電気代の節約(日経BP社 日経レストラン1998年2月1日号)

電気代の節約
筆者は店舗で働いている時に色々省エネの装置をテストしました。照明の節約をしようとしてタイマーをつけて店舗の照明や看板が自動的に点灯点滅をするようにしましたが、停電などでタイマーが狂うと調整が大変で旨くいきませんでした。また、太陽光を使って水を加熱しようとして、屋上にソーラー温水器をつけ、温めた水を貯めておく大型タンクを厨房に設置しました。7年ほど元を取るのにかかるはずでした。しかし、ある時その水タンクの排水バルブが壊れ水が垂れ流しになっているのに気がつかず、永久に元が取れないほどの水道代を使ってしまいました。また、米国でも電気会社の援助による電気節約の装置をつけたのですが、その地域は市営電気会社の運営で援助金が出ないと言う大失敗をしたことがあります。省エネ装置を否定するわけではありませんが、まず、2年以内で節約できる物であること、使っている店舗を訪問してみてみることがポイントでしょう。

そんな金をかけるよりも従業員が工夫をこらして電気代を節約する方が遥かに効果があるようです。その方法を幾つか見てみましょう。

現状を把握する
電気の節約にはまず電気をどの位使用しているかを把握することから始めます。請求書のベースではなく自分で電気メーターを読んで計算します。その頻度は最低週に1回、できたら毎日計算し、売上と電気の使用量が比例しているか、昨年と比較して多くないかを見ます。

部門別の電気使用量の把握
現状を把握したら、何時、どんなところで電気を使用しているかを分析します。そのためには閉店後帰る前、翌朝一番、開店時間、昼の繁忙時間後、夜の繁忙時間後、営業終了後、と細かく電気メーターを読みどの時間帯で最も電気を使用しているかを見ていきます。そして、最も電気の使用量の多い時間帯の作業を見て、どうやって節約できるか考えます。

電気の使用量の多い部門とその対策
では使用量の多い部門別にその原因と対策を見てみましょう。

電気の請求書を見ると、電灯と動力の2つの請求書があることがわかります。電灯というのは照明や100V単相の保温機などで使用する電気を言います。動力というのは200Vで働く排気ダクトやエアコン、厨房で使用する火力の強い電気調理機器(電気スチームコンベクションオーブン、電気式ジェットオーブンなど)です。

電気代で一番使用量が多いのが冷暖房です。最近の冷暖房はヒートポンプ方の電気式空調機器を使用する場合が多いので、夏冬の電気使用量が多いのです。次に空調機器と同じ冷却原理を使用している機器も電気使用量が多くなります。その他は厨房等で使用する電気調理機器、照明などが続きます。

エアコンの管理
「温度設定」
冷暖房をする空調機器が最も電気を使用します。まず行わなければいけない対策は温度を正しく設定し、効率よく冷暖房できるように清掃をすると言うことです。温度設定は政府の省エネルギー基準を見ると夏場28、冬場18℃です。この温度で管理すれば効果があるのですが、お客様が不快感を持つ可能性があります。最適な温度は、お客様の在席時間と服装により変わるのですが、夏場で24ー26℃、冬場で20ー22℃というのが目安になるでしょう。従業員は忙しく動いているので夏は冷房を効かせ気味、冬は暖房が弱めになり勝ちですので、必ず顧客が快適かどうかを確認することが大事です。

空調機器にはサーモスタットがついていて温度を設定するとその温度で一定に保たれるようになりますが、空調機器がきいてくるまでに時間がかかるので、朝目一杯にに温度を上げたり下げたりします。忙しいときにはいいのですが暇なときには冷えすぎたり暑くなりすぎ無駄な電気代を使うことになるのです。サーモスタットの温度を正しく設定し、部屋の数カ所に温度計を置きお客が寒くないか暑くないか常時モニターします。温度計はテーブル面の高さに設置し定期的にチェックをします。

「太陽熱の遮断」
客席のガラス窓が南や西に向いているときには太陽が照りつけお客様を直接温め、且つ室内の温度を上げます。空調機器は強い太陽熱まで計算した能力を備えていないので太陽光線を遮断するようにカーテンなどが必要です。あまり遮断すると薄暗くなるので外は見えるが太陽光線を反射する樹脂製のブラインドを使用すると良いでしょう。

「新鮮空気の取り入れ」
冬場など客席を寒くするのが外気です。戸を開けると外気が吹き込んできたり戸の隙間から風が吹き込んで寒く感じさせます。厨房ではガスや電気で調理をしますがその際に排気をする必要があります。その排気量に匹敵する新鮮空気が必要になりますが、厨房に直接吸気口がない場合、客席の入り口などから空気を吸い込んで客席を寒くさせる原因となります。厨房には必ず新鮮空気の供給をするようにします。また、客席のドアーなどの隙間をなくすようにします。2重ドアなどの設備もあると雪国や風の強い地域では有効です。

「空調機器の清掃」
空調機器や冷却機器の清掃が電気代の節約に最も効果があります。まず冷却原理を理解しましょう。冷却機器というのは冷媒のフレオンガスを使用し、熱を異動させることで冷却したり、温めたりします。冷却機器は簡単に言うと、コンプレッサー、コンデンサー、エバポレーターで構成されています。

家のエアコンを考えてみましょう。室内の壁などに掛けてある風の吹き出す室内機と、ベランダなどに置いてある室外機に分かれます。冷房であれば、室内機から冷風が、室外機から温風が出るはずです。暖房時には切り替わって室内機から温風、室外機から冷風が出て、熱を異動させるわけです。冷房時には室内機がエバポレーター、暖房時にはコンデンサーとなって冷風、温風が吹き出して室内の空調をするわけです。このタイプをヒート

ポンプ式空調機と言い、最も普及しています。 熱の異動をするわけですからエバポレーター、コンデンサーに汚れがついていると熱の異動がうまく行かず、冷暖房が効かなかったり最悪の場合には機械が破損します。そこで、このエバポレーターとコンデンサーの清掃を定期的に行う必要があるのです。室内機にはエバポレーターにフィルターがついていますから定期的に掃除をしますが、調理の際の油煙やタバコの煙はフィルターを通過してエバポレーターフィンに付着し熱効率を落としますから、年に一回くらいは洗剤で洗浄する必要があります。室内機のタイプによっては自分たちで掃除できない場合があるので専門の業者に依頼します。室外機も同様で、定期的な清掃と点検(ファンベルトや電機部品の)が必要です。費用はかかりますが電気代が節約できて機械も長持ちします。冷蔵庫やその他の冷却機器も原理は同じですから清掃をしてください。

例えばコンデンサーが清掃され、目ずまりのないとき、1・5坪のウオークイン冷凍庫がー10℃のとき約10分でー20℃になります。ところがコンデンサーが50%の目ずまりを起こしていると、同じ温度を下げるのに倍の20分間もかかっります。コンデンサーの汚れのため10分間余分な電力を消耗するわけです。冷凍庫の規定温度を保つため30分ごとに冷却システムが作動するとすると1日24回動くわけですから、ウオークイン冷凍庫の定格電力が2Kw/hrとすれば単価が28円/Kwなので10分÷60分×2Kw×24回×28円×365日=81、760円年間に無駄に使用します。従業員が無造作にドアーを開け放すと、10℃位すぐ温度上昇をおこし、作動回数は増加し、さらに電気代を浪費するわけです。

調理機器の節約
調理ではガス機器を多く使用して電気の調理機器は少ないのが一般的のように思いますが、調理機器以外で随分電気を使用しています。その最大の電気を消費するのが排気ファンの作動です。ガス機器を使用しているときには換気のために常時排気ファンをつけておく必要がありますが、排気ファンの作動で電気を使用するだけでなく、空調した空気も無駄に廃棄するので案外電気代を消耗します。ですから、ランチライム後ディナータイムまでに調理をしない時間があれば排気ダクトを消すというのは大きな効果があります。

「排気ファンの風量」
ファンモーターの定格電力が3KW/hrであるとする。調理機器にあわせ、不要な時間は消し、それが3時間だとすると

3KW×3hr×@28円=252円
1年で252×365=91、980円の節約になります。
実際には、排気にともなう空調負荷も節約できるのでそのコストは年間20万円以上の節約になります。

「その他」
使わないときにはこまめに消すというのがポイントです。面倒くさいから、朝きたらすぐに全部の調理機器に点火しがちですが、それを開店時間に合わせて点灯、点火するだけでずいぶん電気代が違うはずです。パートタイマーのスケジュール表を使用し、点火時間と消す時間をスケジュール化すればこの無駄を節約できるのです。

照明の節約
照明というのは目に見えるので比較的管理がしやすいのですが、意識していないと管理がおろそかになり無駄な電気代を使いがちです。照明の管理は看板、店内客席、厨房、倉庫、事務所、休憩所などに分かれます。 まずやらなければいけないのは、客に見えない部分の節約です。忙しい時間は休憩室や事務所、倉庫の電気はこまめに消灯するように習慣を付けます。蛍光灯などを間引く場合がありますがトランスで電気が消耗するので、照明機器にスイッチをつけるなどの対策をします。蛍光灯を削減する場合には照度を保つために反射板などを取り付けて対処することもできます。又、各部屋毎に入り口に照明スイッチを取り付けて出入り時に消灯できるようにします。

看板も季節により周囲の明るさが違うので季節毎に点灯時間を調整します。タイマーがついている場合でも、停電などで時間が狂うので調整が必要です。看板は定期的に清掃したり、電球を代えて何時も明るい状態を保ちます。看板を明るくする必要がある場合には中の蛍光灯を増加するのではなく、高演色性の蛍光灯に代えるとか内部に反射板を取り付けると同じ本数で明るくなります。

客席は間仕切りがある場合は消灯しても問題がありませんが、消灯すると外から見て暗く陰気に見えるし、顧客も寂しい思いをします。営業時間と終業時間にあわせてきちんと点灯、消灯するようにします。どうしても照明を削減したい場合には、蛍光灯であれば高演色性の物にすると目で見た照度が上がりますのでそれに交換してから削減したり、壁や、天井などの色を明るくして見た目に明るくすると言う工夫が必要です。

客席の照明を設計する際に窓際の席と中の席の照明のラインを分けると日の当たる日中の照度を落とすことなどが可能ですので新規の設計の際に考慮しましょう。

最も効果のある電気代の節約
最初に申し上げたように省エネの機器を取り付けるよりも従業員の知恵の方が効果があります。勿論、ただ、「考えろ」と言う精神論的な方法では節約できません。従業員ミーティングでまず、電気代の節約の必要性を訴え、何処で電気をつかっているか、エアコンの作動原理はどうなっているか、と言う教育が必要です。そして、毎月勉強会を開き、目標を設定し、各担当者を決めてゲーム感覚で節約の競争をさせ、効果があった従業員の商品を出すなど楽しく省エネをすることが大事でしょう。

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