フランチャイズビジネスの構築 10店を越えてさけることの出来ないFCビジネスの構築

(商業界 飲食店経営1995年12月号)

10店舗を越えるチェーンレストランになるためには 第6回

10店舗を越えるチェーンになるためには直営店舗のみでは限界がある。フランチャイズチェーンの展開も考えた組織作りが必要だろう。

フランチャイズシステムは他人の金を利用して短期間でチェーン展開できる金のなる木であると思っている方がいるがそれは間違っている。確かにフランチャイズチェーンを展開することにより、多額の加盟金、毎月の売り上げ比率のロイヤリティ、食材や使用機器の購入を本部から義務ずけることによる手数料などが入ってくる。つまり投下資本無しで金が入ってくるシステムだ。しかし、本当にそうだろうか。

フランチャイズチェーンを開始するチェーンが多い、数店舗を開店し繁盛するとすぐにフランチャイズチェーンを開始する。そのノウハウは単なる調理や、店舗デザイン、食材の購入方法にすぎないのにだ。そして、1時金の加盟金を数多く集め初期の投資を回収する。フランチャイズ展開は単なる金儲けにすぎないから、その後のノウハウの提供はしない、単なる食材の供給業者となってしまう。

加盟した人たちは飲食業の素人だから最初は経営の仕方がわからないで素直に本部の言うことを聞いているが、数年もすると経営をすっかり身につけ、本部から購入する食材が市場価格より高いことに気がつく。食材が市場価格より高いのは品質がよいからであればよいが、変わらない品質で、本部による経営指導も全くないのでは何でフランチャイジーとして、ロイヤリティを払っているかわからなくなる。そして、仕入れのノウハウを学んだフランチャイジーはやがて独立し、看板を代え自分で商売を開始する。そうして短期間で急成長したフランチャイズチェーンは短期間であぶくのように消え去っていく。

本部やフランチャイジーが単なる金儲けの手段として展開したフランチャイズチェーンの末路は哀れである。これは本部が零細企業の場合だけではなく、数多くの大手商社が外資と提携して展開した飲食店チェーンでも同じ状況だし。信用がある分だけもっと悲惨だ。

最近の最大の失敗はE社だ。米国コーヒーショップのD社の経営する網焼きチキンのフランチャイズチェーンで、日本では大手商社がチェーン展開のフランチャイザーとして全国展開を計画した。直営店舗1店舗しかないのに直ぐにフランチャイジーを募集し、各地域の優良企業は大手商社のフランチャイズチェーンなら安心だとばかりにこぞって参加した。大手商社は各地域の優良企業を集めることにより短期間で日本全国同時展開が出来ると思ったのである。そしてあっと言う間に全国で数十店舗を展開したが残念ながら全て失敗し、全て閉鎖してしまった。

失敗の最大の原因は直営店舗によるノウハウの蓄積が少なく、その結果熟練のフランチャイズチェーンの指導者が不在のまま店舗展開をしたことだ。ファーストフードの場合には知名度が重要だ。知名度すなわちブランドを確立しないまま店舗を出しても売り上げは伸びないのだ。あのマクドナルドですら地方に本格的に出展したのは日本にきてから10年も経過してからである。そして、地方に出店する場合には、複数の店舗を同時に開店し、その地区でのテレビコマーシャルと言う絨毯爆撃とともに展開するのだ。E社のようにテレビコマーシャルのサポートもなしに全国展開したのでは失敗するのも同然である。

E社の最大の問題はマーケティングの失敗はもとより、営業不振のフランチャイズ店舗に対する的確な指導が出来なかったことだろう。最初は必ず直営店で展開し指導員の養成を諮っていないとオペレーションの基準を保てない。もう一つ大きな失敗は、従業員のやる気だ。優良企業のフランチャイジーは高齢社員の為の受け皿作りを目的としてフランチャイジーになったのが本音であった。筆者は各店舗を廻って見たが多くの高齢社員が黙々とつらそうに働いているのが目につき、店舗の印象は暗い物だった。

フランチャイジーの最大の成功の理由は、オーナー自らが汗水流して働く事にあり、そのオーナーの働く際の真剣さは店を訪れるお客を満足させる最大の理由となる。逆にフランチャイジーの社員が大企業に働くのであれば直営店と全く変わる事はない。筆者の経験では、直営店からフランチャイズ店に変わる事により最低でも10%、最大では50%の売上の向上がある。これは単純に経営者のやる気で売り上げが上がるのだ。此の経営者のやる気がフランチャイズチェーンの最大のメリットで、その店舗だけでなくチェーン全体を活性化させるのだ。

そしてそのやる気のあるフランチャイジーを正しく経営指導できる指導員が必用だ。その指導員はフィールドコンサルタント、フィールドカウンセラー、ビジネスコンサルタントなどと呼ばれている。決してスーパーバイザーとは呼んでいない。このフランチャイジー指導のフィールドコンサルタントとスーパーバイザーとは似ているようだが、全く異なる職種だ。前回申し上げたが、スーパーバイザーは直営店舗の店長の直接の上司に当たり、仕事の評価、トレーニング、数値管理をおこなう。つまり、直営店舗を厳しく管理育成する。

フランチャイジーは本部に対して、独立した存在である。各フランチャイジーは、責任者であるオーナーが経営責任を持ち、もし売り上げが悪かったり、利益がでない場合にはオーナーが全責任を保つ。つまり、独立した経営主体だ。その独立したフランチャイジーへの指導は、直営店舗の店長に対する命令とは異なる。各フランチャイジーは長年の社会経験を積んでおり、年齢もいっているだろう。会社の管理職の経験もあるかもしれない、そんな人に対して仕事の命令だけでは旨くいくわけがない。命令ではなく、コンサルティングをする必用があるのだ。だからスーパーバイザーと言わず、コンサルタントという。そのためには必用な知識トレーニングは大幅に異なるのだ。簡単に言えばスーパーバイザーは店舗の損益計算書までの知識でよいが、フールドコンサルタントは貸借対照表までの知識や、税務申告、キャッシュフロー、投資に対する限界投資額などの経営者としての高度な知識が必用だ。

もちろん、フィールドコンサルタントになる前には直営店舗のスーパーバイザーとしての経験も必用だ。多店舗を管理するという技術と経験が必用だからだ。多店舗を効率よく管理するには問題点の優先順位付けと時間管理が最も大事になりそれには経験が必用だ。よくセミナーを受けたり、本を読めばノウハウが身に付くと思っているが大きな間違いだ。頭に入った知識を実際に使い、失敗を数多く犯しながら試行錯誤で覚えた経験こそが身についたノウハウになるのだ。

スーパーバイザーの経験とともに重要なのはトレーニング能力だ。スーパーバイザーもトレーニングをするが、それは直接の上司という圧力を武器にした強制的なオンザジョブトレーニングだ。フィールドコンサルタントに必用なのはフランチャイズオーナーに対する、合理的な説得力のあるトレーニングだ。これには直営店時代における、トレーニング部などの直接の部下でない不特定多数の人に対するトレーニングの経験が必用だ。トレーニングだけではなく社会経験の豊富なオーナーと対等に話せるだけの常識も必用になる。このようにフィールドコンサルタントの育成は時間がかかるのがよくわかるだろう。

ではここでフランチャイズによる収入はどうなるかとらぬ狸の皮算用をしてみよう。

「フランチャイズシステムとは」

  1. フランチャイザーとフランチャイジーの定義フランチャイザーとフランチャイジーの2者で構成される。フランチャイザーとは開発した営業システムのノウハウを元にそれを、第3者に投与しその代価として金銭を受け取るシステムである。フランチャイジーとは、フランチャザーが開発した営業システムのノウハウを元に営業をする者をいう。そのノウハウの代償として、フランチャイザーに金銭を支払うのである。
  2. ノウハウとはフランチャイザーのノウハウとは、商標権(店名、会社名、商品名などを含む)、商品の製造方法、製造機器システム、品質管理、配送システム、人事管理、人事教育、広告宣伝、店舗建設システム、財務管理システム、等の全ての営業のシステムをいう。
  3. ノウハウの代償としての収入とはフランチャイザーはノウハウの投与の代償としてフランチャイジーより種々の金銭を受取る。

A)契約時の一時金

1.契約金

フランチャイズ契約時に受け取る。普通100万円から1000万円くらい。金額に差があるのは営業による予想収入の額の大小による。契約解除してもこの契約金はフランチャイジーには返却しない。

2.保証金

契約金とは別に、保証金を受けとる場合がある。これは、フランチャイジーが営業開始後、ロイヤリティーや広告宣伝費、商品仕入れなどフランチャイザーに対し支払義務が生じるが、この保証として保証金を予託する。保証金はフランチャイズ契約の解除後はフランチャイジーの負債を差し引いた後返却する。フランチャイズ契約を契約時より早く解除したとき違約金をとり、この保証金を充当する。

3.トレーニング費用

フランチャイズ契約終了後、フランチャイジーは営業のノウハウを取得するためにトレーニングを受ける。トレーニングは店舗でのトレーニング、トレーニングセンターでの集中トレーニング、フォローアップトレーニングを含む。基本的には、店長他数名に実施しトレーニング費用の実費を受け取る。

4.店舗建設費用

店舗の建設費用は、店舗の躯体、設備、駐車場舗装、などの一次工事と内装、看板、などの2次工事に分かる。このどちらをフランチャイジーが負担するかは、契約により異なる。フランチャイジーが店舗の土地建物を所有する場合には、ジーが全額を負担する。しかし、契約の解除後のことを考え看板などはフランチャザーが負担する。土地店舗をフランチャイザイザーが所有する場合は、店舗建設費用の一次工事と看板をフランチャイザーが負担し、フランチャイジーは内装工事を負担する。営業開始後、改装工事などをする場合は、フランチャイジーの全額負担になるが、一次工事が発生するときにはフランチャイザーとの相談になる。

5.機器購入費用

基本的に全額フランチャイジーの負担。ただし、ノウハウの維持のためにフランチャイザーが一部の機器を負担をする場合がある。営業開始後の新規機器への交換購入の際はフランチャイジーの負担。購入の際には、フランチャイザーの認定して機器しか購入出来ないようになっているのが一般的であり、購入の際もフランチャイザーの指定する業者から購入するか、場合によってはフランチャイザーから直接購入する。

*上記の<3><4><5>等の費用は一般的に実費を受け取る場合が多いが、実際にかかった金額に上乗せをする場合がある。これはフランチャイザーが自らのノウハウを使用し、まとめて発注することにより金額が安くなる場合一般的に購入する金額を越えない範囲であれば上乗せをすることは問題がない。

B)契約後の定期的な収入

1.ロイヤリティー

売上に対し、一定の%のロイヤリティーを徴収する。売上の額に関係なく固定金額と、売上額に一定の%を掛けた変動金額の二種類ある。一般的には売上に対する%の変動金額が多く、%は1%から9%と業種などにより異なり。国内のフランチャイザーは一般的にロイヤリティーは1ー3%と低いが、外資系の場合は3ー9%と高額になる。これはフランチャイザーのノウハウにより異なる。ロイヤリティーの他に、商品供給などでの上乗せをするかどうかなどにより異なる事が多い。外資系の場合一般的に高額なのは、日本のフランチャイザーが海外のフランチャイザーに対し支払うロイヤリティーがある為よけい高額になる。

2.広告宣伝費、販売促進費

広告宣伝費とは、新聞雑誌、ラジオ、テレビ等の媒体を使用して、営業や商品の広告宣伝する費用や、野球球団の所有、サッカーチームなどのスポンサー、ミュージカル、コンサートの主催、後援費用等の総費用をいう。またこの中には、パブリシティ、広告調査、消費者調査なども含む。販売促進費とは、売上を向上するために必要な店舗などでのPOPやチラシ、新聞折込チラシ、無料招待券、商品割引券、などをいい、フランチャイジーが独自に実施するものと、フランチャイザーが実施するものがある。金額は、固定金額と変動金額の両方があり、一般的には変動金額が多く、売上に対し1%ー6%位とテレビコマーシャルを実施しているかどうかにより大きく異なる。

3.商品供給手数料

フランチャイジーが商品サービスを顧客に提供する際に必要になる、商品や、材料等の購入の際、フランチャイザーが一定の割合の金額を徴収することがある。この手数料は、その商品の開発や、発注のコンピューターシステムの維持管理費として徴収されている。総金額がフランチャイジーが同品質の物を他より購入するより、同等か安ければ公正取引法上も問題がない。国内のフランチャイザーは徴収しているが、外資系のフランチャイザーはとらない場合が多い。

4.トレーニング費用

フランチャイジーが店舗を開くときにはトレーニングは必要不可欠であるが、最初のトレーニングではすべての事を教育しきる事は出来ない。そのため、一定の期間の後に、さらにトレーニングが必要になってくるのである。一般的には集合トレーニングであり有料となる。また、新しく社員を採用したときにもトレーニングは義務づけられている。一般的には実費であるが、内容によっては収益になり得るのである。

C)その他の収入

1.営業権売却代

店舗の形態はフランチャイザーが自ら運営する直営店と、フランチャイジーの経営するフランチャイズ店、フランチャイザーとフランチャイジーの合弁会社が経営する特殊店舗 等がある。直営店を経営しそれをフランチャイジーに売却する事があり得る。その際に営業権の譲渡にともない、収入が発生するのである。営業権という物はフランチャイザーに取ってコストはかかっていない物であり、当該の店舗の年商と利益が高ければ大きな金額で得る事が可能になるのである。この収入そのものが、フランチャイザーに取って大きなうち出の小槌になるのである。

2.店舗設備売却代

直営店舗を売却する際に上記の営業権と含めて売却する。

3.家賃

本部が物件を所有し、フランチャイジーに貸す手法だ。コンビニでとる手法だが、これにより本部の立場が高くなりフランチャイジーのコントロールが容易だ。多額の不動産投資を行う必用があるために、かなりの資産運用の知識が必用だあるが、ほんとうにフランチャイズチェーンを成功させるためにはさけられない手法である。此の手法で大成功したのが米国マクドナルド社とコンビニエンスストアーであるである。米国のマクドナルドは全店舗の50%の物件を所有している米国でも有数の不動産所有会社である。その堅固な資産内容がその活発なチェーン展開の原資となっている。同社の最大のノウハウは不動産の有効活用による利益確保であると言われている。

上記のようにフランチャイジーから対価を得るには、如何に数多くの複雑なシステムを構築し運営しなければいけないかという事がわかるだろう。

フランチャイジーからの収益は売り上げの10%なければフランチャイズビジネスは成立しない。システムの構築と運営のためにはフィールドコンサルタントや本部スタッフの人件費、コンピューターシステムの構築費用、物流のシステム維持費など多くの出費が必用だ。

それには一般的に最低でも売り上げの3ー5%は必用になる。直営でやれば売り上げの10%の収益を見込めるのだから、フランチャイジーから少なくとも売り上げの5%はもらわなければいけないだろう。と言うことはフランチャイジーからロイヤリティなどとして、売り上げに対して10%の金額をいただくことになる。(日本のフランチャイズチェーンはロイヤリティを1ー3%と低くしているが、その代わりに食材コストなどにマージンを乗せており、その実質徴収金額は売り上げ費10%位になっている。それ以上低いチェーンもあるが、それでは本部からのまともな経営指導が出来ないようだ。)フランチャイジーが売り上げに対して10%位の利益を期待するなら、ロイヤリティ分の10%と利益の10%で20%の売り上げマージンが必用になる。

直営の段階で20%近い利益がでるようなシステムを構築していないとフランチャイズチェーンを展開することは出来ないのだ。当然まだ10店舗を越えるチェーンを築いていない貴方の会社ではまだそんな利益を出すことは出来ないはずだ。と言うことは売上高利益が20%を越えないような状態ではまだ、フランチャイズチェーンに乗り出すことは出来ない。まず売り上げ高利益20%を達成するのが先だろう。

10店舗を展開する内には売り上げ不振店がでてくるはずだ。その際に直ぐに撤退を考えないことだ。最も優秀な社員を投入し、売り上げ増大に全力を尽くすべきだ。此の血と涙の結晶による売り上げ不振店対策こそが、フランチャイズチェーン展開の最大の原動力になるからだ。

10店舗の段階ではフランチャイズチェーンの安易な展開をもくろんではならない。フランチャイズシステムによる錬金術に目が眩んではならない。上記に述べたフランチャイズシステムの構築のために必用な経営ノウハウを確立し、直営店利益20%の達成、不振店対策が出来るまでフランチャイズのフの字もいってはならない。まず今の直営店のシステムを確立しようではないか。

次回から10店舗を達成するためにチェーン店の店長として何をしなければいけないのか、スーパーバイザーとして何をしなければいけないかの各論を筆者の数多くの失敗談とともに具体的に述べていくつもりだ。もし筆者にそこで述べてほしいことや質問があれば前もって以下の手段でご連絡をいただきたい。

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