「実力SVへの道」(商業界 飲食店経営2006年6月号)

スーパーバイザー(以下SVと略す)は経営の中核となる重要な役割を担っている。ここで、SVの機能と役割を理解し、どのように仕事を進めていくかを見てみよう。

1)店舗のQSCの最終責任者
<1>QSCのインスペクションと改善
SVは店長の上司であり、店舗のQSCのチェックマンであるだけでなく、店舗現場におけるQSCの最終責任者でもある。SVは上司として部下の店長へ改善の指示を与え、改善ができなければ、指導、教育、訓練、を行い、店舗が自ら改善できるようにする。
店舗のQSCが基準に達するためには必要であれば,店長を降格させたり、閉店を命ずることもできる強大な権限を持つ。

2)利益管理の責任者
SVは担当店舗の売り上げと利益管理を行わなくてはならない。店長やSVがいくら頑張っても競合店の出現や地域的な経済動向により,売り上げが低迷し利益が大幅に減少することがある。販売促進策を実行し,エリア全体の売り上げ目標と利益を確保しなくてはならない。1店舗の利益は落としてもエリア全体の利益を確保するという利益管理の機能が最も重要になる。そうすることによりチェーン全体の利益が予定通り確保することが可能になる。

3)人材教育担当者
本部にトレーニング部などを持ったり、外部のトレーニング機関に依頼して、店長への教育を行っているので十分だと思いがちだが、重要なのはオンザジョブトレーニング(OJT)だ。SVは部下にマン・ツーマンで自分の知識や技術をわかちあわなければならない。問題点を指摘するだけでは能力や知識のない部下は改善できず、挫折感だけを抱くようになる。部下が店舗の問題点の解決方法を知っているか、解決策を自分で考え出せるかを測定し、もしできないようであれば必要な教育を施す。
店舗を訪問して問題点を発見したら、それをすぐに指摘するのではなく、店長やスタッフに質問して彼らが問題点に気がついているか、気がついていたらその優先順位をつけているか、その優先順位がSVの優先順位と合っているかを確認する。
問題を解決する際には彼らがその問題解決する手段を持っているか,知識があるか、問題解決する時間と予算があるかをみて、必要なら援助やトレーニングをする。例えば店長とアルバイトのコミュニケーションが悪いとする。理由は店内のミーティングを定期的に開催していないからだ。ここで、コミュニケーションを向上しなさいと云っても問題解決はしない。店舗は年中無休で営業しており、朝から深夜まで交代で働いている。そんな数多くの従業員を集めて店長がミーティングを開くなど不可能な場合もある。SVが代わりに店に入り,店長がミーティングを開催できるようにしたり、貸し会議室や静かな喫茶店の費用を出してやり、物理的にミーティングを開催できるようにサポートをする。

<SVに必要な部下への集合トレーニングの手法>
効率を考えるとSVは集合トレーニングも行わなくてはいけない。その手法は以下の通りだ。
(1)集合トレーニングの準備
<1>まず、店内会議でトレーニングが必要だという事を全員認識させる。
<2>何をトレーニングするか決定し、十分な告知期間をおく。
<3>参加者する人の過去の評価や実績などのバックグラウンドを把握する。
<4>内容と主題、ディスカッション等のポイントをまとめ台本を準備する。
<5>講義方式、ディスカッション方式、ロールプレイ方式、ビデオの上映等、トレーニング手法を決めておく。
<6>教材に目を通し、VTRやOHPなどの機器の作動を確認しておく。
<7>台本どおりに話す練習をしておく。
(2)トレーニングの開始に当たって。
<1>トレーニング中のルールを明確にし、説明をする。
<2>講師の自己紹介で自分が店長時代などの仕事の失敗経験などを話リラックスさせる。<3>本日の集合トレーニングの主題を明確に伝える
(3)参加者のやる気を引き出す
<1>誘導的、一般的、関連的、連続的な質問をして、参加者が積極的に参加したり、ディスカッションできるように仕向ける。
<2>主題をそれないようにディスカッションをコントロールする。
<3>ビデオやロールプレイで参加者の理解度を増す。
(4)評価とフォローアップ
<1>トレーニングを終了する前に、内容の評価を参加者にしてもらい、次回の参考にする。
<2>参加者に参加してくれたことを感謝し、トレーニングを終了する。
<3>トレーニング参加後に参加者が何をするのかのアクションプラン(行動計画)を作成させ、参加者がトレーニングで得た知識を積極的に実際に使用出来るように手助けをする。

4)SVの役割。
経営者、部下、上司という複雑な機能を使いこなす。

<1>経営者
経営者としての意識を常にもちつづけなくてはならない。誰かに命令されないと行動を起こせないのではSV失格だ。常に担当店舗を観察し、必要な改善策や教育があれば自分で判断し行動を起こさなくてはいけない。また、業務で失敗をしたときにそれを決して他人のせいにしてはならない。失敗した理由を分析し同じ失敗をしないように肝に命じ直ちに改善策に取り組むという積極的な姿勢を持つ。また、例えば新店舗を開店する場合には経営者や本部に代わって以下の仕事を行う。
物件を見つける(店舗開発、調査、財務、総務)
店舗コンセプト(業態開発、商品開発)
店舗の設計と発注(建設、機器開発,資材)
人の募集(人事部)
店舗の備品、ユニフォームなどの発注(資材)
食材の発注(資材)
宣伝活動(広告宣伝)
店舗開店(店舗運営部、SV、店長)

<2>部下
SVは経営者にとって部下であり、店舗と経営者の間に立って、コミュニケーションを円滑にし常に店舗の人間の業務をやりやすいようにサポートをする中間管理職である。単に会社の命令を店舗に伝えたり、店舗の問題点を経営者に報告するメッセンジャーではない。経営者の命令に納得ができない場合には,店舗従業員の立場に立って経営者とディスカッションをしなくてはならない。店舗の問題点は必ず自分の目で確認し、SV自ら改善できるように努力し、それでも解決できなかったり経営者の助けが必要な場合になって初めて報告するようにする。いずれの場合でも必ず自分の言葉で報告や指示をする。

<3>上司
店長に業務上の指示を与えながら同時にやる気も引き出し、必要ならトレーニングやヘルプもしなくてはならない。そして仕事を評価し認めたり改善の要求もしなくてはならない。店長ばかりでなく店舗従業員全員へも注意を払い続ける必要がある。上司であるという立場を利用して命令だけで業務を進行してはならない。業務を伝えるときには必ずなぜそれをしなくてはいけないか合理的な説明をできなくてはいけないし、部下が理解できなければわかるまでわかりやすく説明したり、場合によっては勉強会を開いたりというトレーニングを通じて仕事を達成するという辛抱強さを持たなくてはならない。
SVは経営者の代行として店舗指導に当たるわけで広い自由裁量権を与えられているが、自分の思うままに店舗を運営してはならない。SVは5~10店舗の店舗を経営する、いわばフランチャイズオーナーと同じだ。本社の決めたマニュアル、システムを遵守し、それらに則って店舗指導経営に当たらなくてはならない。一定のガイドラインの中で工夫し最大の利益を上げなければならない。

5)時間管理と書類整理で仕事の効率を図る
To Do List と言うリストを作成する。業務別に優先順位を決め、時間配分が明確な行動計画を立てる。毎晩寝る前に翌日片付けたい事を全部リストアップし日々の計画表に記入する。優先順位や緊急性の最も高い物から順にリストアップする。「何をすることが、自分にとって最もよい時間の使い方か?」を絶えず自問自答し、それから時間のスケジュールを立て、それに従って行動する。
計画は往々にして変更されたり、新たな目標や仕事が与えられる場合が多い。その場合には直ちに仕事を整理し、何が優先順位か再検討をする。仕事を効率よく片づけるには、各仕事の重要性、時間量、を測定し無駄な労力と時間を消耗しないようにする。時間の浪費をしない為には,常に「今のこの時間はどう使うのが一番良いのか?」と考える。

まず、時間浪費の主な原因を分析すると以下のようになる。
<1>電話による中断
<2>約束の無い訪問者
<3>会議(予定あるなしにかかわらず)
<4>不測の緊急事態
<5>目標、優先順位、期限の欠如
<6>乱雑な机とだらしない性格
<7>他人に委譲できる細かな決まりきった仕事まで自分でやってしまうこと。
<8>一度に何もかもやろうとする。しかもそれに取られる時間を少なく見積もること
<9>責任と権限委譲が明確になされていないこと。
<10>他からの不適当、不正確、遅い情報
<11>優柔不断と遅延
<12>不充分もしくは不明確な伝達と指示
<13>「N0,いや、だめ」といえないこと。
<14>上司が部下の進歩と成長を把握する上で必要な情報の不備
<15>疲労

次はこれらの時間浪費をどのように防ぐか見てみよう。
<1>良い記憶力と良いファイリングシステム
<2>柔軟な対応力を持つ。障害があってもそれを乗り越え、やり抜くことができる。
<3>自信。いくつかの仕事が同時に重なっても、あわてず優先順位を貫くことができる。
<4>他人と良い人間関係を築き、維持できる人。人との摩擦や喧嘩などで余計な時間を  使わない。
<5>素直な態度で人と接する。遠回しな言い方したり、人から誤解を受けるようなことを しない。

以上が時間浪費を防ぐ秘訣だが、以下が時間浪費をするケースだ。
<1>優柔不断な人。
仕事の優先順位を頻繁に変え、あれこれといろいろな仕事に手をつける。
<2>完全主義者
時間の使い方が下手な人は細かい所に注意を払いすぎる。
<3>情緒不安定名人
怒りや欲求不満、悩み等があるとそれに邪魔されて、他のことの考えがまとまらず、 正しい判断ができない。
<4>過度の緊張をしやすい人
緊張しすぎる為に、肉体的、精神的疲労が蓄積され、仕事の生産性があがらない。
<5>不安感を何時も抱いている人
自信がなかったり、失敗を恐れて、仕事に着手できない。

以上の時間の使い方をチェックし、効率よく時間管理をするには以下の2点を考慮し計画を立てる。

<1>目標に優先順位をつけてリストアップする。
<2>目標達成のための行動計画を開発し、実施可能なように上手に組み立てる。

最後に重要な書類管理と整理の仕事のポイントを見てみよう。

書類整理は放って置くと膨大な量となる。書類はきりがなく溜まっていくものであり、効率よく処理しないと身動きが取れなくなる。 会社の書類は次の3種類に分類される。
・現場保管の書類
・個人保管の書類
・会社保管の書類
どの書類が上記のどの分野にあてはまるか、いったん決まってしまえば、あとは自動的に分類できる。情報をコピーすると書類を膨大に増加する。どこにどの書類が保管されているのかを知っておくようにすればよい。
定期的に保管している書類が本当に必要かどうかを考える。破棄しても問題ないか、どこかに保管できないか、ファイリングするべきか考えてみる。書類は絶えず整理をすれば書類の山に埋もれることはない。自分の時間をより効率よく使うことができるようになる。
SVになると、いろいろなことに時間を取られてしまう。会議への出席は必用なものだけに出来るように,上司や同僚と打ち合わせをして作業を分担し、会社には何日位出向く必要があるかを決める。必要な会議には出席できるよう優先的にスケジュールを立てる。
会社に到着すると、郵便物や伝言、依頼事項、報告書等、が山のように積み上げられているはずだ。これらの処理のポイントは、重要なものから順に3つに分類することだ。Aは直ちに処理が必要な最優先事項。Cはそれ程緊急でない用件である。Bはどちらか迷うときに分類し、後でAまたはCに分類し直して処理する。

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