業種・業態別動向「すし店の将来」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞)

すしの業界は他の外食店と同様に低価格化の波やチェーンの攻勢ににさらされているだけでなく、生業店が多いことによるノウハウの蓄積の少なさ、食材の入手難など色々な問題を抱えている、まずすし店のジャンル別の状況をみて見よう。

1)すし店の分類とその状況
高級すし店
一人1万円以上の高級すし店は社用接待の依存が強くバブルがはじけてからその勢いがない。バブル以後のフランス料理の衰退と同じ様な状況だ。

しかし、社用接待がなくなっても美味しいものを食べる習慣はなくならない。そうすると友人や家族と一緒に食事をするようになる。また、バブル以後は会社ではカジュアルデーというのがはやりだしている。カジュアルな格好で友人や家族と一緒にすしを食べに行こうとするのだが、予算があっても高級店ではくつろぐことができず、自然と足が遠のくことになる。

中級すし店
地域に密着したカウンタータイプの生業店で居酒屋としての機能も持っている。このジャンルが上下に挟まれてもっとも厳しい状況に置かれている。まず、古くから町中で営業している店舗は人口のドーナツ化による住民数の減少、週休2日や円高による工場会社の海外移転とリストラによるサラリーマンの減少など、周囲の環境による影響を強く受けている。82年に全国のすし店の数が約5万店だったのが、92年には4万5千店以下となっているうちのほとんどがこのジャンルであると思われる。

低価格すし店
回転すし、持ち帰り、100円すしなどの低価格店舗、宅配すし、等の新規参入組だ。特にバブルがはじけてから低価格のジャンルのすし店の伸びが多く、チェーン店としての参入も多い。このジャンルが2番目の中級すし店を大きく圧迫している。

2)業態としてのすしの構造的な問題
ではすし業界の構造的な問題点を見てみよう。特に生業店の多い中級のすし屋の抱える問題とその原因を考え、どうしたら現状から脱却できるかを見てみよう。

生業店で経営ノウハウがない
業態として小型の生業タイプの店舗が多く経営上のノウハウが少なく、世の中の変化に対応しにくい。その問題は顧客作りに端的に現れている。職人からすし店経営者になった方たちの一番大きな問題は固定客に依存しているという点だ。引っ越しをしたり、転勤をしたり、サービス業だからたまには不味いものをだしたり、サービスが悪かったり、待たせたりすれば、だんだん固定客の数が減少する。固定客は常に減少すると思わなくてはいけない。

そのために常に一定の新規顧客の確保が必要になる。しかしながら、古いすし屋の多くが固定客を大事にして一見客(新規顧客と思うべきだが)を大事にしないから、カウンターにぽつんと座った新規顧客は居心地が悪く、二度とくるものかと思ってしまう。また、新規顧客を獲得するための宣伝活動をしない(知らないと言った方がよい)、味が良ければ口コミでくると思い込んでいる。20年以上前の競争がない時代であれば口コミでも売り上げはだんだん上がるが、現在のようにすし店が多く競争激化の時代、味だけでは新規顧客をつかむことはできず売り上げはじり貧になるわけだ。

環境の変化に対応できない
生業店舗として町中に誕生したが、人口のドーナツ化による郊外型の店舗展開、接待需要の減少という変化への対応ができない。すし屋はすしをつまみとした居酒屋の要素が多いことが災いとなり、すしは大好きだが、すし屋は大嫌いだと言う人が増えている。酒を飲まない人たちのニーズは美味しいすしを待たないでゆっくりした雰囲気で食べたいということだ。しかしながら、狭いカウンターですしもたいしてつまず、たばこを吸いながら酒を飲んでいる居酒屋の雰囲気。しかも酒を飲み談話を楽しんでいるから回転率も悪く、繁盛している店舗では長い時間待たされる。

女性客や家族連れはそんな環境の悪い高いすし屋から離れて、自分の住んでいる自宅近くの回転すしや、持ち帰りすし、宅配すしを食べるようになってきている。しかし、だんだんすしを食べつけるようになるとそれらのファーストフード紛いのすし屋では満足できなくなる。そして、本格的なたちのすし屋に行きたいという要望が強くなってくるがそのニーズに応えることができない店舗が殆どという状態だ。

魚の入手と新メニューの開発
従来、外国から入手していた魚が、東南アジア諸国の国民所得の増加に伴う魚の消費向上により、入手難になり価格が暴騰している。従来、中国の沿岸から捕獲していた真蛸が中国の消費増加で入手難になるし、アフリカ沿岸も乱獲のとがめが出て捕獲量が減少というように、世界的な消費量の増加と資源保護活動により入手が難しくなるだけでなく、価格が高騰している。すし屋に欠くことのできないマグロも各国の資源保護の動きでだんだん難しい状態になるだろう。

品質でも問題がある。すしは江戸前だと思い込んでいるようだが、すしは大阪の方がうまいと思う人が増えている。大阪は押しすしの影響か冷たいシャリとやや甘口の酢で損をしているが、ネタは瀬戸内海を控えているから江戸前より美味しいという評価を受けつつある。江戸前のすしはネタのまずさと貧弱さを適度なすし酢と人肌のシャリで誤魔化しているというのは言い過ぎではないと言われるほど、江戸前すしの味覚上の優位性も落ちているようだ。

また、すしの最大の欠点は商品開発をしていないと言うことだ。すしの新型というと15年くらい前のアボガドを使ったカリフォルニア巻きの後はサーモンのトロしかないのではないだろうか。数十年も変えないメニューでやっていける化石のような業界だと言われてもしょうがないだろう。競合も増えているし、顧客のニーズも年々変化していることを認識し、常に新鮮な料理があるのだというイメージを感じられるように対応していく必要があるだろう。

競合の激化
回転すしなどの低価格のチェーン店の郊外進出による顧客を取られる事だけに目をとらわれていてはいけない。すし店以外のジャンルとの競合もあるのだ。低価格の店舗のジャンルでの一番の競合はコンビニエンスストアーのすしだ。あんなものすしではないと言う見方もあるようだが、気楽に時間に関係なく購入できるので若者の利用も多いし、最近では高年齢者の購入も増えている。このようにジャンル以外の競合が増加してきたのが最近の外食の現状だ。

単なるすし店だけではなく、和食や居酒屋など鮮魚を売り物にする店舗ができ、魚流通の進歩により美味しい魚をすし屋以外でも食べられるようになった。すし店の売り物はうまい取れたての近海の魚をプロの目で吟味して河岸に仕入れにいくと言うものだったが、最近では魚の目利きをできる職人がすし以外でも出てきているし、産地直結で新鮮な魚を入手できるようになっているのでうっかりできない。うまい魚を食べにいくときはすし屋だけでなく気楽な居酒屋に行くのだと言う客が増えている。

衛生上の課題
昨年の大阪堺市の学校給食に於ける病原性大腸菌o157の事件により全く関係のないすし業界の売り上げが大きく落ちた事件はまだ記憶から消え去っていないが、この事件が急成長していた回転すし業界の勢いを殺してしまった。

昨年の動向を見てみると、食中毒がo157以外に増加していることがわかる。これからも新型の食中毒菌が増加してくることが予想され、高齢化社会を迎え衛生問題は大きな課題になるだろう。すしは生ものを扱うという宿命があり、業界として衛生的な対策とイメージ作りを行い、再度このような事件が起きても売り上げに影響を受けないようにしなければならないだろう。少なくとも新しい衛生管理の手法であるHACCPの具体的な知識は必要だ。

3)はやっている店から見たすしの将来像
「海外」
本年4月の消費税の増税以後、外食だけでなく全ての産業の勢いが失われたようだ。つい10年ほど前は米国を追い抜いたと豪語している日本はどこに行ったのだろうか。反面、一時は斜陽の沈みかけた米国経済が今では見違えるような日の出の勢いだ。特に米国経済の牽引力であるコンピューター産業の栄えるシリコンバレーを抱えるカリフォルニア、株価の上昇に沸き立っているニューヨークでは新しいレストランが続々と誕生している。では富が最も集中するニューヨークの繁盛レストランを見てみよう。

ブラックマンデーがはじけた後のニューヨークは日本と同じく、リストラによる社員の解雇、社用接待の廃止などで、高級なフランス料理店は全滅の状況であった。一時はフランス料理のシェフの仕事がなくて会社の社員食堂で働かざるを得ないような状況だった。(勿論、日本とは異なり会社の給食は幹部用にフランス料理の本格的な料理を出すのだが)

バブルの華やかし頃は女性を口説くには日本のすしバーが最適だというブームがあり、すし屋のカウンターで熱燗を飲みながらすしをつまむようになった。しかしながらバブルがはじけフランス料理よりも高価格なすしバーは消え去ってしまった。ファッションで栄えたすしバーも本来のアメリカ人には本当に受け入れられていたわけではなかったようだ。生の魚を食べるという習慣がなく単にファッションとして食べていたに過ぎないからだ。そして、消え去った高級なフランス料理とすしバーの代わりに出現したのがカジュアルなイタリアン料理だった。

ところがその消え去ったはずのすしがまた人気を取り戻しつつある。今ニューヨークで最もはやっているすし屋は築地すし清の支店と、ソホーにあるNOBUだ。すし清は日本的な本格的なすし屋で現地在住や仕事で訪問中の日本人に大人気だが、NOBUは生粋のニューヨーク子に大人気のすし屋だ。NOBUは元々ロスアンジェルスのハリウッドのど真ん中でMATUHISAというすしバーを経営し、アメリカ版ミシュランであるZAGATの評価でトップレストランになったほどだ。そのMATUSHISAを気に入った俳優のロバート・デニーロが出資し、松久氏の調理指導の元に、ニューヨークの人気イタリアンレストラン・トライベッカ等を経営しているレストラン運営会社が運営しているのがNOBUだ。ニューヨークのZAGATでも大変高い評価をもらっているNOBUの予約を取るのは至難の業で、予約受付時間の10時から5時までは3人の受付専門の女性がひっきりなしにかかってくる電話を応対しているから、殆ど話し中でなかなか予約自体を取ることができない。大体3ヶ月ほど前から予約をしないと食べたい時間に席を取ることはできない。あまり繁盛したのが評判になり、昨年の5月には強盗に襲われ従業員2名が撃たれると言う事件があり、その記事が全国に流れたほど有名な店である。

そのNOBUが繁盛しているのは単なるすしを売り物にしているのでなく、完結した料理を売り物にしているということだ。西欧人に取ってすしというのは完結した料理になっていない。西洋人にとって完結した料理とは、前菜、サラダ、スープ、料理、デザート、とその料理にあったワインリストを意味するわけだ。すしは単なる前菜と言うのがすしに対するイメージの現状だ。そこで,NOBUでは前菜に魚を使いながらフレンチ風のスタイル、盛りつけを行い、料理にあった完璧なワインリストを揃えた。ワインでは映画で有名なコッポラ監督のワイナリーの赤ワイン・ルビコンをおいている。コッポラ監督の自慢のワインで、ルビコンという名前のレストランをサンフランシスコに開店した程だ。

ワインだけでなく、デザートも和風の雰囲気を器で表現しながら、完璧なアメリカ人好みの味を実現した。すしは食事の途中に5かんほど出てくるに過ぎない。日本人から見るとこれがすし屋かと思わせるが、女性には大人気だ。

NOBUを見てみると日本のすし屋にかけている、コースとしての料理の開発が必要なことがわかるようだ。勿論すし屋にもつきだしや、刺身などの前菜はある。しかし、刺身を食べてすしをつまむというのでは味気ないではないかというのがNOBUのコンセプトであろう。つまり、すしの前後、前菜とデザートをどう開発して、女性や子供が好むすし屋にするかという事だろう。また、酒も同じだ、すし屋においている冷酒も男性好みの辛口が多いが、出羽桜のようなワインに近い女性好みの酒を置くという気配りも必要になってくるだろう。ワインも同様だ、やはり魚に合う美味しい手頃な価格のワインを探し出すべきではないだろうか。

「国内」
日本のすし屋で現在注目するべきなのは、「桃太郎すし」と「びっくりすし」だろう。

桃太郎すしは東京の高円寺から誕生した100円すしが原点で、高円寺駅周辺に数店舗あり、目白通り沿いにドライブインとして2店舗を営業している。高円寺周辺の店舗は小型店であり大繁盛していたが、居酒屋の雰囲気で滞留時間が長いのが欠点であった。その桃太郎が高級住宅地、駒沢通りの駒沢公園に開店した大型店が大ヒットしている。桃太郎でもっとも大型店であり、待ち時間も短く家族連れでゆったり座れると言うことで土日は家族連れで満席の状態だ。

びっくりすしも田園都市線沿線などで駅前の小型店舗を展開していたが、港北ニュータウン(横浜市の東京寄りの新興住宅地で地下鉄開通後は人口が急増し、東急百貨店、阪急百貨店が開業準備中だ)のど真ん中、数百席の大型店舗を開店した。カウンター席だけでなく座れる座敷も用意しているので、家族連れで大盛況だ。

この2店とも低価格の店舗からスタートしたのにも関わらず、顧客のニーズを吸い取り、グレードアップを試み、家族連れでも入りやすい大型店を郊外に出店したというのはこれからのたちのすし店に取って大きなヒントになるだろう。低価格の回転すしや宅配、持ち帰りすしの卒業生し、本格的なすしを食べたいというグレードアップを求める顧客層を的確に捉え対処しているのだ。

家族連れや女性客にも好まれる商品、店舗形態、サービスを向上するために、繁盛しているすし店はもちろんのこと、魚を扱う全ての繁盛店を研究し、積極的に取り入れることが生き残るために重要だろう。

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