業種・業態別動向 「イタリアンレストランの動向 」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1998年4月6日)

現在イタリアンレストランが大流行だ。最近オープンした駅ビルなどを訪問すると半分以上がイタリアンだったりする。この傾向は日本だけでなく米国でも同様だ。まず米国でイタリアンがはやっている状況を見てみよう。

1)米国の状況
戦後に生まれた団塊の世代は米国で最も大きな人口となり、老齢化につれて人々は、昔食べていた味を求める回帰現象が起きている。それがお袋の味、英語でいうとカンファタブルフードだ。アメリカ人にとってのおふくろの味はミートローフ、マッシュポテト、フライドチキン、ラザニア、ミートボールスパゲッティなどのイタリア家庭料理であり、料理のジャンルでトップの伸びを示している。イタリアの移民が多かったという理由もあるが、米国人にとってイタリアのお母さんというのは料理上手だというイメージがあり家庭の食事で良くイタリア料理を出していたというのがお袋の味=イタリアン料理という理由だ。

イタリアンをはやらせているもう一つの原因が企業社会の慣習の変化だ。官官接待や、企業の官庁の接待は実質的にできないと言う側面もあり,日本の様な高級料亭やフランス料理の接待は元々少なかった。それがここ10年ほどの間に更に厳しくなり、米国内はもとより海外の取引でも接待の金額の枠を設定したり(役所では20ドルくらいであるが、企業でも100ドル以上は報告の義務があるのが一般的だ)、贈賄を禁止する倫理規定を企業は取り入れだした。

レーガンが開始した規制緩和と減税も大きな影響をレストランに与えている。減税を行うために税制のシンプル化を行い、従来会社の経費控除として認められていた接待交際費の適用が大変厳しくなり、接待は個人の金で行うようになってきた。個人の累進課税も同時に軽減したので、個人でも払えるようになった。

その結果、接待は少なくなり、食事は個人的に親しい接待か友人との会食,家族の団らんに変化した。米国の景気を支えているのはコンピューター産業などの若い産業であり、従来のホワイトカラーのようなダークスーツでなく、チノパンツにポロシャツ,スニーカー(今や革靴よりも高価だ)を身に纏うのが当たり前になってきた。そんな服装でみんなでわいわい楽しくやりたいのだから,従来のような堅苦しいサービスをするフレンチレストランでは対応できなくなってきた。しかしながら,バブルの洗礼を受け,味や雰囲気にうるさい客を満足させるには,美味しくて,カジュアルな雰囲気で楽しい料理をリーズナブルに出さないといけないと言う難しい課題を課せられた。それに対応するのが,イタリアンだったわけだ。

勿論米国のトレンドレストランも料理の頂点を極めたフランス料理の影響が強く,フランスの料理界に修行に行く例が多い。その米国のレストラン業界に大きな影響を与えたのが、ヌーベルクジーンと言う新しいフランス料理だった。従来の重厚なソースを使う伝統的なフレンチから、懐石料理などのように見た目に美しい健康によい料理が誕生し、フランスに修行に行った米国人に大きな影響を与えた。元々米国は豊富な農業国であり、特に気候が温暖な西海岸では豊富な野菜などの食物があふれていた。そして有名なレストランがどんどん誕生した。フランスに修行に行ったシェフの一人のウオルフギャングパックはロサンゼルスでスパーゴというレストランを開いた。元々はカリフォルニアフレンチであったが上記の状況によりより、トレンディーなカリフルニアイタリアンの名声店となった。この影響を強く受けてオープンキッチンのカリフォルニアピザキッチンがチェーン展開をしており、最近の日本のオープンキッチンのピザレストランに大きな影響を出している。ウオルフギャングパックも自分の名前をつけたピザレストランを開店し、ロサンゼルス空港にもあるほど地元名物の一つとなっている。

2)日本でイタリアンがはやる理由
この米国で大人気のウオルフギャング・パック氏が日本にも大きな影響を与えている。氏はキハチの熊谷喜八氏やクイーンアリスの石鍋裕氏とフランスの修業時代に交流をしていたのだ。

熊谷氏は日本に帰国後,神奈川県・葉山のラ・マーレ・ド・茶屋料理長として新鮮なイワシやアジなどの地の魚を使った料理でフレンチのキハチの名声を確立した。しかし、その氏が東京に進出後独立し、開業した青山キハチ、セラン、銀座キハチ,と出店するにつれフレンチではなく、イタリアンが中心の無国籍料理に変革を遂げた。そして、無国籍料理であったセランをイタリアンに変え大繁盛店に仕上げている。

この背景を見てみると、バブルがはじけてフレンチの値段が取れなくなったことと店舗展開を進める中での味の均一化の問題があった様だ。フレンチに必要なソースはコストが高いだけでなく,レシピーかも難しいという問題を抱えていた。また、濃厚なソースが日本人に受けていたかというと、正直言って日本人の胃袋には重すぎると言うのが実態だろう。イタリアンは比較的にシンプルな味でパスタやピザなど日本人に人気のある食べやすいメニューがあるのが人気が出てきた大きな理由だろう。

3)繁盛している店の理由
イタリアンを大きく分けると,有名シェフのいる高級店(客単価8000円以上)、雰囲気の良い中級店(客単価3000ー6000円),カジュアルな店(3000円以下)に分かれるだろう。

高級店
以前は客単価2万円を越える高級店がイタリアからきたというふれこみだけで繁盛していたが、バブルがはじけてから余程の特徴がないとやっていけないようになってきた。アクア・パッツアやリストランテ・ヒロの様に有名なスターシェフが必要になる。または,イル・ボッカネロの様にサービスに工夫を凝らさなければならない。

帝国ホテルはプルニエをイタリアンに変更して大盛況だ。だからといって単にフレンチからイタリアンに変更して成功するというわけではない。帝国ホテルは女性向けの宿泊キャンペーンを長く続けており、その顧客リストを活用した販売促進がイタリアンとぴったりと合ったという事だ。

大阪ハイアットリージェーンシーのバジリコも大盛況だが、メニュー構成に工夫をこらし、関西で好まれる魚介類,特に、オマール海老のパスタなどを出して人気を呼んでいる。味だけでなく店の雰囲気もカジュアルでありながらしゃれた雰囲気を醸し出して立地が悪いにもか変わらず大盛況だ。このゾーンの店舗はかなり特徴が必要だ。

中級店
フレンチ等から客を取っているのがこの3000ー6000円のランクであり、その代表はセランだろう。元は無国籍料理と言うことで色々な料理を出していたが、特徴を出さなくてはいけないためにイタリアンに特化し、3500円からのコース料理を出して、雰囲気と相まって大繁盛している。この客層は圧倒的に女性や若いカップルであり、フレンチのような硬い雰囲気でない、カジュアルなサービスが売り物だ。キハチもそうだがこの店は特に顧客との会話が楽しめるようにしており、顧客の年齢層に近い従業員を採用し積極的なサービスを心がけている。特にオープンキッチンと神宮外苑というオープンスペースを使い独特のファッショナブルな雰囲気を醸し出している。

柏の16号線沿いにあるコメスタも何でこんな場所に繁盛店があるのだろうと不思議な店だ。しかし、オーナーやマネージャーの顧客を楽しませようと言う雰囲気作りで大人気だ。興に乗ってくるとマネージャーが突然カンツオーネを歌ってくれたりする。

カジュアルな店
このゾーンは更に色々分類ができる。

[パスタとピザ]
イタリアンのメインのマーケットが日本人の好きなピザとスパゲッティを出す店だろう。このジャンルでは本格的なイタリアンよりもカリフォルニアイタリアンのカリフォルニアピザキッチンやウオルフギャングパックを参考にした店舗群だ。ベリーニカフェ,カプリチョーザ、アマート・アマート,タント・タント、ピエトロ,パッパガッロなどが代表だ。価格はやや低めで2000円前後と、ファッショナブルでなくなったファミリーレストランに飽き足りない若者を集めて大人気だ。このジャンルはピザとパスタ、サラダをしっかり充実させている。店の雰囲気はオープンキッチンでカジュアルで気楽に入れる。

カプリチョーザやパッパガッロなどは大人気で開店前に行列ができるほど人気だがその最大の理由がボリュームだ。サラダやスパゲティなど思わずため息が出るほどの(2人前くらいの)分量が出てくるのが人気が続く理由だろう。

[和風パスタ]
渋谷にあった壁の穴(今は経営が代わりチェーン化をしている)が始めた和風スパゲッティも強い人気がある。その流れを汲んだのはハシヤ、ピエトロのパスタ、アルデン亭等であり、根強い人気を持っている。

スパゲッティは茹で上げの腰の強い本格的な麺を使用する。当然の事ながらオープンキッチンスタイルのカウンターがあり、料理を楽しませるという工夫が必要だ。和風のアサリや、納豆、キムチ,明太子などの他に魚介類をつかったり、フライパンで炒める場合も醤油味など徹底的な和風の味付けが重要だ。

[女性向け居酒屋]
パスタとピザの店は繁盛しているのだが,女性の比率が多すぎ客単価があまり取れないと言う欠点を補うのが、女性向けの居酒屋としてのイタリアンだ。その代表的なのがツチ・バヌーチだ。

ダスキンが米国シカゴのレストラン王と言われている、リチャード・メルマン氏の率いるレタスエンターテインユー社との提携で作り上げたレストランで、6年前に大阪の江坂に1号店を開店した。しかし、最初の2年ほどは大苦戦を強いられ、大きくコンセプトを変更した。特にメニューを日本人に会うようにした。サラダでイタリアンと言えば本格的なフレッシュモッツエラニアチーズとトマトのメニューを出していた。しかしチーズの日持ちが悪く、原材料コストも高いので一皿2000円で売らなくてはいけなかった。材料費は高いのに日本人の口に合わず売れなかったわけだ。

その対策として日本人に合う味の開発を行った。イタリヤや米国ではチーズは安いのだが日本は高い。その柔らかな触感からヒントを得て、日本で安くて好まれる豆腐を使い、ドレッシングを中華風にしたサラダを考案した。その結果このメニューが一番人気となり、2200円だった売価を590円にしたが、20倍の売上となり、利益も出るようになった。また、居酒屋からヒントを得て、座ったら飲み物と同時に出るような日本でいう突き出し風の低価格のメニューも考えた。

更にサービス面でも色々工夫を凝らした。ナイフ、フォークをバスケットに入れテーブルに置くだけでなくお箸をつけた。そして、ピザなどを出すときに大きな業務用のトマト缶をテーブルの上に2つ置きその上に木の皿に置いた大型のピザを置いたりして、他のテーブルに座った客が思わず追加注文したくなるような工夫を凝らした。従業員はアルバイトが中心だが、時間と働ける曜日を3ヶ月単位で決めるなど固定客の確保を心がけた。

内部固めと同時に外に対するアピールを向上させた。元々やや暗い落ち着いた店の雰囲気で何屋かわかりにくい、値段が高そうと言うイメージがあったので、外に目立つように大きなトマトの看板とメニューコルトンを出し、気楽に入れるようにした。

その結果オープン後は低迷し、1900万円まで売り上げが落ちたものを、月商3000万円を超えるまでに回復させ繁忙月には4000万円を売るほどの大繁盛店に仕上げた。

女性向けの居酒屋であり、客単価2500円、75%が女性客だ。そして居酒屋と同じく10名以上のパーティーのニーズが高い。イタリアンをよく考えたら、大盛りのスパゲッティ、大きなピザ、ざっくり盛り合わせたアンティパス等,みんなでわいわいがやがや突っつき合う日本の居酒屋と同じではないか。これがこれからの繁盛の秘訣だろう。

4)これからの方向
イタリアンが成功している一番のポイントはカジュアルでファッショナブルということで女性に人気があるという事だろう。特に女性を意識した居酒屋というのは大変わかりやすいコンセプトだ。

料理として大事なのは求めやすいグラスワイン,たっぷりとした量のピザとスパゲティ,サラダだ。女性客だから味付けだけでなく、盛りつけの綺麗さや意外性が大事だ。そして決定打はデザートだ。どんなに美味しい料理を出してもデザートがまずいと2度ときてくれない。デザートは決して手を抜いてはいけないと言うことだ。最後は店の雰囲気とデザインだ。トレンディーな店の雰囲気の中でフランクなサービスをきっちりと提供できたら成功間違いない。イタリアンも多すぎてこれから差別化の時代が始まる。自分の店の位置づけをどう置くか明確に取り組む必要が出てくるだろう。

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