業種・業態別動向 「回転寿司の将来」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1998年10月5日)

回転寿司は2つのジャンルに分類することができる。繁華街立地と郊外型の回転寿司だ。

1)繁華街立地
繁華街立地の典型的な例は渋谷の回転寿司群だ。繁昌しているチェーンが幾つかあるが、この回転寿司を冷静に分析してみると、繁華街立地のFFとしての回転寿司と、立ちの寿司を低価格に提供するための回転寿司とに分類できる。

8月の後半のある雨の日に3店の回転寿司の店を訪問した。築地本店と、天下寿司、びっくり寿司、台所家だ。築地本店は全品一皿100円という低価格で渋谷一の繁昌回転寿司だ。時々雨が強く降るなか、夕方の7時半で外に列が50名ほどできていた。最後尾に並びどの位時間がかかるか見てみた。25分ほどで店内に入れたのでこれで食べられると思ったら、店内にはさらにカウンター周囲に25席のウエイティング用の椅子が並んでいる。合計で35分ほど待たされてやっと席に着けた。食べ初めて驚いたのは客層が従来の寿司とは全く異なると言うことだ。10ー20台の若者が中心でまるでマクドナルドで食事をしているような印象だ。若いカップルもいる。驚いたのは50席ほどもある席に座っている全員が箸を使って食べているという事だ。最近は箸で寿司を食べる人も増えたが、全員が箸を使っているのを見るのはカルチャーショックだ。小僧寿司などの持ち帰り寿司や回転寿司のパイオニア元禄寿司で育った世代が多くなっているという現象だろう。

全品100円だから、この3つの回転寿司の中では品質はそれだけの物であるが、客が品質に無頓着なのかというとそうでもない。見ていると回ってくる皿に目を凝らして旨そうか、新鮮なのかを吟味している若い男性が数人いる。こんな価格帯でも品質を追求しているのだ。

同じジャンルの天下寿司は道玄坂を少し登った場所にあり、特Aロケーションの築地本店に比べると落ちる場所であるが、満席だった。この店は全品120円均一で、築地本店よりも価格は高いが、米、ネタの質は築地本店より上で、客層は20代以上の比較的落ち着いたそうになる。特徴なのはこの3店で唯一外人が多くいたという事だ。

この2店は繁華街立地の回転寿司の特徴である、回転をねらっているという事だ。100円とか120円均一と言うことで、若い人たちにも安心感を持たせて腹一杯食べさせようと言うことだ。普通寿司屋というのはビールなどの酒類を飲みながら食べるし、お勧めするのだが、この両店とも酒の量や滞席時間の制限を設けている。単価よりも回転を考えているからだろう。

観察していると、客単価700ー900円と言うところだろう。こんな安い単価でありながら寿司ロボットを使用していないで手握りだ。これだけ売れて入ればすぐ旨くなるし、速いと言うことだろう。

同じ渋谷の回転寿司のびっくり寿司は130円から390円、台所家は120円から500円と均一の値段ではない。両者とも立ちの寿司の業態をどうやって安く提供できるかという観点から適正なネタと値段を追求しているのだ。このため築地本店や天下一よりも単価が高くなるので客層がもっと男性の年輩客が増えてくる。当然値段もうっかりしていると立ちの寿司屋と変わらなくなる。びっくり寿司は元々立ちの寿司からスタートし、今でも同一のブランドで両方の業態を展開しているが、その立地により両者を旨く使い分けているようだ。このジャンルでは一番ネタの品質はよいが値段も良いという当たり前の商売をしている。

しかし、このジャンルの寿司は今立ちの寿司の低価格化が始まっているので中途半端な品質や値段付けをすると衰退する危険がある。比較的リーズナブルな価格帯の築地寿司清いが店を構えている銀座店の前に梅ヶ丘の美登里寿司が店を構えた。あの強い寿司清が、値段体系を変えたり、値段表を店舗前の出すなど大慌てだ。美登里寿司はチェーン展開を開始しており、3000円台でかなりの品質とお値打ちを打ち出した美登里寿司は積極的なチェーン展開を開始しており、びっくり寿司あたりも安閑とはしていられないだろう。このジャンルの回転寿司は常に立ちの寿司よりもお値打ちを出すと言うことを忘れては池ないだろう。

繁華街の回転寿司の経営のポイントは回転率を高めること、価格をきちんと表示し一見客や若い客に安心感を与えることだ。繁華街の場合並ぶことを想定し店内に待つスペースを設けると外から見て混雑感がないというメリットがある。オペレーションを簡単にするために一律の価格帯が望ましい。

しかし、以上の低価格戦略は一等地に言える戦略であり、2等地でわざわざ来てもらうためには、もっと良い商品を出すという戦略が必用であり、単なる価格だけではないと言うことに注意を払う必用がある。いずれにせよ、ロケーションにより客層を見極めて戦略を明確にすることだ。このジャンルの客層は女性も多いので単なる商品の品質だけでなく、サービスとか店内の衛生度も重要なのでトレーニングや清掃を怠ってはいけない。

2)郊外型
今一番元気の良いのがこのジャンルだ。小僧寿司や元禄寿司などの持ち帰りや回転寿司で育った人たちがより本格的な寿司を求めているのだ。生業の立ちの寿司の立地は駅前繁華街であり、住宅街のドーナツか現象、つまり郊外型の店舗展開に対応していない。つまり、郊外に於ける寿司業界は真空状態なのだ。真空のマーケットにビジネスチャンス生まれているのだ。郊外にも立ちの寿司を回転すればよいだろうと思いがちだが、郊外は家族客がファミリーレストランとして利用するのであり、土日に売り上げが集中する。その土日に売り上げを上げることができないと、平日幾ら頑張っても売り上げを上げることができない。普通の立ちの寿司ではそんな忙しい土日には効率が悪くてしょうがない。そこで、立ちの品質を備えた寿司を回転寿司という大量販売が可能なスタイルで提供しようと言うのが郊外型の回転寿司だ。郊外型の場合には回転寿司であっても単なる低価格ではなく、立ちの寿司と同じ品質をリーズナブルな価格で提供することを求められるのだ。

洋食やラーメン、中華、コーヒーショップなどは生業店よりもチェーン店の購買力に対応することができず、どんどん廃れていくが、この回転寿司に関してはどうも違うようだ。

回転寿司も、元気寿司とかアトムボーイなどのチェーンがあるが、そんなチェーンを脇目に大繁盛している中小の回転寿司が各地に点在している。飲食業界で唯一チェーンがダントツにならない面白い業界だ。

回転寿司チェーンの特徴は集中購買による原材料コストの低減と、マニュアル管理や寿司ロボットによる低人件費の管理が特徴だ。洋食やラーメン、中華、コーヒーなどはその集中購買や低人件費の仕組みは客サイドに見えにくいが、寿司に関しては日本人の最も得意とする魚と米だから、原材料を落とせばすぐに分かってしまう。

もう一つの問題は味の地域特性だ。魚でも呼び名が違うように地区による魚の好みと酢飯の質が異なる。魚で言えば関東のようにマグロやとろが大好きな地区もあれば、関西のように白身が大好きな地域、貝類が好きだと言う地域とその地でとれる魚により好みが異なり、必ず地元でとれた魚を入れる必用がある。また、チェーンでは魚をおろさないから、客にとってはどんな品質の魚か分からない。広いキッチンで一匹の魚を見事に捌いているのを見せれば新鮮な感じがする物だ。牛を目の前で解体されると食べられなくなるが、ぴちぴち動いている魚を捌いている姿は日本人なら感激する物だ。

酢飯で言えば関東は人肌で関西は冷たくても良いという微妙な温度差があるし、米の堅さ、粘り、酢の甘さ、などかなりの違いがある。チェーンではそこまでの細かい対応をすることは集中購買の原則に反するのでできないと言う弱みもある。人件費削減で寿司ロボットを使用するのがチェーンの常套手段だが、手握りで対応するだけで、客は満足していまう。

3)回転寿司の数字
回転寿司の数字を見てみよう

原材料費
38ー50%の原材料費だ。チェーンは38ー40しか使っていないが繁昌している生業店は50%近く使っている

人件費
15ー25%が一般的だ。売り上げが大きくなるに従い人件費は下がる傾向にある

FLコスト(人件費と原材料費の合計)
60ー70%だ。チェーンは60%を目途にしているが、材料費を中心の70%かけると大繁盛店になる。

商品アイテム数
最低50品目、多くて100品目、品目数よりもどれだけ売れ筋の人気メニューに集中するかが重要だ。

客単価
繁華街のFFタイプで700ー900円

郊外型で1200ー1700円が中心価格帯だ。郊外型の場合は客単価だけが重要なのではなく、それに見合った量、品質、等の相対的な価値観が大事だ。

ドリンク比率
5ー10%

持ち帰り比率
10ー20%

滞在時間
30ー50分間、客単価に比例して滞在時間は伸びる

ロス率
1ー2%

低ければそれだけ回転がよいか、それとも乾燥して品質の低下した商品を出していることで、数値だけでなく実際の品質を考える必用がある。単なるロスでなく戦略的な投資と考えるべきだろう。

持ち帰り比率
10ー20%

ネタ重量
15ー30g

しゃり重量
23g

1人の食べる皿数
6ー10皿

ロボット台数
2ー4台

飲食店経営に必要な経費の把握と損益分岐点
ここでは飲食店経営を行う上で重要な経費管理の手法を理解し、飲食店に商品を売り込む際に、従来より原価が安いからとか、売り上げが上がるとがいう単純な手法ではなく、どう売り上げが上がり、経費がどのようになって利益がでるのかという科学的な利益分析と解析を行う必要がある。そのためには飲食店経営に必要な経費管理の内訳と損益計算書、損益分岐点を理解しなければならない。

「1」設定条件
駅前立地の居酒屋で月間売り上げが1500万円、面積が50坪と設定してみた。
「2」元の原価率
合計原価率とは各アイテム(売上構成比×原価率)の合計に100を掛けた物である。
「3」元の損益計算書
人件費、P/A
パート、アルバイトの人件費は売り上げの比率で考える。ここでは16%として考える。

人件費、社員
社員の人数は、3人。月額、それぞれボーナス、社宅、福利厚生費、社会保険料等込みで、45、30、25万円とする。合計で、100万円である。

社員の仕事は多岐に渡り、店舗における接客はもちろんのこと、発注や在庫管理、P/Aのトレーニング時間等の作業が多く、残業代も多く発生する。残業代その他の手当で20万円を計上する。

広宣販促費
飲食店経営で最も大事なのは、広告宣伝と販売促進である。メニュー、運営方法、立地が如何に優れていても、広告宣伝がなければ新規顧客を確保できず、売り上げがじり貧になり成り立たなくなってくる。ここでは変動費として2%を計上する

水道光熱費
調理に使用するグリル、フライヤー、ドリンクマシン、などの調理機器はガスを使用し、客席、厨房の照明、空調機器では電気を使用する。飲食店は調理や洗浄、清掃、トイレなどで多量の水を使用する。ここでは変動費として5%と考える。

修理費
機械の修理、内外装の補修費を売り上げの1%計上する

消耗備品費
1品20万円以下の什器備品などの購入として2%を計上する

雑費
雑費上記に分類できない種々な経費であり、変動費として3%と計上する

家賃
坪当たり2万円として、50坪で、月間100万円とする

減価償却費
店舗建設コストは、坪当たり80万円、50坪。4000万円となる。
厨房機器と設備の投下コストを1500万円とする。
仮に10年間の均等償却とすると、550万円/年間となる。
月間で458333円となる
金利
年、5%とする。
保証金坪当たり50万円で2500万円
内外装費坪当たり80万円で4000万円
厨房機器1500万円
総投資額は8000万円となる。
年間金利400万円
月間金利333333円となる。
「4」損益分岐点
損益分岐点の算出は、損益計算書の各経費を、毎月売上に関係なく固定的に発生する固定費と、売上に比例して発生する変動費に分ける。次に固定費の総額と、変動費の総比率を計算する。100から変動費を差し引くと固定費率が出る。固定費総額を固定比率で割った物が、損益分岐点である。損益分岐点が低い方が売上が延びたときの利益高が高く、低くなっても赤字額が少なくなるのである。

「5」新メニュー追加の原価
新メニューを売り込んでみよう。この店舗では従来はすべて生の材料から加工していたので料理の原価率は0.28%と低い。しかし、手間がかかるのでなかなか新メニューを追加できず、客数の伸びだけでなく客単価が伸びないという悩みがある。

そこで、手間のかからない冷凍食材をもう一品追加できるような形で提案する。冷凍食材は加工度が高い分だけ価格が高いから、原価率が高くなるという理由で採用されない場合が多い。ここでは従来の料理の原価率は28%だが、追加メニューの原価率は45%とする。

そして、従来の料理の売り上げ構成比50%が45%に下がり、新メニューの構成比が5%となったとする。そうすると合計の原価率は31.5%から32.35%に上昇する。このままであれば当然利益が減少するが、新メニューの追加により売り上げが5%、10%増加したらどうなるかを考えてみよう。

「6」売り上げが10%、5%伸びた場合
原価率は上昇するが、売り上げが伸びても固定費である、社員人件費、家賃、減価償却費が増加せず、変動費のみの増額となる。

従来の損益計算書であると、利益額が2,183,333円、利益率が14.6%であるのが、
5%増加の売り上げで利益額が2,308,208円、利益率が14.65%と増額する
10%増加であると 利益額が2,560,583円、利益率が15.5%と大幅増額する
このように原価率が上がったとしてもメニューの魅力があり、売り上げが上昇するのなら、利益の絶対額は上がるのである。

もちろん、新メニューを導入してもすぐに売り上げが上がるわけではない、顧客に新メニューを告知し、食べてもらう必要がある。そのために、販売促進や、メニューブックの作成が重要になってくる。

「7」損益計算と損益分岐点の注意点
以上のような計算は要因を簡単にしてあるので単純計算できるが、実際の店舗はもう少し複雑である。原価率の構成でもメニュー別の細かい原価率、構成比を考えてもう少しきめ細かく見ていく必要もあるし、新メニューの導入により客数が増加するのか、客単価が増加するのかでも損益に影響を与える。

また、新メニューを導入に当たり新規厨房機器が必要になると、減価償却費、金利、水道光熱費が上昇する。しかし、従来の手間のかかるメニューの比率が下がれば人件費が減少する。そのように色々な条件が変わるのが現実の店舗の実状であり、上記の例を参考にしながら色々な変動要素を織り込んで正確な損益をたてて新規メニューや改造を行っていく必要がある。

これからのコンサルティングセールスでは少なくとも売れる売れないではなく、どうやって利益を出すのかという強い説得力が必要になるだろう。上記の計算を鉛筆なめなめやっていると日が暮れるし、お客も飽きてしまう。パソコンと表計算ソフトを使いこなし、目の前でシュミレーションをするというプレゼンテーションテクニックが必要だ。今や、パソコンと表計算ソフトは生命保険のおばちゃんでも使いこなす時代であり、皆さんも今からでも遅くないから勉強していただきたい。

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