P/Aとお客の事故&金銭トラブル(商業界 飲食店経営1998年7月)

従業員との意思疎通を図り、小さな事故を拡散させない
夏休みは外食産業にとって最大の売り上げと利益を確保出来る重要な時期だ。まず重要なのは一年で一番売り上げが上がるときだから、販売促進策をきちんと考案する。メニューの点検、新メニューの作成、メニューブックの改訂、ポスター、店頭前の垂れ幕等の作成や、野点看板、などの広告の準備をする。夏休みは映画を見に行くことが多いから、映画館内での広告宣伝も効果がある。

一番売れる時期だが、ベテランの社員やアルバイトが休みを取り、4月に入ったばかりのまだ不慣れな社員やアルバイトに店舗を任せなっくてはならない。同時に客も何時も利用する店舗でなく、故郷に帰ったり、旅行するときに利用する不慣れな客だ。旅行や夏ばてで体調も良くないから食中毒や食当たりの事故も起こしやすい。店が忙しくててんてこ舞いの状態で、客も従業員も慣れていないから事故が起きるのが当たり前の状況に陥りやすい。 事故はどんなことをしても防げないが、どんな事故があり得るか事前に予測し、対策と教育をおこなうことにより最低限度の被害にくい止めることが可能になる。どんな事故があり得るか、それにはどんな対策が必要か人物金の順に整理して考えてみよう。

1.人
「アルバイトの確保」
高い売り上げを確保するには十分な人の準備が必要で、夏休みの始まる6月頃から夏休みに働きたい高校生や大学生のアルバイトを集めなくてはならない。今の時点で十分なアルバイトが居ても、夏休みで故郷に帰ったり、主婦は夏休みを家族ととるから,夏休みのアルバイトの確保を事前にする必要がある。

普段から年間のスケジュールの希望を聞いておき、夏休みのアルバイトを十分な余裕を持って集めるべきだ。高校生や大学生など毎年、夏休みや冬休みだけ働けるように確保しておくのも有効な手段だ。そのためには普段からのコミュニケーションを欠かせてはいけない。

「アルバイトの事故」
慣れないアルバイトを使うと事故を発生しやすい。

[1]労働災害
厨房で慣れないアルバイトを使うと、誤ってグリドルに手を突いたり、フライヤーに手を入れたり、コーヒーマシンからコーヒーデカンターを取り出すときに胸にかけたりして、大火傷を負うことが多い。また、下拵えをするときに包丁の取り扱いを間違えて手を切ったり、床が滑って転んで骨折したりと、労働災害が多い。いくらアルバイトのミスであっても親にして見れば怒りたくなり、トラブルの元であるので、十分な安全管理と教育を怠ってはいけない。基本は厨房の床は滑らないようにするか、滑り止めのついた安全な靴をはかせることだ。同時に頻繁に床を清掃し、水や油がこぼれていないようにしないと、従業員の怪我に対して損害賠償問題が発生する。

[2]通勤災害
駅前型の店舗であれば電車やバスで通勤が出来るから安全だが、郊外型の場合、自転車やバイクでの通勤がある。夜間の自転車の通勤であれば反射版の取り付けや照明の点灯などを必ずさせるようにする。バイクの場合は事故を起こすと本人に支払い能力がない場合は店舗が損害賠償の責任を負う場合があるのでなるべく使用させないようにする。やむなく使用する場合でも、自動車保険や、自賠責保険に加入しているか確認して、事故の場合の損害賠償能力があるようにする。案外忘れがちなのは自賠責保険の無加入者であり、この場合に事故で他人を死亡させるようなことになると大きな問題になる。

また、勤務後、アルバイトの友人とバイクなどで遊びがちで2人乗りの事故も多いので、十分な安全教育を怠らないようにする。

[3]金銭、物品の盗難
高校生などアルバイトになれていないと、店舗の金を扱わせると盗難の誘惑に駆られるときがある。悪気はないのだが、ほんのちょっとの気持ちで売上金を盗んだり、店舗の商品を持って帰ったりする。一番多いのは友人などが来店した際に実際の食事の金額より少なくもらったり只で出したりすることが多い。テーブルの品数と伝票のチェックを怠ってはいけない。アルバイトを開始する際に、やって良いこと、悪いことをきちんと教育することが必要だ。 店舗の金品だけでなくアルバイトが多いから、ロッカーなどのハンドバックや財布から金を盗む場合もある。アルバイトには貴重品を持ってこないようにさせるか、金庫で預かるようにする。

アルバイトのモラルに注意を払うべきであり、常日頃から、会話や、服装、友人関係などに気をつけて置かなくてはいけない。

[4]モラル,男女交際
アルバイトに慣れてくるとモラルの問題が出てくる。先に挙げた金品の問題もさることながら、男女交際の問題も出てくる。高校や大学の年頃の男女であるから交際したいと言う気持ちが出るのは当たり前だが、それがエスカレートして、家出したり、深夜まで遊び回るようになるとお店の信用が傷つくので、普段から交際をオープンに報告させておくようにする。同時に普段からアルバイトの課程と密接な連絡をとり、問題を事前に把握しておかないと、後で保護者に管理責任を追及されるようになる。

当然、社員とアルバイトの交際と言うこともあり得るが、社員という管理者の立場を利用した強引な交際がないように厳しく社員に教育しておくのは当たり前のことだ。

「以上の対策」
アルバイトの事故を防ぐにはモラルをきちんと高め、それを維持する必要がある。普段から、アルバイトとのミーティングを重ね意志疎通を密に保つ。アルバイト同士の交際をオープンにするためには店舗でレクリエーションを企画し、全員で明るくつきあうのだという雰囲気を作り、誤った方向に行かないようにする。

「客の事故」
旅行や帰省で客も慣れてない店舗を利用するから、客の事故も多いのが特徴だ。

[1]車の事故
郊外型の店舗は駐車場を備えているので車関連の事故が多い。一番多いのが駐車場の出入りで、追突事故を発生させることだ。急に店舗を発見して急ブレーキをかけて入ろうとするから後ろの車に追突されてしまう。また、駐車場から出るときにも走っている車のスピード感覚が分からないから大事故を起こしやすい。店舗駐車場への導入看板が見やすいか、出るときに道路の状態がよく見えるか、障害物がないようにしなくてはいけない。

駐車場内の事故も多い。一番多いのは車同士の接触事故であり、それを防ぐにはなるべく余裕のある線引きと、十分な照明が必要だ。事故が起きたら、店舗は介入せず、当事者同士に任せるべきである。

駐車場内の事故で多いのは人身事故だ。夏休みは子供が多いので、背の高いRV車からは死角となりやすく事故が絶えない。特に車を出てから建物に駆けていったり、建物から駐車場に飛び出しての事故が多いので、十分な明るさの照明と、建物から直接出られないような工夫が必要になる。

[2]入り口の事故
客が事故を多く起こすのは店舗にはいるときだ。自動ドアに斜めに入ろうとする客をセンサーが関知することが出来なくて大けがをさせるときがある。センサーの角度や子供が立ち止まったときに挟まれないような安全装置をきちんと装備する。

また、入り口に段差があると躓いてガラス窓に突入するような大事故になるので、段差や、滑りやすい材質を使わないようにする。雨の日には滑り止めのマットをおくなどの配慮をする。

[3]店内の事故
店内の事故も案外多い、一番多いのは階段からの転落事故だ。階段には必ず手すりを取り付け、老人、子供でも安全な配慮が必要。階段も傾斜が緩やかで、ステップには滑り止めをきちんと取り付け、雨の日には濡れていないように頻繁にチェックをする。

夏休みの子供ははしゃいで店内を走り回ることがあるので、注意を与えること。また、綺麗な全面ガラスウンドーなどは子供が突入し大けがをすることがあるので、シールを貼るとか、前に植木鉢をおくなどの対策をする。 店内で従業員が熱い料理をもって歩くときに客にぶつからないように注意をする。特に小さい子供は見にくいのでぶつかって熱いステーキ皿などを落とすと大事故になるので、どんなに忙しくても走ってはいけない。

[4]食中毒
夏は、食中毒の季節であるが,暑さや、疲れで、食中りも多い。顧客から食中毒だというクレームを受けてもあわててはいけない。まず、すぐに何を、何時食べたか確認する。食べてすぐ嘔吐するような場合には,食当たりの可能性が高いからだ。すぐに医者に行くことを進め、同時に該当料理の食材を冷凍庫に保管し、後で問題の会ったときに分析できるようにする。

その他、調理人も忙しさに追われて、異物混入などの事故を起こしやすい。その際は現物を回収し、何が原因か調べ、店舗の問題であれば速やかにわびる必要がある。普段から、異物が混入しないように余計な物を厨房に置かないようにするのが基本だ。

食中毒が多い時期であるので、事前に従業員に対する衛生教育を怠らないようにする。店舗には必ず衛生責任者の資格のある物をおくこと。居ない場合には保健所の衛生責任者の講習会を受講させ、従業員に対する教育や衛生対策を立てさせなくてはならない。地元の保健所とのコミュニケーションを保ち問題があったら直ちに相談できるようにしておく。転ばぬ先の杖だ。

[5]クレーム
商品の不足、釣り銭間違え、味、サービス,等の数多くのクレームがある。忙しいときのクレームは止むを得ないが、そのクレームを迅速に処理し、2次クレームを発生させないのが基本的な考え方だ。クレームが出たらアルバイトに任せないですぐにマネージャーなどの責任者に連絡させ、即座にお詫びをし、要望に応えるという姿勢が大事だ。アルバイトがもたもたして責任のある返事をしないことが客の怒りに油を注ぐ最大の原因だ。

[6]詐欺
忙しさにつけ込んで、釣り銭詐欺が多いのも夏の特徴だ。釣り銭詐欺は慣れていないアルバイトをねらってくるから、釣り銭詐欺のやり口をきちんと教えておく必要がある。

2.金
売り上げの多い夏場は金の紛失や盗難,強盗が頻発する。今年のように景気の悪い時期には特に注意が必要だ。

[1]強盗
強盗に襲われるのは開店前と閉店後の客の居ない時間だ。朝の出勤はなるべく2人で待ち合わせて同時に入る。営業中,閉店後のいかんに関わらず従業員の出入りは正面から行い、裏口は必ず施錠をし、緊急時や搬入時以外は使用しないようにする。夜間の訪問者は入れないようし、照明とのぞき窓を設けて確認をする。普段から警察官と仲良くし、治安の悪い地区は時々見回りに来てくれるように頼んでおき、私服で来たときには飲み物のサービスなどをして個人的に仲良くなっておく。

[2]盗難
店内は整理整頓し、倉庫はきちんと施錠をしておく。だらしなくしておくと盗んでも分からないだろうと思いがちだからだ。隙を見せないと言う姿勢が防犯の基本だ。

[3]強請、たかり
客にいくら挑発されても冷静に対応し、暴力沙汰になってはいけない。危険を感じたら直ちに警察に連絡をする。警察には110番でなく、交番などの直通電話をするようにする。冷静に対応し、その場で現金を渡したりしてはならない。丁寧に応対し、責任者に連絡するので、お名前、住所、クレームの内容を控えるようにする。

3.災害など

夏は災害の多い時期でもあるので何があっても良いような対策を整えておく。
[1]火事,地震
火事、地震があったときには客と従業員の安全対策を優先する。まず、ガス、電気を消し、客と従業員を避難させる。普段から避難場所と緊急の連絡先、家族の連絡先のリストを用意し、すぐに持ち出せるようにする。消防署の防火管理者の講習を受けそれを元に普段から避難訓練、人命救助の練習をしておく。

[2]台風などの風水害
夏は台風などによる風水害が多い。看板等の倒れやすい物は事前にしまっておくなどの注意をする。場所によっては洪水のおそれがあるので、普段からラジオなどの情報を聞き、洪水対策をする。川などの氾濫がしやすい土地では入り口に防水の扉をつけられるようにしておくと被害を最小限に押さえることが出来る。

4.連絡体制
各店舗には緊急時の連絡体制の表をおいておく。休みを取るSV、店長は携帯電話、PHS,ポケットベルを携帯し、どこにいても連絡が出来るようにする。携帯電話、PHSの場合には留守番機能を作動させ、メッセージを入れたらポケットベルに連動できるようにする。必要ならパソコンを携帯させ、常時電子メールで店舗の状態もチェックできるようにするべきだろう。

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