『旅館業における調理技術革新』(オータパブリケーションズ 週刊ホテレス1997年3月28日号)

日本の宿 古窯 の厨房設計に当たって
古窯の厨房に関わったきっかけ
2年ほど前のことだが、他誌元編集長の松坂健氏(現オフィス・アット・ランダム)からたまには旅館の世界も覗いてみなければいけないよと言われ、全国旅館環境衛生同業組合連合会青年部セミナーの講師を仰せつかり、旅館の厨房と言うテーマで恐れながら講演をさせていただいた。

趣旨は「旅館等は日本料理を日本独自の特別な料理であり、フランス料理、中華料理等とは違うのだ。技術革新は無理だ。合理的な調理機器なんか必要ない、包丁一本あればいいんだ、と思っている。そして、新しい料理や提供方法もしていないから若い客が離れているのが現状だ。しかし、世界のレストラン業界ではどんどん流行が変わってきてフレンチからオープンキッチンの無国籍料理になりつつありその筆頭がパークハイアットのニューヨークグリルだ。料理の鉄人の道場六三郎が赤坂で開いたブラッセリー六三郎では大胆にも洋風のオープンキッチンを導入し、ファミリーから若い世代まで大盛況だ。料理の鉄人の人気テレビ番組が、調理を見せることがレストランのサービスであるという定義付けをしてしまったのだ。どこの世界でも同じだが常に新しいことに挑戦し、客に新鮮さを与える必要があるのだ。」と言う過激な趣旨でお話をさせていただいた。

帰京し数日後、青年部の部長を務めている古窯の佐藤社長からちょっと話をしたいと電話があった。てっきり過激な話のおしかりを受けるかと思ったら、「あんたの話は面白い、和食でオープンキッチンを作ってみてよ」と言う話からこの大胆なプロジェクトはスタートした。

筆者の経歴
学校卒業後、家業の飲食店勤務を経て、レストラン西武のダンキンドーナツ部門で2年、その後マクドナルドで19年ほど勤務していた。外食産業では主に店舗運営部門をタッチしていた。その筆者が厨房設計の分野に関与するようになったのは自分たちが使いやすい厨房を設計屋が作ってくれなかったからだ。

マクドナルドでは冷凍のハンバーグパティを焼いたり、冷凍のフレンチフライを大量にフライするのであるから、火力の強いグリドルや、フライヤーが必要になる。当時は日本の厨房機器メーカーはそんな機械を製造していないので、まず米国の調理機器を導入したが、日本のガスはカロリーが低くて使い物にならなかった。しかし、厨房機器メーカーや、技術陣はその必要性が理解できず改善してくれなかった。しょうがないので、東京ガスなどの都市ガス供給メーカーに相談したが、当時の業務用の機器の知識と言えば溶鉱炉などのデーターを持ってくるような有様で全く参考にならなかった。そこで、米国のマニュアルを元に店舗の機械を分解、改良し、必要な改造を加えていった。計測に必要な温度計も自ら開発した。機械だけでなく、マニュアルの翻訳発行、原材料開発、工場の製造機器開発まで幅広く行った。

その結果、調理機器の能力は向上し、1時間で50万円の売上高を上げることが出来るようになった。ハンバーグパティーだけだと最高1500枚も焼ける能力になった。

しかし、機械だけでは問題解決をすることは出来なかった。それはドライブスルー店舗の出現だった。厨房の能力が幾らあってもドライブスルーの車を捌くレイアウトがきちんとしていないと売り上げが取れないし、客席の能力と駐車場のバランスをとらないと無駄が出てしまうと言うことがわかった。そのため店舗の設計の段階から、開店後の運営まで一貫して関与するようになった。

米国は全て同じ厨房で標準化が出来ていて、同じ店舗をどんどん出すだけだから簡単であるが、日本は土地の狭さの制約から一店一店厨房や客席のレイアウトを変更する必要がある。そのため、設計が悪いと使い勝手が悪く売り上げが取れない。また、狭いので日本独自の効率の良い小型店舗の設計が必要だった。そんなわけで、とうとう全国運営統括部長という店舗運営担当と、厨房機器開発やレイアウトをする機器開発部長を兼任し、設計から店舗運営までさせられるようになった。かれこれ数百店の設計から運営までの経験をした。このためどんな設計が問題あるか、どうすればよいのかという特別注文の設計のフィードバックを経験でき、ユーザーが使いやすい厨房をいつの間にか設計できるようになってきたというわけだ。

良く勘違いするのだが厨房設計は工学的な知識が必要で設計図をきちんと書かないといけないと思っていることだ。設計の基本は現場の作業をする人が使いやすく、効率が良く利益が出る物でなくてはいけないと言うことだ。筆者の師匠は米国マクドナルドの効率の良い厨房の基本設計をした故ジム・シンドラー氏だ。日本の初期の店舗を設計した時に指導を受けたのだが、設計を見て驚いた。彼は放浪の民ボヘミアンの血をひいた多芸多才な天才だった。設計図など使わない。店舗の紙ナプキンにレイアウトをすらすら書いていく、簡単に言うとスケッチだ。そのレイアウトを厨房設計業者が捧げ持って清書してくる。驚いたのはその簡単なスケッチにはもの凄いロジックが隠されていたことだった。

そして、一緒に店舗を回るとその理由を事細かに説明してくれる。彼の設計は厨房だけでなく店舗建築、看板、客席レイアウト、カラーデザインまで全て含んでいた。現在マクドナルドで使っている、クラムシェルグリルという高速調理が可能なサンドイッチグリルもオリジナルは20年以上前に彼が基本設計した完全オートメーショングリドルだ。その彼から厳しく教えられたのは現場の作業の把握と使いやすさに徹底するという現場第一主義だった。

ジムシンドラー方式の設計方法は徹底したカスタム設計だった。現在の日本の厨房もそうだが、普通の厨房設計は使いにくい場合が多い。それは普通の設計はレディーメイドの設計で誰でも合うように最大公約数で設計されて言うから、体に完全にフィットするわけには行かない。カスタムテーラーの場合には、何回も仮縫いをし、本人のデザインの希望を聞き作って行くわけだ。手間と金額はかかるが体にフィットするから飽きないで長く着ることが出来、結果的に経済的になるわけだ。厨房も同じだ、手間をかけてもきちんとした設計であれば長く使えその分経済的になる。

マクドナルドというとハンバーガーだけしかないと思われるが、実はフレンチの一流のシェフを採用し、フレンチレストランを運営したりその他ありとあらゆる料理のテストを繰り返し、商品開発を行っている。効率よく売れて利益が出れば何でも販売することを可能にしている。その経験と家業の飲食店(和食、中華、洋食)から4年ほど前、小売り、外食のコンサルタントとして独立した。

中心はチェーン店舗経営のコンサルタントだがその中で、厨房システム設計という分野の必要性がある。ファーストフードでは、米国の大手チェーンの日本への進出に併せて、日本で扱っていない調理機器の代理店の選定から設計、保健所との交渉、レイアウトの変更を行ったり、大手丼物チェーンの和食居酒屋のコンセプト設計、大手食品スーパーの総菜厨房など、コンビニチェーンの新業態であるオープンキッチンのイタリアンレストランなど普通の設計の方が面倒がってやらない仕事が多い。

設計の手順
古窯の厨房設計でとった手順を見てみよう。
現状を観察し、施主の要望を聞き、コンセプトを固める
まず古窯を見学させてもらい、調理長、佐藤社長とじっくり打ち合わせを行った。最初に佐藤社長に確認したのは、調理人の事だった。ホテル旅館の場合、調理司会から派遣されている例が多いが、会から派遣されている調理人の場合には厨房の改善などにあまり積極的でなく保守的だからだ。しかし、古窯の良かったのは調理人を会社で育てているという事だった。

次に調理メニューを見てみた。筆者は日本旅館の和食が好きでない。その最大の理由は、好きな時間に好きなメニューを食べられないと言うことだ。特にありきたりの、刺身、天ぷら、茶碗蒸し、冷たい(だけでなく堅い)先付け、旅行代理店の要望に添った品数を補うためのどうでも良い料理など、何の特徴もない料理が多い。それだけではなく、温かい天ぷらや焼き物が冷めている場合が多く、美味しくないと言うことだった。

その最大の原因が部屋出しと旅館の巨大化だ。元々日本旅館は小規模な形態からスタートしたのがどんどん大型化し、巨大な旅館が出現するようになったのが旅館の食事をまずくした最大の原因だと思われる。大型化したのに厨房を1カ所で、料理の移動装置をつけた形態が最悪の物である。料理は如何に厨房から顧客の前まで迅速に持っていくかが基本だ。

古窯の場合は以前から部屋出しから料亭方式に変換しており顧客になるべく近い状態で調理をしようとしている事がわかった。更に、料理もありきたりの物でなく個性を持っていた。つまり売り物があるという事だ。

古窯は銀座に和食の店「古窯」を営業している。オープンキッチンで有名になった新宿のパークハイアットの和食レストランの開店に当たり、前任の調理長がパークハイアットの和食部門である「梢」の調理長にスカウトされていたのだ。パークハイアットの和食に田舎料理はないだろうと思っていたのだが、実はホテルの格式張った懐石料理に食べ飽きた人たちに大好評なのだ。ニューヨークグリルばかり評判になっているが実は最近密かな人気を集めている。

Menuメニュー写真1を見てみると山形のありきたりの田舎料理ではない。米沢牛という売り物を持っている。山菜などの山形の特徴を出しながら、メインに牛肉のたっぷりした料理を持ってくるので、熱々で美味しいしく意外性と満腹感で満足させることになる。

牛肉のメニューは、山形名物の芋煮、ビーフシチュー、パイ包みビーフシチュー、すき焼き、冷しゃぶ、ステーキ、ヒレ肉網焼き、等、ステーキ屋もびっくりするくらいのメニューだ。牛の品質にこだわる佐藤社長はチャンピオンの牛を仕入れ、年数会パーティーを開いている。

これだけのメニューを持っているのに、写真2写真2のようにレストランであるようなガスレンジとフライパンで調理しているから、人海戦術になる。また、ステーキにような調理早いてからすぐに食べないと冷めて美味しくなくなる。そこで年に数回開くパーティー時には、写真3写真3のような屋台を宴会場に並べて調理する。しかし、所詮は仮設の屋台だ。500人もの顧客が来るからなかなか捌くことが出来ない。そんな背景から佐藤社長は本格的なオープンキッチンの構想を作り出したわけだ。

佐藤社長の古窯新館の構想は、隣接地の800坪を購入し、従来のコンベンションホールの500人収容の花笠座の他に、新館を増築し新たに1030平方メートルの大コンベンションホールを新設する。そこに本格的なオープンキッチンを設置する。更に2階にあった料亭やまびこを拡張し、茶寮葉山を新設、ここにもオープンキッチンを置き顧客にアピールするというものだ。

従来の、旧厨房は仕込み室として残すが料亭の厨房はなくし、洗浄コーナーを設置する。旧厨房と新設の2階料亭厨房と、コンベンションホールのオープンキッチンとはバーチレーターと言う移送機でつなぎ、食材を移動したり、3階コンベンションホールの食器を回収する。など、既に全体の構想は出来上がりつつあり、総面積、場所まで大体枠組みが出ていた。厨房施工業者も大手厨房メーカーに決定しており既に仮の厨房図面まで出来ている状況だった。

そこで、調理長との細部の打ち合わせと、仮の図面を見ながら。現場の調理作業を見ることにした。厨房設計においては現場の調査をすることが最も大事だからだ。

調理現場の調査と調理方法の検討
厨房メーカーが設計図を引いたのだがそれを見て驚いた。仮の図面ではあるが、設計者が現状の厨房の使い勝手を検討しないで図面を引いているのだ。これは厨房業者のいわゆるレディメードの厨房設計になる。新設の厨房であればそれでも良いだろうが、改造計画の厨房であれば調理人の調理手順を見てそれが更に向上できる様にしないと、使いにくいという不評を買う。

厨房の増設は往々にして調理人の増員が必要になる。現在何人の調理人が居て、それが何人増加しないと運営できないかというソフト面も考慮しないと後で使い勝手の良くない厨房になる。とかく厨房を統一し、大型にする方が効率がよいと思うようだが、客や仲居さんの立場から考えると違うのだ。仲居さんにとっては、厨房から近い方がやりやすいし、離れているのなら、パントリーに保温庫や冷蔵庫の増設が必要だ。厨房の設計は調理人の使い勝手、仲居さんの動き易さ、客の満足度などの総合を考慮しなければならない。

また、従来より提供食数が増加するが、人件費はなるべく押さえたいという要望に応えるには、合理的な品質の上がる調理方法も提案できなくてはいけない。調理場の熱調理が何時までもガス台と焼き物機、フライヤーでは向上の余地がないではないか。

また、調理場ばかりに気を取られて、洗浄ラインの設計が十分ではなかった。和食は洋食に比べ使用する食器の数は5倍近い。まず、現在の洗浄機の使用状況、皿の数、などをしっかり把握しないとならないわけだ。旅館の食器洗浄は食器の数が多くかつ形状が複雑で、茶碗蒸し、ご飯類などの食材のこびりつきが多い、そのため洗浄液に食器を浸漬しておき、汚れが柔らかくなったら、全てを手洗いで汚れを落とし、食器洗浄機にかける。食器洗浄機の役割は温度をかけた殺菌効果にすぎない。そうすると、食器を予備浸漬しておく大きな浸漬槽と、手洗い作業に従事する作業員の作業スペースを十分の考慮する必要がある。調理人は調理に詳しいが洗い場には殆ど注目してないから案外軽視しがちで、当初は2階の料亭は良い食器を使用するから全部手洗いで行くと言う乱暴な意見を出していた。

現状はどのような調理方法を行っており、それをどう改善出来るを具体的に提案できるように、現場の状態をしっかり把握し、調理場の状態を忙しいとき、暇なとき、の色々な状態を頭の中で描かれるようにまで観察を続けた。   どのように作業を進めるか、冷蔵庫の位置は右手にあった方がよいのか、左がよいのか、調味料はどのくらい必要でそれをどこにおくのか、どの料理にはどんな調理器具が必要なのか、どんな調理方法で調理するのか、など具体的な提案も必要になる。

また、厨房を一回設計すれば少なくとも10年は使はなければならないから、最も合理的な調理機器をいれておかなくてはならない。

さて、調理から改善できる点はないかと見てみた。先付けでホタテの照り焼きを出している。新鮮なホタテに照り焼きのタレをつけて上火の焼き物機で焼いておき、冷たい状態で提供するものだ。ホタテにしっかり火が通るように焼くと直径が生の時に半分まで縮小し、堅くて美味しくない。また、焼きタラバガニを出すのだが、足に食べやすいように切れ目を入れてから焼く。色を綺麗に付けるように途中に返すが、その際に切れ目から美味しいかに汁が流れ出てぱさぱさしている。朝食の魚も焼いておくのだが、冷めると堅くて美味しくない。

その他の焼き物ではパイ生地包みのビーフシチュウが名物だ。ビーフシチュウを容器に入れてからパイ生地をかぶせオーブンで焼くわけだが、ガスレンジ組み込みの温度コントロールの出来ないオーブンで目で見ながら火加減を調整して焼くわけだから、時間はかかるし、焼け色が安定しない。

以上のように焼き物が多いのでその品質を上げるために、スチームコンベクションオーブン(以下SCOと省略)を導入した。SCOというとコンベクションオーブンに蒸気を足しただけのように思いがちだが全く異なる機械だ。SCOは密閉性が高く食品が乾燥しない。スチームジュネレーターで蒸気を発生させ、庫内に送り込み、庫内のヒーターまたはガスパイプでさらに熱を上げるシステムになっている。蒸気というのは、1気圧の大気中で1グラムの水を摂氏1度上げるのに1カロリー必要であるが、それを摂氏100度で気体にさせると537カロリーが必要になる。その蒸気の中に摂氏100度以下の食品を入れると、表面が露結する。温度の低い食品の表面と触れた水蒸気によって、食品に537カロリーが伝わり、蒸気が液体に戻るのである。オーブン内部では、この現象が連続して起こっており、水蒸気の蒸気潜熱537カロリーはその食品に集中して伝わる。こうして食品の加熱は急速に行われる。調理が早く、庫内を水蒸気で満たしているため、加熱後の食品はうま味成分が逃げずおいしさが増す。

ホタテやタラバガニの食感は柔らかくぷりぷり感が残り縮みがない。冷めても柔らかく美味しくなる。特に、貝類、蟹、エビ、白身魚の調理には最適だろう。

また、パイ包みビーフシチュウのようにパイ生地が膨らむタイプのものはあまり風速が強いと膨らみが歪になったり、焼きムラが出来る。SCOは風速の調整と逆回転が出来るので、完璧な焼き上げの状態を再現できる。

調理を見ていたら冷シャブを夏に提供している。薄切りの肉をフライパンでさっと火を通してから冷まして提供するものだが、色が白っぽくなり食欲をそそらない。SCOでローストビーフの塊を焼き上げ、冷めてから薄切りにすると綺麗なピンクの冷シャブが出来上がる。SCOは芯温センサーと言って肉の塊の中心温度を設定して焼くことにより焼き上げ温度を正確に仕上げることが出来る。まず、外側を綺麗に焦げ目を付け次に、摂氏100度以下の低温で焼くことにより全体が綺麗なロゼに焼き上がる。写真4写真4。プログラムにより有名レストランと同じ焼き上げをアルバイトでも可能になるのだ。

SCOの導入に当たって注意しなければならないのは、メーカーの選定だ。SCOと言ってもメーカーにより性能は大幅に違う。導入に当たっては調理長と一緒に何回も実際にテストし性能を確認して機種を決定した。

その他の新しい調理機器は、両面同時に焼けるブラスト式の両面焼き機だ。下火から焼く焼き物機は電氣ヒーターが多い。電氣ヒーターの表面は摂氏900度ぐらいまでに上がるため、汁が垂れてもパシッと飛んでしまい煙が出ないからである。ところが電気式のヒーターは食品が乾いてしまうと言う欠点がある。

ガスの場合は、下に赤外線のヒーターがあり、その上にガラスのかバーがかぶせてある。赤外線ヒーターの上に直接汁が垂れると穴が詰まってしまうためカバーをかけるが、ガラスのカバーは摂氏600度ぐらいにしか上がらない。そのため、汁がこびりつき煙が濛々と上がる。小刻みに外して掃除をしなければならない。

それが、100%の新鮮な空気を入れて完全燃焼させて高温にするブラストバーナーという新しい技術により、備長炭のように摂氏800ー900度まで上げることが可能になった。上火は赤外線で両面焼きをするため、従来の半分の時間で綺麗に焼き上がる。ひっくり返す必要もないの。この両面式の焼き物機をオープンキッチンに入れることにした。 またオープンキッチンにはステーキ用にグリドルを入れ、1200人の宴会でも対応できるようにした。

佐藤社長からのオープンキッチンでの指示は、グリドル、フライヤーを客の方に近く見えるようにしてほしいと言うことだった。普通のオープンキッチンは開口部と逆側の壁側にグリドル、フライヤー等の熱調理機器を置く。ガス機器などは燃焼空気の排気熱があるからだ。そこで、グリル、フライヤーは電気タイプにして対処した。筆者は別に電気厨房派ではないのだが、このレイアウトをとるに当たっては電気式が最適だった。

設計した図面を元に検討を何度も繰り返す
以上の流れで、調理長や担当者と一緒に調理機器を選定した。機器の選定後はレイアウトを書き、それを基に検討を進めていった。

その中での大きな変更はコンベンションホールのオープンキッチンの後ろに大型の調理室がほしいと言うことだった。そうすれば2階の料亭の厨房とダイレクトにエレベーターでつながっているのでやりやすいと言う論拠であった。確かに人に集約を考えるならば必要だろうと言うことで変更をした。このように10回以上は図面の書き直しを実施、検討を加えた。工程上レイアウト案を筆者が考案し、図面は厨房業者が起こすという形態をとっていった。

途中での大きな変更の必要性
途中で大きな変更の必要性が出てきた。保健所から「衛生上の観点によりコンベンションホールの後ろに大型厨房を置くのはまかりならぬ」と言う厳しい指導を受けた。色々な事情から厳しい指導を受けたわけで、それを受け入れざるを得ず、設計を大変更し、コンベンションホールのオープンキッチンの背後に大型洗浄コーナーを設置し、2階の旧料亭を残すことにした。

また、種々の事情により調理長が入れ替わるという状態となった。最終的には銀座古窯の調理長が責任者となり落ち着いた。しかしながら再度にわたる調理長の変更により、現在の調理長はあまりレイアウトを理解しないまま開店を迎えるという、仮縫いして出来上がった洋服を他の人が着るような予期せぬ状況になってしまった。 開店後やはり色々な問題点が出現した。コンベンションホール背後の大型厨房が出来なかったお陰で、配膳台が不足し宴会が多いときに間に合わないのだ。そこでとりあえず、旧厨房の洗浄コーナーを撤去し、配膳台を増加した。

もう一つ予期しなかったことは、食器庫が不足したという事だ。コンベンションホールの増加は予測していたのだが、料亭のグレードがあがったため食器類の数が増加してしまったという事だ。これの対処のために急遽部屋を一つつぶして対処している。

また、当初なれないためか原材料移動のためにバーチレーターが旨く動かないなど色々な問題が発生した。

結果
昨年の暮れに新規オープンし、全国旅館環境衛生同業組合連合会青年部の年次総会で1200人と言う大宴会が立食式でコンベンションホールで開かれた。筆者も前日からローストビーフを焼き上げるのを手伝いに言ったが、もの凄い熱気を感じさせる宴会を何とか無事に終わらせることが出来て一安心であった。

色々な方がご覧になったと思うがまだ欠点だらけだし、問題点に気がつかれたことだろう。勿論改善点も多々あるが、先にも申し上げたようにこの厨房は古窯のためにカスタムメイドで作ったものであり、同じようなメニューや状況でない旅館には合わないからだ。

この厨房を他の旅館で作るには3つの条件が必要だ。まず、佐藤社長のようなもの凄い情熱、会社で抱える技術革新に積極的な調理人。美味しい特徴のあるメニューだ。

写真5写真5 写真6写真6 写真7写真7
写真5は二階料亭の入り口にあるオープンキッチン、魚料理、寿司、ステーキの調理を見せている。 写真6はその内部だ。 写真7はコンベンションホールのオープンキッチンの外観だ。会議中に必要ないときにはシャッターを締め、音を遮断できるようにしている。

写真8写真8 写真9写真9 写真10写真10
写真8写真9はその内部でグリドルだ。写真10は両面焼き機だ。

今後の課題
現在の最大の課題は、料亭の厨房能力が不足しているという事だ。そのために今後、厨房面積と作業体系を含めた対策をおこなう。

また、朝食をコンベンションホールのオープンキッチンを利用して出すことにより、調理人の労働時間が長くなるとか、厨房の数と距離が増加し、疲れてしまうなどの労働条件上の問題点も出ている。それに対しては、朝の専門の調理人をパートで採用するなどの(女性でも可能なような設備をしている)対策を考えていく。 衛生面の向上もまだ改善する必要があり、調理後冷却して時間がたってから出すものに関しては急速冷却するクックチルの導入、仕込み室と調理場の完全な遮断等、旧厨房の改善が大きな課題として残されている。 まだまだ色々改善が必要だろうが、現場に使いやすい形に改善することが厨房の完成度を高める秘訣であり今後に期待していただきたい。

参考図面
2F茶寮葉山厨房 3Fコンベンションホール厨房 Open Kitchen

なお、厨房の技術論に関してなかなか良い本がないので、興味のある方は筆者が厨房業者専門誌の月刊厨房や他誌に連載した厨房設計論を、筆者のホームページに掲載してあるのでご覧いただきたい。

著書 経営参考図書 一覧
TOP