米国レストランピリ辛情報 「クリスピークリームその2」(綜合ユニコム 月刊レジャー産業資料2003年7月号 NO.441)

クリスピークリーム
http://www.krispykreme.com/

筆者が6月号で紹介したクリスピークリームのドーナツシアター(工場)を詳細に観察したので報告しよう。
午前10時にショッピングモールの入り口にある独立店のドーナツシアターを訪問した。工場の中には40席ほどのイートインスペースとドライブスルー機能を備えている。驚いたのは他のファーストフードががらがらの時間に続々と客が訪問し、1ダース入りのドーナツを2~3ケースと大量に買い求めていくことだった。しかもドライブルーは常に車が5台ほど並んでいるという大盛況だ。その理由は

①ガラス張りのキッチンで信頼できる商品を作る
ファーストフード店舗の厨房は客からは全く見えず、手作り感がなく、どうやって作っているか分からず、美味しさを感じさせない。そこで、クリスピーは、「ドーナツシアター」と呼ぶ工場で、作っている様子をガラス張りにして見せて、出来立てのフレッシュ感をアピール、徹底的に鮮度と味と清潔感にこだわっている。従来の冷めたドーナッツと違いアツアツのドーナツを売ることで大ブレークした。

工場は清潔でゴミ一つ落ちていない。ドーナツをこねる工程から、品質チェック、発酵、揚げる、グレージング(ハニーディップをかける)、冷却工程、全てをガラス張りで公開している。ガラス張りの部分には高い段をつけて、幼稚園くらいの小さな子供でも見学できるようにしている。
毎日、幼稚園や小学校の見学を受け入れており、30分ほどの見学の後は、帽子とパンフレット、揚げたてのドーナツとソフトドリンクが無料で振る舞われます。小さな子供だからお母さんもついてくるが、お母さん達にもドーナツをくれる。子供もお母さんもニコニコだ。

②品質の差別化 ドーナツへのこだわりと高い商品イメージ
ダンキンドーナツはドーナツ以外にもベーグルなども加えて売り上げを上げようとして、それがドーナツ店としてのイメージを薄くしているが、クリスピーはドーナツにこだわり、高級なドーナツとしてのイメージを植え付けた。
シアタータイプの大型店ではドーナツの製造能力は4万個から8万個あり、通常のダンキンドーナツ店舗の10~20倍以上の能力を誇る。http://www.dunkindonuts.com/
クリスピークリームは機械で加工するので、かなり柔らかい生地でも加工が可能であり、揚げた後に口の中に入れるとまるで溶けるような柔らかさとなる。ドーナツの種類はイースト菌発酵のドーナツとベーキングパウダーで膨らませるタイプのケーキとチョコレートケーキ、そして、玉子の黄身の力で膨らませるフレンチクルーラーという4つの生地に分かれる。
クリスピークリームはその4種類を製造しているのだが、イースト生地の味がフレンチクルーラーのようにクリーミーで柔らかい。しかも熱々の状態で食べても大丈夫だ。これには驚かされた。そして、シアターを訪問すると必ず試食の熱々のハニーディップを丸ごと1個食べさせてくれる。その気前の良さに思わず1ダースを買い求めてしまう。普通はドーナツを縦にして箱に入れるが、クリスピークリームはドーナツの形を崩さないようにケーキのように上向きに並べて、彩りを楽しめるようにしている。
米国では手土産の習慣はあまりないが、その中でも別格なのはクリスピークリームだ。1ダースのドーナツをお客様のオフィスや部下の女性スタッフにお土産に持っていくと大歓迎され、仕事がはかどるという。そこで、男性のお客様も朝から、まるで高級なケーキのように1~2ダースを買い求めに来るわけだ。

③マーケティング チャリティーの活用

マクドナルドは大量のテレビコマーシャル放映やディスカウント戦略で売り上げを上げるが、スターバックスはテレビコマーシャルをせず、産地への援助やチャリティで商品イメージを高く保っている。クリスピーはスターバックスを見習い、テレビコマーシャルを一切行わず、チャリティに積極的に取り組んでいる。店舗でドーナツをダースで買うと、オリジナルグレイズドで5.99ドル(1個75セント)。アソーティッドで6.49ドル1個85セント)だ。それをチャリティの申込用紙に記入し提出すると、ディスカウント価格で購入できるので、その差額分がチャリティの収益となる仕組みだ。チャリティに積極的に取り組むのはキリスト教の信仰心の厚い、比較的裕福な人たちであり、その人達の信頼を勝ち取ったクリスピーのドーナツはダンキンドーナツよりも一段上の商品イメージを獲得することに成功したのだ。しかもチャリティで大量に販売してくれることで販路ともなるし、チャリティで食べた人が美味しさに目覚め、店舗を訪問してくれるなど大きな販売促進の手段ともなる。

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