チェーン経営に必要な標準化 多店舗化に不可欠な要素ー標準化とシステム化

10店舗を越えるチェーンレストランになるためには 第2回(商業界 飲食店経営1995年8月号)

チェーンビジネスの成功の鍵は徹底した標準化とシステム化にある。標準化、システム化をしなければならないのは飲食店の原点であるQSCだ。QSCは個人的や職人芸的に達成されているものではなく、貴方のどこの店舗でも同じ基準が達成されており、10店舗になっても全く同じQSCを実現させなければいけない。

1.C クレンリネス、清潔さ、衛生さ

Cとはクレンリネスの頭文字であり、清潔さと衛生であることをいう。多くの飲食チェーンはQSCと言うので、品質が最も大事でその次がサービス、最後がクレンリネスであると錯覚しやすい。しかし、初めて飲食店を選ぶときに試食をしてから選ぶことはできない。飲食店でQ(料理の品質)とは次にもう一度くるかどうかを決めるにすぎない。サービスも店舗に入って注文するまでレベルがわからない。最初に飲食店を選ぶには店舗の外観や雰囲気しかないのだ。家族でレストランを選ぶときには女性が決定権を持っている。その基準はまずクレンリネスである。初めての店舗を選ぶには店舗の外観、店内の清潔さで選定する。店舗を選ぶ基準はCSQの順番である。低価格で急成長したガストが現在低迷しているのは商品が弱いからではない、クレンリネスが大幅に低下したからだ。25年前が外食産業の夜明けであった。マクドナルド、KFC、ダンキンドーナツ、ミスタードーナツ、デニーズの外資系のチェーンが続々と日本に進出し、純国産のすかいらーくが誕生したのだ。これらのFF、FRチェーンの商品はとびきり美味しいものではなかったし、日本人の味にあっているものでもなかった。筆者がマクドナルドに入社するときに、数多くの飲食店を経営していた父に「そんなまずいものを売っている会社はすぐにつぶれるぞ、日本人は魚を食べるんだ」と言われたことがあった。そのころは飲食業はうまいものを売っている店は汚いんだと言う迷信が蔓延していた。しかし、たいして旨くない商品を提供するFFやFRは広々とした清潔な店舗を武器に大成功した。このFFやFRの進出により日本の飲食業のクレンリネスの基準は大幅に向上したのだ。クレンリネスの基準には地域差がかなりある。東京はCSQで、大阪の場合には、QSCだという。しかし大阪のQとはクオンティティ(量)、Sとはスピード、Cとはコストだと冗談で言われる位基準が異なる。大阪ではカンテラ(七輪)の炭火で焼く焼き肉が伝統的に人気がある。しかし東京では消防法の規制の問題もあるが、炭火の焼き肉は人気がない。焼き肉はダクトが内蔵された煙の出ない焼き台でないと人気がない。東京の女性はヘヤースタイルに気を使っているので、髪の毛に臭いがつくことを嫌がる。そのため、煙の出る焼き肉には人気がない。大阪で人気のあるステーキハウスでS屋というのがある。自家製のハムとセットになったステーキコースは大人気だ。しかし、東京に出店したが人気が出なかった。その大きな理由は加熱したペレットを鉄板の上に置き、肉の焼き加減を調整するが、そのために店内は煙でもうもうとなり、女性の髪や服に臭いが付いてしまうことで女性の人気が出なかったからだ。もう一つ大阪ではやって東京で成功しないチェーンとして、中華料理チェーン餃子のOチェーンがある。関西では大理石などを使用した立派な店作りと、低価格で大成功しているが、東京では成功していない。店内のクレンリネスが十分でなく女性の評価が低いためだ。勿論、大阪のCの基準は低いままではなく、バブルの頃の花の博覧会以来、立派なビルができ始め、レストランのCの基準は大幅に向上している。生活水準が向上するとCに対する要求も上がるのだ。従来調理場は閉鎖されているので、クレンリネスに対する注意度は低くても良かったのであるが、最近それが変わりつつある。現在東京で最も注目を浴びているレストランは新宿のパークハイアットホテルの最上階にあるニューヨークグリルと、赤坂にあるブラッセリー六三郎だ。テレビ番組の「料理の鉄人」では、料理そのものより、調理を目の前で楽しませるというスタイルを定着させた。使っている高価な食材や特別な味よりも、調理そのもののプロシージャーを楽しむ時代になっている。そのため調理工程を見せるオープンキッチンが中心だ。料理の鉄人の道場六三郎の経営するブラッセリー六三郎がその代表である。店舗の内装はフランス料理のようであり、店内に入って客はオープンキッチンの前を通って客席に着く。板前が調理をしている様子をモニターテレビに映し出す凝りようだ。(先日恨ミシュランの神足氏がある週刊誌で述べていたように、出している料理の味はもう一歩なのであるが、8000円コース料理としては価値が十分にあるであろう。特に赤坂と言う場所を考えれば十分に納得できるはずだ。少なくとも若い客層にとって、従来の一見さんの入り難い和食店の雰囲気を変えただけでも大きな成果だろう。)日本料理だけでなくホテルでも同じ現象が起きている。昨年オープンしたパークハイアットのメインダイニングは、ニューヨークグリルだ。エレベーターを降り新宿の夜景に度肝を抜かれて、クロークを通り抜け、客席に入ると、そこはオープンキッチンだ。目の前で小柄な女性グランシェフがきびきびとローティサリーオーブン等による調理をしているのを見ながら客席にいくのだ。このニューヨークグリルはメインダイニングだというから驚くではないか。ここのランチは、食べ放題のオードブルとデザートのビュフェとメインディッシュで4500円と、とてもホテルとは思えないバリューがある。この両店は東京で最も予約が難しいレストランなのだが、汚れやすい調理場をピカピカに磨き上げシェフの動きそのものを売り物にしている。厨房の中が丸見えなので客は安心して食べられるし、調理そのものも楽しめるのだ。顧客に厨房を見せるのではなく、顧客が魅せられるクレンリネスの実現が重要だということを物語っている。まず、クレンリネスの基準を確立することだ。そして、毎日クレンリネスのチェックをし、清掃したかどうかをチェックする。クレンリネスの基準は簡単だ。店舗が新装開店したときと同じ状態であるということなのだ。そのために毎日具体的な清掃作業をスケジュール化し汚れを溜めないようにする。きちんとしたクレンリネスを実現するためには店舗の構造も汚れにくい様に工夫を凝さなくてはならない、つまり、店舗内装の標準化も必要になる。天井は簡単に汚れをふき取れるような材質にし、床も清掃が簡単で水が溜まったりしないように完全にフラットにする。当然のことながらドライキッチンが当たり前だ。クレンリネスの範囲は、従業員の身だしなみ、建物外装、店舗周辺、店舗内装、調理機器など幅広いので常に客の目で確認していく。クレンリネスの基準、システム、マニュアルを確立するにはまず使用する洗剤、道具、清掃方法を確立する。これらのノウハウは洗剤メーカーに聞く。洗剤を選ぶ際にコストの最も安いメーカーを選び勝ちだがそれは間違いだ。良い洗剤メーカーは、洗剤を売るのではなく清掃システムそのものを顧客に教え、システム全体を旨く運用できる用に提案できなければならない。筆者が国内外の洗剤メーカーと共同で洗剤を開発したときに洗剤メーカーを選んだ基準は、洗剤の素人の筆者に洗剤の基本と、清掃方法を教えられるかということであった。優秀な洗剤メーカーはマクドナルド以上の清掃マニュアルを持って指導が出来るのだった。

2.サービス

Sとはサービスの頭文字であり、文字どおり、サービスをいう。飲食業で言うサービスとは、料理提供時間が短いこと、つまりスピードが重視される。次に、フレンドリーサービス、つまり、笑顔、スマイルが大事だ。従来の飲食業はサービスというと挨拶の仕方、おじぎの角度、テーブルサービスの手順などと儀礼的なサービスを重視してきた。しかし、世の中のペースが早くなってくると、そんな儀礼的なことではなく、頼んだ料理が早く出てきた、担当のウエイトレスがにこにこしている、等の具体的なサービスが重要になってきている。日本のサービスはホテルなど典型的なのだが、慇懃無礼に近いスマイルのない儀礼的なサービスが多いのが欠点であったが、米国式のFFや、FRの形態が導入されてから、実質的、具体的なサービスが出だしている。特にスマイルを観念的な物ではなく具体的にトレーニングするシステムを持ち込んだのである。従業員のスマイルを出すノウハウは2つある。まず物理的に従業員が楽しく働ける職場を作る。具体的には良いコミュニケーションと正しい評価、トレーニングと会社の将来性、環境の良い職場と快適で清潔な休憩室(空調が良く効いていること)だ。次にスマイルの訓練だ。スマイルはトレーニングできる。スマイルは顔の筋肉をどうやって笑っているように見せるかだ。働くのが楽しい職場で、顔の筋肉のトレーニングをすれば後は自動的にスマイルがでる。そして、楽しく食事をしたお客から「、美味しかったよ有り難う」の一言をもらえばその笑顔は本物になるのだ。提供スピードという意味では、FFでは注文後料理の取りそろえは1分間以内、FRでは15分という基準をたてる。そのためには調理システムとトレーニングシステムの確立が必要だ。セントラルキッチンや仕様書発注による一次加工した食材を店舗で最終調理するだけとか、冷凍食品を短時間で調理できる火力の強い専用調理機器、コンベアーオーブンや、クラムシェルグリドルなどの自動化機器を検討する。自動化の調理機器だけが調理時間を短縮する手法ではなく、商品の数を絞り込み、調理方法の工夫とトレーニングのシステム化で調理時間の短縮も可能だ。調理時間を短縮する努力をしている、FFやFRの最先端の手法を具体的に勉強しよう。FFではメニューを絞り込み、事前に食材を調理包装紙、保温保管し提供時間を短縮する。FRではオーダーエントリーしてから調理完了、サービス終了までの時間を記録できるようにし、常にサービス時間の短縮に努力している。

3.Q、品質

Qとはクオリティの頭文字であり、品質管理という。店舗における品質の管理とは定めた料理の基準にあった調理方法で加工することにある。商品の品質を決定するのは、一定量の食材、調理手順、調味料、調理温度、調理時間、サービス時の温度だ。この品質を定量的に計測し、何時も同じ味が出るようにしなければならない。同じ味が出るようにするには、調理を科学的に研究し、合理的な調理システムと調理マニュアルを作成する。さらにそれを元に徹底してトレーニングすることだ。では調理のシステム化に成功しFFのトップ企業グループになったKFCの科学的なシステムを分析してみよう。KFC:圧力フライによる技術革新1950年代、K.F.Cの創始者であるカーネル・サンダースがケンタッキー州カービンという町の州道沿いにモーテル、ガソリンスタンドを経営していた。立ち寄る旅行客のために、モーテルの横でサンダース.キャフェという食堂を開き、南部ではポピュラーなフライドチキンを提供した。しかし、州道の代わりにハイウエイが建設され、店舗前の通行量が減少し商売をやって行く事が出来なくなった。そこで、フライドチキンの調味料を売り出し、やがては調理方法や経営の方法の指導までするフランチャイズチェーンの経営に発展した。1号店のサンダース.キャフェは現在では博物館になっており、当時そのままの状態を再現してある。KFCは圧力釜を使用する調理方法特許を世界中で確立しており、飲食業の代表的な調理システムだ。鳥を180℃の油温でフライしても、常圧では水は100℃ で沸騰するので、水分がある限りは品温を70℃ 以上にすることは難しい。肉温が70℃以上になっても、骨の内部の髄温は60℃位であり、骨から血の色をした髄液が流れ出して食欲を減少させる。肉の温度を上げようとすると、肉は水分を失い固くなってしまう。1.85気圧‾2.0気圧の圧力でフライすると、水の沸騰温度は116℃‾121℃ になり、肉の内部温度は90℃ に容易に達する。髄液の温度が80℃以上に上がり固まって、髄液が流れ出す事がなくなる。短時間で調理できるため、肉の旨味を含んだ水分を失う事がなく、柔らかなフライドチキンになる。更に、45日前後の若鳥を独自のカットする方式をとり、原材料の面からも品質を最高に高めることに成功した。味付けの面でもカーネル・サンダースは独自のスパイスのレシピーをまるでコカコーラの様に秘密にし、誰にも真似が出来ないようにした。最初は普通のガスレンジと圧力鍋を使用した。圧力釜は普通の圧力釜をある一定の圧力になるように重りを調整し、最初の調理温度と次の加熱温度、調理時間、を決めた。その調理マニュアルとスパイスのプレミックス、調理の集中トレーニングセンターを組み合わせ、だれでも美味しい調理が出来るようにした。日本では従来の圧力鍋調理方法では小型店舗を作るのは難しく、独自で米国製小型自動圧力釜を使用するシステムを組み上げた。米国の1/3以下の大きさの厨房を作ることができ、狭い日本で1000店舗以上の多店舗展開に成功した。KFCの他にも米国には多くのフライドチキンチェーンがありその殆どが来日したがすぐに撤退していった。KFCの世界における成功は、調理の標準化とその國にあったフレキシブルなシステム化が重要だということを物語っている。KFCのように調理の原理原則を理解し、常に技術革新をはかり、もっと効率のよい、合理的な調理方法がないか常に考える習慣を身につけることが重要だろう。アルバイトが調理出来る自動化の調理機器を使いこなすには、温度が設定通りか、設定時間が正しいかを定期的にチェックし、毎日1時間くらいは調整と整備に費やす必要がある。アルバイトでもトレーニングすれば調整ができるが最初は店長がしっかりとトレーニングする。プリベンティブメインテナンス(故障を未然に防ぐメインテナンス)として、カレンダー、マニュアル、手引き書を作成してアルバイトでも簡単に調整、整備が可能にする。

4.必要なマニュアル

各種マニュアルをきちんと作成しなくてはならない。そして、単にオペレーションの説明だけでなく、現実に店舗でそのマニュアル通りに作業をできるかの徹底した検証が必要である。現実離れしたマニュアルは従業員のモラルを極端に下げるものであり、ない方がよい位なのだ。作成する必要のあるマニュアルは

1.商品製造、品質管理マニュアル

2.サービスマニュアル

3.店舗開店、閉店マニュアル

4.清掃マニュアル

5.人材採用、教育、評価マニュアル

6.防火、食品衛生、安全対策マニュアル

7.書類管理、利益管理、マニュアル、

8.販売促進、広告宣伝マニュアル

9.新店舗開店マニュアル

10.スーパーバイザーマニュアル

11.厨房機器マニュアル

12.機器メインテナンスマニュアル 等だ。

5.マニュアルの作成方法

まず作成しなければならないのは人事教育マニュアル、清掃マニュアル、サービスマニュアル、商品製造マニュアル、である。マニュアルの作成は以下のようにする。

1.作業を分解する。

2.一つ一つの作業をもっと合理的な作業方法がないか検討する。
時間を短くするには、効率をあげるには、無駄をなくすには、安全にするには等を検討する。

3.作業の数値化、理論付けをする
温度計、ストップウオッチ、計量器で言葉を数値に置き換え、どの店舗でも再現が可能にする。

4.調理を自動機械により合理化できるのなら検討する。機械は高価なので機械メーカーなどのショールームでテストを繰り返す。食材供給業者がテストキッチンを持っている場合もあるので聞くと良い。

5.見直した作業を店舗でテストする。
ベテランと新人で差がないかチェックする。もし、問題がなければ標準作業時間と、<

6.標準ロスを計測する。

7.作業の手順を文書化する。

8.今度は複数の店舗でテストし問題がないか確認する。

9.問題点を修正する。

10.分解した作業の写真をとる

11.文書と写真を組み合わせてマニュアルとする。

6.写真の撮り方

現在は良いカメラを安価に購入できるため、専門家でなくても、自分達で撮ることが可能である。正しい機種を選ぶことだけ気をつければ良い。

*必要機

・35mmの一眼レフ。メーカーはどこでも 良いが。絞り優先のモードが必要である。 また、ストロボの光量を自動コントロールできる機種であること。

・レンズは50mmの標準マクロレンズ(マクロレンズとは接写が効き、絞るとシャープな写真を撮ることが可能である。)

・ストロボはカメラと連動できるタイプが必要。接写用のストロボと通常のストロボの 2種類必要だ。ストロボの場合には陰が出ないようなディフューザーが必要だ。

・カメラを固定して食品をきれいに撮る接写用脚立。

・照明。ストロボの代わりに専用のランプを使用しても良い。盛りつけした食品を撮るのに使用。

・フィルムはカラーのスライド用の感度の低いものを使用する。白黒のマニュアルの場 合、白黒のフィルムの感度の低い粒子の細かいものを使用する。なお、フィルムとカメラのレンズの組み合わせにより発色が異なるのでいろいろテストすることが重要である。また、現像は町の現像屋ではなくプロの使用する現像所を使用すると発色がきれいである。

・コンピューター化: 撮った写真をCDROMにいれてくれるサービスがあるのでそれを利用すると、マニュアルの作成が自分達で容易にできるようになるし、修正が容易だ。時間とコンピューターの知識があれば検討する価値がある。

店舗数が3店くらいの間に徹底した標準化とシステム化を成し遂げ無ければならない。忙しくてそんなことは出来ないならばチェーン展開をあきらめるべきだ。この時点での努力が間違いなく10店舗以上のチェーン展開につながるのだ。

著書 経営参考図書 一覧
TOP