夏休みの事故防止・設備機器編 (商業界 飲食店経営1998年7月号)

空調機器の完全チェックと動力源、熱源のメンテナンスを
売り上げが高いので調理機器のメインテナンスが大変重要になる。夏場は暑いので冷たい飲み物の売り上げが高いので、冷却機器系の機械の故障がないようにしなくてはいけない。そのためには冷却機器の作動原理を理解し、正しく保守点検をしよう。

[1]「冷却機器の作動原理」
空調機を含めた冷却機器の清掃及びコントロールが水道光熱費の削減でもっとも大きな割合を占める。冷却機器の作動原理を理解し、正しく使用する方法を学んでおこう。

図1の冷却原理をみてみよう。

コンプレーサーでフレオンガスを圧縮する。圧縮されるとガスは高温高圧になり、コンデンサーに送られる。コンデンサーで冷却されると低温で高圧の液体になる。次にドライヤーで水分などの不純物がろ過され、エキスパンションバルブ(蒸発弁)に送られる。ここで、液体は気化し、低温低圧のガスになる。そのガスがエバポレーターを通り、そこに存在する熱を奪い、中温低圧のガスになる。それから再びコンプレーサーで圧縮され次のサイクルが始まるのである。

フレオンガスの低圧の圧力は蒸発圧力と言い、温度に影響する。高圧はコンプレッサーで圧縮されたガスの圧力であり、設定以上の負荷をかけた時とか、コンデンサーが目詰まりを起こし、冷却が十分にされていない場合に圧力が高くなり、場合によってはコンプレッサーが焼ききれる事がある。また、焼き切れなくても電気代が倍以上かかる場合もあるし、冷却が不十分で食品の保存が出来ず、腐敗や場合によっては食中毒を発生させる原因となる。 コンデンサーだけでなく、エバポレーターに霜がついていないよう定期的に霜取りを行う必要がある。エバポレーターについた霜は断熱材と同じで庫内が十分に冷却しない原因なり、フレオンガスは熱交換されないので、気化せず液体のままコンプレッサーに戻り、コンプレッサーを壊す原因になる。

[2]「空調機器」
空調機は室外機と室内機で構成されている。図1のコンデンサーに当たる部分が室外機である。現在では空冷ヒートポンプタイプが主力である。ヒートポンプとはコンデンサーの部分が夏場には放熱し、エバポレーター部分が冷却され、そこに空気を循環させ室内を冷却する。冬場にはガスの流れを代えコンデンサー部分で冷風を外に出し、エバポレーター部分で温風を出し暖房する仕組みである。ヒートポンプ式は一般的に電気で作動するが最近ガスヒートポンプ方式が出てきた。これは室外機の部分のコンプレッサーの駆動を電気モーターでなく、ガス燃焼エンジンで行う方式である。電気容量が少ないため、キューピクル(変圧器)を変更しなくてもすむので夏場に室内の冷却能力を上げたいが電気容量がないと言うときに有効な手段だ。

空冷式の室外機を複数置く時には、風通しを良くし冷却が十分に行えるようにしなければならない。この設計上のチェックをしないと電気代がかかるが空調が十分に効かないと言う問題が発生する。また、コンデンサーの清掃を定期的に実施しないと電気代を大幅にロスする原因となる。

また、エバポレーターにはフィルターがついているので定期的な清掃が必要だ。また、年に一回くらいは業者によるエバポレーターの清掃と、機器の点検を行うと機械が長持ちするし、電気代も節約できる。

[3]「空調室外機の設置場所の注意」
空調機は室外機と室内機で構成される。コンデンサーに当たる部分が室外機である。一般的に水冷か空冷である。以前は水冷のクーリングタワーを使用するのが多かったが、水のメインテナンスが大変であり、空冷のタイプが多くなり問題が出てきた。水冷の場合外気温に関係無く能力が出るが、空冷の場合同じ表示能力でも外気温により能力が落ちるのである。特に本年の夏のような異常天気では、表示能力の30%も落ちていたと思われる。空冷の室外機を使用するときには夏場の予想外気温を計算し、十分余裕を持った空調機にする必要がある。

また、空冷式の室外機の設置に気をつけないと冷却が充分に効かない事があるので注意されたい。特に複数の室外機を置く時には、室外機から出た温風が他の室外機のコンデンサーに吸い込まれないように充分距離を空ける必要がある。さもないと、吸い込みの温度がどんどん上昇し、機械に負担をかけ、電気代が高いのに、冷えないという問題が発生し、機械の寿命も短くなる。コンデンサーの冷却風を横に排気するタイプと、下から吸い込み上に排気するタイプがある。上に排気するタイプの方が他のコンデンサーに与える影響は少ない。横に排気するタイプの場合架台をおいて室外機の周囲の風の回りが良くなるようにすると効果的だ。室外機の周囲は遮蔽物がなく風通りが良くなくてはならない。上に屋根等があるとそこで排気がUターンし再度吸い込まれるショートサーキットを起こし易いので注意されたい。室外機の間隔は空調機メーカーの推薦する間隔より余裕を見た方が安全である。

もし、設置後問題が発生したら、吸い込みの温度を計測しそれが外気温より異常に高かったら、室外機を移動し十分な距離を置く必要がある。室外機のそばに排気ダクトの吐き出しを設けてはいけない。熱の問題もあるが、排気中のオイルミストがコンデンサーに付着し、そこに塵が付着し冷却効果が低下するからだ。また、風の向きにより冷却が十分に行われない場合があるので、風の向き、建物の角度などに注意する必要がある。

どうしても、外気温が高くオーバーヒートしてハイカットが作動する場合には、水をコンデンサーに憤霧して蒸発潜熱で冷却する。園芸用の噴霧器とサーモスタットを連動させ、外気温が一定以上になったら作動させることが可能で水が節約できる。

[4]空調機のメインテナンス
メインテナンスというと業者に任せると思うようであるが、店舗でも簡単に出来るのである。業者のメインテナンスは年に1回位であり、簡単な清掃、点検は店舗でやらないとならない。

1.室外機
「水冷のタイプ」
年に一回、使用開始の前に水のラインを酸性薬品で洗浄する。水にはカルシウム、マグネシウム等が含まれており、それがパイプ内部に付着し、冷却効率を落とすからである。厨房の排気がそばにある場合など、内部に油分が付着するので、アルカリ洗浄も併せて実施する。ただし、アルカリ洗剤と酸性洗剤を混合してはならない、危険だし効果がでないからだ。洗剤の種類、量は洗浄専門業者に水質や汚れの状態を見てもらい決める。室外機の使用負荷によっては、月に一回位の洗浄が必要な環境もある。

夏が終わり、使用しなくなったら、再度洗浄し、周囲をカバーし、塵や木の葉が入らないようにする。

「空冷タイプ」
空冷は、コンデンサーの清掃をする。年に数回の洗浄が必要である。洗浄用の水と洗剤を噴霧する機械で洗浄する。よくブラシでコンデンサーのフィンをこする場合があるが、フィンを曲げたり、汚れを押し込むのが多いので必ず洗剤を使用し、噴霧して洗い流さなくてはならない。専用の機械がないときには園芸用の噴霧機でも使用できるが大型のコンデンサーには力不足である。一般的にアルカリ性の油落としの洗剤を使用する。洗っても冷却が充分でない時には、コンデンサーの吸い込み温度と、排気温度を計測する。

2.室内機
エバポレーターにはフィルターが付いているが、1週間に1回は清掃する事。痛んでいたら、交換する。それでも年に1回以上はエバポレーターを洗浄する必要がある。油汚れの無いはずの客席でもお客様がタバコを多く吸うため、タバコのヤニがエバポレーターにびっしり付着するのだ。洗浄をしないと冷却しないばかりか、冷却のフレオンガスが液体のままコンプレッサーに戻りコンプレッサーを壊す事になる。気体は圧縮できるが、液体は圧縮できない。フレオンガスが液体で戻る事をリキッドバックと言う。コンデンサーの清掃が悪くガスの冷却が充分にされないときにもコンプレッサーに負担をかけるが、リキッドバックの場合にはコンプレッサーを完全に壊すので注意されたい。

床置き型や、屋上置き型の空調機は清掃し易いが、天井隠ぺい型や天井カセット型は清掃し難く、業者に依頼する事をお勧めする。自分達で清掃するときには、電装関係に水をかけないように充分注意して行う事。 室内機は、エバポレーターを通過する風量が多いので、一般的にモーターから、ファンベルトを経由して回転させる。ファンベルトが緩んだり、切れると回転は伝わらないので、年に1回点検し、必要なら交換する。一般的に最低2年毎に交換するべきである。

[5]その他の冷却機器
製氷器、ビアーディスペンサー、炭酸飲料ディスペンサー、シェイクマシン、ソフトクリームマシン、等があるが、基本的な作動原理は空調機器と同じなので、機械の取扱説明書にある定期点検を怠らないようにする。参考例として炭酸飲料ディスペンサーのプリベンティブメインテナンスを添付する。これらのディスペンサーを効率よく動かせるには定期的な清掃殺菌と、部品の交換が必要だ。

味も重要であり、炭酸飲料ディスペンサーなどは定期的な糖度調整を行わないと、味が悪くなるだけでなく、原材料コストも高くなってしまう。飲料というと腐らないと思いがちだが、炭酸飲料のシロップやビールなどは賞味期限がありそれを越えると味が変化するのも忘れてはいけない。

[6]水周り
受水槽や高架水槽は年に一回の清掃と点検が義務づけられている。清掃後は水質検査を保健所に依頼する。水槽には鍵をかけ、異物の混入がないように気をつける。

コーヒーマシン、炭酸飲料ディスペンサー製氷器、冷水機器には水のフィルターがついているが、有効期限を確認し事前に交換しないと、詰まったり、味が悪くなる。

合併槽やグリーストラップも定期的な点検を心がけ、業者の休みなどに故障をしないように事前に清掃点検を行っておくこと。

トイレなども詰まりやすかったり、水が流れ放しになるので時々点検を行う。

[7]調理機器
夏場は忙しいので調理機器の点検と清掃を忘れてはいけない。忙しいと清掃がおろそかになりがちであり、温度が不十分で食中毒を起こす危険があるので、調理機器の温度と時間管理のチェックを行っておく。

また、グリドルやフライヤーの清掃をして、能力が最大限になるようにするのと、加熱防止器などの安全装置が作動するかのチェックも行っておく。

[8]排気ダクト、ファンの清掃と点検
売り上げが高いとグリドル、フライヤー、オーブン、ガスコンロなどフルに使用するので、排気熱により加熱事故が発生しやすい。夏になる前に業者によるダクト清掃とファンなどの電気設備の点検とファンベルト、ヒューズなどの交換をしておく。

[9]ガス、電気機器の安全性
厨房はガス機器を使用しているので、ガス漏れがないように事前にガスホースの古いのは交換したり、ガス漏れがないかチェックをしておく。出来たらガス漏れ検知器を取り付けると安全だ。

電気による事故が多いので、配電盤、コンセント、配線を手で触って加熱していないかチェックをする。加熱していたら、コンセントのねじのまし締めや清掃を行ったり、タコ足配線を改善するなどの対策をしないと、電気調理器を壊す原因となる。また、照明から加熱して火事になることもあるので天井内部の配線の加熱や照明器具の加熱も点検をしておく。

電気調理器は安全だと誤解する場合が多いが、ガス機器と同じくらい火災の発生がある。電気容量が大きく加熱防止器のマグネットが溶着し安全装置がは足らなくなる場合があるので、事前に作動チェックを忘れないこと。

厨房機器故障予防メインテナンスチェックリスト例
炭酸飲料ディスペンサー
1.毎日実施する項目
・炭酸飲料の抽出温度は規定以内か(1~5℃)ポーションコントロールがある場合は、抽出量が規定量かチェックディスペンサーのノズルを毎日洗浄殺菌しているか各飲料の味はOKか
2.週1回チェックする項目
・リモートチラーのコンデンサーのフィルター清掃調理機器周囲の清掃
・冷却機器から異音が出ていないか
・糖度は基準以内か(ブリックスメーターまたはブリックスカップを使用する)炭酸の強さは基準以内か炭酸ガスラインの1次圧、2次圧は基準以内かシロップ原液は賞味期間以内か
3.月1回チェックする項目
・リモートチラーの水の交換、内部の清掃
・アイスバンクセンサーの清掃アジテーターから異音が出ていないか、作動しているかカーボネータータンクの作動チェック(水位、エアー抜き、作動時間等)チラーユニットのコンデンサーの状態チェック
4.年1回チェックする項目
・チラーユニットの冷却能力チェック(必要ならガス圧チェックをする。)
・水フィルターの交換
・ディスペンサーラインの洗浄殺菌
・コンデンサーのスチーム洗浄、ベルト交換、
・漏電ブレーカー作動点検
店舗点検作業指示書例機械種類ポストミックス用チラーユニット
1.チラーユニット温度チェックの方法
*必要な道具、工具

応答速度の速い温度計、ドライバー、タオル

*手順

・チラーユニット内の氷の厚さが規定の厚さか
・水温は2℃以下か
・氷の厚さが規定以外であれば、氷センサーを清掃し、必要なら位置を変更する
2.水温の温度回復速度のチェックと水槽の汚れ落とし
*必要な道具、工具

応答速度の速い温度計、ストップウオッチ、ホース、ブラシ、中性洗剤

*手順

・水槽の水を排水する。氷をできるだけ溶かす
・氷の厚さをコントロールするセンサーの汚れを取り除く
・内部を洗剤とブラシで洗い、汚れを落とす
・水を再度規定量入れ、冷却をスタートし、規定以内に設定温度になるかチェックする
・時間が基準内であれば良い、遅ければ冷却機器のコンデンサーを清掃し、それでも問題があれば、冷却ガスの圧力をチェックする
・作業中に水を電気系統にかけないように十分注意する
3.コンデンサーの清掃
*必要な道具、工具

応答速度の速い温度計、コンデンサー清掃用スプレー、アルカリ洗剤、バケツ、タオル、ビニールカバー

*手順

冷却機器の電源を切る。コンデンサーフィルターを外す
コンデンサーの裏側にビニールカバーをし、水が電気系統にかからないようにする
洗剤を湯に溶きコンデンサーにスプレーする。汚れが落ちたら、湯でリンスする
周囲の水を拭き取る、特に電気系統に注意する
4.漏電遮断弁の作動チェック
*手順

・漏電遮断機のテストボタンを押す
・漏電遮断機が作動して機械への通電が遮断するか確認する
・遮断機が作動しない場合は危険なので修理を依頼する

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