海外FCとの提携のポイント

チェーン本部サポート 第3回(商業界 飲食店経営2002年)

フランチャイズチェーンを成功させるためには、店舗コンセプトを確立するだけでなく、チェーン展開を短期間に行える組織とマーケティング、マネージメント能力の構築が必要不可欠であり、それらの能力を自社で構築するには多数の店舗展開の実績と経験が必要となる。しかし、短時間に店舗展開を行わないと競合に追随されるという問題も生じる。
そこで、実績のある米国外食チェーンと提携し、ブランドイメージ(商標の確立)、店舗デザイン、商品製造ノウハウ、店舗展開のマネージメント、フランチャイズチェーン展開のノウハウ等を構築し、短期間でチェーン展開を行う業務提携や合弁会社の設立が有効となる。
しかし、過去に米国外食チェーンが日本に数多く進出しているが、その結果は勝ち組と負け組に明確に分かれている。
米国外食チェーンと提携して成功した企業のうち、ハンバーガー、サンドイッチ、ホットドックチェーンの分野ではマクドナルドの成功の陰に、他の10数社は無惨な撤退か不採算の状態である。
フライドチキンではKFCの成功の陰にチャーチーズ、エルポヨロコ、ケニーロジャースは撤退していった。
コーヒーショップ(ファミリーレストラン)やレストランではデニーズの成功の陰にビクトリアステーション、ビッグボーイ、ココス、IHOP、レッドロブスター等が撤退もしくは売却されている。
その他成功している企業はミスタードーナツ、スターバックス、等、少数である。優れた米国外食チェーンと提携したのに何故失敗したかを分析し、失敗のないチェーン展開を可能にしてみよう。

外資と提携したのに失敗した原因は以下の通りだ

<1>米国との契約条件
米国と契約する場合には合弁会社を設立するか、技術供与(日本におけるフランチャイズ権利の供与)だ。いずれの場合にも、フランチャイズチェーンに加入するのと同様に、加盟金などの一時金、ロイヤルティと言う継続した費用を米国に支払わなくてはいけない。失敗した企業を見てみると、それらの金額が採算を取れるレベルを大幅に超えていることが分かる。成功した企業の場合、一時金やロイヤルティが大変リーズナブルであることが多い。
成功したKFCやマクドナルドの場合には合弁会社であり、米国に支払うロイヤリティは当初2%程度と低かった。米国側は長期的な視野からロイヤルティを低めに抑え、合弁会社を育てるのに力を貸し、株式上場する際に莫大なキャピタルゲインを受け取り、総合的に利益を出している。
技術提携はデニーズやミスタードーナツが行っているが、米国側企業が買収されたり、日本に供与する継続したノウハウの価値が少なくなり、最終的にブランドを買い取るようになってしまった。
経営権をどちらが取るかというリーダーシップの問題はあるが、合弁会社の方が、契約後の米国側の経営指導が真剣になると言う効果があるようだ。どちらの提携形態にせよ、一時金は5000万円、ロイヤルティは2%以下でないと収益に問題が出ると思われるので慎重な契約をするべきだろう。

<2>合弁会社と技術導入
米国のチェーンと合弁会社を作ったり技術導入をする場合には、米国側の経営技術が一時金や、継続したロイヤルティを支払うほど優れているか、を十分に見定めなくてはいけない。筆者の経験では、ファーストフードのように米国と殆ど同じ商品を販売できる場合には価値があるが、ファミリーレストランのような料理は日米の嗜好の違いが大きく、あまり価値がないと思われる。
また、米国企業が直営店舗しか経営していない場合にはフランチャイズ経営システムのノウハウを持っていないので提携の価値はないと言って良いだろう。経営ノウハウの中でもフランチャイズチェーンの運営は一番価値があるからだ。
フランチャイズシステムは本部の莫大な投資を必要とせず、短期間でチェーン展開を行い、市場を独占できるというメリットがある。その優れたフランチャイズシステムを持ったチェーンと提携したのに、日本での展開を直営店舗主義にこだわり、TVコマーシャルを大量投入し、積極的にフランチャイズチェーン展開を図った国産チェーンにマーケットシェアーを奪われてしまった例がある。
提携先企業のノウハウを正確に把握し、提携を有効にする分析を行い、市場をどの様に開発していくか明確なビジョンを持つことが重要だと言うことだろう。

<3>出店戦略
<出店戦略の誤りによる膨大な赤字>

ファーストフードへの理解不足と大型店舗へのこだわりが、収支を悪化させる。パンを使用するファーストフードは日常食とならず、スナックとしての位置づけしか築けない。そのため知名度が上がるまでの一店当たりの売上は大変低く、チェーン展開当初に大型店を開店するのは収支面で大変危険である。投下資本の必要性のないフランチャイズ店舗であっても収支が悪ければ遅かれ早かれ離脱し、チェーンイメージを傷つけてしまう。
海外との提携でなく、日本で独自にファーストフードの展開を図ったファミリーレストランチェーンA社の例を見てみよう。A社は国内外のファーストフードチェーンの経験者やコンサルタントを使い、ターゲットをマクドナルドとしたハンバーガーチェーンを開始した。外食の実務経験のない同社は良いロケーションを押さえればマクドナルドと同じ売上を上げることが可能であると思いこみ、マクドナルド社と出店競争をし、マクドナルド社よりも高い条件で店舗を賃借したが(場合によってはマクドナルド既存店を転換した)マクドナルドの半分の売り上げにも満たない状態で、赤字が増大し、他社に売却をする結果となった。
同様な失敗は同じく関西のファミリーレストランのB社とC社が別々に提携した、米国大手のハンバーガーチェーンがある。両社は関西のファミリーレストランチェーンであり、自社の展開している郊外型のロケーションを使えば、郊外型のマクドナルドと同様の売上が上がると錯覚したが、売上が上がらず撤退をした。マクドナルドは今でこそ郊外型の店舗が全体の5割ほどに上がったが、郊外型に進出した当初は投下資本の大きさに対して、売上が十分に上がらず、赤字状態であった。採算が上がるようになったのは郊外型に進出して10年ほど経過してから、テレビコマーシャルによりイメージの進出と、郊外型開店に際しての出店調査の精度が向上してからである。
サンドイッチを手掛ける米国新興企業と提携した、D社は1号店を都心のベストロケーションに開店したので売上が好調で、直ぐに東京近郊の駅前に展開を図ったが、店舗立地に対するチェックを殆ど行わずに、1号店というベストロケーションを前提とした過大な売上設定による法外な家賃設定と、無理な契約条件により、あっという間に過大な赤字を抱えるに至っている。
ファミリーレストランの失敗組はすかいらーく、ロイヤル、デニーズなどの先行組を追いかけるあまり出店条件を甘くし、店舗家賃が高いというデメリットのため収益性が悪いという問題を抱え、殆どのチェーンは撤退するか、他社へ売却と言う結末を迎えた。
チキンチェーンのE社は大手商社提携し、各地域の優良企業を集め全国同時の地域フランチャイズ展開を図った。しかし、日本人の好きなジューシーなチキンとは異なるドライな焼き方のE社の商品は地方の消費者の支持を得られなかった。また、テレビコマーシャルを使わずに全国同時展開をすると言う無謀な戦略を取ったために、地方店の売上は悲惨な状態になり解散に追い込まれてしまった。
成功したスターバックスはマクドナルドの出店戦略を徹底的に分析し、開店当初はマクドナルド初期の出店場所に徹底して展開を図り成功した。テレビコマーシャルを使用しない代わりに優れたパブリシティを活用し、短時間で格好の良いコーヒーショップであるイメージの確立に成功したのだ。

<4>本部の肥大化による収益の悪化
殆どのチェーン展開失敗の大きな理由は店舗展開と収益のバランスである。ファーストフードの場合には米を扱っていないのでスナックの位置づけとなり、当初店舗の売上は米を扱うファミリーレストランよりも低い。売上を上げるためには、チェーン店舗の増大とテレビコマーシャル等の広告宣伝費の投入が必要であり、店舗段階での損益分岐点は100店舗と言われている。その収益の悪いチェーン展開の当初より、多数店舗展開を想定した本部組織の肥大化により、店舗の赤字+膨大な本部経費を引き起こし、当初予測よりも赤字額が増大し諦めざるをえなくなることが多い。
典型的な例は米国ハンバーガーチェーン大手のF社と日本の業界外大手G社が提携してチェーン展開を行った米国ハンバーガーチェーンと、ファミリーレストランの御三家の一社が展開を行った国産ハンバーガーチェーンA社である。
日本のマーケットを知らない米国企業F社と、外食産業素人のG社が、店舗展開を急ぐあまり、他のハンバーガーチェーンを買収したり、本部に多数の社員を抱え多額の本部経費を必要としたことである。G社はFハンバーガーチェーン展開以前に米国チェーンと提携したが、米国店舗が労働者向けの居酒屋的な位置づけであったことを誤認し、マクドナルドなどのハンバーガーマーケットと同じ客層を対象にして繁華街立地に展開するという立地上の誤りと、本部組織の肥大化という問題による累積赤字の増大に耐えきれず撤退をしている。
ハンバーガーチェーンへのチャレンジの場合にはG社もF社も巨大すぎる企業であり、迅速な判断が必要な外食チェーンの経営には不向きであり、提携はやがて破たんを迎えることになった。
マクドナルドやKFCなどが日本で店舗展開を開始した当初はまだ、社員の人件費や家賃は安い時代であり、直営店舗を展開するために人材募集や人材教育、店舗開発、等の膨大な業務を行うために比較的人数の多い本部組織を抱えることは可能であった。しかし、現在のように世界でも最も賃金と土地代が高い日本では全て自前で本部を運営することは採算の点でも不可能なのである。なるべく早い時点よりフランチャイズチェーンを中心とした展開を試みると同時に、比較的簡素な本部組織で運営することが必要不可欠だろう。

<5>店舗オペレーション
店舗レベルの人材教育不足により店舗QSCが悪化する。
米国との提携した企業の店舗は大型店舗の場合が多く、店舗の作業が複雑で教育が難しい。上記の失敗した企業を見ていると、多額の本部費用や郊外型の出店の失敗が、店舗人件費などの必要経費の削減をせまり、それが店舗のQSCを低下させ、最終的に顧客の支持を得られなくなったのが撤退に至る大きな原因である。開業当初の店舗はならなるべく限定した規模の店舗として、慎重にオペレーションに取り組み、熟練した段階からだんだん大型の店舗にするという慎重な取り組みが必要だ。

お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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