地区部長の利益管理

フードサービス地区部長の仕事 第7回(商業界 飲食店経営2003年)

地区部長の重要な仕事の一つに売上の増大と利益管理がある。しかし、地区部長の担当店舗が100店舗もあれば、その全ての店舗の売上と利益を平均的に向上する事は不可能だ。ではどの様に効率的に利益管理を行うか見てみよう。

1)効率の良い利益管理
会社が利益率目標を売上高対比で10%と、売上の低い店舗はそんな利益率を確保できない。しかし売上のよい店舗は楽々とその利益目標を達成できる。最大限に利益を出せと言われたら20%の利益を出せるが、会社が10%で良いと言えばその方が楽であるから、利益をださなくなり、全店舗の利益率は目標値を達成できなくなる。地区部長は各店舗毎に最大限の売上高利益を出せるように緻密な利益管理を要求するべきなのだ。
しかし、地区部長は多くの店舗を担当しているのだから、効率の良い利益管理を行わなくては行けない。筆者の経験では担当店舗の10%の店舗で殆どの利益を稼ぎ、10%の店舗でその利益を食いつぶしている。下位10%の店舗の損失を0にして、上位10%の店舗の利益を倍増すると担当地区の利益は3倍にもなった事がある。つまり、担当店舗を絞り込み管理する必要があるのだ。

2)SVと地区部長の利益管理の違い
損益計算書を見てみると、管理可能費と管理不可能費とに分かれる。管理可能費とは人件費、原材料費、水道光熱費、広告宣伝費、修理代、消耗品費、雑費、等のように店舗で管理可能な費用を言う。(Controllable Expense )
管理不可能費とは家賃、税金、保険代、減価償却費、リース料、金利、等のように店舗では管理できない費用を言う。(Non Conrollable Expense)
例えば店舗の家賃は立地や出店年度などにより異なるし、減価償却やリース料、金利は店舗の大きさや設計により異なる。それらのコストは店舗のマネージャーやSV達の責任外となる。そのために店舗の利益管理を最終の利益で比較しても意味がない。店舗やSVの利益管理が旨くいっているかどうかは、売上高から管理可能費(Controllable Expense)を引いた金額と、その売上高比率(%)で比較する。それをProfit After Controllable Expense と言う。略してPAC。
部長は担当店舗を売上順に並べ、次ぎにPACの額と売上高比率を記入する。そして最後はPACから管理不可能費(Non Controllable Expense)を差し引いた店舗の利益額(Net Income)と売上高比率を記載し、売上の額の割に低いPACとNet Incomeの店舗を抽出し対策を講じる。
さて、店舗とSVの利益責任はPACまでであるが、地区部長は最終利益まで責任を負わなくては行けない。と言うことは、店舗の家賃の交渉や場合によっては店舗閉鎖や移転、売上を上げるための店舗改装まで企画立案し、最終利益を向上させなくては行けないと言うことを認識しよう。

3)地区部長の動態的管理と静態的管理
地区部長の管理とは動態的な管理と静態的な管理とに分かれる。動態的な管理とは店舗のQSCと人の管理だ。静態的な管理とは店舗の物(建物や機械など)と金(売上と利益)の管理だ。店舗をSVと巡回をする際にはQSCと人の状態を観察できるが、物や金の管理は過去から現在までの書類や数字の状態を見ながら行わなくては行けない。月に1~2回は担当のSVとじっくり座って書類を見ながら売上高の傾向と利益管理をどのように行うかを話し合う。
通常のチェーンであればコンピューター化しているので、店舗の売上高や経費は店舗からのパソコンやPOSデーターで算出されるが、チェーン店が大きくなると数値の確定まで7日~10日必要だ。そんなに過ぎてから利益がどうだと言っても失った利益が返ってくるわけではない。返ってくるのは部下からの弁解や言い訳だけだ。それを防ぐために、手書きでも良いから1日と15日に半月づつの損益計算書を作成させ、手書きの損益計算書と報告書をFAXさせ、予算とどのように乖離しているかを追求し、月末までの対策と予算の達成を要求しなくては行けない。
損益計算書とか、週報というのは単なる紙切れだ。問題はその数値の原因、これからどの様に改善していくかが重要になる。そのために週報には別紙で、問題点と改善点を分析させ、詳細なレポートを書かせる。そして原因だけでなく、次回までにその数値をどの様に具体的に改善するのかを明確に書かせる。そして、翌月頭に損益計算書ができあがったら、その通りになっているかどうかの内容を追求する。

4)利益の追求は部下を通して行う。
店舗をSVと回るときに会議での議題や問題点を頭に入れ、現場の状況を観察する。例えばある店舗の人件費が何時もオーバーしている場合はその店舗を訪問した際にSVが店舗の人員と売上の関係を見ているか、ワークスケジュールへの記入や人件費管理表をチェックしているかを観察する。水道光熱費の水道代が多ければ、店舗訪問時に週報の使用量をチェックし、トイレ、水冷機器などの弁の作動状況をチェックしているかを見る。水道光熱費が高い場合は、使用量を把握していない場合があるから、SVがそれらのメーターの場所を把握しているか、設備機器類のメインテナンスの知識があるかをチェックする。知識がなければ地区部長自ら教えなくては行けない。コスト管理は理論ではなく、実践であるからだ。勿論、SVだけでなく、店舗を管理する店長もそれらの知識があるかを確認する。

5)予測
予算利益を大幅に下回る大きな原因は売上予測の誤りである。会社の年度予算に基づき売上高や利益を算定するが、過大な予算を立てることが多い。経営者にとって、低めの新規開店数や売上高を立てると言うことは、やる気がないと言って嫌い、挑戦的な新規開店数や売上目標を立たせる場合が多い。その過大な予測に基づいて新規店舗の取得費、社員数、販売促進費用などを予算計上する。また、既存店舗においても過大な売上高に比例してアルバイトパート、その他の費用を計上する。しかし、経済状態が悪化したり、新商品やキャンペーンが失敗し、売上予測が下回ると、あっという間に予定の利益率を下回るという問題を引き起こす。
経営者が立てた数字が大きすぎるから店舗の利益が下回ったのだと地区部長は言ってはならない。経営者の目標数値が下回ることを事前に予測し、目標の売上高や損益計算書とは別に、実行予算を実現可能な数値を元に立てておき、年度始めから経費を使いすぎないように慎重にスタートしなくては行けない。この売上や経費予測の正確さが地区部長に求められる大きな資質なのだ。

5)地区部長はドラスチックな経費管理が可能だ
本社や本部は不振店舗のPACや最終利益を見て騒ぎ、早急に経費削減をしろと命じる場合が多い。しかし、地区部長は冷静にそれらの数値を判断し対処しなくては行けない。不採算店舗の赤字を削減するためには経費削減よりも売上高の向上の方が効果的な場合があるからだ。店舗の商圏や競合状態、店舗のQSCと人材の状態等を判断し、売上を上げる余地があるなら、経費削減よりも優秀な人材の増強や入れ替え、販売促進費の増大をはかるべきだ。しかし、不振店舗に割り振る経費は、地区部長担当の他店舗の経費を削減して捻出する。予算は自エリアの地区部長単位でコントロールし、総額やパーセンテージで担当地区の予算を上回らないようにする。つまり、担当地区の経費をメリハリをつけて管理すると言うことになる。

6)担当地域の競合対策
予算管理は単年度管理であるが、あまり単年度だけを見ていくと、長期的には売上や利益を落とすことになる。単年度の利益を最大限にだすには全ての経費を削減すれば良いが、来期の売上を落とすことになる。本当に優秀な地区部長は3~5年の期間で最適な利益構造を考え、将来の売上増大に向け、販売促進や人材育成、店舗改装、店舗移転、等の投資を立案、実行しなくては行けない。そのためには予算は単に損益計算書だけでなく、数年単位の投資予算を立てなくてはいけない。単年度の経費だけを考えそれらの投資を怠っているとある年度に突然店舗改装を行わなくては行けなくなり、利益を大幅に下げる要因になるからだ。
(続く)

お断り
このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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