マクドナルド・コーポレーションの成功要因は不動産活用の財務戦略 劉暁穎

1. 研究概要
米国の外食産業、特にファスト・フード業界は世界に33000店舗を世界に展開するマクドナルドを筆頭に成長を続けている。そのファスト・フード業界の成長には特別なイノベーションがあるのではないかと仮説を立て研究をしている。
ディックとマック・マクドナルド兄弟Maurice “Mo” and Richard “Dick” McDonaldは1948年にロサンゼルスの東50マイルにあるサンバーナディーノE通り14番街にマクドナルド・ドライブインを再構築して開店。セルフサービスで、予めハンバーガーを調理し、ケチャップ、マスタード、たまねぎ、ピクルスで味付をして包装して販売した。メニュー25種類を9種類に減らし、肉の1枚当たりのサイズを1/10ポンド(45g)に小型化した。従来30セントで販売していたハンバーガーの価格を15セントに引き下げた。フォード自動車の流れ作業方式にヒントを得て、同じような流れ作業方式の調理法と、作り置きしたハンバーガーによりサービスのスピード化を図り大成功した。
成功に気を良くした兄弟はそのAmerican Restaurant Magazineに「彼らのセルフサービス方式は過去50年間のレストランの歴史で最も革新的な方式である」と広告を打ち、その方式を全米に知らしめてしまった。兄弟はこの広告の後、フランチャイジーの募集をだした。
しかし、商売に真剣でない兄弟のフランチャイズ化は成功せず、レイ・クロックが全国にマクドナルド店舗を展開するフランチャイズ権買い取り、1953年にマクドナルド・コーポレーションを設立した。
マクドナルド兄弟は自ら開店した店舗のノウハウを公開したので、店舗を見学しヒントを得て類似のハンバーガー・チェーンが続々と誕生し、ファスト・フード業態が急成長した。
バーガーキング社、タコ・ベル社、ウエンディーズ社、KFC社、ピザ・ハット社などである。
マクドナルド社は優れた店舗運営システムを武器に、フランチャイズ方式で急成長し株式上場した。追随する企業もフランチャイズ方式で店舗展開を行い、株式上場を果たし、現在でも米国売上高トップ10社に位置している。

2.現在の米国外食産業の売上トップ10社
NRN誌が発表した2010年度の米国外食売上トップ10社は以下のようになる。この順位はブランド別であり、タコ・ベル、ピザ・ハット、KFC、はYum社の傘下で展開しているので、同一の会社とすると売上は17,000ミリオンドルでマクドナルドに次ぐ2位となる。
ここで筆者は同時期に創業して現在も売上高トップ10位以内に入っている。そこでマクドナルド社、Yum社、バーガーキング社、ウエンディーズ社のイノベーションの違いを財務の視点から比較研究することにした。

ブランド名 売上(単位ミリオンドル)
マクドナルド 32,395
サブウエイ 10,633
バーガーキング 8,368
スターバックス 7,955
ウエンディーズ 7,943
タコ・ベル 6,900
ダンキン・ドーナツ 5,435
ピザ・ハット 5,400
KFC 4,700
YUM(タコ・ベル、ピザ・ハット、KFCの持ち株会社) 17,000


3.現在の米国ファスト・フードの収益状況
筆者は米国ファスト・フード成功の理由は、低価格の単品を持ち帰り方式で素早く売る運営方式と、店舗展開で他人資本を使い早く展開するフランチャイズ・システムによるものではないかと仮説を立てて調査を行うことにした。

数値分析は各社のSEC(米国証券取引委員会)提出の年次財務報告書を基にした。
マクドナルド 2011年度SEC提出 10K(年次報告書)
YUM、 2011年度SEC提出 10K(年次報告書)
バーガーキング 2010年度SEC提出 10K(年次報告書)
ウエンディーズ 2011年度 SEC提出 10K(年次報告書)

をまとめて一覧表を以下のように作成した。

フランチャイズ企業が公表する売上高は、自社が直営で展開する店舗の売上高(直営店舗売上高)とフランチャイジーから受け取る売上高に比例したロイヤルティと家賃(FC売上と称するロイヤルティ+家賃である)の合計である。
 一般に直営店舗売上高が多いが、直営店舗家賃、人件費、食材費、水道光熱費、減価償却費、その他の経費、等を差引くと売上高に対してかなり低くなる。
マクドナルドの場合、直営部門の売上は18293ミリオンドルであるが、直営店舗経費14838ミリオンドルを差し引くと差引利益は3455ミリオンドルに縮小する。FC売上からフランチャイジーに貸している土地の支払い家賃などの経費を引くと7232ミリオンドルであり、直営部門の利益の倍もの利益を確保していることがわかる。
 以下に、マクドナルドとYum、バーガーキング、ウエンディーズ、各社の直営店舗売上、FC売上、FC売上比率、Net Incom比率、等の数字を財務諸表から抜粋してみた。

各社年次報告書まとめ
年度(単位ミリオンドル) 2011 2010 2009

McD   直営店舗売上 18293 16233 15459
    FC売上(FCよりロイヤルティ+家賃) 8713 7482 7286
    総収入 27006 24075 22745
    FC売上/総収入 32.3% 31.1% 32.0%
    直営店舗経費 14838 13060 12651
    FC用店舗家賃等の本部支出 1481 1373 1302
    Net Incom 5503 4946 4551
    Net Incom/総収入 20.4% 20.5% 20.0%
 
           
YUM   直営店舗売上 10893 9783 9413
    FC売上(FCよりロイヤルティ+家賃) 1733 1560 1423
    総収入 12626 11343 10836
    FC売上/総収入 13.7% 13.8% 13.1%
    直営店舗経費 不明 不明 不明
    FC用店舗家賃等の本部支出 不明 不明 不明
    Net Incom 1319 1153 1071
    Net Incom/総収入 10.4% 10.2% 9.9%
           
BK   直営店舗売上   1839.3 1880.5
    FC売上(FCよりロイヤルティ+家賃)   549.2 543.4
    総収入   2502.2 2537.4
    FC売上/総収入   21.9% 21.4%
    直営店舗経費 不明 不明 不明
    FC用店舗家賃等の本部支出 不明 不明 不明
    Net Incom   186.8 200.1
    Net Incom/総収入   7.5% 7.9%
           
Wendys   直営店舗売上 2,126.60 2,079.10 2,134.20
    FC売上(FCよりロイヤルティ+家賃) 304.80 296.30 302.90
    総収入 2,126.60 2,375.40 2,437.10
    FC売上/総収入 14% 12% 12%
    直営店舗経費 不明 不明 不明
    FC用店舗家賃等の本部支出 不明 不明 不明
    Net Incom 9.90 (4.30) 5.10
    Net Incom/総収入 0.5% -0.2% 0.2%

上記の表を見るとマクドナルドとYum、バーガーキング、ウエンディーズなど他社との売上比率には大きな差がある。注目するべきはNet Incomを総収入で割った数字だ。マクドナルドは20%で2位のYum社に対して倍の収益率となる。ハンバーガーを販売する同じファスト・フード業態で、創業時も同じ年代で(ウエンディーズはやや遅い創業)、フランチャイズ方式を取入れた店舗展開でありながら総収入に対するNet Incom比率が倍以上も異なるのはマクドナルドには何か他のイノベーションがあるのではないかと思い至り、各社の創業者の自伝などの文献を調べることにした。

4.バーガーキングの創業者はマクドナルドの成功要因を以下のようにのべている。
マクレモア氏は自伝The Bueger Kingにはマクドナルドに追いつけなかった理由を「マクドナルドが開発した不動産所有システムとフランチャイジーへの家賃収入であった。そして、それが株式公開に大きな原動力となった。バーガーキングはその不動産収入の確立に遅れをとり、株式公開も成功せず食品メーカー大手のピルズベリー社の子会社となりバーガーキングをチェーン展開した。しかし、ピルズベリー社はフランチャイズ・チェーンの展開の知識がなく、マクドナルドの積極的な店舗展開に追いつけず、その後、英国の酒類製造メーカーにピルズベリーは買収され、バーガーキング部門の流転が始まる。現在も一度株式上場を果たしながら、再度ファンドの傘下に入り経営再建中だ。」と述べている。
5.幹部社員が述べるマクドナルドの真の成長要因
ニューヨーク地区マクドナルド責任者であったFacella Poul氏は著書
【Facella Poul(2009) Every Thing I know about business I learned at McDonald’s(岩下慶一・京希伊子 訳(平成21年)『マクドナルド7つの成功原則』株式会社出版文化社 )
P283-P290でマクドナルドを成功に導いた6つの要素の中で、財務を担当したハリー・ソネボーンが画期的なフランチャイズモデルを築き上げたことが貢献していると述べている。

6.創業者レイ・クロックの実質的な自伝
【Love John F.(1986) McDonald’s :Behind The ArchesBantam Books.Inc.(徳岡孝夫 訳 (1987)『マク
ドナルド わが豊饒の人材』ダイヤモンド社)】
のP153で
 『レイ・クロックはマクドナルド社の儲けにも感心がなかった。マクドナルド兄弟には寛大すぎ、フランチャイジーの成功には気を遣いすぎ、仕入先に対しては正直すぎた。だからマクドナルド社の収益は、フランチャイジー売上のわずか1.9%のサービス料(売上歩合のロイヤリティ)が殆どで、その1/4はマクドナルド兄弟に支払う。フランチャイジーから加盟時に徴収する加盟金は1店舗わずか950ドル、後に値上げしてからも1500ドルに過ぎなかった。(1961年以後は1万ドル)マクドナルド社の取り分では、クロックがつくった営業チームの経費は殆ど出なかった。
レイ・クロックはフランチャイジーへのロイヤルティを当初は1.9%と低く設定していたが、実際の本部運営に必要な経費は売上の4%であり、店舗展開を続ければ続けるほど負債が増大していた。当時の副社長ハリー・ソネボーンは不動産を自己資本ゼロで取得する方式を考案し(返済は10年間の定額)、フランチャイジーから固定ではなく売上変動で家賃を徴収するという仕組みを考案し、従来の1.9%のロイヤリティだけではなく(後に3%に改訂)、家賃を売上の8.5%を徴収するという仕組みで、合計10.4%の収益を得るようにした。
7.まとめ
 マクドナルドは単にフランチャイズ・システムを店舗展開速度を上げるためだけに活用するのではなく、フランチャイズ店舗展開を行うことにより、ロイヤルティの他に不動産収益を確保するという財務上のイノベーションを確立した。
これにより、フランチャイズ・チェーン展開を積極的に行えば、利益が増大するという仕組みが出来上がり、株式上場が可能になった。株式上場後も着実に利益が出るため、株価を常に高く維持することが可能であり、他社による買収の危険にさらされることがなく、創業者レイ・クロックの高い経営理念を共有する後継者により安定した経営が継続できる要因となった。
 不動産収入の仕組が他社の2倍以上の売上高利益率を確保している理由であり、決して単なるフランチャイズ・システムによるものではないことがわかる。高い利益率は株価を高く維持し他社による買収を避け、創業の理念を維持しているわけである。
以上
参考文献

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洋雑誌
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和文献
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白土 健・岸田 弘(2009)『フランチャイズビジネス概論』創成  社
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白土 健・岸田 弘 (2009)『フランチャイズビジネス概論』創成  社
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増田大三 来住元朗 長井利之 弘津真澄 谷内正往(平成9) 『現代小売業の構図と戦略』 
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藤本隆一(1998)『カーネルサンダース』
渥美俊一・島田陽介(1974)『食堂の経営技術革命』柴田書店


以上

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