米国繁昌店シリーズ 第1回「アウトバックステーキハウス」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1999年5月17日)

米国はチェーンレストランが圧倒的に強く、個店の繁昌店は少ないように思われるが、どっこい繁昌店はあちこちに存在する。米国ではチェーン志向が強く、マクドナルドやバーガーキング、企業でいうとペプシコからスピンアウトしたトライコン(KFC、ピザハット、タコベルと言う業態を傘下に持つ)などの巨大飲食業が育ち寡占化が進んでいる。しかし、米国でも個店の大繁盛店はあるし、超繁昌店から新しい形態のチェーンになっていった外食店舗もある。

10年前にフロリダのタンパというリゾートの町でアウトバックステーキハウスというステーキレストランが誕生した。10年後の現在は世界で650店のレストランを経営するまでに成長している。このチェーンは3名の外食のプロが作ったレストランだ。

食のトレンド
当時、米国では健康問題から牛肉離れを起こし、より脂肪の少ない鳥やターキー料理の人気が出始めた。新規事業だからトレンドを分析し、鳥などの料理を扱うレストランを考えるのが普通だろ。しかし、彼らは単なるトレンドだけでなく、実際のレストランの現場を分析していった。消費実体を分析してみるとスーパーや小売店などで購入して家で調理する場合は牛肉を購入しないで、鳥やターキーなどを購入するようになってきている。しかし、外食の場合、米国人にとってのご馳走であるステーキを食べるというのが主力であることが分かった。そこで周囲の反対を押し切ってステーキチェーンを展開することにした。

味のこだわり
米国でステーキを売り物にしているレストランは多い。そこで特徴を出すために先ず、個性のある味を出そうと心がけた。牛肉の味のポイントはグレードの高い肉を熟成して旨味を最大限に出すことであり、そのために独自の飼育プログラムを作成し、飼育業者に委託して飼育から熟成に至るまで独自の管理基準で品質管理を行った。

店舗では基本的に全て生の食材を使う。冷凍は海老などのごく一部であり、冷凍品を使うのが一般的なベークドポテトやフライドポテトなども生のポテトから店舗で加工する。ソースやドレッシングは全て店舗でマヨネーズ、バター、スパイス、等をミキシングしてフレッシュな物を使用する。デザートなどもアイスクリームを除いて全て店舗で調理する、等の新鮮さを売り物にした。

肝心の味の点では独自のスパイスを売り物にする。人口の南への移動を背景に、ニューオリンズのケイジャン風のスパイスの効いた味を目指した。商品開発を担当した創業者の1人はニューオリンズの有名チェーンで働いた経験を生かし、その味をステーキやソースに取り入れたわけだ。

生活のトレンド:カジュアル化
米国では重工業からソフト産業へ産業の変革が起こりだした。新興産業は労働組合の組織率が高く、人件費の高い北部五大湖周辺の重工業地帯を嫌い、土地と人件費の安い、テキサス、メキシコ、フロリダなどの南部で会社を興した。また、団塊の世代の老齢化は定年退職後、気候の温暖な南部への人口移動を促した。その結果、南部に於ける人口が増加し、南部の習慣、味を知るようになった。

コンピューター産業などの新興産業は毎日がカジュアルな服装であり、南部という温暖な気候はカジュアルな服装へのトレンドに拍車をかけた。従来のステーキハウスは高級であり、重厚で、堅苦しいサービスが特徴であり、客のカジュアルな服装にそぐわなくなってしまった。

そこで、彼らは店舗のテーマをオーストラリアの自然(以前はやった映画のクロコダイルダンディーのイメージ)とし、従業員も半ズボンやポロシャツのカジュアルな恰好をさせ、本格的なステーキを気楽な雰囲気で食べられるようにした。

サービスも強化した。普通のレストランは1人のウエイターの担当テーブル数は4テーブルが普通だが、それをきめの細かいサービスの出きる2テーブルにした。座った客を立ったまま見下ろして注文を取ると威圧感がある。そこで、隣の席が空いていればそこに座り、席がなければ床に膝を着いて視線を同じレベルに会わせて、くだけた口調で注文をとると言う演出を付け加えた。

チェーン理論の欠点:従業員のやる気
創業者の3名は以前、カジュアルダインイングの創始者であるブリンカーインターナショナルなどで働いた経験があり、チェーンレストランのデメリットを認識していた。チェーンレストランは成長期には順調に店舗をのばすが、店舗がある程度古くなると売り上げが低下を始めると言うことだ。チェーンレストランは経営効率を重んじるから、新規開店の際にはベテランの店長を配置し、従業員の採用、トレーニングを行わせ、一番忙しい新規開店を行わせる。数ヶ月して店舗の状態が安定すると、ベテランの店長は次の新規開店の任務に就くのだ。その後任として新規の経験の浅い店長が就任する。人間であるから前任店長の雇った従業員と新任の店長が旨く行く方がおかしいわけだ。人間関係がぎくしゃくすると面白くなくなった従業員は退職し、顔の知った顧客も店離れをおこす。これがチェーンレストランの最大の欠点のわけだ。

そこで、店長と言う従業員ではなく、出資をするマネージングパートナーとして5年契約をする事にした。マネージングパートナーは25000ドルと言う大金を投資し、パートナーとなる。給与は年俸45000ドルの他にキャッシュフロー(利益と減価償却)の10%を受け取る。平均では11万ドルという米国のレストランの平均の3倍もの給料となる。同じことは本部にも言える。チェーン企業は事業の拡大に伴い、スーパーバイザーや地区運営部長、地区本部のための地域支社の設置、本社人事部、総務部など管理部門が肥大しがちだ。そこで地区の本部長もパートナーとなり、5万ドル出資する。年俸はマネージングパートナーと同じで45000ドル、インセンティブとしてキャッシュフローの9%をもらう。店舗のマネージングパートナーと異なり自分の担当店舗全体のキャッシュフローの9%だから結構な金額となる。そのかわり、地区支社はなく、自分の家にFAXと電話、パソコンを設置し、管理業務に当たる。店長ではなく、マネージングパートナーだから、チェーン店のような厳しい管理は必要なく、無駄な人間はいらない。マネージングパートナーの定着性がよいから社員やアルバイトの定着も良く、そのため本社の人事部や総務が必要ない。その結果本社の人員は店舗数650店に対して30人しかいない。超軽量の本社なのだ。その結果10年経過して、マネージングパートナー以上の職位で退職したのは10人もいないと豪語している。

勿論、インセンティブだけが定着性に貢献しているのではない。アウトバックは原則としてランチ営業をしていない。ランチ営業をすれば売り上げは上がるだろうが、客単価が低いので利益が出ない割には従業員の労働時間が長くなるのでやらない。従業員は週5日、一日8時間の労働を基本として、仕事を一所懸命した後は遊べる余裕のある環境を実現している。

経営者のやる気も大事だ。社長のオーサリバン氏がタンパという田舎に本社を構えた理由は単純だ。一週間に5日仕事をしながらゴルフが出きる場所を探したらタンパになったのだという。そんな経営者の遊び心が楽しい会社を作った原動力の一つだ。

アウトバックステーキハウスの経営手法は1店舗1店舗繁昌店を築き上げ、気がついたら巨大なチェーンとなったことだ。個人営業の店舗にとって大いに参考になる手法だ。今年の10月には同じ手法で日本に一号店開店の準備中であり、これから注目するべきレストランの一つとなるだろう。

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