10年後に備える飲食店の課題(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1998年1月19日)

米国の活気
史上最高の株価で景気のよいウオール街を持ったマンハッタンと、コンピューターのメッカ、シリコンバレーの景気が煮えたぎっている。香港返還により香港人が気候と食物の良い西海岸に移住をしたから不動産価格が急上昇中だ。それに伴い外食産業にも新しい息吹を感じる。
米国の食のトレンドは1番がイタリアン、次が、カリビアン、テックスメックスだった。それは、人口の老齢化と、産業の変化による南部への人口移動により、その地方の味に馴染みだしたせいだ。景気が良い中で物価が安定している理由は米国で販売している一般消費者向けの商品のほとんどが安価な東南アジア性であるということだ。ファッションの世界でも、ギャップ、リミテッド、バナナリパブリックなどのファッションの店で販売している衣料品やコンピュータや家電の多くが東南アジア製品だ。その結果東南アジアとの出張交流、旅行、移民の増加により、東南アジア料理の料理が再度流行りだしている。

ニューヨークで人気のある料理は中華料理と日本料理だ。日本料理といっても従来の寿司や天ぷらといったものではない。米国の食事に必要なのは、まずアペタイザー、良いワイン、たっぷりとしたメインディッシュ、そして完璧なデザートだ。従来の中華、日本料理は料理そのものは美味しいのだが、盛り付けが地味(米国人にわびさび等理解させるのは1000年はかかるだろう)食後のデザートがない(水菓子などデザートの範疇に入らない)ため、物足りないということだ。

そのニューヨークで米国人に人気のあるのがNOBUだ。ロスで大人気の日本料理のMATSUHISAが俳優のロバート・デニーロの出資の元にソホーに開いた店だ。日本から何回も電話を入れてやっと昼飯の予約にありつけたが、店を訪問してその電話の繋りにくさが理解できた。昼の10時から5時まで3人の担当者が電話に付きっ切りで予約の業務をしているからだった。デザートもすばらしいのだが、ワインも飛び切り上等だ。ナパバレーに映画監督のフランシスココッポラがワイナリーを持っておりそこでとれるルビコンという赤ワインを置いている。コッポラ監督はそのワインが自慢でその名前を付けたレストランをサンフランシスコで経営しているくらいだ。

シリコンバレー等の西海岸はニューヨークとは異なり、ネクタイをした人は日本人の出張者くらいだといわれるくらいにカジュアルだ。ジーンズや半ズボンにポロシャツが制服で、毎日がカジュアルデーだ。日本のホテルのような気取ったレストランでは窮屈だから、どんなに高級な店でもほとんどカジュアルな格好で行けるような店が中心だ。そのためクロコダイルダンディをテーマにしているアウトバックステーキハウスなどはアップルの本社の前に開店したら大繁盛だ。

カリフォルニア料理は本家のChez Panisseのあるバークレーに近いこともありシリコンバレーでも大人気だ。その代表的な店が、カリフォルニアカフェだ。ありふれた名前だけれど、現在14店舗のチェーン展開をしている。経営者は20年ほど以前にローストビーフのチェーン店で一世を風靡したビクトリアステーションの創業者の一員だが、チェーン的な発想を否定している。各店にシェフがおり、そのシェフ独自のメニューを日替わりで考えるというのが最大の特色だ。経営管理においてだけチェーンのメリットを生かし、味は各シェフが工夫を凝らし、お客が飽きないようにするわけだ。カジュアルな店だが、味はなかなかだし(今の流行はダチョウ料理だ)、カリフォルニアワインのセレクションもすばらしい。

香港の返還により多くの金持ち連中がシリコンバレーに移民してきた。金持ちの客、優秀なコック、豊富な魚介、野菜類がそろい、今では本場香港より安価でおいしい中華がある。そのおいしい中華料理はシリコンバレーでも食べられるようになった。その代表格が、Mayflowr(五月花酒家)でシリコンバレーのミルピータスに大型店を開いて毎日盛況だ。サンフランシスコにはもう一つHong Kong Flower Loungeと言う店があり周辺に大型の店舗が3店舗もあり大繁盛だ。それらの中国料理の大繁盛の反面、日本から進出したRというチャンポンの専門店のみすぼらしさにはがっかりさせられる。

また、景気がよくなったことを受けて、今はやりのHMRを売り文句にした食品スーパーが高級化している。ドレイガーという70年の歴史を誇る高級食品スーパーがサンマテオに開店したが、売場の高級感だけでなく、2階に高級なレストランと有名シェフによる料理教室を開催しているのには驚かされる。日本から進出したヤオハン(中国進出で一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったがとうとう倒産してしまった)と言うスーパーは今では元気がないのと対照的だ。

HMRというのは実は米国の人口動態と社会環境の変化が生み出した物だ。人口の老齢化すなわち団塊の世代の老齢化は彼らのお袋の味(カンファタブルフードと言う)への回帰現象をうみだし、米国人のお袋の味、ミートボールスパゲッティ、ミートローフ、マッシュポテト、ラザニアを販売するテイクアウトショップが大流行だ。

勿論良いことばかりではない、経済の最先端を走っているが、問題点も先行して発生している。96年夏に日本でも大騒動を起こした病原性大腸菌o157は最初に米国で10数年前に発生したものだ。昨年も大手外食チェーンのバーガーキングを巻き込んだo157汚染牛肉の事件で騒がせているが、NRA(米国レストラン協会)を中心に衛生対策のHACCPのシステムを中小のレストランへ導入しやすい形に開発し、食品衛生責任者の認証制度も行い、衛生状態への対策を着々と整えている。

日本の不況
ついこの間まで米国の産業界は日本の後塵を拝していたことを思うと全くの様変わりだ。今では日本の産業は米国の10年後を歩いていると言われ、また、米国に学ぶ時代がきたようだ。 コンピューター産業だけではなく、米国の外食産業は昨日までの勝者は今日の敗者となっているような厳しさだ。しかし、日本は米国と異なり変化はゆっくりでそんなに大きな変動はないと考える人も多いようだが実は大きな変化が迫りつつあるようだ。
日本の今後
日本の今後の課題を、人、食材、店舗形態、の3つの視点から見てみよう。
1) 人の問題 人口動態の急激な変化 老齢化
日本の人口動態の現状
日本の失業率
米国の失業率は27年ぶりの低水準の4.7%まで減少している。日本の失業率は3.5%だから米国はまだ高いように見えるが、統計の取り方の相違により、米国の数値は日本と同じ計算にすると2%代の低水準だろう。昨年のクリスマスには従業員不足で売り上げを十分に取れないと言う問題が発生したほどだ。しかも日本の失業率は40歳以上の高齢者の失業率が高いというのが大きな特徴だ
業種別アルバイト比率
失業率が高いのならアルバイトパートタイマーの就業率が多い飲食店の従業員確保は容易になっていなければならないはずだが、実は最近従業員の確保がうまく行かないと言う声が挙がっている。
サービス業、CVSのアルバイト雇用状況
アルバイトの確保が難しくなった原因の一つはアルバイトマーケットの拡大がある。元々飲食店のアルバイトパート比率は70%代と最も高いが、最近はスーパー、百貨店などの小売業もアルバイト比率を増加させており、さらにサービス産業の分野でのアルバイトパート比率か高くなっているという競合状態が発生している。
人口の老齢化と生産労働者人口
人口が老齢化し、出産人口が減少すると厳しい見方では最短で西暦2002年に人口が減少に転じるし、生産労働者人口は1998年から減少に転じる。つまり、現在のアルバイトパート不足の状態は改善される方向ではなくより厳しい方向にあるわけだ。今からその対策を真剣に考える必要があるだろう。
人口の老齢化が与える今後の課題
新しいビジネスチャンス
人口の老齢化はマイナスばかりではない、新しいビジネスチャンスが生じるのだ。人口の老齢化により2000年より介護保険がスタートするがその主な目的は費用のかかる病院での老人医療を少なくし、家などでの介護を可能に使用という物だ。在宅医療で最も重要になるのは食事の世話だ。体が衰弱し病院に入院した老人が、しばらく病院の食事を規則正しく食べて元気になると言う現象をよく聞く。一人暮らしの老人にとって日常の食品の買い出しや調理は手に余るので栄養のある食事を十分にとることができず体が衰弱する。つまり、老人医療や在宅医療にとって食事を規則正しく提供するというのは大変重要な要素となるわけだ。また、在宅医療に対する食事には国からの助成金がでるようになるというプラス要素がでてくる。この需要を飲食店で確保できるかどうかは今後の飲食店の動向を大きく左右するだろう。残念ながらまだ飲食店でこの動向に対応しているのは少数派であり、すでにコンビニエンスストアー(以下CVS)、食品スーパー、総菜、病院給食などの分野の企業がその対策に真剣に動き出している。
CVSの例
従来は20代の男性を中心とした若者に支持されて急成長しているCVSは最近大きく変化しつつある。老人にとって蕎麦うどんは好物である。家庭で食べるうどんは生麺から冷凍麺に大きく変化している。冷凍うどんはゆで上げ後コシを残したまま急速冷凍するから、生麺よりかえって美味しいという評判を呼び大人気だ。冷凍麺は従来はスーパーで5個単位くらいでパッケージされて販売されており、CVSの取扱商品ではなかった。それが昨年くらいからCVSで一個単位でばら売りをしたら売れ行きが急上昇している。購入するのは若者ではなく50代以上の方だ。別に単身者だけでなく家庭を持っている方が購入をしている。50代以上の家庭では食事をとる時間が異なり、休みの日など自分の食べたい時間に食べると云うことでCVSで冷凍うどんを購入し自分で調理して食べるという傾向があるようだ。また、従来から弁当などのFFアイテムは20%以上と高かったが最近ではさらに上昇し、将来的には30%位にまで行くだろうと云われている。
日本の外食産業で最も売上が多いのは日本マクドナルドで96年は3000億円を売り上げた。しかし、マクドナルドは実は日本で一番のレストランチェーンではないと言うことだ。では一番のレストランチェーンはどこかというとコンビニのセブンイレブンだ。セブンイレブンの売上は1兆6千億を越え、その販売している調理済みの弁当などのファーストフード部門の売上は22―30%であると言われており、優に3000億円を超えているわけだ。

この強大な力を持っているCVSの次のターゲットは老人マーケットだ。その優れたマーケティング力と店舗数により獲得しようとしている。

食品スーパーの例
食品スーパーは米国から流行りだしたホームミールリプレイスメントに取り組んでいる。日本のHMRのお袋の味は煮物である。従来の食品スーパーは食品メーカーから購入した調理済み食材をパッケージのまま並べるか、小さい容器に詰め替えるだけであり、店舗で調理するのは揚げ物と鮨くらいであった。しかし、共稼ぎや高齢者が増加し生鮮食材からの調理をしなくなっている傾向から本格的な調理を行うようになっている。
そして、安価な生鮮食材の入手を武器に、高齢者家庭への食材の供給を考え出している。米国ではすでにクックチルによる大型調理施設が増加しており、団塊の世代や老人家庭に対して売り込みを開始している。

病院給食の例
病院給食も従来の院内調理の規制が廃止され、集中調理した食材を離れた病院へ供給できるようになった。地方の大きな医療グループでは1日に1万食を調理でき、その調理済み食材を45日も冷蔵で保管する技術である、クックチル対応の工場を幾つか完成させている。そして、クックチル技術により老人の好む煮物、お粥などの自動調理を可能にし、高齢者家庭への食事の宅配まで実験を開始した。
このクックチルの設備は数千万円も必要だが、30人の従業員が1日シフトで週5日の環境で1費に1万食を調理できるというのは大きなコストダウンが可能になり、大手製造業も真剣に参入を考えている。

これからの対策
労働力の確保
老齢化と生産労働人口の減少は当たり前の事ながらアルバイト、パート、社員の採用難という現象を生み出す。そのために対策を真剣に考える必要が出るだろう。
労働環境の整備
飲食業は3K産業の典型であり、労働者側から見るともっと楽な産業に行きたいと思わせてしまう。そうならないように働きやすい、環境の良い職場を実現しなければならないだろう。

まず、厨房の温度を夏場でも25℃に保てるような空調設備の管理が必要になるだろう。それでなくともきつい仕事であるから空調もない汗ダクの作業を強いる厨房の調理作業は土方作業と一緒だ。

空調をしっかり利かせるためには厨房はドライキッチンで水が流れていないようにしなくてはならない。

食器洗浄機の導入は当たり前だが、鍋やフライパン、調理機器などの重量物の洗浄も自動でできる機器洗浄機の導入も必要になる。

重量では重量物の運搬(搬入)特に食材の搬入を機械化するか、持たなくても良いようにコンベアーを使用するなどをしなくてはならない。

清掃作業も掃除がしやすいように機器の下をあけたり、掃除のしやすい材質の床材の採用は、電動ブラシ、バキュームクリーナーなどの採用を考える。

あまり大規模な投資をする前にやるべき改善は動きやすいレイアウトにすると云うことだろう。通路を十分とったりして動きやすくするとか、体を屈めたり、背伸びしなくても物を取れるように配慮するだけでだいぶ作業性が良くなるはずだ。

休憩室、着替室、従業員用トイレ、格好が良くて働きやすいユニフォームなど細かいところまで従業員が働きやすい様に気を配るべきだ。

調理の自動化と簡素化
老齢化や、不慣れなアルバイトを活用するためには自動化機器を積極的に採用することが必要だ。コンベアー調理を活用し、自動で焼き物をできたり、揚げ物をできるようにする。

自動化の機器だけでなく調理の簡素化も有効な手段だ。調理済みの食材を美味しく短時間で調理するためにスチームコンベクションオーブンなどを使用する。

調理済みの冷凍食品では味が今一歩であるが、冷蔵状態でも保存期間が比較的長く味の良いクックチルが幅広く採用されるようになる。

老齢化社会というのは顧客も老齢化になるのであり年をとるに従い体力と免疫が低下するので食中毒などへの安全性の向上を十分考慮しなくてはならない。そのためには食品を十分安全な温度時間で調理できるように調理機器は温度と時間のコントロールができるものを採用する必要がある。クックチルも調理を安全にするための手段としても有効だ。

調理の安全を考えるといつも一定の温度時間を保てるような調理機器を使用するだけでなく、その調理機器が正しく動くように保守、点検、調整が必要になってくる。そのため、単に性能の良い調理機器だけでなく、維持がしやすいという調理機器の開発が必要だ。

効率の向上
人が少ないという時代には従来よりも少ない人数で効率よく店舗を運営するという考え方も必要だ。従来は1日8時間労働で営業時間に合わせて人を投入していたが、これからは大手チェーンやスーパーがやっているように売り上げに応じたきめの細かいスケジュールの作成が必要だ。今までは手計算で行っていたが、その作業自体に時間がかかるので、POSのデーターを元にパソコンを連動し、スケジュール表を自動作成できるようにする。また、売り上げ予測を正確に行うことにより仕入れた食材や、人件費の無駄がなくなるので、正確な売り上げ予測を可能にするソフトウエアーの開発が必要だ。すでにCVSでは天気予報と発注システムを組み合わせ弁当の発注を正確にできるようにしている。

POSと一口に云うがメーカーや機種によりずいぶん性能が異なる。従業員を効率よく配置するためには会計時の売り上げの集計ではなく注文時の売り上げの集計ができないとならない。そういう意味では中小の飲食店もコンピューターに対する勉強を開始しないと大手に対して生産性の面で不利になってしまうだろう。

定着性の向上に必要な教育システム
3Kの職場であるというイメージからの脱却をするために環境を整備し、新人もすぐに仕事に慣れるという合理的なトレーニングシステムが必要だ。

採用活動の手法、面接で良い人間を選別、初期退職率を減少させるオリエンテーション、やる気を起こさせるモチベーション、一所懸命働く人を正しく評価、人数の多い店舗の効果的な集合教育、労働者の保護規定強化の中で正しい解雇の手法、などの体系だったマニュアルを整備しなくてはならない。

外人労働者の採用
老齢化社会には外人労働者の採用も必要になるだろう。バブルの際には多くの外人労働者を採用せざるを得なかったわけだ。バブルがはじけた現在でも外人労働者は確実に増加しているようだ。在日の外国人の総数は平成2年で107万5000人に対し、平成7年では136万2000人と増加しており、中国、ブラジル、ペルーから来日する方が増加している。

外人労働者を採用する際には幾つかの注意点がある。まず、賃金が安いからとか重労働をするかと云う差別をしてはいけない。外人であってもよく働く人にはそれだけの評価とモチベーションを与える必要がある。景気の悪化という逆風の中、十分な従業員を確保できず、サービスレベルを低下させることは致命的だろう。しかし、人が居ないからといって外人労働者を安く使うという安易な考え方ではサービスレベルの低下を来たしかえって売り上げを下げることになる。しっかりとしたトレーニング、やる気を引き出す工夫をして外人労働者を戦力化するという事が重要になる。

また、日本で働ける資格のある人しか採用できないと云うことに注意していただきたい。パスポート、ビザ、外国人登録証があるだけではだめで、必ず、労働許可書を持っているというのが必要だ。もし、外人労働者が労働許可書を持っていないことを経営者が知って採用していたら罰則規定があるから十分に注意する必要がある。

2)物の問題点 安全性とメニュー開発
安全性(食中毒、食材の汚染、無農薬野菜、)
96年の大阪堺市で起きたo157による大規模な食中毒は偶然ではない。老人は食中毒に対して抵抗力が無くこれからも、大きな食中毒の発生の可能性があるだろう。昨年、バーガーキングのo-157の事件は海を遥かに越えて韓国にも影響を与えた。バーガーキングの食肉を加工していたネブラスカからホテル用の食材として輸入した牛肉からo-157が検出され、現地の牛肉関連外食の売り上げが一時は50%も下がり、同時に起こった経済危機の問題と相まって外食産業の業績は大きく低迷している。
食中毒はo-157だけではない、続々と新型の食中毒菌が誕生している。参考資料を見て戴ければわかるが93年と96年を比較すると食中毒が大幅に増加しており、o-157だけでなくサルモネラによる食中毒が増加しているのがわかる。従来のサルモネラ菌は卵の殻などの外側に付着していたが、最近は卵内部が汚染されており、厚生省では今後生食用と加熱食用の卵の指定をする事を検討している。卵は常温保管でなく冷蔵保管が必要だ。将来、すき焼きに生卵をつけられなくなる時代がくるかもしれないと云われているくらい深刻な状況だ。

その他でも新型の中毒が指定された。従来は食中毒菌だけでウイルス性の食中毒という分類はなかったが、生牡蠣によるウイルス性食中毒様症状(小型球形ウイルス)の増加により食中毒への分類をするようになった。最近の厚生省の発表によると30%近くの貝類が汚染されているようだ。米国でも生牡蠣の汚染は深刻な状況であり、ルイジアナ州沿岸では食中毒が多発していることがCDC(米国中央疾病対策センター)のニュースレターで発表された。漁業関係者が汚染地域で貝類を採取したのが原因だが、どこで採取したかがトラッキングできず事故が多発した。

また、東南アジアから輸入したオイスターソースが空気が無くても生存するボツリヌス菌で汚染されていた事件があり、輸入食材の取り扱いには十分な注意が必要になってきた。

最近のはやりの無農薬の野菜は本当に使用していないか、使用している場合には寄生虫などは付着していないかなども検討しないといけないだろう。養殖のハマチなどの魚類では漁網への貝類の付着を防ぐためにしようする錫などの汚染問題もあり、必ず信頼の置ける業者から購入したり、産地を自分の目で確認するという慎重さも求められるだろう。

今後は、良い安全な食材を採用し、合理的な衛生管理のHACCPなどの科学的な食中毒対策を中小の飲食店も取り入れる必要が出てきているわけだ。

食材の供給
従来、外国から入手していた魚が、東南アジア諸国の国民所得の増加に伴う魚の消費向上により、入手難になり価格が暴騰している。従来、中国の沿岸から捕獲していた真蛸が中国の消費増加で入手難になるし、アフリカ沿岸も乱獲のとがめが出て捕獲量が減少というように、世界的な消費量の増加と資源保護活動により入手が難しくなるだけでなく、価格が高騰している。すし屋に欠くことのできないマグロも各国の資源保護の動きでだんだん難しい状態になるだろう。
しかし、安全の観点だけで怖がるだけでなく、積極的にトレンドにあった食材を使用するために世界のトレンドを見る必要も出てきている。食肉で云えば今はダチョウ肉が脂分がないということでトレンドだし、ワインでもフランスだけでなくチリやオーストラリアの優れたワインもある。積極的に食材を開発輸入する時代にもなっている。

3)店舗形態
メニュー開発
バブルがはじけてから社用接待が無くなり、個人のファミリー客が中心になりつつある。また、カジュアルフライデーの定着によりくつろいだサービスやメニュー、店舗の雰囲気が必要不可欠になる。不景気の中わざわざ飲食店に足を運ぶのは、家では満足できない楽しさと食事を期待するからだろう。今の消費者は料理の鉄人などの料理番組で料理を覚えているからごまかしは利かないし、家の料理に負けるという可能性すらある。家の料理で絶対にできないのは料理の種類とデザートだろう。お酒も同じだ。色々異なる酒やワインを楽しめるのはレストランだからこそであり、常に珍しいすばらしい味の酒類を取りそろえるべきだ。家で美味しい料理を作るのは可能だが、美味しい酒から、オードブル、メインディッシュ、デザートまで作る手間とスペース、時間が無いからだ。そういう意味では家でできない、楽しい料理を目指す必要があり、消費者に負けないで勉強をしなくてならない。
これからのトレンドをしっかりとらえたメニュー開発が必要だ。メニュー開発に当たって顧客の志向の変化を正確に捉えているのは、米国ホテルチェーンのHYATTで、日本でも東京パークハイアットのニューヨークグリル、大阪ハイアットリージェンシーのイタリアンレストランのバジリコ、福岡キャナルシティのグランドハイアットのフードライブなどすべて異なるコンセプトを掲げ大成功している。同社のノウハウは世界のハイアットグループのトレンドを正確に捉えたメニュー開発の手法だ。大阪グランドハイアットの総調理長のJ.Paul Snow氏にハイアットが重視している現在のトレンドを教えていただいたので見てみよう。(注は筆者が説明を加えた物)

The best cup of coffee
(美味しい香りの高いコーヒー、現在のトレンドはイタリアンのエスプレッソ、カプチーノだ。一杯づつその場で入れる香りの高い新鮮なコーヒーが大事だ。)
Freshly brewed tea
(入れ立ての新鮮なバラエティのある世界各地の紅茶)
Freshly baked bread
(新鮮な焼きたてのパン)
Fresh sandwiches using fresh bread
(新鮮な焼きたてパンを使用した出来立てのサンドイッチ)
Perfectly ripe fruit
(完熟のフルーツ)
Fresh vegetables
(取れたての新鮮な野菜)
Vegetarian menus、low fat and healthy
(菜食主義者、自然食指向のメニュー、健康的な低脂肪のメニュー)
Fresh fish
(取れたての新鮮な魚)
Fantastic desserts
(バラエティのある素晴らしいデザート)
Selection of ice creams
(多種のアイスクリーム)
Separate restaurant identities
(店舗毎に個性のある店作り)
Authentic ethnic cuisine
(伝統的な民族料理)
Freshly squeezed juices
(絞り立ての新鮮なジュース)
Mineral waters
(ミネラルウオーター)
Variety of beers
(色々なビールの取りそろえ、特に地ビールなどのダーク系のビール)
Wine by the glass
(ボトルワインを一本取らなくても、美味しいワインを気楽にグラスで注文できる)
Well presented beverages
(見た目に美しい飲み物のプレゼンテーションテクニック)
Freshly grown herbs
(新鮮なハーブ)
Best preparation methods
(最高の調理手法の採用)
Spotlessly clean surroundings
(店内はぴかぴかにきれいに保たれている事)
店舗の雰囲気とサービス
非日常的な雰囲気を求めて客は外食をするのだから、家ではできないサービス、雰囲気を実現する必要がある。サービスをよくしろというと、見かけだけの心のこもっていない形式だけにこだわるようになる。日本のサービスの心得はお茶から来ている。お茶の心得に一期一会のサービスがある。日本のサービスというとこの言葉が連想させられる。
一期一会というのは戦国時代の人たちは何時戦などで命を落とす変わらない無情の世界にいた。そのような人たちをもてなすのに、もう二度とあえないかもしれないと云う緊迫した心のこもったもてなしが必要だったのだ。しかし、その一期一会から心を失った、形だけのサービスは慇懃無礼となってしまっている。

勿論、接待をするような料亭などの場では一期一会のサービスは必要不可欠かもしれないが、個人で友人、家族と気楽に食べるにはもっと気楽な、笑顔のある自然なサービスの方が望まれる時代となったのだ。サービスも時代とともに異なるのだという事を忘れてはいけない。

先日、築地にある超有名料亭の銀座支店で食事をした。出てくるメニューを聞いてもサービスする人は全く答えられず一々、板前に聞かなくてはならない状態だった。その板前も「この素人」がという客を馬鹿にした態度で答える状態ですっかり気分を害してしまった。

最近、大人気の石鍋さんのクイーンアリスや熊谷喜八さんのキハチ、京都懐石割烹菊の井などは本格的な料理を出すが、客へのメニューの説明を誰に対しても丁寧にチキンと行っている。初めての客でも恥ずかしくさせないと云う気配りが雰囲気の良い店作りに大きな効果を出している。

最後に
実は上記の具体的な問題点に対する取り組みは、景気が絶好調でまだ若年労働人口が十分にいる米国ですでに着々と採用されている。これらの対策に今から真剣に取り組んでいかないと10年後にはさらに米国から遅れるという深刻な問題を引き起こすだろう。
昨年から引き続き日本の景気が最悪な状態なのは、将来を正確に予測しそれに対して必要な対策を積極的に行っていなかったからだ。誰かが何とかしてくれるだろうと云う甘い考えではなく、自らが具体的に10年後にどうあるべきか、具体的な対策を練るべきだろう。

参考資料

1993年度と96年度の 細菌別発生状況(判明したもの)
93年 96年
細菌 385件
サルモネラ 143 350
ブドウ球菌 61 44
ボツリヌス菌 2 1
腸炎ビブリオ 110 292
病原大腸菌 37 179
ウエルシュ菌 9 27
セレウス菌 6 5
エルシニア・エンテロコリチカ
カンピロバクター 14 65
ナグビブリオ 1 3
その他の細菌 1 3

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