米国繁昌店シリーズ 第9回「惣菜のイーチーズ」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞2000年5月15日)

米国お総菜(HMR)状況
第一回目 eatzis イーチーズ

Home

ボストンマーケットがお総菜HMR市場に火をつけた
景気の沸騰している米国では共稼ぎの主婦が多く、一食に使える時間は15分間と短い。そのためにボストンマーケットというチェーンがローティサリーチキンという鳥の丸焼きと新鮮なサラダ、調理済みの温野菜(手作りのマッシュポテトが大人気だ)、家庭で焼くコーンブレッドを武器に急成長を遂げた。このボストンマーケットが作り出した言葉がHMR ホームミールリプレイスメント つまり、家庭の食事代行と言う言葉だ。

本来は食品スーパーの片隅で調理したローティサリーチキンなどを細々と売っていた。主婦から見るとそんなみすぼらしい食事を買うのはちょっと恥ずかしい、貧乏人に見られるという引け目を持っていた。そこに登場したボストンマーケットはイタリアン風の外装とシンプルだが洒落た店内で、目の前で4-5台のガス大型ローティサリーオーブンが

赤々とした火でもってじっくりと焼き上げ、注文後、それらを切り分けるという、手作り感のあふれる高級な店造りで大成功したのだ。

HMRと言う新しい言葉を造り上げたが、ジャンルとしてみれば外食の新業態と言えるわけだ。この業態は外食チェーンの売上げを浸食するのではなく、従来の食品スーパーのお総菜部門から売上げを取り上げようと言う形態であったので、食品スーパー業界もこの業態に注目を始めた。

食品スーパーの売上げを分析してみると長期的には食材を生から調理をするという消費形態は衰退するという事は明らかであった。また、食材のみを販売しても粗利益は25%前後と低い。ボストンマーケットのような総菜を調理してすぐ食べらられるように売れば、少なくても50%うまくいけば70%近くの粗利益を確保できるのだ。

食品スーパーの逆襲 MSミールソリューション
そこで食品スーパーのFMIと言う(フードマーケティングインスティテュート)団体がが、HMRの分野特にボストンマーケットに対抗しようと言うことでMS(ミールソリューションという言葉を生み出した)を提案した。

FMIはボストンマーケットの提唱したHMRを徹底的に分析を行った。その結果わかったのは

1)晩ご飯だけでは便利ではない
従来の食品スーパーに総菜を買いに行くとあちこちに総菜売り場が分散していたり、売り場全体が広いので時間がかかるという欠点があった。しかし、ボストンマーケット等の店舗は面積も小さく車で乗り付けて(場合によっては電話で事前に注文を入れられる。)数分で買い求めることができて便利だと言う事で人気がでた。

しかし、ボストンマーケットを良く分析してみると彼らはすぐ食べる食事しか提供していない。例えば、主婦がパートタイムの仕事の後にあたふたとボストンマーケットに駆けつけて,数人前の食事を買ったとしてもそれだけでは夕食であり、朝食のミルクやパン、フルーツ、コーンフレーク、たまご、野菜、等は,別途食品スーパーで買わなくては行けない。晩ご飯だけを考えれば便利だが、朝晩の食事を考えるとそう便利でもないと言うことだ

2)人の家に食事によばれたときのお土産はどうするのか
また、家庭のパーティに招待を受けたときにはお土産をもって行かなくてはいけない。米国人はお土産や、お歳暮お中元の習慣は無いと勘違いしやすいが、そこは同じ人間同士、必ずお土産やお歳暮の習慣はある。お歳暮はどちらかというと親しい友人や親族同士での贈り物で、クリスマスの際に1年間の感謝を込めてギフトを贈る。クリスマスギフトは子供だけでなく大人も贈るのだ。家の食事に招待するというのは外食に招待するよりもより心のこもった接待となる。親しくなったり、仕事上の友人を家庭に招待する。招待された側は必ず手みやげを持ってくる。それが、きれいな花だったり、美味しいワインだったりする。その花の選択やワインの選択で招かれた人のセンスがわかってしまうわけだ。

と言うような分析の結果から食品スーパー内で、ボストンマーケットのように店内で調理を行うようになってきた。大手のクローガーやアルバートソン、セーフウエー等もこぞって店内調理に力を入れた。すべてオープンキッチンで総菜だけを買いに来る客が便利なように入り口に一番近い場所にサラダバー、サンドイッチバー、ホットデリコーナー、パン、調理済み食材、を配置し、同時にワイン、チーズなどをすぐ側に置き、一度にすべての買い物が可能になるようにした。勿論、食事に招待された時のお土産に便利なように花とワイン売りはレジスタの外に置いて買えるようにした。

こうして食品スーパーの総菜は外食のボストンマーケットと同等以上に戦えるようになったのだが、どうもそれでも十分でないことに気が付いたのが、今度は外食畑のフィルロマーノだ。

天才イタリア人シェフのイーチーズの衝撃
ボストンマーケットや食品スーパーにはときめきがない
最初の内はボストンマーケットの斬新さに人々は群がったがよく考えてみるとボストンマーケットには調理人がいない。まるでファーストフードのようにアルバイトが調理している。よく考えると従来の食品スーパーと同じではないか。

逆襲に転じた食品スーパーのお総菜も同じだ。米国の食品スーパーは日本とは異なり昔から対面販売を行ってきたから、食肉売り場にオーブンなどの調理機器を導入し、調理をすることはたやすかったのだが、当然の事ながらプロの調理人がいるわけではなく、ボストンマーケットのようにアルバイトが淡々と調理をするだけであり、胸がときめくような美味しさにあふれているわけではない。

そこで天才イタリア人シェフのフィルロマーノ氏がイーチーズと言う超繁盛のお総菜屋を作り上げたのだ。フィルロマーノ氏は外食の天才と言われ、グルメハンバーガーチェーンであるファドラカーズやマカロニグリルなどの数多くの繁盛チェーンを創業している。そして、ダラスを中心にカジュアルテーマレストランのマルチコンセプトを展開している、ブリンカーインターナショナル社と共同でこのイーチーズを作り上げた。

フィルロマーノは世界中のお総菜売り場を回り、従来の総菜売り場の欠点とその改善策を見いだした。一番の欠点は効率を重んじる食品スーパーの総菜売り場はきちんとした売り場ではあるが、客を興奮させないと言うことだ。しかもその場所で調理をしていないのではないか?セントラルキッチンで造り冷凍で運んでいるのではないか?アルバイトが調理をしているのではないか?という不信感を感じさせると言うことだ。

そこで

1)客に興奮させる店造り
店の入り口を入ると左右に大型のベーカリーオーブンと、ホテルの調理場にあるような本格的なキッチンが広がっている。つまり、客は大型のホテルの厨房に迷い込んだような印象を受ける。キッチンは左右だけでなく店内の壁面はほとんど調理場となっている。

入り口の大型キッチンにはホテルで使っているのと同様の大型のスチームケトルでソースやスープをすべて手作りで作っている。ボストンマーケットで大人気のローティサリ-チキンも生の鳥の段階から処理をしている。

そして入り口から中に入ると中心にはできたての総菜を並べた巨大なショーケースがあたかもレストランのディシャップテーブルのようにところ狭しと並んでいる。思わず衝動買いをしてしまう。

2)調理人が調理する
総菜というと調理済みの食材を売っていると思いがちだが、イーチーズではすべて原材料から店舗で作るようにしている。そして従業員のほとんどが調理学校を出た調理人で校正されている。つまりプロのコックが料理をしているのだ。そしてそれぞれのコックは客の質問に的確に答えられるようになっている。客は安心して買えるわけだ。

3)注文により本格的な料理を作り上げる
客の要望は色々ある。時間がない人はできあがった調理済みのお弁当やサンドイッチ、寿司を(今米国では巻きずしが大ブームだ。寿司がない店は高級食品スーパーと見なされない位だ)買って帰るが、時間の十分にあり好きな料理を食べたいという人の為に、サンドイッチ、サラダ、ホットデリのコーナーが用意されている。

サンドイッチの場合、まず、どんなパンを使うか指定する。一般的な白いパン、白目のライ麦パン、黒いライ麦パン、ソフトロール、ハードロール、等6種類ほどのパンを選定する。次に中に入れるコンディメントだ。ケチャップ、マスタード、マヨネーズなど幾種類もそろっており、好きな種類を指定する。そして、具を指定する。具も好きな物を指定でき、サンドイッチコーナーに無い具材でも、魚や生ハムのコーナーに行って持ってきてくれる。そして、好きなチーズ、ピクルスと野菜を指定する。時間はかかるが自分の好みのサンドイッチを作ってくれるわけだ。サンドイッチは日本で言うと立ちの寿司だ。お好みの調理をしてくれる高級な食事になるわけだ。サラダも同様に、入れる野菜からドレッシング、トッピングを選定できる。

圧巻がホットデリコーナーだ。ここでは大型の薪釜と薪のローティサリーオーブンが赤々と燃えている。中央のショーケースにはステーキやローストなどの生の肉を置いてある。それを買ってこのコーナーでお好みのステーキに焼き上げてもらう。チキンの好きな客は一羽毎でも、1/2でも好きなだけカットしてくれ、マッシュポテトや温野菜を付け合わせてくれる。流行りの料理テックスメックス系の熱々のベイビーバックリブも楽しめるし、ピザが好きな人は目の前でドウにトッピングをして焼き上げてくれる。高級イタリア料理店であるような本格的な薪釜で焼き上げるのだ。

4)パン、デザートを目の前で焼き上げる
ベーカリーでは冷凍生地から作るのではなく、粉から練って発酵させ手で整形している。米国は人件費が高くインストアーベーカリーの店舗は大変少ない。そこでイーチーズでは冷凍生地を使わず粉からこねているところを見せて価値観を出している。店舗に入った客はベーカリーコーナーから立ちこめる焼きたてのパンの香りと、美味しそうな手作りのケーキやペイストリーに思わず見とれ帰りには買って帰らざるを得なくなるのだ。

5)最高のワイン、チーズ、ハム類を集める
従来の食品スーパーは客単価を気にして高級なワインの品揃えが弱かったが、イーチーズではレストランに置いているような高級なワインの品揃えをして、舌の肥えた客の要望に応えるようにした。

フィルロマーノはニューヨークのデリを研究し、総菜として高級な生ハム、チーズ類は必要不可欠なことを感じた。そこで、サンドイッチコーナーの横に独立したコーナーとして生ハムとチーズのコーナーを設けた。

日本の食品スーパーの優劣を判断するのは新鮮な魚介類、特に刺身の鮮度、そして、高級な手作りのお新香、お漬け物をどの位そろえているかだ。魚の鮮度で仕入れの能力がわかるし、漬け物で材料加工に対するこだわり(どれだけ添加物のない食材や産地にこだわっているか)がわかる。

米国の生ハム類は日本人にとって鮮魚と同様の位置づけで、その店の格が決まってくる。チーズは食後に食べる口直しであり日本のお漬け物と同じで色々な味が必要だ。主菜の肉がいくら良くてもこの生ハムとチーズの鮮度が低いと台無しになるわけだ。

6)小さいけれどワンストップショッピングが可能
食品スーパーのように巨大な店舗だと買い回るのに疲れるが、イーチーズでは晩ご飯だけでなく、翌日の朝食に必要なパン、フルーツ、乳製品を取りそろえて顧客の便宜を図っている。

イーチーズはダラス、ヒューストン、アトランタ、などに3店舗開店し、1店舗8ー10億円と言う巨額な売り上げを誇って世界中の注目を浴びた。そんな食品スーパーや総菜店の総攻撃を受けたボストンマーケットは99年12月に会社更正法を申請し、今年になりマクドナルド社の買収提案を検討している程、ダメージを受けてしまった。

しかし、大成功のイーチーズも一時はニューヨークにも2店を出店したが、ニューヨークの2店は成功せず、撤退した。西海岸のサンフランシスコにも店を出そうと物件まで入手したが、あきらめざるを得なくなった。その原因は地元の競合と味の地域性だ。次回はその競合の多い西海岸のお総菜状況を見てみよう。

著書 経営参考図書 一覧
TOP