チェーン展開のポイント 組織破壊

チェーン本部サポート 第5回(商業界 飲食店経営2002年)

創業経営者の陥りがちな組織破壊
創業経営者は意志決定が早くどんどん新業態を試し成功した経験から、意志決定が早くないといけないと思っている。簡単に言えば気が短い方が多い。業種業態の開発過程ではそれでも良いが、いったんフォーマットが決まってからチェーン展開を行っている段階では、トップの言うことがころころ変わることはチェーン展開の方向性が定まらないと言う問題点を抱えるのだ。

チェーンが30店舗以上になった規模でトップが方針をどんどん変更すると店舗のオペレーションは乱れるし、店長の負担は増し、店舗のQSCはどんどん低下していく。この段階で必要なのは創業経営者の元で複数の店長を管理する役割のスーパーバイザー(以下SV)だ。どの企業も名称の違いこそあれ、複数店舗を管理するSV制度を導入する。しかし、創業経営者はSVの経験のない方が多く、SVを通して店舗を管理するのだと言うことが理解できなく問題を引き起こしている。

スーパーバイザーや地区マネージャー達は店長を5~7店舗管理する。成功するチェーンになるためには複数の店舗の運営を成功させなくてはいけないからだ。1人の経営者が管理できる人数は7~8名と決まっている。これが現代のマネージメントの基本だ。米国陸軍統率要項(「統合軍参謀マニュアル」1987年12月 発行。発行所 (株)白桃書房J.D.ニコラス空軍大佐、G.B.ピケット陸軍大佐、W.O.スピアーズ海軍大佐、著。監訳 野中郁次郎。訳  谷光 太郎。)にその本質が書かれており、現代のマネージメントはその米軍の理論を元にしている。簡単に言えば精緻な人のピラミッドを構築し、会社の方針命令を正確に伝達するコミュニケーションシステムを作り上げ、管理者は業務の達成にために部下の育成にどのように取り組むかという管理手法だ。

経営者として一番理解をしにくいのが、そのSVと言う中間管理職の職務だ。経営者が自ら7,8店舗を経営管理していた頃を思い出し、歯がゆくてしょうがない。一番いけないのは店舗を直接訪問し、中間管理職を抜きにして指示をしてしまうことだ。現場の店長にしてみれば、絶対の権力者である経営者の言うことであるから、言われたことは他の重要な仕事を無視しても実現する。そうすると経営者は中間管理職は何をしているのだろうかと思い、いらだってくる。SVは経営者が店舗に直接指導したことであるからそれが旨くいかなくても自分の責任でないと気楽に考えてしまい、経営者の命令を達成するロボットとなってしまい勝ちだ。

現場の店長の育成は時間がかからない。店長の一日の仕事を分析し、何時までにどのレベルまでの仕事を終了するか。一週間、一ヶ月の仕事、書類作成業務などを明確にしマニュアル化してチェックリストを作成し、一緒に数ヶ月も働けば、経営者と同じレベルまで管理をすることが可能になる。経営者はその店長の育成と同様にSVの指導も数ヶ月で出来ると思いがちだ。

SVの仕事に対する誤解も多い。良くある間違いはSVは店舗の問題点を指摘する警察、監査機能であり、それを是正したり、教育する役割は他の人に持たせるという考え方だ。その方が効率が良いように思われるが、SVが店長の評価を行う直接の上司でないと、経営者と同等の機能を果たすことは出来ないのだ。

経営者はどうしても店舗の状態、結果を求めるから単独で店舗を訪問し、店舗の状態だけでSVの仕事を判断するようになる。店長の評価は結果でよいかもしれないが、SVの仕事の評価は、SVが店長や部下をどの様に教育し、会社の方針をどの様に噛み砕いて、正確に伝え、目標、問題意識を共有し、必要な知識技術を教育しているかという、プロセスを見ていかないとならない。

そのためにはSVの仕事の機能を定め、それを教育するために精緻なカリキュラムを作成し、経営者の分身としてのSVをどの様に育成するか、明確にしなくてはいけない。経営者の分身を養成すると行っても、経営者と100%同じ考えを持つ期待をしてはいけない。自分の子供を考えてみよう。優秀な会社経営者の多くは自分の子息を会社後継者のしようと努力をするが、創業経営者を越える後継者を見ることはまれであるし、創業経営者と同等の能力すら実現することは難しいのが現状だ。自分の子供も育成できないのだから、経営者の分身と言えるSVも創業経営者と同等の能力を期待する方が間違っている。正確に言えば創業経営者のダミーを作ることは不可能なのだ。

冷静に部下の能力を分析し、彼らに不足する能力や技術があれば、丁寧に教育をしていくという養成方法をとらなくてはいけない。そのためにはSVの機能と役割を理解し、教育にあたらなくてはいけない。以下にSVの持つ7つの機能を上げたので参照していただきたい。次回はそのSVの育成にどのくらいの時間が必要なのかを説明していこう。

スーパーバイザーが持つ7つ機能
優秀な店長が優秀なスーパーバイザーになるのではない。スーパーバイザーの職務は店舗運営とはまったく別個のものであることを認識しなくてはいけない。店長の時は、店舗内で起きるすべての事柄に対して、最高責任者の立場から、直ちに決定を下し、改善や実行を命令することができた。店長自ら現場で働くという直接的なコントロールによって、アルバイトのトレーニングや知識不足を埋め合わせる事もできた。だがスーパーバイザーは、1店舗数十人の管理にとどまらず、5~7店舗百人以上の人々をスーパーバイズするのがその任務である。それだけの店舗数と従業員を直接管理する方法はない。一人前のスーパーバイザーには、今までと違ったマネージメントテクニックを身につけるだけでなく、ビジネス上の問題について知識の枠をもっと広げる必要がある。

スーパーバイザーの果たす役割を見てみよう。
1)優れたリーダー
SVは部下に対する優れたリーダーシップを発揮しなくてはいけない。優れたリーダーは部下の店長や社員、アルバイトに業務上の指示や 改善案、を押しつけるだけでなく、それを進んで行いたくなる、動機付け(モーテイベーション)を与えなくてはいけない。部下に命令すればそれを達成できるわけではないと言うことを認識しなくてはいけない。仕事を達成する上で、必要な能力、知識、を持っているか分析、観察し、持っていなければ、必要な正しいトレーニングやサポートもしなくてはならない。そして、彼らの仕事ぶりを評価し、認めてやる事も大切である。もちろん店長ばかりでなく、その下で働く100名以上に及ぶ部下に対しても同等の注意や関心を払う必要がある。

2)経営者
年商が1億円、総投資額が5000万円、従業員がアルバイトを含めて20
の店舗を7店舗担当させるとすると、SVは年間、売上7億円、店舗資産総額約3億5000万円、を運用し、140名の従業員を管理する経営者となる。SVは単なる職務としてでなく、経営者としての意識を常にもちつづけなくてはならない。

3)複数店舗を経営するフランチャイジーとしての機能
SVは独立した経営者と言うよりは、多店舗所有のフランチャイジーといえる。フランチャイジーは会社の運営方針や規則、マニュアルの範囲内で店舗を運営する事が要求されている。同様にSVも会社の規則や方針、マニュアルを逸脱したりしてはならないわけだ。

4)経営者にとっては腹心の部下
SVは経営者としての自覚を持って行動しなくてはならないから、自分の時間管理と目標設定は、自分自身でたてて自主的、積極的に行動を起こさなくてはいけない。SVは店長に対する上司であるが、同時に、経営者の腹心の部下であることも忘れてはいけない。会社や、経営者が出す目標を認識し、それらの目標を達成するように、建設的な態度で行動しなければならない。

5)威張る監督でなく、部下に慕われるコーチ役である
SVの仕事の中でも最も重要な役割は、部下達にマン・ツー・マンで丁寧に、仕事を教えたり、自分の知識や技術を分かち合うことだ。けっして部下である店長と仕事の知識や技術で競ってはならない。

6)本社と店舗の間で、調整と意志疎通の機能を果たす
店舗が何か問題を抱えて助けを必要としているときは、スーパーバイザーがその問 題を分析し、必要なら関係部と連絡をとって協力を要請するなどの調整役にあたる。また店舗と経営者の間に立って、意志疎通が円滑になるようにしなくてはいけない。店舗の状態が悪いと経営者に指摘されたときに、それを店長や部下に責任をなすりつけてはいけない。店舗の問題点を解決するのはSVの仕事であると言う自覚をしっかり持ち続ける事が部下の信頼を勝ち取る秘訣である。

7)機械的な冷たい監督でなく人間である
役割の中で、忘れてはならないのが血の通った人間であると言うことだ。中間管理職として、会社や部下の為に自分自身を犠牲にしてはいけない。自分の家庭生活や家族、自分自身の要求を満足させ、夢や願望を実現させる時間をつくらなくてはならず、良い仕事をするためにも、自由な時間を持つ事が大切である。そのために必要なのは効率の良い目標とスケジュール管理である。常に自分の上司である経営者とコミュニケーションを図ると同時に、店舗の部下も同様のことが可能になるように努力をしなくてはならない。

上記のSVの7つの機能を持たせるには、時間が幾らあっても不足する。焦って仕事をさせても成果が上がるわけではない。冷静にSVの仕事を分析し、上記全部の機能を、毎日果たさせる必要があるかどうかを考え、優先順位を決めて、ひとつの役割から次の役割へと適宜変更し、問題解決にあたらせていけばよいのだ。大事なのはSVが持っている総労働時間とそれに費やす労力のバランスをうまく管理させることだ。ひとつの役割ばかりにかかりきりで、他をおざなりにしてはいけない。役割によって必要な時間量も異なるからだ。SV自身と店舗にとって、最善と思われる判断をさせるしかない。優秀なSVとして成功させるには、バランスよい時間配分で上記の役割を的確に果たさせることだ。

経営者はそれらのSVの責任と機能を理解し、月に一回はじっくりとSVの抱えている店舗の問題点、SVの仕事の評価、必要なトレーニングを話し会うことが必要になるだろう。
お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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