新しい衛生管理HACCP 第1回「新しい衛生管理のHACCPとは何でしょうか?」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1999年1月4日)

1)食中毒の現状
30年も同じやり方でやっていて今まで問題ないのだから、これからも大丈夫なんだと言う声を聞きますが、本当に大丈夫でしょうか?従来のインフレ経済が、デフレ経済になり、料理の値段を下げなくてはいけない時代が来ているのと同じく、衛生管理の世界でも大きな変化を迎えているのです。 食中毒菌も新型の菌が続々と誕生して、思いがけない新たな事故が発生しています。その一つが、堺市の病原性大腸菌O157による食中毒事件です。しかし、O157だけでなく、実はその他の食中毒菌による事故が増加しています。
その数字をみてみましょう

表1
過去の食中毒発生状況
(厚生省生活衛生局食品保健課発表データ)
年度 事件数 患者数 死者数
1983年 1,095 37,023 13
1984年 1,047 33,084 21
1985年 1,177 44,102 12
1986年 899 35,556 7
1987年 840 25,368 5
1988年 724 41,439 8
1989年 927 36,479 10
1990年 926 37,561 5
1991年 782 39,745 6
1992年 557 29,790 6
1993年 550 25,702 10
1994年 830 35,735 2
1995年 699 26,325 5
1996年 1,217 43,935 15
1997年 1,843 39,233 8

表2
1993年度と96年度、97年度の
細菌別発生件数(判明したもの)
細菌 93年 96年 97年
サルモネラ 143 350 499
ブドウ球菌 61 44 51
ボツリヌス菌 2 1 2
腸炎ビブリオ 110 292 556
病原大腸菌 37 179 148
ウエルシュ菌 9 27 22
セレウス菌 6 5 10
エルシニア・エンテロコリチカ     3
カンピロバクター 14 65 217
ナグビブリオ 1 3 3
その他の細菌 1 3 16
食中毒自体はここ10年ほど減少していましたが、96年を境に増加に転じました。食中毒の原因菌のトップは、相変わらず海産物を原因とする腸炎ビブリオ菌ですが、93年はサルモネラ菌がトップになり、それ以来増加をつづけているのが注目されます。

サルモネラは鶏卵や鶏肉に多くみられ、卵を生で食べる習慣のある日本で、食中毒事故が増加しています。以前は卵の殻にサルモネラ菌がついていましたが、サルモネラエンテリテュディスは鳥の卵巣に存在し、卵内部を汚染するようになりました。そのため、従来は常温流通や常温保管でも問題はありませんでしたが、今後は冷蔵流通、冷蔵保管が必要になってきます。

食鳥を汚染している菌としてサルモネラ菌の他にカンピロバクターがあり、それによる食中毒も急増しています。

2)米国の食中毒の現状
病原性大腸菌により過去大きな食中毒を出した米国でも消費者の食中毒に対する関心は高まっています。そこで米国の消費者雑誌のコンシューマーレポート98年3月号
http://consumerreports.org/で食鳥の細菌汚染の情況を調べました。米国人はカロリーと、コレステロールなどの懸念から、ビーフから脂肪分の少ないチキンへ消費をシフトしています。鳥の消費量は米国人一人当たり1987年の58ポンドから、1997年には74ポンドに増加しています。その結果チキンの生焼けなどに起因する食中毒が増加しています。CDC(米国中央疾病センター)の報告では88年に対し92年では(正確なデーターの最新版)3倍の増加です。

米国に於けるサルモネラの食中毒患者は年間に70万人から400万人であり、死者は2000人を越えるそうです。カンピロパクターは(1977年に食中毒菌として認識された)新しい菌でありながら食中毒の一番の原因となっており、700万人から1100万人が患者となり、死者は110人から1000人となっています。

コンシューマーレポートでは正確さを期するために、全米36都市、5週間の期間、で1000羽の鳥を購入しました。

その結果

63%のチキンからカンピロパクター
16%のチキンからサルモネラ
8%のチキンは両方に汚染されていました。
29%だけが食中毒菌に汚染されていなかった
と言う恐ろしい結果がでました。

日本では同様のデーターはないようですが、やはり危険度はかなり高くなっているのではないかと予想されます。食生活の変化が食品衛生管理でも新たな対策を必要とするのです。

3)常識を破る新型食中毒
また、従来は食中毒は食中毒菌に起因する物を言いましたが、最近はウイルス性の食中毒も仲間入りしました。冬の間は生牡蠣は安全な食べ物の筈でしたが、最近は小球形ウイルスに汚染された牡蠣による食中毒が増加しています。これも従来の常識を打ち破る物ではないでしょうか。 4)食中毒を起こしてからでは遅い
生業店でチェーン企業に対抗できる数少ない業態が回転寿司で、鮮度の高い海産物を安価に提供することで大繁盛が可能なのです。その中でも急成長の**港は中央線沿線の一号店の大盛況の元に、2号店を横浜に開き飛ぶ鳥を落とす勢いでした。ところが北海道の野付物産の引き起こした大腸菌o157に汚染されたイクラを提供し、店舗から食中毒患者を出してしまいました。この事件で、急速なチェーン展開をもくろんでいた同店は大きな打撃を受け、驀進的な勢いはなくなってしまいました。

今後の老齢化の時代や、細菌に対する抵抗力の少ない若い世代の増加により、場合によっては食中毒による倒産という厳しい状態も予測されます。中小飲食店こそ食中毒への万全の対策をおろそかに出来ないのです。

従来の衛生管理のやり方は博打と同じで、偶然当たらなかっただけです。そんなやり方では絶対に食中毒を発生させないと言う保証は出来なかったわけです。景気の良い時代は多少の食中毒事故を起こしても何とかなりますが、昨今のように景気の厳しい状況下では食中毒=倒産の怖さがあるのです。

このシリーズでは絶対に食中毒を出さない方法を皆さんと学んでいきましょう。

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