チェーン展開のポイント SVへの経営者教育

チェーン本部サポート 第7回(商業界 飲食店経営2002年)

その2 店舗訪問チェック後のコミュニケーション
1)チェックリストの記入
SVが店舗のチェックを終了したら、チェックリストに記入させてみる。店舗を観察している間はメモを取らさず、記憶させるようにする。これはアウエアーネス(注意力)のテストと一緒で、どれだけ正確に記憶させるかの訓練だ。何時もチェックリストに直接記入すると、チェックリストを使用しない通常の訪問時にはチェックをしなくなるからだ。チェックリストを付ける時でなくても常時、QSCの状態を監視する習慣を身につけさせるのだ。

次にチェックリストの優先順位を付けさせる。ここで経営者が重要なのはSVの優先順位と、経営者や会社の優先順位と合っているかの確認だ。もし、SVと経営者や会社の優先順位が違っていたら、SVが意識していないか、忘れているか、それとの経営者や会社が正確にSVに方針や優先順位を伝えていないことになる。

その時にチェックするのは、QSCの現象面だけでなく、その店舗の過去の売り上げ状況、損益計算書、経費の状況、資材の状況、過去の事故の記録、社員の移動状況、社員アルバイトのトレーニング状況などを、SVが把握して、それらの状況と照らし合わせながら店舗を見ているか確認する。

店舗の問題点は2つに分かれる。単にその日に偶然発生した現象で、通常は問題ない場合と、常に同じ問題点が発生している場合だ。SVは、過去の資料やデーターを元に観察した問題点が常時発生している深刻な改善が必要な問題か、そうでないかをを見極められなくてはいけない。そのSVの判断力をチェックする1つの方法が、チェックリストへの優先順位の付け方だ。

2)チェックリストを店長へ説明させる。
チェックリストを幾ら付けても店舗の状態は良くならない。チェックリストの内容を店長が理解し、解決方法を考えることにより解決が出来るようになる。SVはチェックリストの内容を店長にわかりやすく説明することが大変重要な仕事である。店長は店舗を運営するので精一杯であり、客の立場や経営者の立場で、店舗を外部から冷静に判断する時間がない。チェックリストは客の立場や経営者の立場で見たら店舗の状態がどうであるか、客観的に店長に分からせるツールであるのだ。

しかし、記入したチェックリストを店長へ手渡すだけではだめだ。店長または現場責任者に手渡し、彼らにそれをじっくり読ませ、分からないことがあったら質問させる。質問する内容をじっくり吟味する。店長や現場責任者は、それなりに考えて店舗を運営している。彼らが良かれと思ってやっていたのに厳しい評価を受ければ何故なのかを質問するし、内容が分からない場合も同様だ。

質問が終わったら、チェックリストの内容を説明する。店長や現場責任者は忙しく働いているので全部を視野に入れていない場合があるので、わかりやすく具体的に説明する。次に、店長や現場責任者に質問をする番だ。指摘した内容のなかで、彼らが重要と思っていることに優先順位を付けさせる。彼らが問題点と感じたこととSVが問題点と感じたことの優先順位が合えば、そのチェックリストの記入内容や、説明が正しいと言うことになる。

チェックリストの説明には1時間ほど時間を割く必要がある。問題点をお互いに理解し合わないと、次回訪問した際に叉同じ問題を見るだけだからだ。

3)過去のチェックリストのチェック
店長への説明が終了したら、次に行わなくてはいけないのは、SVが過去に付けたチェックリストのチェックだ。まず、店舗にチェックリストがキチンとファイリングされているか、定期的にSVがチェックリストを付けているかを確認する。

店舗に手渡したチェックリストを元に店長は問題点を店舗従業員に告知し、具体的な解決策を打ち出し、それぞれの問題解決をする担当者をきめ、スケジュール化して店舗の運営状態を改善して行かないとならない。チェックリストをファイリングしていないと言うことは改善をする努力をしていないと言うことになる。その際に同時に、店舗の重要な管理書類のファイリングもチェックする。

チェックリストのファイリングがある場合には、チェックリストを付ける時間と現場責任者等を確認する。チェックリストを付ける理由は色々ある。まず顧客の立場で全時間帯が良い状態であるかを客観的に監査することだ。次に、従業員のトレーニングにも役に立つ。将来の店長候補がいれば店長不在時に彼らがどの様に運営しているかをチェックリストで採点し、問題点を説明し、改善方法を一緒に考えることは、より実践的な店舗運営トレーニングになるからだ。

また、SVによっては楽をして、早朝や、深夜の店舗訪問をしない場合がある。チェックリストに訪問時間を明確に記入させておくことにより、SVがキチンと店舗を訪問し、早朝から深夜までにまんべんなく店舗をチェックしているか分かるのだ。

叉、店長が店舗にいる時間にチェックリストを全く付けていない場合は、店長とSVの人間関係に問題がある場合がある。単にチェックリストといえども色々な店舗の現象、人間関係を発見できるのだ。

さて、過去のチェックリストを見て、何時も同じ指摘がある場合には、SVがその問題点の指摘をどの様に具体的に行っているか、問題点の解決のために必要なトレーニングを施しているか、必要なサポートをしているかをチェックしなくてはいけない。SVは単なる問題点の指摘者、チェックマンでは意味がない。問題点を発見し、それを解決するようにするのがSVの重要な仕事なのだ。

4)チェックリストを厳しく付けるSV
過去のチェックリストを見て、チェックの内容が厳しく、店長や現場担当者にSVが厳しく注意をする場合には要注意だ。その場合には過去のチェックリストを詳細にチェックし、店長や現場担当者が同じ指摘を何時も受けているか確認する。同じ指摘を何回も受けている場合には、改善できるようにSVが彼らをトレーニングしているか、それだけの時間を投入しているか、彼らに改善する時間を充分与えているか、をチェックする。SVによっては厳しく評価だけをすることが仕事だと思い、問題解決やトレーニングを行わない場合があるからだ。場合によってはSVが問題解決をする能力がないことを、店長や現場担当者の責任にする場合があるので、厳しすぎるチェックをするSVの場合には慎重にチェックしなくてはいけない。

5)甘いチェックリストを付けるSV
過去のチェックリストの内容が甘いSVの場合も問題がある。甘いチェックリストの内容が甘い場合には、問題点を正確に把握できるのかを確認する。問題点を理解しているのに甘いチェックを行い、店長や現場責任者を誉めて、評価を上げていくSVは要注意だ。

SVの評価は担当店舗のQSCと人物金の管理だ。QSCの評価は店舗のチェックリストで行うから、SVの付けるチェックリストの点数が良ければ、評価は良くなる。評価が良ければ現場の店長とSVの中は良くなり、仲良しクラブで仕事は楽になる。厳しいチェックリストを付ければ、SVは問題解決に一緒に一所懸命に働かなくてはいけないが、甘いチェックリストを付ければ問題解決に汗水を流す必要がなくなるからだ。この甘いチェックリストや評価を付けるSVは要注意であり、日常の店舗のマネージャー達とのつき合い方を良くチェックしなくてはいけない。良く勘違いしやすいのは店舗のマネージャー達と仲良くするのが良いSV、上司だと思うことだ。SVは経営者の立場で店舗を客観的に評価し、問題点があれば率直に指摘し、一緒に問題解決をしていかないと、店舗の状態は改善されないのだ。そのように厳しく問題点を指摘し、改善を一緒に行うことは必ずしも人間関係を良好に保てるわけではない。場合によっては能力のない店長を降格させる必要もあるからだ。

SVと店長、マネージャーの人間関係、心の通った人間的な交流は必要であるが、ある程度の緊張感が必要である。店舗のマネージャー達とSVが頻繁に飲み会を行ったり、ゴルフや旅行などに行く場合は癒着の兆候なので、SVや店長達のスケジュールで同じ日に休みが重なっているかを慎重にチェックをする。SVと店長の人間関係が癒着をしていると大きな不正や事故を発生する原因であるので厳重な注意が必要である。

6)ベテランのSVのチェックリスト
ベテランにSVもたまにはチェックリストの付け方を確認しなくてはいけない。新人のSVの場合にはあらかじめ店舗訪問を予告して一緒に訪問するが、ベテランのSVの場合には予告無しに店舗訪問をして、SVがどんな仕事をしているか確認する。

SVの仕事を把握するために、週や月の詳細な予定表を作成させておく。店舗を訪問する時間、店舗訪問の際に行う業務予定を記入させておく。そして、SVが店舗を訪問する時間に合わせて、店舗で待機をする。SVが手を抜きやすい早朝や深夜の時間帯を狙ってチェックを行う。

店舗にはSVが到着する時間よりも30分ほど早く到着し、店舗のQSCや人物金の状態に目を通してSVの到着をまつ。SVが到着したら、店舗に入る前に店舗の外観、清掃状態の確認をしているか、料理、サービス、客席の状態、クレンリネス、等に目を通しているかを観察する。

そして、SVが店舗に入って30分ほどしたら、店舗のチェックリストを付けさせる。チェックリストを付けるように命じてからSVが初めてQSCを付けるようでは落第だ。店舗に入った瞬間からQSCを目でキチンと確認していないと言うことは、チェックリストを付けると決めた店舗訪問時間以外は店舗のQSCをチェックしない、サラリーマンSVである。

SVは決して上司に言われた仕事だけするサラリーマンと化してはいけないのだ。どんな場合でも店舗のQSC、人物金を経営者の立場で真剣に管理してもらわないといけない。そのためには時々経営者の抜き打ち臨店チェックは必要不可欠なのだ。

お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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