在では、会社のコンベンションや、家族で来ても楽しい町にしようと言うことで、各ホテルの内外で無料のショーを行っている。写真は今最も有名なトレジャーアイランドホテル(宝島ホテル)の前で行っている、海賊船と軍船の撃ち合いのショーだ。大型帆船をホテル前の人工湖に浮かせ、実際の大砲の撃ち合いを行うのだ。もちろん空砲だろうが、大砲が命中すると熱い爆風が吹き寄せるくらいリアルである。そして最後には海賊船が勝ち、軍船が実際に湖に沈没するという見事な物だ。写真はラスベガス最大のホテルMGMのロビーの風景だ。客室は5000室もありロビーはご覧のようにオズの魔法使いがテーマでそれに見とれて歩いているといつのまにか、ギャンブル場にくると言う仕掛けである。ロビーの中にはギャンブル場だけではなく、ロサンゼルスの最も有名なピザレストランのウオルフギャング・パックがあったりして、ギャンブルをしなくても十分楽しめるようになっている。みなさんも是非訪れるべき町の一つだろう。

ちなみに、今後のNAFEMのスケジュールを紹介しておこう。

1997年 9月 5ー8日 、ニューオリンズ
1999年 10月 1ー4日 、ダラス
2001年 9月 7ー10日 、オーランド
2003年 9月 12ー15日 、ニューオリンズ
2005年 9月 23ー26日 、オーランド
2007年 10月 12ー15日 、アトランタ
今回のNAFEMのテーマ
セミナーの内容を見てもらえばわかるが、テーマはThe Source For Solutions(問題点解決のための具体的な提案)であり、単なる機器の展示だけではなく、現在の外食産業の抱えている問題点を具体的に解決できるような提案をするという物であった。

具体的にはスチームを使用することによる、熱調理機器の効率の向上が大きなテーマである。単にスチームで蒸すとか調理するだけでなく、スチームの熱効率をもっと活用するべきであるという視点から色々なセミナーが行われていた。

展示機器の特徴
スチームコンベクションオーブンの増加
当然今回の展示機器で多かったのはスチームを使用した調理機器である。米国はヨーロッパよりも調理機器については保守的であり、スチームコンベクションオーブンの普及は遅れていた。その理由はスチーマーとコンベクションオーブンの両方の機能があるという事はスペースのある米国のキッチンでは不要であり、スチーマー、コンベクションオーブンの両方をおいた方が、作業性が良いという誤解があったためである。特にスチームコンベクションオーブンのコンビネーション調理のメリットを理解していないためその導入が遅れていた。

其れが今回から各社が積極的に開発に乗り出した。米国ではスチームコンベクションオーブンの開発が遅れ、技術的な問題があり、ヨーロッパのスチームコンベクションオーブンメーカーによるOEMや技術提携による商品化が中心である。純米国産のメーカーはただ一社である。OEMの中心となっているのはラショナル社であり、ブロジェット、ヘニーペニー社に技術提供したり,OEM提供している。更に直接販路を開発するためにミドルビーマーシャル社とラショナルUSA社を設立し、積極的な販売活動に入っている、コンボスターもOEMで積極的な販売活動を行い、今回はガス式のオーブンを展示していた。

米国がヨーロッパと異なる特徴はガス式のスチームコンベクションオーブンが好まれていることであり、その為、ヨーロッパ各社もガスタイプの開発を積極的に行っている。 この保守的な米国でスチームコンベクションオーブンの販売活動が急に活発になったのには以下の理由がある。

大手FFのテスト採用、小型の多段式のSCOの採用
大手FFでスチームコンベクションオーブンを使用した小型のゼロキッチン計画が本格的になり、各種の高速調理のプログラムを開発中だ。そのために大手チェーンに調理機器を納入しているメーカーはこぞってスチームコンベクションオーブンの開発に乗り出している。
ホテルでの合理化、ブラストチラーと組み合わせたロールインオーブン
また、ホテル等でようやくスチームコンベクションオーブンの採用が本格的になったという背景がある。其れは単なる調理だけでなく、宴会料理などの2000人を越えるような大量給食の能力アップのためにクックチルが必用になり、その調理と再加熱機器として必用になってきた。
ホテルでは大量に調理、再加熱するのでロールインタイプの必要性が望まれ、写真のようにスチームコンベクションオーブン、ブラストチラー、加湿保温庫等が統一された大きさのものが開発されている。また、従来大型の電気式のロールインオーブンが主流であったが、ガスタイプのロールインオーブンが開発された。大手ホテルも電気容量の問題でガス式のロールインオーブンを待ち望んでいたようである。

このようにスチームコンベクションオーブンも単なる単品の調理機器からシステムの一貫としての位置ずけがなされるようになり、今後より一層の普及が見込まれるようだ。

チェーン向けの技術開発と製品の状況
従来は大手チェーンのために開発した調理機器はそのチェーン向けの独占仕様であり、一般市場では販売されないのが通例であった。しかし、最近はその方針が大きく変更され大手チェーンが開発した新商品の機器を即一般に販売するようになってきた。

従来の大手チェーンの調理機器開発の主眼は、そのチェーンの作業に最も適した調理機器を開発し、そのノウハウを多のチェーンにもらさない事であった。しかし、調理機器メーカーの開発技術が上がったことにより、どのメーカでも同様の調理機器を簡単に製造できるようになりノウハウの確立が無意味になってきた。また、景気の低迷で従来のような売り上げを維持することが出来ないという問題がでてきた。その結果、ノウハウの維持よりもコストダウンに主力をおき、どうやってコストを下げるかに焦点をあて始めた。簡単に言うと性能そのものよりコスト重視の時代となったわけだ。

調理機器をそのチェーンの専用の機器とせずに他のチェーンにも販売を許可するようにし、その代わりに量産効果により価格を引き下げることを要求しだしたわけだ。開発コストの負担も機器メーカーに負わせ、他のチェーンに販売することによる量産効果を最初に開発に協力したチェーンに与えるなどのフレキシブルな条件になってきた。また、開発したからといって、従来のように購入の約束をするわけではなく、最も値段の安い物を購入するようになった。そのため厨房機器メーカーは最先端の技術の調理機器を一般に販売し開発コストのリスクを分散するようになってきたのである。写真。大手ハンバーガーチェーン向けに開発されたクラムシェルグリドルの市販タイプ。トースター(米国マクドナルド社ではハンバーガーのバンズをトーストしなくても良いように改良したため、トースターの購入をストップしてしまった。品質に影響がでるかもしれないと言うことで他社では逆にトースターの品質アップを考え出している)。大手FFのフライヤー。

また、大手FFチェーンは積極的な海外への進出に伴い、コスト管理をより厳しくし出している。従来海外のフランチャイズの購入に任せていた調理機器の購入を合理化するために、米国本社による集中購買を世界中に求めるようになっている。これにより、各国の厨房機器メーカーの流通に大きな影響がでるであろう。

日本の厨房機器メーカーの姿勢の変化
前回のショーあたりから本格的な円高と、国内景気の底冷えにより、日本の厨房機器メーカーの参加姿勢が大きく変わってきた。従来は米国機器の真似や、技術導入が中心であったが、前回から、米国の調理機器を購入しようと言う姿勢で参加している厨房機器メーカーが増加している。以前と異なるのはその購入の理由である。従来は米国の調理機器は高価であるが、性能がよいので購入するというのであった。しかし、最近では、性能の割には値段が安いので、日本のユーザーのコストダウンの要望を満たせるから購入するという姿勢に変化しだした。

今回のショーでは実際に提携を結ぶケースが具体的にでてきていた。日本の大手厨房メーカーが本格的に米国大手と手を組み販売に乗り出そうと言うのは大きな変化であろう。写真はその提携相手の厨房機器。

また、厨房機器だけではなく客席内装材の輸入が行われるようになってきた。従来大手FFのみが輸入していたが、最近では新しいチェーンの日本展開により、より幅広く輸入されるようになってきている。

ステンレスのテーブルや、シンク、リーチイン冷蔵庫、アンダーカウンター冷蔵庫などの板金も輸入をしようと言う方向になってきた。もちろん板金を米国から輸入するのはコスト高であり、東南アジアの人件費の安い国で製造し(品質管理の点から設計はもちろん米国で行う。冷蔵庫のコンプレッサーも米国製の部品を使用し、ステンレスの外装と組み合わせる)東南アジアの各国に輸出しようと言う物だ、日本の大手FFで実際に輸入が始まっており今後目の離せない動きになりそうだ。米国大手チェーンは現在は価格戦争のまっただ中にあり、頭の中にあるのはコストダウンしかないと言う厳しい状況だ。そのためメインテナンスの必用のない機器は自分たちで直接輸入しようと言うドライな考え方がでている。

その他の機器
パワーサプライの導入によるレイアウト変更の容易化
ドライキッチンを本格的に導入し、シェフやメニューが変わった際でもレイアウト変更を容易にする必用がある。そのためには電気、ガス、水、蒸気の配管を組み込んだパワーサプライの導入が必用であり、日本でも此のシステムを導入しないとドライキッチンを達成するのは難しいのではないかと思われる。
小型スチーマーの導入による効率化、厨房環境の改善
栄養の問題からボストンマーケットのように鳥のあぶり焼きのチェーンが急成長しているが、付け合わせもそれに応じて、カロリーの少ないスチーム調理の物が多くなり、小型スチーマーが数多く出展されている。
小型オーブンの状況
Quadlux社製造のクオーツランプヒーターを加熱調理に使用するFlash Bakeは前回のショーから展示されていたが、約8000ドルと値段が高いのが問題であった。今回はコントロール関係を合理化コストダウンし値段を半分にしており、これから真剣な販売活動にはいるようである。その他インピンジメントオーブンとマイクロウエーブを使った高速オーブンがでてきており、今後小型高速オーブンがFFチェーンの小型店舗の増大とともに増加する物と思われる。
コーヒーマシンはもうエスプレッソの時代である
スターバックスの急成長に刺激されてか、コーヒーマシンはエスプレッソばかりであった。当然ホテルでもエスプレッソを提供するようになってきている。
クックチルの導入が本格化
従来のタンブルチラーかブラストフリーザーかの論議からより現実的な組み合わせをめざし、タンブルチラーの専業のメーカーもブラストチラーをラインに入れだしており、普及が加速するだろう。写真
保温カートの導入
FFやレストランのサービス時間の短縮のために加湿の保温カートが増加している。
刑務所のマーケットの増大により新機器機種の増加
栄養に考慮したメニューの影響でローティサリーオーブンなどが増加
キッチンデザインの状況 キッチンデザインコンサルタントの仕事状況はかなり厳しいものがある。ホテルの新設ラッシュがないため、仕事が無く老舗デザイン会社であっても開店休業という様な状態である。
キッチンデザインコンサルタントの仕事は従来大手ホテルがメインであったが、今後は給食センターの大型化による、セントラルキッチンの設計やテーマレストランなどの大型レストランが大きな仕事になるが、クックチルの知識があるかないかが仕事量を左右する状況になるだろう。キッチンデザイン業界は単なる設計というより、施設全体のコンセプト設計などに真剣に取り組み出している。つまり仕事をクリエイトしなければいけないからだ。

次回は今回の視察のもう一つのテーマであるクックチルの状況を見てみよう。

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