チェーンストアのここに学べ 第5回目「チェーンレストランを成功に導いたQSCと標準化」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1998年8月17日・8月21日)

大阪万博が外食産業の夜明けであった。マクドナルド、KFC、ダンキンドーナツ、ミスタードーナツ、デニーズの外資系のチェーンが続々と日本に進出し、純国産のすかいらーくが誕生したのだ。正直言って,これらのFF、FRチェーンの商品はとびきり美味しいものではなかったし、日本人の味にあっているものでもなかった。筆者がマクドナルドに入社するときに、飲食店を経営していた父に「そんなまずいものを売っている会社はすぐにつぶれるぞ、日本人は魚を食べるんだ」と言われたことがあった。そのころは日本人は米と魚を醤油で味付けして食べるのだと思いこまされていた。

また、当時の飲食店は「美味しければ飲食店は流行るのだ」と大きな勘違いをしていた。当時のように優れた飲食店が少なければ客に選択の余地がないから、どんなに汚くてもサービスが悪くても,味がそこそこで値段が安ければ繁盛したのだ。当時は汚い店の方が味が美味しいと言われていた。そんな、迷信を吹き飛ばしたのがチェーンレストランであろう。はっきり言ってチェーンレストランの味は生業店よりも劣るかもしれない、それなのに大繁盛していった。それはなぜだろうか。

飲食店のQSC
家で食事をしないで外食をする理由は何だろうか?家では難しい美味しい料理を食べたい。友人と食事を楽しみたい。料理が面倒くさい。後かたづけが面倒だ。買い物に行く時間がない。優雅なひとときを過ごしたい。ガールフレンドと時間を過ごしたい、等、色々あるが、単に美味しい物を食べたいのだけではなく、友人とくつろぎたいとか、日常生活から一時的に脱出したいと言う、異空間に身を任せるという欲求が大きいはずだ。自分の空腹を満たすだけであれば、汚い店でも安くて美味しければよいのだが、久しぶりの友人やガールフレンドと食事をするのであれば、綺麗でサービスの良い店でないと雰囲気が出ない。つまり、外食の条件は単に食事の質だけではないと言うことだ。料理の品質は当たり前で、その他に良いサービスと、綺麗な(接待に使ってもおかしくない)店舗でなくてはならないのだ。つまり、Q(品質)S(サービス)C(清潔さ、綺麗さ)の3拍子のバランスがとれていなくてはならないと言うことだ。

この飲食店の基本をQSCと言う標語の元に実現させたのがチェーン店だ。QSCと言う言葉を観念的に唱えるだけでなく、それを実現するには具体的に何をしなければいけないかを決めたのだ。QSCは職人芸的に達成されているものではなく、どこの店舗でも同じQSCを実現させなければいけないからだ。

では具体的に何を行ったか見てみよう。

[1]Cクレンリネス、清潔さ、衛生さ
Cとはクレンリネスの頭文字であり、清潔さと衛生であることをいう。良くQSCと言うので、品質が最も大事でその次がサービス、最後がクレンリネスであると錯覚しやすい。しかし、初めて飲食店を選ぶときに試食をしてから選ぶことはできない。飲食店でQ(料理の品質)とは次にもう一度くるかどうかを決めるにすぎない。サービスも店舗に入って注文するまで基準はわからない。そこで、初めての店舗を選ぶには店舗の外観、店内の清潔さで選定すると言う認識から、店舗外観と内装、その清潔さの維持に気を配るというクレンリネスという概念をチェーンは導入した。

そして、単に綺麗にしようと言うかけ声だけでなく、店長はクレンリネスの維持のため、毎日クレンリネスのチェックをし、清掃したかどうかをチェックするというシステムを構築した。クレンリネスの基準は簡単だ。店舗が新装開店したときと同じ状態であるということなのだ。そのために毎日具体的な清掃作業をスケジュール化し汚れをためないようにした。店舗の構造も汚れにくい様に工夫を凝らし、天井は簡単に汚れをふき取れるような材質にし、床も清掃が簡単で水が溜まったりしないように完全にフラットにする。

従来は水を流しっぱなしで、閉店後しか掃除をしない不衛生な厨房だった。水が流しっぱなしだから、長靴や高下駄をはかなくてはいけないので、動きにくく生産性が低い。厨房が汚いからその汚れた外部の客席にも広がり何となく薄汚い雰囲気になってしまう。そんな常識を破るかのごとく、営業中は水を流さないドライキッチンを導入し、さらに、清掃しやすいように専用の洗剤を用意し脂汚れを貯めないようにした。綺麗と言うより、スパークリングクリーン、新品の用に輝いていると言う基準を日本に紹介したのだ。

クレンリネスの範囲は、従業員の身だしなみ、建物外装、店舗周辺、店舗内装、調理機器など幅広く適用し、店長は客の目でチェックリストに従って清掃度合いをチェックしていった。

クレンリネスの基準、システム、マニュアルを確立するにはまず使用する洗剤、道具、清掃方法の導入が必要であり、チェーンレストランの台頭と同時に外資などの業務用洗剤メーカーが日本に進出を開始し、チェーンレストランに対する清掃方法の指導を開始したので、店舗の清掃レベルは格段に進歩した。郊外型FRのトイレに行くと清掃のチェックリストが貼ってあるが、これなどはその遺産だ。

[2]サービス
従来の日本はのホテルや高級な店舗では茶の湯の作法、一期一会にこだわりすぎた(本質を忘れてと言った方が正しいが)作法中心のサービスだった。往々にして心のこもっていない作法中心のサービスは客に慇懃無礼なサービスの印象を与えていた。また、高級料理屋やレストランの顧客サービスは固定客を重視し、一見客を軽視するサービスだった。江戸時代などは客の飲食代は盆暮れの年2回払いであり、一見客では回収できるかどうか分からないから、固定客を重視せざるを得なかった。また、当時は農業人口が中心であり、比較的商人が多かった江戸などの都でも、住居の移転や旅行もままならず、人口の異動は現在よりも遥かに少ない安定した状態だった。そのため少ない固定客で商売を安定して営むことが出来た。

しかし、現代社会では地方の農業を営む人でも旅行はするし、会社勤めが中心の都会人は特に転勤や転居が頻繁であり、固定客にこだわっているといつの間にか客が居なくなると言う現象が起きてくる。また、昔のお伊勢参りなどの旅行者は一生に一回の旅をする一見客だった。しかし、現代人の旅は日常生活であり、東京から京都に年に数回観光旅行する人はまれではない。つまり、東京、京都などの大都市への旅行者は以前の一見客でなく、頻度の少ない固定客であると考えた方が適切だ。

こんな現代では固定客から一見客への対応と、日常生活化した外食を気楽に楽しむことが出来るサービスの実現が必要であった。

現代の忙しい客の要求するサービスを分析してみると、まず料理提供時間が短いこと、つまりスピードが重視される。次に、フレンドリーなサービス、つまり、笑顔、スマイルが大事だ。従来の飲食業はサービスというと挨拶の仕方、おじぎの角度、テーブルサービスの手順などと儀礼的なサービスを重視してきた。しかし、世の中のペースが早くなってくると、飲食業に望むのはそんな儀礼的なことではなく、頼んだ料理が早く出てきた、担当の社員がにこにこしている、等の具体的なサービスが重要になってきたわけだ。

提供スピードという意味では、ファーストフードでは注文後料理の取りそろえは1分間以内、ファミリーレストランでは15分という基準を日本に紹介した。そのためには、セントラルキッチンで一次加工した食材を店舗で最終調理するだけとか、火力の強い専用調理機器、やコンベアーオーブンや、クラムシェルグリドルなどの自動化機器を開発して使用するようになった。

ファーストフードではメニューを絞り込み、事前に食材を調理包装紙、保温保管し提供時間を短縮するようにしている。ファミリーレストランではオーダーエントリーしてから調理完了、サービス終了までの時間を記録できるようにし、常にサービス時間の短縮に努力している。両方とも厨房機器だけでなくサービスのスピードアップのためにPOS(ポイントオブサービス)というコンピュータ化したレジ精算機を導入し、売り上げや商品データーを詳細に記録分析し、作業割り当てや商品売り上げの正確な個数を予測するシステムを構築し、ピーク時に十分な人と食材を用意できるようにしたわけだ。

フレンドリーなサービスを実現するためには従業員のスマイルが大切だ。東洋人は知らない人に笑顔を見せてはいけないと躾を受けているために、初めての客に接すると笑顔が出ないのが一般的だ。そこで笑顔を自然に出すために導入したトレーニング手法は2つあった。

まず物理的に従業員が楽しく働ける職場を作る。具体的には良いコミュニケーションと正しい評価、トレーニングと会社の将来性、環境の良い職場と快適で清潔な休憩室(空調が良く効いていること)だ。次にスマイルの訓練だ。スマイルはトレーニングできる。スマイルは顔の筋肉をどうやって笑っているように見せるかだ。働くのが楽しい職場で、顔の筋肉のトレーニングをすれば後は自動的にスマイルがでるようになるわけだ。そして、楽しく食事をしたお客から「、美味しかったよ有り難う」の一言をもらえるようにして自信とプライドを持たせるようにして、笑顔が本物になるような工夫を凝らしたわけだ。

[3]Q、品質
従来の飲食店の目指したのは最高の美味しさだった。でもあまりに美味しいという満足感を与えると、しばらく食べなくても良くなるし、それだけの手をかけたり感激させるためにはよほど高価な原材料を使用せざるを得ず、高価な値段となりそんなに来店頻度を多くすることは出来ないと言う矛盾があった。

チェーンレストランが目指したQ(品質)とは単に味がよいと言うことではない。毎日食べても飽きない味で、どんな季節でも、何時何処の店舗で食べても安定した料理を出すことだった。ほっぺたが落ちるほどの感動はしてもらわなくても良いが、毎日食べても飽きの来ない味を実現するようにした。つまり、日常食として来店頻度を高めるようにしたのだ。

Qとはクオリティの頭文字であり、品質管理という。店舗における品質の管理とは定めた料理の基準にあった調理方法で加工することにある。商品の品質を決定するのは、一定量の食材、調理手順、調味料、調理温度、調理時間、サービス時の温度だ。この品質を定量的に計測し、何時も同じ味が出るようにしようとしたわけだ。同じ味が出るように調理を科学的に研究し、合理的な調理システムと調理マニュアルを作成し、それを元に徹底してトレーニングを行ったので、アルバイトでも安定した味を出すことに成功した。

品質管理と言う概念を導入し、本部で品質基準をさだめ、本部指定業者が配送センターを通して配送したり、自社のセントラルキッチンで加工した食材を店舗に配送する。

店舗では搬入時の食材の温度、量、状態をチェックする。飲食チェーンでは各食材がポーションコントロール(一食分毎に定量の状態になっている)されているので、その重量、サイズ、冷凍冷蔵温度をチェックする。基本的に店舗で味を変更することは許されていないが、基準の味で納入されているか等の品質を舌で確かめさせる。

食材を調理するのはアルバイトであるから、調理機器の温度と調理時間の管理が重要であり、定期的に店舗の調理機械が正しい状態であるかということを常時チェックし、メインテナンスさせるようにした。このセントラルキッチンの導入と店舗の機械化、マニュアル化によりアルバイトでも安定した調理を可能にしたのだ。

支店経営とチェーン経営の違い
チェーンという概念が来日する前は、支店経営が他店舗経営の手法であった。一つの飲食業でも大衆料理から、居酒屋、喫茶店、高級和食、フランス料理など、異なる業種を経営しているのが普通だった。この支店経営と、チェーン経営は全く異なる。かりに同じ商品を売っていても、店舗のデザインが異なったり、販売価格が異なったりしていてはチェーン経営ではない。チェーン経営は全く同一のメニューを同一のマネージメントで、日本中、いや世界中に展開できる標準化した物を言う。

[1]支店経営
経営者の大抵は調理出身だから、おいしい物を安く提供できれば、飲食店を成功させることは簡単だ。 そして、一号店の成功で次の店舗を考えるだろう。そのとき必要なのは、その店舗を運営する、店長と、開店資金だけだ。一号店の成功で金は十分にあるし、部下の調理人が育っていれば、彼を店長にして二号店を開店するはずだ。そして、貴方は相変わらず一号店を運営しているはずだ。なりたての飲食店の経営者は大抵忙しいから、二号店は管理の楽な近所に出すことが多いだろう。そこで一号店と競合してはいけないので、ややメニューを変えたり、店舗のデザインを変えたり、最悪の場合は店名まで変えてしまう。それでも一号店でじっくり教育した従業員は育っているから、二号店でもしっかりとした料理とサービスを実現できれば成功を収めるだろう。二店も開店すれば地元では名士だ。銀行や、不動産屋から三号店の物件情報が山のように来るはずだ。当然自分の良く知った、地元に三号店を開くはずだ。同じ地元に三号店を開くのだから、今までの店舗と競合しないように全く異なった店舗を考えるはずだ。今では地元の名士だから、立派な店構えにして、ちょっと高級な料理を出そうとするはずだ。今まで出来なかった自分が満足できる店舗をやりたくなる。経営者の満足する店とは、高級な美味しい料理を豪華な店舗で出すことだ。飲食業の経営者には常に高級なフランス料理、中華料理、和食を経営するという願望がある。

このように支店経営の陥穽に陥ってしまう例が多い。当店は高級だから、東京、大阪、福岡に一店づつ分散して出店する場合はもっと危険だ。そんなに距離が離れたら全くのノンコントロールの支店経営となる。

支店経営は人がいればたやすくできる。飲食業の経営者は調理出身が多いから、つい、調理の職人が育成できれば、他店舗か出来ると思いがちだ。しかし、色々な形態の店舗を展開した際に、調理職人しか育成していないと、売り上げや利益率が低下し、打つ手がなくなりやがては淘汰されると言うのが支店経営の欠点だった。

[2]チェーン経営
チェーン経営は一号店の段階から、チェーン展開を考えた店舗のコンセプトを固めて、しっかりとしたオペレーションを構築する。今、1万件以上もあるマクドナルドも、KFCも数店舗を開店してから、もう一度コンセプトを練り直した。そして店舗の標準化を成し遂げてから再出発し、あのように急速にチェーン展開することに成功したのだ。

チェーン経営は標準化を全ての分野で行う。店名、商品、プライスゾーン、オペレーションまで全て標準化し全ての店舗で全く同じ基準で作業できるようにした。

標準化
標準化とはQSCだけではなく店舗の管理体制、会社の意志決定も行わないと。売り上げが上がっても利益が出ない。そこで、チェーンはマネージメントの3つのトライアングルと標準化という概念を導入した。経営管理だと言っても難しいことを言ってもしょうがない、アルバイトから出世した店長やスーパーバイザーでもわかりやすい経営管理の手法を標準化することが他店舗展開で必要であった。

[1]「マネージメントサイクルの標準化」
PLAN(計画)DO(実行)SEE(評価)が経営に必要なマネージメントサイクルだ。

店舗を出すまえに、売り上げ予測に基づき総投資額を決定し出店する。もし売り上げが十分でなければその理由を分析検討する。まだ知名度が少ないのであれば、チラシを新聞に織り込むか、配布することを検討する。

勘に頼る手法でなく常に合理的な手法で店舗の問題点を分析し、実行し、評価する。このプロセスをしっかり確立することが店舗運営上の色々な問題点の解決のために必要だ。

[2]管理の標準化
人、物、金の管理手法の標準化だ。QSCのしっかりしたオペレーションで売り上げが上がっても、企業としての管理が必要だ。人がいなくては店舗は運営できないし、トレーニングをしないとQSCを保つことは出来ない。建物がしっかりして、調理機器の状態が良くなくては料理の品質を保つことも出来ない。

売り上げだけ上がっても、経費を管理しないと利益が出来ないし、資金繰りが旨く行かないと黒字倒産もあり得る。 人の標準化を例にすると、採用方法、何が最も効果的な採用方法か、アルバイトニュースか、新聞折り込みか、新人紹介制度か媒体別に一人幾らの経費がかかるのか、採用媒体別の定着率はどうなのか、面接の方法はどうするのか、面接チェックリストをどうするのか、トレーニングはどのようにするのか、誰が実施するのか、どのくらい時間をかけるか。など細かく標準化をしなければならない。標準化をして、文書化した物がマニュアルになるのだ。

[3]マニュアル化
短期間でチェーン展開をするためには職人の育成をじっくり待っているわけには行かない。アルバイトでも難しい調理を出来るようにマニュアル化が必要になる。各種マニュアルをきちんと作成したほうが、味、サービス、清潔さを誰でも実現できる。そこで各種のマニュアルを作成した。マニュアルというと調理マニュアルだと勘違いしやすいが、経営管理を行う店長や複数店の管理を行うスーパーバイザーのためには人物金の管理が出来る管理マニュアルが必要なのだ。成功したチェーンは管理職やスタッフまでの肌理の細かいマニュアルを持っている。

商品製造、品質管理マニュアル
サービスマニュアル
店舗開店、閉店マニュアル
清掃マニュアル
人材採用、教育、評価マニュアル
防火、食品衛生、安全対策マニュアル
書類管理、利益管理、マニュアル、
販売促進、広告宣伝マニュアル
新店舗開店マニュアル
管理者、店長マニュアル
厨房機器マニュアル
機器メインテナンスマニュアル等だ。

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