業種・業態別動向 「1998年度の外食、特にFF、FRの動向」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1998年12月21日)

98年はチェーン企業に取って大変厳しい年であった。

1)洋風のFF
業態を越えた価格戦争
景気の低迷という逆風の中、業態を越えた競争にさらされたのが外食産業だ。その中でもFFは500円で食べられる弁当や惣菜を抱えているCVSの急成長にその基盤を脅かされている。コンビニに対抗するために80円バーガーなどの低価格メニューを充実させた業界トップのマクドナルドは一気に独走態勢に入り、1強百弱の時代と豪語している。マクドナルドは10年ほど前より低価格を実現するために、グローバルパーチェシングと言う世界で最も安い食材や機材、内装設備を調達する低価格の仕組みを作り上げた。さらに、小型店舗の多店舗展開を行った事が売り上げを大きく伸ばした。競合他社が低価格や小型店による多店舗展開の仕組みを構築出来ないと言う無風状態の中で、年間500店舗以上の展開に易々と成功した。今後はショッピングセンター内の小型店舗だけでなく、郊外立地の一軒家のローコスト版を開発中であり、よりローコストの店舗を多店舗展開できるわけで、ファーストフード業界はより厳しい競争にさらされるだろう。

ハンバーガー業界はマクドナルドに対抗できるだけの価格とローコストの実現をするか、マクドナルドとは異なる路線を選定する必用があるようだ。マクドナルドの急成長のあおりを一番受けているのはロッテリアだ。一時は360円セットなど積極的な対抗策を編み出したが、その後、低価格路線から離れ、モスバーガーやバーガーキングなどの味の路線を歩んだり低価格路線に再参入をしたり、と一貫した方向性を見いだせないでいる。同社はロッテ製菓という商品開発力の優れた親会社を持っており、その優れたデザート類の開発を武器にマクドナルドに対抗し、ロッテ製菓の小売りルートを使い、ショッピングモールなどへの小型店の積極展開を行うべきだろう。

モスバーガーは不幸なことに創業者の急逝というアクシデントにおそわれ、店舗展開のスピードが遅いようだ。しかし、ハンバーガー以外のちりめん亭、中卯などの和風FFの開発を軌道に乗せる実力を持っている。味とサービスの面で高い評価を受けている同社が盛り返すとためには、独自の和風ハンバーガー業態のコンセプトの見直しを図ることと、積極的な店舗展開だろう。

ファーストキッチン、ウエンディーズとドムドム、サンテオレ、バーガーキングは店舗数が少なすぎて、テレビコマーシャルを打つことが出来ないのが現状だ。今後、積極的に店舗展開をするか、撤退をするという2者択一の選定を迫られるだろう。ファーストフードで採算がとれる最低限の店舗数は100店だから、その数値を達成できないチェーンは脱落せざるを得ないわけだ。 KFC、ミスタードーナツは同じ土俵に競争相手がいないにも関わらず、不振である。両者共通の不振の原因は価格と消費者の混乱だ。フライドチキン1本200円、ドーナツ1個100円の価格は高すぎるのだ。ハンバーガーが130円であるから、フライドチキンは120円、ドーナツは70円と言うのが妥当な値段だろう。価格を下げられない原因は牛肉自由化による価格下落が、小麦や砂糖の価格下落よりも早いと言うことだろう。KFCはさらに国産の鳥を使うと言うことを公言し、低価格で品質の良い海外の鳥を使う道を自ら閉ざしているため、円高を活用した低価格路線を歩めないという問題も抱えている。ミスタードーナツはドーナツという商品を食事として認知させることができないでいる。米国ではドーナツは朝食として主食の位置を獲得したが、日本ではおやつとして認知されている。日本のお菓子業界の猛スピードの新製品開発は新製品の寿命をどんどん短くしている。ドーナツは時代遅れの色あせた商品となったようだ。勿論その対策として、ミスター飲茶という主食になりうる商品を開発したが、テイクアウトに向いていないため苦戦を強いられている。

また、両社ともメニューの多角化を図ったために「何を売っているのか分からない」と消費者の間に混乱をよんでいるようだ。

宅配ピザ業態はピザーラ、ドミノ、ピザハットの戦いだが、大量のテレビコマーシャルを投入し、積極的にフランチャイズ化をしたピザーラの優勢が明白だ。ただ、宅配のピザは競合激化と景気の影響で売り上げが低迷している。今後は品質と価格の戦争に打ち勝たなくてはならず、脱落するチェーンがでてくるだろう。品質としてどれだけ熱い焼きたての温度で提供できるかという事と、価格面で海外調達をどれだけの規模で行えるかという事が今後の優劣を決定する。 コーヒーチェーンではドトールコーヒーの独走にストップをかけるスターバックスの存在が目に付くようになった。コンセプト、内装、看板の陳腐化が新鮮なスターバックスの進出により顕在してしまったわけだ。ドトールは新規のファッショナブルなビルでの出店競争での優位性を失い始めているようだ。

2)和風FF
500円玉で食べられる丼業態とコストの安定した海外の輸入牛肉を使用する牛丼チェーンが元気だ。トップを独走する吉野家は安定した売り上げと利益を確保しているが、それに追随する松屋、中卯等のチェーンも独自のメニューをそろえるなど元気いっぱいだ。COCO一番のカレーチエーンも好調だが、それを追随する吉野家の開発したカレーのチェーンポットアンドポットも元気だ。和風FFは日本人の主食である米を使う丼を中心に、安定した価格の輸入食材を組み合わせるチェーンの業績が好調だ。
回転寿司や持ち帰り、宅配寿司のチェーンは競合の激化とo-157と言う伏兵によりチェーンといえども苦戦をしている。会社更生法に向けて準備中の京樽も既存店の不振をお解決できないでいるが、回転寿司の三崎港、寿司懐石の銀座粋(すい)が好調で、今後の展開が注目される。小僧寿司や元気寿司などは競合の激化で苦戦をしているようだ。各地方にはチェーンよりも強い大型の地場の回転寿司があるからなかなか難しいのだ。

3)FRの世界
FRの最大の課題は業態の多角化だ。ガスト、ビルディ、すかいらーく、ガーデンズ、グリル、ジョナサン、バーミヤン、藍屋、夢庵、と言う多角化を成し遂げたすかいらーくとその戦略を踏襲するチェーンの動向だ。しかし、多角化には企業としての体力が必用であり、多角化を成功させたのはすかいらーくグループだけであり、それに追随したFRチェーンは体力を消耗している。すかいらーくは海外や国内の不採算業態の一掃を行い、より身軽になり積極的な業態開発に乗り出すだろう。問題のあった低価格業態のガストもブラッシュアップを強力に行い好調だ。ジョナサンはやや息切れを示しているが、首都圏などの新規マーケットの開発に成功した。バーミヤンは絶好調であり、中華のジャンルで王将という強大な競争相手のいる関西の出店が好調であり、今後の全国展開に向けて驀進中だ。藍屋、夢庵もメニュー開発が成功し好調だ。
このすかいらーくの低価格と他ブランド化に追随した、サトなどのチェーンは体力が無く、新業態を軌道に乗せることが出来ず、効率を落としている。今後はより専門の分野に集中して展開をせざるを得ないだろう。

洋風FRは不調の反面、和風FRが好調だ。すかいらーくの和食業態の藍屋、夢庵の展開がスローダウンしている間隙を縫って、ライフコーポレーションの華屋与兵が首都圏で積極的な展開を図っている。屯田も主力の北関東では京樽の後に店舗展開を行ったり、神奈川地区への進出など積極的だ。サトも和風FRに主力を移すようで、今後、競合の厳しくなる分野だろう。

FR業界の最大の課題はコンセプトの陳腐化だ。すかいらーく、ロイヤル、デニーズが急成長したのは住宅のドーナツ化の波の乗り、郊外型の新しい生活の提案を成し遂げたということだ。その新鮮さが薄れる中、店舗コンセプトを変えないで、メニューだけ増やし他店舗には顧客の飽きがでているようだ。

FRは従来FRというくくりの中で、和洋中と何でも提供すると言う店舗形態をとっている。しかし、顧客の求めているのは単なるメニューバラエティではなく、鮮度の高い店舗コンセプトだ。それを物語っているのはサンマルクの成功だ。サンマルクは通常のFRよりも加工度の高い調理済み食材を使用し、店舗では単に加熱調理と盛りつけだけという徹底でありながら、焼きたてパンやピアノの生演奏という店舗イメージにより、顧客に昔のFRのようなときめきを与えて急成長した。今後のFRはリーズナブルな価格の中で専門料理を提供できるところが生き残るだろう。

FRにとって今後強敵なのは新進気鋭の中小のチェーンの勢いだ。低価格イタリアンで価格競争力抜群のサイゼリア、郊外型の店舗展開を狙う居酒屋のワタミフードサービス、ケンズダイニングバーや熱熱食堂/橙家を展開するちゃんとフーズ、ロイズやNOBUを抱えるソホーズ、中華の強い際コーポレーション、ZESTなどのサービスの良い都会的な店舗のグローバルダイニング、オバカナールなどの個性的な店を抱えるオライアン、イタリアン・チャイナなどと多角化を進めるキハチ&エス、女性に大人気の豆腐懐石梅の花の梅コーポレーションなどが続いている。これらの個性的な企業は、店舗のイメージ、サービス、バリューというバランスを武器に昔のFRで感じた「外食のときめき」を再現している。

また、ライフスタイルがカジュアル化、個人化に変化する中、サービスと雰囲気に自信のある米国の外食チェーンが続々と進出を図るようだ。ワタミフードサービスと提携するTGIフライデー、米国で急成長中のアウトバックステーキハウスなどが準備中だ。今後のFRは業界の淘汰、買収、外資の進出、などと波乱が予想される。

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