制裁規定 地区部長はルールを確立しなくてはいけない

フードサービス地区部長の仕事 第4回(商業界 飲食店経営2003年)

会社が伸び盛りで規模も小さいときにはやる気のある人間ばかりであり、仕事上のモラルの問題は少ないし、問題があったとしても経営者の判断がバイブルであり、問題点はたちどころに解決していた。しかし、会社の規模が大きくなり、経営者が日常業務の判断をする時間がなくなると地区部長は経営者に成り代わっても、従業員のモラルを維持しなくてはならない。就業規則の他に制裁規定を社内秘文書として作成し、問題が発生した際にそれを元に経営幹部が論議して、公平な処分を下すようにする。
1)制裁処分が必要な問題とは
<1>就業規則、従業員規則、職務規程、に対する違反
無断欠勤とか、蒸発した場合など、就業規則に明確に違反した場合に処分をくだす。しかし、その処分は社会常識的に考えて妥当にしなければならない。遅刻3回で解雇する等と就業規則に書いてある場合があるが、遅刻3回で直ちに解雇するのはあまりに厳しすぎる処分であり、違反と処罰のバランスを慎重に定めるべきだ。
<2>法令、法律、公序良俗に違反した場合
酒気帯び運転や飲酒運転により事故、重大な過失による死亡事故等がある。会社の勤務状況で残業が続いたり、休みがなく過労状態で交通事故を起こす場合は、その上司や会社の管理責任を問われるので注意する。
その他、暴力事件、恐喝、痴漢行為、詐欺事件、など、で刑事処分を受けた場合だ。

<3>社内での暴力やモラルの問題
調理場などでは暴力的な指導が多いが、最近の従業員は権利意識が高く、有名外食企業でも責任者や経営者が従業員に対する暴力行為を働いたと言って訴えられる事例も出ている。基本的にどんなことがあっても暴力は否定するべきで、暴力が発生した際には、厳しい処分を行うことを明確にする必要がある。さもないと、マスコミなどで報道され会社の信用度やイメージが低下する。お客様や取引先に対する暴力も勿論処分の対象となる。
外食産業では男性優位の考え方が多く、女性に対するセクハラがはびこっている。女性の体に直接触れる行為だけでなく、休憩室に置く雑誌やポスター、会話なども注意する対象だ。女性が働きやすい環境を整備する上で、セクハラとは何かを認識し、対応しなくてはいけない。
デリケートなのは社員やアルバイト同士の男女の交際だ。片方が妻帯者の場合などは、どちらかを転勤させるか、依願退職をさせるが、状況により異なるので、当事者から事情を聞き慎重に対処する。
最も注意を払うのは、SVや店長など、従業員の解雇や昇給昇進の決定権を持っている経営幹部が部下に交際を迫るケースだ。独身の社員が独身の異性とつき合っているからと見過ごすのではなく、その交際が純粋な物か、強制した物かを見極める。
男女の問題はプライバシーとの関係からデリケートであり、日頃から従業員とカウンセリングを行い問題が発生する前に関知し、他の従業員に知れないように静かに対処する繊細さが必要になる。

<4>社内の管理責任(無意識や怠慢による)
会社の資産、資金の紛失、管理不足による盗難、報告書、文書、等の偽造、粉飾、不正記載、業務、部下への管理不足による事故発生、等である。これらの無意識や怠慢による被害は、金額が少ないからと言って見過ごしてはいけない。管理が不十分であると、意識して会社の財産などを横領しようとした場合に発見が遅れ、より被害が大きくなるからである。また、報告書の改竄や帳簿の粉飾、例えば成績を上げるために売り上げを多く計上したり、現金差を従業員に穴埋めさせたりすることも管理責任を問わなくてはいけない。最初は善意の行為であっても、売り上げの粉飾や報告書の改竄はそのうちに会社の金銭や財産の横領につながる例が多いからだ。

<5>会社の秩序を乱した場合
故意又は重大な過失により会社に損害を与えた場合、会社の名誉信用を傷つけた場合、会社の機密を漏洩した場合、その他前記の項目に違反する場合である。派閥争いなどで社内外に怪文書を流したり、マスコミに情報を漏らすことなどが該当する。注意しなくてはいけないのは売り上げや、機密を競合や他人に漏洩することも会社に被害をもたらすので厳しく管理をする。

<6>会社の財産に対する意図的な不正行為
会社の資産、資金の私的利用、私的流用、横領、会社に無断の寄付、献金、取引先への便宜、利益提供、取引先よりの接待(接待規定を定め金額の限定、届け出の義務を定める)取引先、社内関係者よりの便宜、金銭、の受け取り、取引先との資本関係、投資、機密情報の漏洩、取引先からのリベートや接待規定を越えた贈り物、金銭、便宜を無届けで受け取った、等の行為は不正行為となり厳しく処罰する。
原材料を購入する調理場責任者は取引先の接待攻勢にさらされやすく、危険であり、1万円以上の金銭に該当するゴルフや飲食等の接待、歳暮お中元等、は経営者に報告をさせるようにルール付け、報告をしないでそれらを受け取った場合は処罰の対象とする。
不動産担当者が賃貸物件の不動産業者から金を借り、その金をマンションなどの不動産投資に回し運用した例があった。これは個人の借り入れであるように見受けるが、実質的な金銭の供与であり、処罰の対象となるだろう。これらの問題を基本的に防ぐには商品やサービスの購入と取引先を選定する部署を明確に分け、定期的な人事異動などで、業者との癒着がないようにしなくてはいけない。

<7>上司の管理責任
上記の問題が発生した際に、上司がそれをどのように把握し、対処していたか、日頃の監査やチェック、人事異動による馴れ合いの除去、等の状況を確認しなくてはいけない。問題点が発生した原因が、監督不十分や怠慢であれば、管理責任を問わなくてはいけない。

2)制裁のデーターベース
上記の制裁は色々なケースがあり、発生してみないとわからない場合が多い。そのため、過去の事例を集め、ケーススタディ集を作成しておく。そしてどのケースではどのように処分したか、過去の実例を蓄積し判断の助けとし、同じ事件に対する制裁が同等で、不公平がないようにする。このデーターベースはプライバシー保護の観点から厳格に保管し、社外に流出しないように注意をしなくてはいけない。

3)制裁の種類
<1>懲戒解雇
会社のサラリーマンとしては一番重い処分であり、殺人や暴力行為、詐欺などの重罪を犯したり、対外的に問題が公表され会社の名誉が大きく傷ついたり、会社の財産を大きく損傷したばあい、に適用される。この処分は将来にわたり大きな影響を受けるので慎重に検討する。

<2>依願退職(退職金支給無し)
会社から多額の売上金などを横領した場合で、本人の反省が見えず、弁済ができない場合は、刑事告訴と民事訴訟を起こす。しかし、本人が反省し本人又は家族が弁済をする場合には懲戒解雇ではなく、依願退職とする。ただし、懲戒解雇と同じく退職金は支給しない。

<3>依願退職(退職金支給)
会社の書類を改竄したが、会社に対する実質的な損害を与えておらず、反省も見られる場合など軽微な損害は依願退職として、退職金も支払うようにする。

<4>降格
意図的でないが、会社の売上金の紛失や火災の発生など会社の資産に重大な被害を与えた場合に、降格の処分を下す。ただし、6ヶ月ほどしてから再度、元に職位に戻れる救済処置をするべきだ。カムバックの余地がないと本人のやる気がなくなるからだ。

<5>出勤停止
降格ほどの処分ではないが、勤務停止処分も重い処分となる。

<6>減給
上司が部下の管理責任を問われた際などに取る処分である。金額的には少ないが、管理者にとっても重い処分となる。

<7>戒告
部下の管理責任を問われる場合に良く使う。金銭的な処分ではないが、社内的な処分としてはかなり重い処分である。

<8>始末書(評価ダウンで、昇進、昇給、ボーナスに影響する)
軽い処分であるが、昇進の時期が延び、昇給、ボーナスが減ると言うことでは経済的な処分としては重くなる。ただし、この処分は半年ほどで、その後は業務の実績として評価されるので、立ち直りがしやすい。

<9>始末書(評価に影響しないので、今後の昇進、昇給、ボーナスには影響ない)
軽い注意であるが、何回も始末書をだすようであるとだんだん、重い処分とする。
(続く)
お断り
このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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