運営部長、統括SVのための実力養成講座- 運営部長

今まで統括SVの仕事を書いてきたが、最終回に運営部長の仕事を見てみよう。
筆者は海外駐在責任者としての海外勤務2年間をはさんで統括SVを4年間勤め、運営部長に昇進した。昇進の大きな理由は人材育成だった。
企業が大きくなり、急成長を遂げる中で一番必要なのは優秀な人材だ。優秀な人材を新規採用し育成することも大事だが、現在在籍している優秀な人材の退職を少なくする方がより重要だった。急成長している企業の現場の店長やアシスタントマネージャーの仕事は過重で長時間労働があたりまえの世界で、退職率が大変高いというのが一般的だ。それは今でも同じであり、新卒の大卒が1年もすると大半が退職をするという会社もまだ存在するのがこの外食産業の現実の姿だ。
マクドナルドでは退職の手続きの際に、直接の上司以外の担当者が面接をする退職面接を行っている。退職届を出した時点では退職の本当の理由を言いにくいから、退職手続きが終了した時点で、本当の退職理由を聞くというものだ。この時点で本当の退職理由がわかってもその退職を防げるわけではないが、これから残る人の環境がよくなれば効果があるからだ。
その結果、仕事がきついというよりも、人間関係の問題、会社の将来性に対する疑問、自分の仕事に対する適正に疑問を抱く、などの理由が多いということがわかった。仕事がきつかったり労働時間が長くても、仕事を覚えられるとか、責任ある仕事に昇進するなど、会社に認められていることが理解できれば仕事に対するつらさを感じない。しかし、何をしても怒られとか、アイディアを出しても常に否定される等のいじめに出会うと、自信がなくなるというのだ。一番大事なのは店長との人間関係であった。
当時は退職を防ぐために新入社員が入社した際には統括SV SV、店長と一緒に合宿を行い、同じ釜の飯を食べるとか、忘年会や歓迎会などの飲み会の援助をするなどの飴が必要だと思われてきた。不満を感じないように甘やかそうとしたのだ。 米国でも同じ問題からコミュニケーションデーという活動が開始された。上下の問題はコミュニケーション不足だからお互いに話しあい、理解し合おうという活動だ。そこで、日本でも上司と部下が話し合おうということで、この合宿や飲み会を開くようになった。
しかし、米国から帰国した筆者から見ると、その飴作戦が行き過ぎ、上下の適度に緊張した関係を壊し、モラルの破壊が目に付いた(詳細については過去の記事を。)
また、店舗を巡回してみると膨大な費用と時間を費やしてコミュニケーションデーを行っているのに、アシスタントマネージャーやクルーから不満が出てくることに気が付いた。そこでその不満を良く聞いてみたら、店長と酒を飲んだり遊んだりのプライベートな人間関係は向上したが、仕事を丁寧に教えてくれなかったり、評価をきちんと受けたことがないという不満が続出した。
店長は予算を立て、その店の活動方針を決めるわけだ。その活動方針をスムーズに達成するために、アシスタントマネージに仕事を適正に割り振るのだが、アシスタントマネージャーにその知識と能力があるかどうかをチェック(評価)し、なければ割り振った仕事を達成できるように教育をしなくてはならない。
そのチェック(評価)と教育、仕事の割り振りこそが真のコミュニケーションデーなのだ。そこで、毎月のコミュニケーションデーは店長が部下のアシスタントマネジャーに正しい評価を伝えることとした。部下に客観的で公平な評価をできない店長もいるので、その場に担当SVを立ち合わせ、定期的に統括SVの筆者も立ち会うようにした。
ここで気がついたのは評価の際に公平で客観的な事実を部下に伝えられない店長やSVが多いということだった。店長やアシスタントマネージャーの評価はQ・S・C・人・物・金・自己育成・の7つだ。Qに問題があるとすればそれを客観的に証明するストアービジテーションレポートのQ(品質)の項目にその事実が記入されていなくてはいけない。
金の管理で水道光熱費が使いすぎであれば、損益計算書や月次報告書で数値の流れと、過去の店舗を訪問した際の電気スイッチや水道栓の閉め方、エアコンの温度設定などを記録してその事実を示すという具体性が必要だ。普段、作成している日報や週報、月報、損益計算書がここで評価と結びついてこなくてはならない。評価の際に全ての過去の仕事の記録、書類を確認し、仕事を具体的にどのように改善しているかを評価する。それを考えないで漫然として仕事をして、いざ部下の評価をしようとするとあいまいな評価になり、何が良くて何を改善しなくてはいけないかが部下に伝わらないのだ。
評価を具体的に相手に伝えても仕事は改善できないし能力も身に付かない。部下の弱いところがあればそれを改善することを次月の目標に掲げ、スケジュールを作成し、店長やSVが一緒に入ってトレーニングする時間を設定し、教えた後は1人で店舗を運営させ、その問題点を解決できる能力が身についたかどうかチェックする。そのチェックはストアービジテーションレポートやメモに残し、相手に具体的に評価を与えていく。目標改善のスケジュールを一緒に作成し、可能な時間内で無理のないトレーニングを行うという地道な改善を図らないと部下の能力は何時までたっても改善しない。
この事実に気がついた筆者は、膨大な時間を費やし各店の店長、アシスタントマネージーのコミュニケーションデーに参加し、アシスタントマネージャーだけでなく、それを評価する店長、SVをも教育することにした。この一見地道な活動が効果を引き出し、SVの育成と、エリアの利益向上という多くのメリットを生み出した。そして運営部長に昇進したわけだ。
以下は当時の米国人軍事顧問に指導された部下への接し方だ、随分日時が経過したが、人を教育すると言う点では相変わらず参考になる文章だ。(原文は米国陸軍のMTPからの抜粋だ)
1) 部下の育成
仕事を達成するために、部下の必要とする技術を伸ばし、また知識を与えるということは管理者の当面の責任である。
管理者の価値は主として「部下のやった仕事の成果から判断される」といわれている。これは部下を育成し、職務遂行能力を向上することの責任が管理者の双肩にかかっていることを意味している。
このことを端的に言えば、わずかのコストで優秀な業績を上げた場合は、管理者は上級管理者から高く評価され、反対にもし管理者がいかに努力してもコスト高で、しかも芳しくない業績しか示さぬ場合には、管理者として何か欠陥があるとみなされる。
それゆえに、部下の職務遂行能力を育成するためにはいかなる努力も惜しんではならないということを、管理者は銘記すべきである。
部下が職務遂行能力をもっているというだけでは必ずしも業績が上がるとは限らないが、しかしこの能力がなければ必ず仕事の能率は下がるに違いない。それ故、まず仕事に直接関連のある知識、技能、態度を身につけるようにする責任がある。
次に、部下を組織の成員として職場全体の能力を向上し、会社の望ましい人材として育成することが管理者の重要な責任となってくる。
この両面の責任を果たし、育成を実現することができれば管理者の仕事は容易になり、組織に大きな利益をもたらすことになる。さらに、部下育成の意義はこれだけではなく、その育成過程において培われる相互信頼にあることを忘れてはならない。
2) 部下育成の基本的考え方
花というものは、育てる人の愛情にたいそう素直である。細やかな愛情を注いでやれば、必ずそれにふさわしい花の美しさを見せてくれる。
また、花は育てっぱなしではダメで、それを鑑賞してやる心をもたないといけない。もっとも、花は鑑賞するためにあるのだが「ああきれいだなぁ!」と目を細めるだけでは、本当の鑑賞ではない。育てた努力と愛情がそこにどのように現れているかをつぶさに確認してこそ、花を育てる喜びがある。
どんな花を育てるにも剪定、施肥、除虫と、かなり手間がかかる。例えば、たくさんの花をつけた小菊の場合、その花の数の一つ一つに最低1回の手入れ鋏が入っている。しかも、ただ鋏さえ入れればよいというものではなく、よいタイミングをとらえてまめに手入れを継続しなければならない。
企業における人材の育成にも似たようなことが言える。部下の隠れた能力を見つけ、時日をかけていろいろな方法を使って、立派な人材を作り上げることが肝要である。
管理者自ら手間をかけて面倒をみ、それぞれの個性を伸ばす過程が菊づくりの丹精と似ている。上司として部下を信頼し仕事を任せ、権限を委任する場合も部下の成長を期待し、そのもてる力を最高度に発揮させるために援助し、補佐する過程の中に、両者の間に目に見えない絆が生まれることを認識しなければならない。
部下育成は苦労のともなう仕事であるが、管理者にとってやりがいのある仕事なのである。
* 部下の能力を育成するには
(1) 部下の能力を見出す
自己分析や自己申告によって部下の欲求、希望をつかむ。
適性検査や執務態度によって部下の長所、才能を見つける。
挑戦的な課題仕事を与え、部下がもつ隠れた才能をつかむ。
(2) 部下の能力を向上するように援助する
自己啓発を必要とする仕事を与える。
管理者が率先して範を示す。
日常の接触を通じ個別指導を行う。
職場会議に参画させる。
(3) 部下の能力を発揮させるために最もふさわしい場を与える
部下の長所を活かせるような特別な職務割当を行う。
進んで職務交代や組織改正を行う。
(4) 達成の喜びを味わわせる
・ 部下の能力が業績や成果に結びついたことを示す。
・ 成果を適切に褒賞する。
* 学習の原則
(1) 環境
学習しやすい条件を整えて
(2) 注意力の限界
一時に一事を
理解の程度に合わせて
(3) 注意の集中
不安と緊張をときほぐして
興味、関心、意欲をそそって
(4) 五官の活用
いくつかの感覚器官を組み合わせて
(5) 強い印象
最初の経験、印象に関連したものを
刺激の強いもので
(6) 具象化
具体的な姿に直したもので
(7) 実際的
実物を用いて
実際のやり方で
(8) 反覆
忘れないうちに繰り返して
(9) 連想
既有の知識、経験に関連づけて
(10) 成功感
習得の満足感を積み重ねて
3)個人能力の育成
部下の育成でまず大切なのは、仕事についての知識や技能を教えるということよりも、本人に自己啓発の必要性を芽生えさせるということである。やらねばならないという気持ちがあれば空腹の時の食べ物のように、全てがその人によって吸収される。
例えば、工場見学させても、やる気がある人は先方の批判をする反面、必ず学ぶべきものを得てくるが、やる気のない人は、あれこれと欠点や不十分なところを指摘するだけで、いいところを見ることがない。
「やる気を起こさせる」ということばかりは、規律や命令ではできない。それにはやはり、部下の気持ちをよく理解し、その部下が現在かかえている問題は何かということを見きわめることが最も大切である。
部下が、教えられたことだけを行うのではなく、それを基調にして広く仕事に応用する力を育成することは極めて重要である。
この応用力は、上司・先輩のやっているころを見て、身につけることが多い。だが、形を見習うだけでは一人前とはいえない。部下が何かを会得するような仕事ぶりをさせていれば、それが最良の育成方法といえる。
例えば、それを井戸ポンプの呼び水にたとえると、水位が下がって出てこないときに、逆に上から注いでやれば、水は上がってくるようになる。
部下の育成とはこのように、呼び水を与えるだけで動き出すような、自主性の強い部下を育てることが肝要である。
4)自己チェックリスト……あなた自身を評価する。
このチェックリストは、あなたが管理者としてどの程度のことをしているかについて手がかりを与えてくれるし、さらに何を向上したらよいかということも示してくれる。このリストは、あなた自身のためのものだ。別に点をつけるわけでもなければ、またこの表を集めるわけでもない。ただ、正直に各項目を検討した上で、適当と思われる評価欄に印を入れる。どの面に一層努力すべきかがわかるはずだ。さらに、時々参照すれば、あなたが弱点とした箇所について、よく研究できたかどうかを確かめるためにも役立つはずだ。
管理者としての仕事 評価
よく知っているし正しくやっている 少しは知っていてやっている 少しは知っているがやっていない やり方を知らないので研究する必要がある
1. 組織の中の役割
(1) 自分は誰の監督を受け、誰を監督しているかが明確である。
(2) 部下が「自分がその仕事の責任者だ」という役割意識を持つように仕事の割当をしている。
(3) 組織図を作り、各自が店舗に対する貢献の程度を認識し、組織人としての参画をもたせている。
(4) 「自分の意志で働きたい」という人間の本性に基づき、創意工夫を活かせる幅、すなわち権限を部下に与えている。
(5) 店舗ぐるみの目標を与え、それに挑戦させている。
(6) ものの本質、自然の法則に適した管理の仕方をしている。
(7)常に改善に挑んでいる。
(8) 仕事は計画的に実施し、適切な指令と、統制を確実に行っている。
(9) 仕事を通じて部下を育成するために、直接的な指導と自己啓発意欲を高めるような環境づくりとをうまく組み合わせて行っている。
(10) 部下の意欲づけに重点をおく管理を行っている。
2. 仕事の改善
(1) その仕事にふさわしい人を割り当てている。
(2) 店舗の任務と実際になされている仕事との関係をつかんでいる。
(3) 常に新しい目をもって、今までの仕事のやり方を改善している。
(4) 部下が改善要求をするように奨励し、提案されたことは実施できるようにしている。
(5) 部下の創造力の発揮に努めている。
(6) 部下に創造力の源になる知識や情報を広く獲得させるようにしている。
(7) 仕事の基準を明らかにして、部下が自分自身で仕事の結果を測定できるようにしている。
3. 仕事の管理
(1) 経営方針、任務、予測、問題などをもとに、効果的な計画を立てている。
(2) 自らの任務にふさわしい時間の使い方を計画し、効果的に時間を使っている。
(3) 部下の得手や長所を生かす仕事の与え方をしている。
(4) 部下がやる気を起こすように、指令している。
(5) 統制を行うに当たっては、過不足のないやり方をしている。
(6) 部下が自ら計画し、実行し、その達成の喜びを味わうような仕事のさせ方をし、自己統制を行わせている。
(7) 事実に基づく管理を行い、総合的な調整を行っている。
(8) 店舗会議においては、部下達の知識、経験を統合し、より価値高い結論を得るように努めている。
4. 部下の育成
(1)部下を育てることに喜びを感じている。
(2) 相互関係をもたらすような、部下の育成の仕方をしている。
(3) 管理者として常に豊かな指導性を養うように心がけている。
(4) 部下の育成には、自主学習を基本としている。
(5) 仕事と部下育成とは、相互に関連する一体のものとして扱っている。
(6) 新規採用者、中途入社者を受け入れたときは、この機会を活かし、正しくスタートを切らせている。
(7) 部下育成の土台は、各人の毎日の仕事に挑戦させることであり、仕事の中に自己表現の機会を組み込むようにしている。
5. よい人間関係の確立
(1)部下を個人として理解している。
(2) 部下の行動に注目し、その変化から行動の原因をつかむようにしている。
(3) 行動の主原因となっている部下の欲求について理解することに努めている。
(4) 部下の欲求不満に対しては、その原因をつかみ、適切に処置をしている。
(5) 欲求不満に対する耐面を作るために、いろいろ側面的な援助をしている。
(6) 部下が自分でよい態度を啓発するように、部下の欲求に沿った経験をさせている。
(7) 説得よりは、部下のいうことをよく聞くことに重点をおいた話し合いをしている。
(8) 人事問題の処理については事実に基づいた処理の仕方をしている。
(9) 職場士気を高めるように、日ごろから努力している
(10) 職場のインフォーマルグループの実態をよくつかんでいる。
6. よい管理の展開
(1) 部下が、自発的に全能力を発揮する場を作り上げている。
(2) 状況に応じた効果的なリーダーシップを発揮している。
(3) 常に自分自身を分析、評価し、自己向上に努めている。
運営部長の仕事
運営部長に昇進した後でも仕事は部下の統括SVが店舗でどのようにコミュニケーションデーを運用するかという視点で指導にあたることした。数多くの店舗を担当し運営するのは部下であり、運営部長ではないからだ。
さて、統括SVと運営部長の違いは部下の人数だ。統括SVは部下のSVを6名、店舗を30店舗担当する。SVは店舗を5店舗担当する(現在のマクドナルドは小型店舗のPODの開発と情報装備率の向上により、もう少し多くの店舗を担当するようになっている)。この理由は米国陸軍要綱にあるように部下は7人までの原則からきている。しかし運営部長は部下を3人、多くても4人、店舗数で言うと120-150店舗が限界だ。
なぜ運営部長が統括SVのように部下を6名担当できないかというと、部長には、店舗の最終責任者であると同時に本社のスタッフと活動を要求され、時間の多くを本社における会議に費やされるからだ。
軍隊でも同様で、当時、顧問であった自衛隊の陸将経験者によれば部長は本社での仕事も重要であり、3名くらいの部下が適当であると言うことだった。本社スタッフとしては店舗の現状を一番把握しているから、予算作成、新規の企画、広告宣伝、調理システム変更、教育システム改善、評価システム確立、マニュアルの作成、などの全ての面において正しい意見を述べ、本社の方針が店舗にスムーズに移行できるようにするという重要な責務がある。
この、本社の組織、役割については、次号、2000年一月号から、述べていく予定だ。
以上
お断り
このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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