新しい衛生管理HACCP 第11回「殺菌する その1 水質と除菌」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1999年12月20日)

「殺す=殺菌=殺菌剤」
殺すとは穏やかな表現ではありませんが、厨房は食中毒菌と殺すか殺されるかという、熾烈な戦いなのです。今までは、食中毒菌をつけない、増やさないということをお話してきました。しかし、どんなに注意していても、ほんのちょっとしたミスや手違いで、食中毒菌は食材に進入してきます。従来は多少の食中毒菌の量であれば発病はしないし、生命に危険がないのが常識でした。しかし、堺市の学校給食事件で明らかになったように、従来は危害を加えないはずの大腸菌が進化を遂げ、幼い命を犠牲にする大規模な食中毒事故を起こしました。しかも従来の常識と異なりほんの少しの病原性大腸菌O-157で発病する事がわかったのです。

ですから、食べる前に食材は必ず殺菌を行い、危険のないレベルまで食中毒菌を削減する必要があるのです。

水洗いと水質

食中毒というと魚や生肉などを原因とすると思いがちですが、野菜も危険なのです。土壌中には嫌気性の食中毒菌が存在しますし、魚や生肉を触った手や包丁でそのまま触った生野菜などによる食中毒も多いのです。あの堺市の食中毒事件も生野菜が原因ではなかったかと言われています。

さて、野菜は水洗いを行えば安全だという迷信があります。大きな問題は水の汚染です。 過去の事例を見て見ましょう。

食品スーパー 札幌の食品スーパーで大規模な食中毒事故がありましたが、その原因は使用していた井戸が汚水に汚染されていたのが原因でした。
学校 堺市の事件の数年前に埼玉県の白鷺幼稚園で大腸菌O-157による食中毒が発生し、死亡者を出しました。その原因も井戸水が汚染されていたのが原因のようです。
米国 米国でも大腸菌O-157の食中毒事件は多いのですが、その最大の原因は水です。米国は工業国であると同時に農業国でもあり、広大な牧場が国中に点在しています。病原性大腸菌O-157は牛の大腸中に存在するので排便と一緒に周囲に巻き散らかされ、雨などにより、河川に流出します。その水を飲料としたり、河川で泳ぐことにより人間の体内に入り食中毒を引き起こすわけです。

2年程前に生のりんごジュースから大腸菌O-157が発見されました。その原因を追求していくと、果樹園で菌に汚染された土壌に落下したりんごが汚染され、殺菌をしない生ジュースだったため汚染が広がったのです。

このように水も安全ではありません。普通の水道水は浄水場でろ過殺菌をされていますから安全なはずですが、それでも年に1回の水質検査が必要です。安全なはずの水道水でも、屋上の高架水槽や受水槽に水を貯めてから配水する場合は、そのタンク内で汚染が進む可能性があります。タンクにひび割れが入っていたり、動物が侵入したり、点検口が開いていたりすると食中毒菌が混入する恐れがあるのです。

水道であっても年に一回の水質検査をしなくてはならないのです。水質検査は地元の保健所などに持ち込みます。

また、井戸水の場合はより注意が必要です。多くのお客様に料理を出す飲食店であれば、基本的に井戸水は使用しないほうが安全でしょう。どうしても井戸水を使用しなければならない場合には、殺菌剤を一定量混入できる装置を使用し、毎日、殺菌剤の混入状況をチェックするという注意を怠ってはいけません。そして、井戸水の水源を確認し、水源の経路の汚染を引き起こす施設ができていないかどうか常に確認をします。

除菌

上記の注意を守って安全な水を使って野菜を洗えば食中毒菌はいなくなるかというとそうではありません。野菜などを水洗いするだけでは菌は少なくなりますが(除菌という)、殺菌ができるわけではありません。水道水は少量の殺菌剤を含んでいますが、野菜を殺菌するほど十分な殺菌剤を含んでいるわけではないからです。保健所では学校給食のような大規模の給食施設において野菜の水洗いをする場合には、殺菌剤を使用することを推奨しています。殺菌剤は、次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用します。次亜塩素酸ナトリウム溶液は法定代用消毒剤として幅広く使用されている殺菌剤です。

この殺菌剤も使用方法を間違えると効果が出ません。まず、正しい濃度を使用することが重要です。一般的に100PPMから200PPMというのが正しい濃度です。また、この濃度で殺菌した野菜はそのあと、清潔な流水で殺菌剤を洗い流すことも忘れてはいけません。

水のフィルターの注意

水道水には塩素系の殺菌剤が含まれていますから、塩素臭などがして美味しくないということで、最近はカーボンフィルターなどで塩素などのカルキ分を取り去るフィルターが販売されています。確かに塩素分のない水を飲むと美味しいのですが、塩素分がないということは殺菌効果もないということです。フィルターの出口の部分に付着した細菌がフィルター内に進入し増殖するという危険性があります。

一晩置いて朝水を飲む場合にはフィルタータンク内の水を一度流し、新しい水を飲むという注意も必要です。飲食店などで営業用に使用する場合には、営業用のより大型の安全な水フィルターを使用しなくてはなりません。

営業用の安全な水フィルターの条件は、塩素分をろ過した水中の残留細菌が増殖しないようになっているか、または殺菌をするということです。そのために紫外線を照射したり、オゾンを発生させて殺菌をします。一番安全なフィルターはその両方を備えているものです。
以上

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