価格競争時代に打ち勝つ連載 第12回(商業界 飲食店経営1995年3月号)

広告宣伝その2

マーケティング その2

いよいよマクドナルドが本格的に価格破壊に乗り出した。ここ数年新商品開発など迷走していたが、社内のリエンジニアリングも終了し、本格的な低価格路線に乗り出した。今回は5年ほど前の360円セットと異なり、円高による原材料費の低下をバックにした世界戦略の一貫のようだ。TVCMも新商品開発時のCMと打って変わりオーソドックスなマクドナルドらしい基本に忠実なものに変わっている。
TVというとコストが高いと敬遠がちであるが、中小のチェーンでも果敢に採用し成功している。TVCMを活用し急成長しているピザーラと、マクドナルド、KFCの例でTVの媒体コストを見てみよう。

3)広告宣伝予算とTVCMに必要な費用:の続き
4.TVCM媒体コスト
ピザーラの店舗展開を見ると、北海道が1、関東が220、中部が20、近畿が5、九州が10と店舗展開を関東に集中していることがわかる。これは図Aの東京テレビエリアを見てもらえばわかるが、東京テレビエリアのカバーしている範囲は、東京、神奈川、埼玉、群馬、栃木、茨城、千葉、静岡の一部、山梨の一部の広範囲のエリアなのだ。全国で261店舗あるがそのうち84%の店舗が東京テレビエリアに集中しており、効率の良いやり方だ。大阪では店舗数が少ない段階ですでにTVCMを開始しているようだ。図Bは大阪TVマーケットである。大阪TVマーケットは大阪、兵庫、京都、和歌山、奈良、滋賀、の各県と、徳島、三重の一部の地域を含んでいる。 東京と大阪テレビマーケットを押さえることは、世帯数で20、503、000を押さえることになり、全テレビマーケットの世帯数43、385、000世帯の47%を確保することになる。東京エリアでは静岡、山梨、大阪エリアでは徳島、三重の一部の地域にTVCMがスピル(流れて)しており、それを考慮すると、この2つに地区に集中出店することで全国の50%の地区をカバーすることになり最も効率が良くなる。

表2は都道府県別TV世帯数であり、テレビエリア別の世帯数の明細である。店舗展開はこのテレビエリア別に展開することが必要だ。

TVCMには番組提供CMとスポットCMがある。番組提供CMは放送する番組のスポンサーとなり番組中にCMを流すのだ。表4には番組の時間数に対するCM時間の放映可能時間の一覧だ。参考にされたい。良い番組であると反響が良いので当然のことながら視聴率は上がるが、コストも高くなる。表3は日本マクドナルド社と日本ケンタッキーフライドチキン社の93年度年間使用TVCMのコストの一覧表だ。この表では番組CMとスポットCMの各種数値を合計してある。これを見ると、CM1本当たりの時間は15秒、一本当たりのコストは47万円、1本当たりのGRPは9.24であることがわかる。

一般的に一つのCMを浸透させるに必要な期間は4ー6週間である。この期間に投入する必要なGRPは最低2000、出来るなら4000GRP必要である。2000GRPのCMを流す場合の媒体コストは2000÷9.24×47万円=約1億円のコストがかかることがわかる。

5.TVCMの費用と制作費
CMの放映秒数は米国の場合、30秒と1分間であるが、日本は15、30秒が中心であり、15秒を多く使用している。放映時間が異なるので米国のCMとはかなり質の異なる映像が多いのだ。1本当たりの制作費は質により大きく異なる。安いもので200万円から高いもので2000万円以上と、品質により大きな金額の差が出る。米国では有名タレントを使用するCMは少ないが、日本の場合有名タレントを使用するケースが多いようだ。タレントのコストは1流で契約金2000万円、1作品ごとに2000万円、年間3回のCM撮影としてとして5000万円‾1億円かかるのだ。

有名人を使用するメリットはタレントの良いイメージを使用し一気に商品名を浸透させるメリットがあることだ。しかし、デメリットとしてスキャンダルでイメージが悪化したり、人により好き嫌いがある場合だ。また、あまり色々な商品のCMに出るタレントであると、自社の商品のイメージが正確に伝わらないことがある。

筆者の経験では最も評判の良かったCMは初期のドライブスルーのCMであった。ドライブスルーの特徴を訴えるために家族でパジャマを着てドライブスルーを利用するCMであった。ドライブスルーの窓口で出てくるアルバイトの女子は、本当のアルバイトの女子を使用したものであった。しかし、ドライブスルーの特徴をよく捉え、素人っぽい女子のすばらしい笑顔が大好評であった。要は如何に自社の商品の特徴を具体的に楽しく相手に訴えるかというアイディアの問題であり、いくらお金をかけたという問題ではないと思う。

6.TVCMの期間
一つのCMの放映期間は4週間から6週間である。これは店舗の商品のキャンペーンや連動のプロモーションの期間による。あまり期間が長くなると徐々に効果が落ちてくるし、あまり短いと経済的でない。また、あまり同じCMを大量に流すと視聴者がいやになる問題があり、適度なGRPを考える必要がある。そのために同じプロモーションであっても数本の異なったCMを制作するわけだ。

広告の出し方は図Dのような色々なパターンがあるが、プロモーションをする1週間前から、事前のティーザーCM(事前になにかやるのだと言う期待感を持たせる手法)をわずかに流し、スタートして第1週より第2週にピークを持っていき、3週4週は盛り上げた注目度を維持する量のCMを放映する。一般的に一つの商品訴求するのに、期間によらず最低2000GRP最大で4000GRP必要である。2000GRPのCMを流すとそれに比例して売り上げは上昇するが、筆者の経験によるとあるGRPを越える時点でその経済効果が低減していくようだ。これは商品、チェーン、競合状態により変わるので、各チェーンで経験から設定する必要があるだろう。

4)知らなければならない広告宣伝用語
広告宣伝の世界は難しい言葉が多いが、最低限度以下の言葉を知っておく必要がある。
1.GRP(Gross Rating Point)
延べ視聴率のことであり、期間中の各CMの視聴率の合計である。単位は%である。平均視聴率(到達率)×本数(回数)

2.リーチ(Reach)
累積到達率のことで、視聴世帯の広がりを示し、少なくとも1回以上視聴した世帯の割合。つまり広告が一回以上到達した人の割合である。単位は%。

3.フリークエンシー
平均到達回数のことで、少なくとも1回以上視聴した世帯が、平均何回視聴したかを表す。

リーチとフリークエンシーの関係は図Cにようになる。

リーチは市場(ターゲット)ヘの到達率で、ビークルの露出ごとのそのスコアが変化する。
例えば、一回目が20%で、2回目が30%の場合

図のように、各回独立でなく必ず重複が考えられる。

1,2回目の露出を通して得られる実際のリーチは、

20+30=50% ではなく

15+5+25=45%である。

このとき到達回数に注目すると、全体としての平均到達回数(フリークエンシー)は、1.1回となる

重複を差引かない延べ到達率(GRP)は、50%である。

広告に携わる人の総合口座:日経広告研究所編より

簡単に言うとGRPは使用したCMの量を意味する。この数字はどのくらいの広告宣伝量を使用するか、いくら費用がかかるかを表している。

リーチは図のように2本のCMを放映したとき、1本目の視聴率が20%、2本目が30%であるとする。GRPは両方の合計の50%であるが、2本のCMを重複して視聴した人の比率が5%あったとすると、両方の合計から5%を差し引き45%となる。この数字がリーチである。つまりGRPとしては50%に視聴者に届いているはずだが、重複があるので、実際に届いている比率は45%であると言うことだ。リーチとは実際に到達した数字を意味する。

フリークエンシーとは頻度だ。2本のCMを見た人が5%いるわけだから、50÷45=1.1となる。つまり頻度のことを意味する。CMは単に一回だけ見ても購買意欲をかきたてる訳ではなく、何回か見る必要がある。フリークエンシーの数字が大きいほど同じCMを何回か見ることになる。一般的に3~5回到達していると有効で購買につながると言われている。しかしこの数字が多すぎ、10回以上を越えるとマイナス効果になるので注意が必要だ。

5)中小はどうするのか
TVCMというと高価で中小のチェーンには不可能であると思われるが、GRPの単価はそのテレビマーケットの持っている世帯数に比例する。つまり東京の1割以下の世帯数である静岡ではGRPコストは東京の1/10である。(日本経済新聞)そのため10店舗でも可能だ。東京の場合最低でも100店舗が必要だ。低価格であるため、静岡を選んでテストマーケットにする企業が多い。各社の新製品を全国マーケットに導入する前には静岡でTVを使用したマーケットテストを行うことが多いようだ。
先にTVCMの必要なGRPは最低2000であると申し上げたが、これは大手チェーンが短期間で一気にプロモーション展開をするために必要なGRPであり、個店単位でTVCMをうつ最低限度のGRPはもっと低くても良いのだ。CMの効果を測定する方法として認知率があるが、100GRPで24%の人が認知し、250GRPで32%、500GRPで38%1250GRPで50%が認知する。2000では56%、3000では63%である。(広告に携わる人の総合口座:テレビ、ラジオの媒体特性:ビデオリサーチ小黒直広:日本経済新聞社による)350‾500GRPあれば効果はかなり期待できるのだ。

1GRPのコストで比較すると番組CMは9871円、スポットCMは5069円と大きくちがうことに気がつく。番組CMが良いというのではないが、全体のGRPが多い場合には番組CMを増やし、会社のイメージをよくする手法もあるのだ。CMはまず合計のGRPを確保し、それから放映時間などの質を考えるべきだ。

広告宣伝をする前に重要なのは、店舗のイメージとQSCだ。いくらCMでよいイメージを訴えても、店舗でその用意が出来ていなければなにもならないのだ。

6)広告代理店の選定方法と注意点
広告代理店というと、髪の毛をポニーテールに結って訳の分からないことを言う別世界の人間だと敬遠する人が多いようだが、それはCMや制作物などのクリエイティブの担当者である。実際の広告宣伝会社の担当者はマネージメントをする、日本語をちゃんと話す日本人であるから安心していただきたい。
しかし、専門家であるからと全てをまかせてはいけない。まずあなたの店舗と商品を理解させる必要がある。他社と比べての強弱をしっかり理解させ、なにを訴えていくか明確する必要がある。また、放映するCMは事前に店舗の社員、アルバイトに見せ、理解させ、店舗のQSCを完璧な状態で放映する必要がある。さもないと、悪い状態の店舗を逆宣伝することになるからである。

筆者の経験では新規の広告代理店に切り替えたとき、不振店舗対策で店舗を目立たせるために、階段にカーペットを敷こうと馬鹿なことを言う担当者がいた。しかし、やってみようじゃないかという上司の鶴の一声で、カーペットを敷いてテストしたら、1週間もしない内にシェークをこぼされてどろどろになり取り外すという失敗をしたことがある。担当者への徹底した教育が必要だったのだ。

しかしながら、1年ほどたちお互いよくディスカッションをするようになり、効果は徐々に出始めた。やはり時間をかけた辛抱強いコミュニケーションが必要だ。みなさんも是非地元のTVCMのコストを調べ可能であれば積極的にCMを流してみるべきだろう。この不景気で皆TVCMを削減しており、コスト的にも以前より低価格になっており、効果も出るようだ。

7)最後に
本年度は大手FFチェーンが本格的な低価格攻勢をかけてくるために、昨年のガストの1000円札ゾーンの低価格戦争から、500円玉ゾーンの低価格戦争に突入するだろう。500円玉の低価格戦争はCVSやSM等の他業界を巻き込んだ激しい物になるだろう。中小のチェーンもかなり苦しい状況に陥るのではないだろうかと思われる。
経費を押さえるだけの守りの経営ではじり貧になるだけだ。ギリギリまで減量しながらも、攻撃的な経営を実現するのが生き残る道ではないだろうか。

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