体験的SV業務 -QSCにおけるSVの責任とスタッフとしての業務の発生

(商業界 飲食店経営1998年4月号掲載)

売上目標と利益目標を達成するためには,まず店舗のQSCの基準を高く維持しなくてはならない。店長時代は体を張って仕事をすることができるのでQSCの維持管理は完璧に自分の思ったとおりに行うことができた。しかし、SVになると4ー5店舗を担当するので、自分でQSCを直接コントロールすることはできない。店長やアシスタントマネージャーを通してQSCを維持管理するわけだ。

店長を通してQSCを維持管理する手法として、自分がスーパー店長になって指示することも可能だ。優秀な(自分で思っているだけかもしれないが)店長だった自分が店舗の状態を見て、直接管理手法を指示するのは気分がよいし、スピーディーに改善できるわけだ。しかし、それではSVがいないときの状態は保証できない。部下の店長やアシスタントマネージャーが自分の考え方でQSCを改善、維持するようにならないといけないわけだ。

そのためには店舗のQSCの状態を定期的にチェックし、部下に伝えないといけない。QSCの状態をチェックすると行っても何の基準もなくただ目で見て主観的に口頭で伝えても、言われた方にしては「今日のSVは小言が多いな、二日酔いで気分でも悪いのかな」としか思わない。そこで店舗のQSCのチェックリストのフォーマットを作り何時も一定の見方、配点で採点するようにした。

1. SVR 店舗QSCのチェック手法
当時はSVR(ストアービジテーションリポート)といいその店舗の店長、アシスタントマネージャーが運営している際のQSCを客観的に評価するようにした。短時間で、クオリティー、サービス、クレンリネスに関する評価を行い、問題点を明確にして、目標を作成させる。店舗の運営状態を観察した結果を、マネージメントチームに絶えずフィードバックするためのツールだ。SVRを行うことにより店舗の人たちがQSCの基準を確実に知っているかどうかを見極めるわけだ。一店舗当たり最低2回は実施するようになっていた。数多くの店を担当しているわけだから、用紙への記入も短時間でできなくては生産性が低い。以前の店長時代に書いたが、フロアーコントロールのアウエアーネスという能力が必要だ。店舗を見て5感を働かし、瞬間的に問題点を発見する能力で、この現場での経験がないと表面的な問題点しか発見できないし、問題点の発見に時間を浪費してしまう。新人のSVは当然この能力があるわけだが全ての新人SVがこの能力を身につけているわけではない。そこで、その能力があるかを確認し、なければ身につけさせなくてはならない。

2. 店舗QSCの把握能力の育成
その能力開発の手法が新店舗開店の陣頭指揮だ。SVとして新店舗を担当すると店舗にどっぷり浸かっているわけには行かない。近隣との交渉等の雑務に追われるからだ。そこで、パートナーのベテランSVが開店する新店舗の開店時に,新人のSVに1日店舗を切り回させるわけだ。店長時代はどんなに忙しくても店舗のレイアウト、売上パターン、アシスタントマネージャー、アルバイトの能力を知り尽くしているから、一言言えば適切に行動してくれる。ところが新店舗は各店からのベテランのアルバイトの援軍と新規採用のミックスの寄せ集め部隊だ。そこで一番重要なのは開店して1時間以内に全員の能力を把握し、最適のポジショニングを与えることだ。そして、店舗運営中も全員の状態を把握し、疲れたら交代させ、仕事が旨く行ったら誉めてやり、能力を120%出させるというのがポイントだ。このOJTを数店舗やるとそのSVが店舗運営の能力があるか、体力があるか(体力というのは大事でいくら頭の良いSVであって開店時のどさくさに休憩無しで指揮をとれなくては人はついて来れないからだ)、やる気があるか、人心掌握ができるか,がすぐ判明するし、その段階で適切なアドバイスを与えればかなり能力開発できるし、自信も出てくる。筆者もパートナーのSVの新規開店店舗を数店舗手伝わされ具体的なアドバイスをもらうことができた。

3. SVRの具体的な手法
SVRの目的は正しい店舗のQSCを店舗に伝えるための道具である。これを活用すれば店長やアシスタントマネージャーの基準レベルを客観的に分析評価でき、、相互が問題点を正確に理解することができる。その役割を分類すると以下のようになる。

1.コミニュケーションツール
SVRを武器に店舗のマネージャーを威嚇する武器ではない。事実を客観的にわかりやすく説明し、どうやって解決していくかという事を一緒に考えるという,一種のコミニュケーションツールだと理解しなくてはいけない。

2.評価
お店のQSCの評価だけではなく、その現場を運営している店長、アシスタントマネージャーの評価をする。欠点を探すのではなくどう進歩したかを積極的に評価することによりやる気を引き出せる。

3.客観的な評価
店舗のQSCを客観的に評価できるので店舗自身も目標を明確に立てられるし、店長が部下のアシスタントマネージャーやスイングマネージャーを育成するツールとしても活用できる。

[SVRのフォーム]
A4サイズの紙にQSCを分類しチェック項目を書いてあるだけだ。内容はQSCの3項目だ。
[Q]
ウオマーに並んでいるハンバーガー類の数を確認する。マクドナルドではホールディングタイムと言ってハンバーガーを製造してウオーマーに10分間保管しておく。それにより温かいハンバーガーを迅速に提供できるわけだ。その保管個数が売り上げ予測より少なければ、お客を待たせ、多ければ待たせないが,廃棄処分しなければならない。廃棄のハンバーガーが多ければ原材料コストを圧迫する。このバランスを取るのが現場を預かるマネージャーの腕前だ。  保温をしている商品を覚え、その中で一番問題のありそうなハンバーガー類と飲み物、デザートを購入し品質をチェックする。まず、温度を確認し(温度計は使用しない)中をあけてケチャップやマスタードの量は規定通りか、綺麗に乗せているか、肉の焼き方はよいか、生焼けではないか、バンズの焼けは良いかをチェックする。デザート飲み物も同じだ。コーラであれば飲み物の温度をチェックする。温度が高いと言うだけではだめだ。コーラの飲料の温度自体が高いのか、氷の量が少ないのか、作り置きのために暖まってしまったからなのかを瞬時に分析しなくてはならない。それから、糖度,カップ周囲の汚れをチェックする。厨房に入らなくても製造手順の問題か,原材料の問題か,機械の故障なのか,をわかるだけの知識と経験が必要になる。
[S]
カウンター前に並ぶ時間とオーダー時間、オーダー後のサービス時間と秒単位でチェックする。当然の事ながらストップウオッチを携帯している。筆者はさりげなくチェックできるようにクロノグラフを時計として使用している。(このクロノグラフを使い殆どの調理機械の開発を行った。サービス時間を論議することが多いが,筆者は店長、アシスタントマネージャーが秒針がついている時計を持っているかどうかをチェックしていた。秒針のない時計を持っている奴に秒単位のサービスを論じる資格はないからだ。)そしてサービスの遅い原因が何か、商品を作るのが遅いのか、サービス担当者が取りそろえるのが遅いのか、十分な従業員がいないのか、必要な数だけのレジスターが開いていないからなのかの原因を分析する。
[C]
クレンリネスのチェックは店舗に近づくときに開始している、店舗周辺の道路清掃、ゴミの状況、店舗外観、看板の状態(夜であれば点灯しているか、蛍光灯が切れていないかチェックする。ちなみに藤田社長の店舗チェックのポイントは看板で,蜘蛛の巣が貼っていたら超特大の雷を頂戴した)一番のポイントは汚れが一時的な物か、常時の汚れなのか、マネージャーが意識しているのかと言う分析だ。ちょっと忙しい時にゴミが落ちていてもすぐにマネージャーが外を巡回しチェックと清掃をするのであれば問題ないが、ゴミが落ちていなくても床の隅に汚れがこびりついているようであれば、普段の清掃が十分でないし、厨房内の汚れも当然汚いわけだ。ハンバーガーを購入するときに厨房内の天井、床、機械の汚れや、従業員のユニフォーム、つめの長さ、手洗いの状況も瞬時にチェックする。

[SVRの実際の付け方]
SVRをつけるのは無予告でなくてはいけない。SVがチェックするからと言って身構えていては普段の姿は見えないからだ。チェックをするのはあくまでも客の立場に立って、商品を購入し顧客の立場としてQSCを評価する。 まず店舗にさりげなく接近し、カウンター前に並び商品を注文する。そして、客席の在籍客数、カウンター前の客数、時間、をチェックし、商品のホールディングタイムを把握し、購入する。当然サービス時間を計測する。味見をしたらすぐにSVRに記入する。それまではSVRを出して記入してはいけない。店舗に入ったら以上のチェックポイントを全てカメラで撮るように頭の中に記憶をしなくてはいけない。そして、店舗に入ってから記入を終わるまで15ー20分くらいで終了する。点数をつけた紙を店の責任者に渡して終わりではない。その内容を説明しなくてはならない。SVRは作文ではないから事実を羅列してあるだけで、説明をする必要があるからだ。その際にすぐに説明をしないで、SVRを5分間くらいかけて読ませ、彼にその時間の状態はどうだったか、何か疑問や質問があるかどうかをきく。もし問題点があったとしてもそのマネージャーがそれを認識してその対処に取りかかろうとしているのだったら大した問題ではないが、問題点に気がつかないようだったらこれは大変だ。知識が不足しているのか、トレーニングされていないのか、疲れているのか,やる気がないのか、原因を確認する必要がある。もし問題点を認識しているようだったら次回までの改善目標を立てさせて終わる。問題点を認識していなければ店長と連絡を取り,どのようなトレーニングが必要か一緒に考える。やる気がないようだったら店内の人間関係の問題があるかもしれないので慎重に調査をしなくてはいけない。だから説明には30分くらいじっくりかけなくてはいけないと言うことだ。しかし、SVRにも問題点はあった。SVRは店舗観察から説明まで1時間くらいであり、顧客としての立場で店舗の一瞬を切り取り評価する。つまり、現象面と人的な運営手法に主眼を当てているわけで、その問題点の根本的な解決策まで踏み入れることはできないと言うことだった。

4. コンサルテーションリポート[店舗総合診断チェックリスト]の導入
店舗のQSCが悪いと売上と利益が下がると言う問題は米国でも発生していた。米国のマクドナルドというのはフランチャイズチェーンが中心で全体の80%位はフランチャイジーだ。フランチャイジーも色々な人が集まっているわけだから、中にはQSCを守らない人がいる。QSCを守らなければ店の売上が下がり、最悪の場合には廃業せざるを得なくなる。自業自得だ。しかし、チェーンの場合はそうは言っていられない。フランチャージー個人の問題であっても同じ店名の店舗のQSCの悪さはあっと言う間に口コミで広がり、チェーン全体の評判を傷つけるからだ。そこでQSCがマクドナルドの基準に達していないフランチャイジーは契約違反で解約しようとしたわけだ。米国は日本よりも消費者保護、弱者保護が徹底しており、フランチャイズ契約には公正取引委員会の厳しい目が光っている。QSCが悪ければ解約ができるのだが,それには客観的な明確なQSCの基準違反の証拠が必要だった。SVRのような簡単なチェックリストではQSCの悪い原因が,フランチャイジーのオペレーションが悪いのか、原材料や機械が悪いのか明確にならなかった。そこでSVRとは別にコンサルテーションリポートという店舗総合診断チェックリストを作成した。その内容はQSCの問題点とその原因、人物金の状態,を明確にできるようにした30ページ以上のチェックリストである。コンサルテーションは事前準備のワークシートと、まとめのサマリーに分かれている。店舗にはあらかじめ予告をし、オペレーションのトレーニング、原材料の確認、調理機器の調整をする時間を与え、問題点があれば事前に改善する時間を与えた。そして、サマリーは無予告で丸2日かけて隅から隅までチェックを行い問題点を明確にして、改善点を浮かび上がらせ、一定期間に改善をさせるようにする。そして、SVR等の簡単なフォームを使用して数回の無予告訪問チェックを行い,改善の進行状況を確認する。その改善状況が1年以上も停滞するようであれば更に警告を発し、最終的にはこのコンサルテーションに基づき、契約違反で契約解除をするという厳しい物だった。この厳しいQSCの判断基準を直営中心の日本に導入したのは悪いフランチャイジーを排除するのではなく、原材料、機械を含めた問題点を明確にするためだったわけだ。

コンサルテーションのバンズの基準例
当時のコンサルテーションはそんな曖昧さを明確にするために,原材料の基準、機械の基準を以下のように明確に定め記録するようにした。

オペレーション規格

・バンズの賞味期限は守られているか
・バンズは冷暗所でカビが生えないように管理されているか
・オーダー毎にパッケージを開封し、乾燥しないように心がけているか
・オペレーションの手順は基準通りか

バンズ規格
重量,直径、厚さ、クラウン厚さ、ヒール厚さ、切り口の状態、気泡の大きさは XXmm以下、XXmm以上の空洞はないか,外部の焼け色、ムラはないか、均一な外観 か、製造日付は基準以内か

トースター規格
温度(XXX度F/XXX℃)/焼成時間(XXX秒)
バントースター      温度 1.  2.
              時間 1.  2.
ビッグマックトースター  温度 上   下
              時間 上   下

5. コンサルテーションリポートがもたらした課題
筆者がSVに昇進して数ヶ月して導入されたので、早速使用してみてQSCの問題点が明確になったのが体感できた。しかし、数回のチェックの後店舗ではどんなに一所懸命トレーニングしても一定以上の点数がとれないと言うのがわかってきた。例を挙げるとハンバーガーが美味しくないと言う問題があるとする。では美味しくないとはどう言うことだろうか。感覚的な表現でなく具体的に問題点を指摘しなくてはならない。温度が低いのだろうか,温度が低ければそれはバンズの温度なのか、肉の温度なのか、ケチャップなどの温度なのかを明確にしなくてはいけない。

[原因の追究]
バンズの温度が低い場合の原因を考えてみよう。バンズはパンメーカーで焼いたバンズを冷却後スライスして店舗に運ばれる。そのバンズをアルミにテフロン加工してあるトースターで切り口を焼く。バンズの切り口を焼くのは温める、高温でキャラメライズして切り口からケチャップやマスタード、肉汁がしみこまないようにする,と言う2つの目的だ。バンズの温度が低いというのは幾つか原因がある。

1.人的な原因
先ず、トースターに入れる時間と、温度の問題だ。トースターの温度は204℃(端数があるのはマクドナルドは米国のマニュアルでヤードポンドを使用しているためで華氏だと400度と言うわかりやすい数字だ),時間は55秒だった。温度と時間は調整できるから、店長が定期的に調整していれば問題がないはずだ。しかし、店舗は店長だけで運営できるわけではないからアシスタントマネージャーもその調整ができなくてはいけない。そのために機械の調整を学ぶAOCを出ているか、出た後,実際に機械の清掃、調整の実習を店長が行ったのかと言う事を確認しなくてはいけない。また、機械は定期的に調整や清掃をする必要があり予定表を作り定期的に実施しているかもチェックする。つまり、その問題点がいつも発生しているのか、当日だけの問題か,根本的なトレーニングが必要か、定期的な予定を作る必要があるのか,など具体的な原因と対策を明確にしなくてはいけないわけだ。

2.食材の問題
トースターの温度、時間が合っていてもバンズの切り口が正しく焼けないことがある。それは原材料に問題がある場合だ。バンズというのはイースト菌で小麦粉を発酵させた物だ。小麦粉には副原材料としてショートニングや砂糖などが入っている。その材料と水をミキサーで攪拌し、発酵するわけだ。小麦粉と簡単に言うが小麦粉の産地、時期により小麦粉の蛋白質の含有量が異なり水分吸収率が変わってきて、発酵に大きな影響を与える。また、季節による変動もある。バンズは湿気が多いと横に広がり、温度が高いと上に伸びる。温度と湿度が高すぎると発酵時間は短くなるがきめが粗くなり、空洞が発生しやすい。このようにバンズというのは生き物であり、かなりの熟練が必要になる。発酵が旨く行かないと外観だけでなくバンズの糖分が変わってくる。イースト菌が糖分を食べて育つからだ。出来上がったバンズの糖分が変わると切り口を焼くときに同じ温度でもキャラメライズと言う現象が異なり、焼け色と切り口の堅さが異なり、ケチャップなどの水分を吸収し、保管したハンバーガーが水っぽくなる。切り口の焼け色にはもう一つの原因がある。バンズは店舗でスライスするのではなく工場でスライスする。焼きたてのバンズは柔らかすぎてスライスすることはできない、一定時間冷却しスライスする。冷却が不十分だとスライス時に切り口がカップリングと言って平らな切り口にならない。そうするとトースターで焼いたときに焼けムラが出てしまう。バンズの冷却は時間だけでなく,季節による工場内部の温度により変化する。切り口はスライサーの切れ味によっても左右される。マクドナルドでは配合成分のスペックがあり、製造工程の時間、温度を指定しているがそれだけではできない。製造する機械が異なるし、工場の温度湿度も異なるからだ。

3.機械とマニュアルの問題
熟練した人間、厳選された原材料が合っても綺麗にトーストできなかった。それはトースター自体の性能の問題だった。トースターはテフロン加工したアルミ板に入れ焼くわけだ。アルミ板には電気ヒーターが鋳込まれており、サーモスタットで温度コントロールされている。当時の温度は204℃と言う温度が基準だったが、それでも焼けないと言う現象が出てきた。それはトースター自体のヒーター容量が少ない事と、当時のトースターの構造上バンズが均一に焼けないと言う事、そしてサーモスタットの精度だった。サーモスタットと言うのはアルミ板の温度を関知して下がっていれば通電し、基準の温度に上がれば遮断すると言う役割だ。当時のサーモスタットはセンサー内部に,温度により膨張する液膨タイプのセンサーを使用していた。液の膨張によりサーモスタットの接点をつけたり、遮断したりするわけだ。そのサーモスタットを見てみると設定温度に対してプラスマイナス18℃くらいの差があるのを発見した。当時のマニュアルには204℃に設定しろと記述してあったが、サーモスタットがONか、OFFかという事までは書いていなかった。ONに設定するとOFFになる温度が222℃まで上昇してバンズの切り口が真っ黒に焦げてトースターにくっついてしまう。OFFが204℃になるように設定すると最低温度が186℃だから今度は綺麗な狐色にならない。と言うように品質というのは人的な要素だけでなく、原材料、機械まで含めて考えなくてはいけないと言うことがわかってきた。つまり、QSCを低下させる責任は店舗以外にもあると言うことなのだ。しかし、SVRの様な外から客観的に短時間にQSCを評価するという手法ではその原因を明確に確定することはできな位という事がわかってきた。

6. SVの本社としての機能
システムの改善QSCを単にチェックするマクドナルドポリスだったら、改善するのは他の人の責任だと言うことができるが、マクドナルドのSVはそれではだめだ。店舗のQSCに問題があるのが店舗のマネージメントチームのせいでなければそれを改善する義務が出てくる。改善しないで毎回QSCに悪い点数をつけていては店舗のスタッフはやる気を失い、QSCを守らなくなる。SVは店舗と本社をつなぐ中間管理職であり店舗の問題が全社的な問題であれば本社の改善の努力をしなくてはいけないからだ。そこでSVとしてQSCの改善で何ができるか色々と考えて実行を開始した。先ず原材料の改善のためには原材料のクレーム報告のフォームを作成した。当時は原材料のクレーム報告のフォームはなく口頭だった。だから何が原因か、何処の工場で何時その現象があり、その改善をどのように何時までに行うのかが明確でなかったからだ。各店舗に安いノギスと秤を購入させ正確な寸法と重量を計測させた。バンズの外観や色を表現するためにポラロイドカメラを購入し、コンサルテーションリポートやSVR作成時に問題のあるバンズを撮影しクレーム報告書につけるようにした。クレーム報告書は店舗から本社に上げるだけでなく、その回答を店舗までさせるようにした。その結果,改善の経過を店舗でも把握できるようになった。当然事ながら品質のチェックを定期的に行い,店舗からその報告書を提出させたし、店舗の社員もバンズ工場見学をさせその理解を深めるようにさせた。次に行ったのがトースターの改善だった。すでに60店以上もあるからトースターを交換するのは費用がかかるので、現存のトースターの改善を行うことを考えた。当時の建設部に改善依頼をするのにデーターがないといけないので担当店舗のトースターの温度カーブを計測した。後のトースターはサーモスタットのON,OFFランプをつけたので簡単に計測できるようになったが当時のトースターはランプがなく計測が難しかった。そこで計測方法を建設部に習った。配線に電流が流れているのを計測する機器でクランプメーターというのがある。配線を挟んで計測するのだが、電流が流れると針が振れ,電流が遮断されるとゼロになる。これで各店舗の計測をし、データーを元に改善を依頼した。解決策はサーモスタットの変更だった。液膨型のサーモスタットは2種類あった。温度による液体の膨張と縮小の動きをダイレクトに電気接点に伝えるスローアクションタイプと、バネを利用して動きにメリハリを伝えるスナップアクションタイプだった。ダイレクトに電気接点に伝えるスローアクションタイプは精度が高いが、電気接点が溶着するという欠点があり、電気容量が小さい機械でないと不向きであった。そのためトースターではバネを利用したスナップアクションを使用していた。バネを使用するので溶着しにくいというメリットがあったが,バネの動きのフリクションのために温度差が大きいというデメリットが発生する。当時のヒーターはスナップアクションタイプを使用していたので温度差が大きかったわけだ。そこで、溶着する危険があるがスローアクションタイプのサーモスタットを装着した。その結果精度が大幅に向上し,温度差は5℃以下に縮小した。予測された溶着も発生することがなかった。このサーモスタットはただ部品を交換するだけであり低いコストで改善が可能になった。このサーモスタットの改善の手法は米国製のグリドルにも使用されて温度差の問題を改善することに成功した。日本の技術を米国に逆輸出したわけだ。このような経験からSVの仕事には本社におけるQSCの改善業務にも関与しなくてはいけないと言うことを理解しだしたのである。

お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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