価格競争時代に打ち勝つ連載 第6回(商業界 飲食店経営1994年9月号)

人事評価システム

経費削減は従業員のモラールアップが前提

<評価システム>
経費削減を徹底して浸透するには、従業員が真剣に取り組む姿勢を持つことが重要だ。一人一人が経費削減を徹底するように、成果を出した従業員にはそれだけの報酬が必要なのだ。仕事の成果、実績を評価し、昇級、昇進につなげていく評価システムは会社の規模の大小を問わず経営者が自ら構築し維持しなければならない。「当社は具体的な評価制度を実施しており、部下に上司の評価をさせていて、とても公平なんです。」という経営者がいる。部下が上司を評価するから公平でよいのだと思っている。

とんでもないことだ、優秀な上司は決断を常時迫られており、その決断を部下に理解させている時間がなく、命令をせざるを得ない時が多いのだ。評価を下し、昇級、昇進を決める際に、部下が複数いれば当然順位をつけなければならない。悪い評価をもらった部下は不満を感じるはずだ。上司が部下に評価されるようになると、部下に対する評価を厳格公正にすることができなくなり、一所懸命仕事をやっても、やらなくても同じ評価をするようになってしまう。

従業員の評価は経営者の最も重要な仕事なのだ。まず経営者の直属の部下の評価を具体的に実施できなくてはならない。部下の評価を自分でできない経営者は直ちに会社経営から身を引くべきだ。

「当社には人事部があり、具体的に公平に評価をしています。」という場合があるが、人事評価を人事部がするのはとんでもない間違いなのだ。人事部は、評価方法や評価システム、評価のバランス、昇級の給与テーブル作りが仕事であり、直接の評価は上司がやらなくてはならない。

人事部が評価をやる会社では、昇級や昇進を決めるのに資格テストなどでやるようになり、実際の仕事の成果とは全くかけ離れるようになる。日本では、官僚制度の影響が強く、出身大学と成績、入社試験、資格試験などで評価を行うことが多いが、それではお役所仕事になりお客様の要望にすぐ答えることはできない。この不況下の行動力が要求される時代ではそんなことをしていては生き残ることはできない。

人事評価を具体的にやると、どの人材教育の見直しをしなければいけないかが、具体的に明らかになり、問題点の解決につながっていく。人事評価は人材教育と表裏一体であり、別々に切り放すことはできない。評価を具体的にすることは、人材教育の方法を明確にすることになるので、まず具体的な評価方法をみてみよう。

<評価システム>
フードサービスの場合のマネージメントは、QSCのコントロールと、人物金の管理が重要だ。次に、従業員の自己管理と、目標管理があれば良く、シンプルで明快だ。それを評価表にしたのが表1、2、3である。店長、アシスタントマネージャー、アルバイトの評価を同じ項目で評価する。ただし、職位により評価基準は変わってくる。Q、S、C、人、物、金、自己管理、目標管理の大きな項目はフードサービスの場合どの会社も同じだ。各項目における評価の比重は重要度により代えてもかまわない。

アルバイトにはQSCを任せられるが、人物金の管理を任せることはできないと思われるかも知れないが、業務をブレークダウンすることによりそれは可能になる。

金の管理を例に考えてみよう。守りの管理で考えるとレジを扱った際の現金差は重要である。お金の授受の際、必ず復唱をしているか、金銭を必ず2回数え直しをしているか、多額の釣り銭の場合は社員マネージャーに確認をしているか、など具体的に評価できる。積極的な管理では、注文を受けたときに、「期間限定のデザートは如何ですかおいしいですよ?」とお勧め売りをしていれば、それは立派な金の管理になる。

手を洗った後ペーパータオルで拭く際に何枚も無駄に使っていないか、シンクで洗い物をするときに小間目に水を止めているかなどは利益に直結する金の管理で、それをアルバイトが管理してくれなくては、本当のコスト削減にならない。具体的にアルバイトの仕事を評価することにより、コストダウンを実現できる。コストダウンは社員だけの仕事ではない。

しかしながら、従業員の行動を普段から、よく観察しないと評価はできない。具体的な評価ができるということは、従業員の仕事ぶりをよく把握していることでもある。社員がアルバイトの評価を具体的にできるかどうかというのは、彼らがよく店舗の従業員の仕事を把握し、管理、教育しているかの判断の材料にもなるのだ。

評価基準を作ったら次に、それを部下に正しく伝え、やる気をだすことが重要である。評価をどうやって部下に伝えたら良いのだろうか。

<評価の伝え方と成果の出し方>
評価を正確に伝えることは最も重要だ。評価はアシスタントマネージャーに対しては店長が、店長に対してはスーパーバイザー、というように直属の上司が伝えることになるのだが、往々にして一方通行の伝え方になりやすい。店長が部下に伝える評価日を決めて、それにスーパバイザー、ディストリクトマネージャー、運営部長、(以下中間管理職とする)経営者が参加しその進め方を時々見るとよい。その目的は店長がどの位マネージャーの仕事を把握し、フォローアップをしているのかを見ることである。

さらに、店長、上司の中間管理職のその店舗に対する評価と方向付けが明確であるか、経営者の方針と一致しているかも見る必要がある。

<評価の際の注意点>

1.評価を定期的に行いそれを本人に伝えているか?
2.評価の基準は明確になっており、事前に本人に評価基準の説明をしているか?
3.評価は文書になっており、全員同じ評価基準に基づいて評価されているか?
4.評価をする際には、本人に伝えるだけでなく、本人の意見も聞いているか?
5.目標管理を達成できるようにスケジュールをしているか?
6.今月の評価が悪ければ次回までに改善できるような教育を実施しているか?
7.評価はくつろいだ雰囲気で個人的に実施されているか?
8.評価を改善させてやるという気持ちが上司から部下に伝わっているか?
9.上司の中間管理職と経営者が定期的に評価に参加し、部下の評価が公平に行われ ているか見ているか?

<経営者の店舗訪問と評価への関与>

経営者は具体的に部下を評価しなければいけないが、店舗を一人で訪問して評価してはならない。勿論、抜き打ちに視察するのはかまわないが、その視察の状況で勝手に評価をしてはならない。必ず現場の責任者である中間管理職と共に現場を視察し、彼らがどの様に店舗を運営しているかを見るのだ。もし経営者が中間管理職を通り越して評価するようになると、店長は上司のいうことを聞かずに、経営者の方ばかり見るようになる。経営者が見なくてはならないのは、店舗そのものでなく、システムがどの様に動いているか、自分の部下である中間管理職がどの様に仕事をしているか?なのである。

その日は朝から評価をするのでなく、店舗のピーク時まで店舗を見学し、QSC、従業員、商圏の変化、競合店の状況などを把握してから評価に参加する。

当然、その店舗の経営上の数字、P/L、売り上げ推移、管理上の問題点など全て頭に入れておく。当日の店舗だけではなく、各中間管理職担当店舗の数字も頭に入っていなければならない。もしなにか問題点があれば、該当店だけか、スーパーバイザーエリアか、ディストリクトマネージャーエリアか、部長エリアまで共通の問題点かということまで解析しなければならない。本社には色々な書類と数字が提出されているがそれが本当に妥当な数字なのかを現場を見ながら判断し、過去の店舗訪問時の状態と照らしあわせながら、評価を聞いていくのだ。

経営者が部下と店舗を訪れるのでは、現場が用意して普段と違うのではないかと思ってはいけない。店舗の状態が普通と変わらないか、自分の為に特別店舗をきれいにしているかどうかを、判断できないようでは経営者として失格だ。

もし普通の状態の店舗を見たいのであれば、予告したスケジュールと異なった1店舗を、予定外のスケジュールで訪問すると良い。そして自分の部下がどの様に店舗を評価し、指導するのかを見る。現状の欠点を見て決して怒鳴ったり怒ったりしてはいけない。

筆者がスパーバイザーの時、ある店舗を早朝に訪れた。階段にはシェイクがこぼれ、テーブルの上は塵だらけ。カウンターにはアルバイトが一人しかいなくて、お客様がいらいらしながら並んでいる。厨房の奥を見ると、アシスタントマネージャーが床に座って、昨日の現金売上のチェックをしている。

あわてて、筆者が販売カウンターに入り、アシスタントマネージャーに階段のモップ清掃をさせた。やっと店舗も落ちついたので、ホットして、カウンター横で一息ついて入り口の方向を振り向いたら、何と社長がお客様を連れて入ってくるところであった。後で「店舗が決まっていたなー、俺が来るのを知っていたのか?」とほめられたが、実は内心冷や汗物であった。後10分遅く店舗に到着していたら、「なんだこの店は」と激怒されただろうと思ったからだ。実際の店舗は生き物であり、QSCは常時完璧ではない。大事なのはQSCを着実に向上するように店舗で努力しているか?であり、決して瞬間的な状況で判断してはならない。

<評価基準の作成>
各企業は業態が異なるので、企業ごとの評価基準の作成が必要になる。評価基準とは何であろうか。評価基準とは職務基準そのものである。その職務基準を文書にしたのが職務記述書である。日本の多くの企業では職務基準を明確に決めていない。職務基準を明確に定めた職務記述書がないと評価はあいまいになり、従業員は不公平に扱われたとか、経営者の気まぐれだなどと不平が出るし、経営の成果もはっきりと出なくなる。まず、職務基準を明確にしなければならない。職務基準と言うと難しく思うが、簡単に言うと、各職位の仕事と責任、権限を明確にしたものだ。職務であるから、各職位、たとえば店長、アシスタントマネージャー、アルバイト、アルバイト責任者、スーパーバイザー、ディストリクトマネージャー、運営部長でその基準は異なるのである。表4にアシスタントマネージャーの職務記述書の例をあげたので参考にしていただきたい

そして、日常の店舗の運営に必要な経費、予算を事前に決めており、アシスタントマネージャーの決裁範囲を明確にしておけばスピーディーに業務を達成でき、この激動の時代に対応できるようになっていく。

著書 経営参考図書 一覧
TOP