パートタイマーへの効果的なサニテーション教育(商業界 食品商業2001年6月号)

衛生管理教育は堅い内容で、担当する側としてもなかなか効果的な教育や教材を作成できないことが多い。しかし、従来は保健所対策として衛生教育をするだけでよかったが、最近の情勢はそんな悠長なことを言っていられなくなった。そこで、どのように効果的な衛生教育をわかりやすく実施するか見てみよう。

1)食中毒の現状を理解させる。
一番大事なのは従業員に食中毒の状況がどのようになり、食中毒を引き起こすと従業員にどのような影響を与えるかを伝えないといけない。また、教育する側としても常に最新の食中毒の発生状況を把握し、従業員に告知を行い、対策を練り直すという継続した作業が必要だ。

衛生管理教育には保健所などで作成したVTR等を使用する場合が多いが、各店舗の実体に会わないし、古いVTRでは刻々と変化する食中毒の危機感を訴求することができない。そこで、最新の情報をインターネット経由で取り入れ、それを教材に使う手法を考えてみよう。以下に紹介するホームページでは食中毒の発生のデーターをグラフで表示したり、食中毒菌の写真を掲載している。それらのデーターを取り込んで各企業の実体にあった教材を作成しよう。場合によってはホームページをそのまま教材として閲覧することも可能だ。

<1>2000年夏の雪印乳業の大規模なブドウ球菌による大規模な食中毒
労働厚生省の最終報告書

http://www.mhlw.go.jp/search/mhlwj/mhlw/topics/0012/tp1220-2.html

<2>2001年3月の食品スーパー、ヨークマートで販売された滝沢ハム製造の腸管出血性大腸菌o-157に汚染されたローストビーフによる食中毒の報告
東京都衛生局生活環境部食品保健課

http://www.metro.tokyo.jp/INET/ETC/EISEI/shokuhin/index.html

http://www.metro.tokyo.jp/INET/ETC/EISEI/shokuhin/news/press010406.html

<3>平成8年に堺市学校給食の大規模な腸管出血性大腸菌o-157による食中毒
堺市学童集団下痢症報告書

http://www.city.sakai.osaka.jp/city/info/o157rprt/index.html

文部省

http://www.monbu.go.jp/special/O157/00000009/

<4>回転寿司の腸管出血性大腸菌o-157に汚染されたイクラによる食中毒
安い食材を信用のない食品メーカーから仕入れたのが原因

旧厚生省

http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1009/h0918-1.html

東京都衛生局

http://www.metro.tokyo.jp/INET/ETC/EISEI/shokuhin/news/back/1998/980617.html

<5>2000年2月下旬に横浜の創業30年の老舗ハンバーグレストランチェーンが腸管出血性大腸菌o-157による食中毒で5名が罹患、3店舗が営業停止処分。
30年も事故がないと言って安心している油断をついた事故。

事故後調理方法を変更した企業のホームページ

http://www.hungrytiger.co.jp/Ht/Stories/torachan/torachanstory.htm

<6>ファミリーレストランでサイコロステーキによる腸管出血性大腸菌o-157による食中毒事故が2つの大手チェーンで発生。
サイコロステーキを柔らかく食べるためにテンダライザーという針を肉に刺して筋を切る際に、菌が肉内部を汚染し、十分な殺菌温度に達しない状態で提供したための事故。

日本医師会感染症危機管理対策室

http://www.med.or.jp/kansen/ag874.html

事故を起こした企業のHP

http://www.skylark.co.jp/news/news000919.txt

<7>食中毒の統計的
労働厚生省のHP

http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/jokyo/nenji.html

これによると平成7年までは減少気味であった食中毒感染者が8年の堺市の集団給食による大規模な食中毒発生以来、増加現象に転じた。

労働厚生省の2000年食中毒の状況をグラフで

http://www1.odn.ne.jp/‾cak40870/poison.html

新型の食中毒菌の出現と、従来の食中毒菌のパワーアップが食中毒事故を増大している。従来、食中毒とは食中毒菌に起因する物を言ったが、最近はウイルス性の食中毒も仲間入りした。冬の間、生牡蠣は安全な食べ物の筈であったが、最近は小型球形ウイルスに汚染された牡蠣による食中毒が増加している。

愛知県衛生研究所

http://www.pref.aichi.jp/eisei/tudkbiseibutu.html

岐阜医師会

http://www.city.gifu.med.or.jp/svrv.html

東京都衛生局

http://www.tokyo-eiken.go.jp/shokuhin/yobou/saikin/srsv.html

新型菌だけでなく在来型の菌もパワーアップしている。従来型の食中毒菌である腸炎ビブリオ菌は海水中に存在する一般的な食中毒菌で、海産物に付着している。従来の腸炎ビブリオ菌は摂氏7度C以下になると増殖しなかったのだが最近の新型菌は4度C以下の温度帯に保管しないと増殖することがわかった。そのため、減少傾向にあった腸炎ビブリオ菌による食中毒は増加している。

東京都衛生局

http://www.metro.tokyo.jp/INET/ETC/EISEI/shokuhin/news/back/2000/000606.html

愛知県衛生研究所

http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/67f/microbiol9.html

サルモネラ菌も同様で、従来、卵の外側を汚染しており内部は大丈夫だと言われ、冷蔵庫で保存しないで生食していた。しかし、新型菌のサルモネラ・エンテリデュス菌は卵の中を汚染し、冷蔵保存をしないと食中毒菌が繁殖し加熱して食べないと危険である。

http://www.jfha.or.jp/saikin/index5.html

食中毒菌の種類については社団法人食品衛生協会のHP。

http://www.jfha.or.jp

食中毒の発生状況は日本医師協会のHPを

http://www.med.or.jp/kansen/index.html

2)現状の把握
次に店舗の問題点を把握しよう。店舗の問題とは人の動き、加工食材の流れ、設備の管理などだ。それらをデジタルカメラやVTRを使い、開店時から閉店時まで記録し、問題点を列挙する。

3)必要なマニュアルの作成:台本づくり
衛生管理というのは科学だ。ごまかしは利かない。必要な衛生管理のマニュアルを作成しなくてはいけない。以下はマニュアルのサンプルだ。

<マニュアルで表現しなくてはいけない内容>

ここでは箇条書きにするが詳細な内容は以下のHPを参照

http://www.sayko.co.jp/article/syogyo/insyoku/2000/2000-06-3.html

(1)つけない
<1>手洗いがつけない基本です
<手洗い>

先ず手に着いた汚れや菌を落とし、次に殺菌剤で手を殺菌します。

<手拭き>

厨房であれば使い捨てのペーパータオルを使用し、客席やトイレでは温風乾燥機を使用しましょう。

<手洗いの頻度>

一回だけしか洗わないのでは効果がありません。30分に一回の手洗いは必要です。また、トイレに行った後、汚れた物にさわった後,肩より上に手を挙げたら必ず手を洗う。

<衛生手袋>

サラダや刺身など火を通さない食品は使い捨ての衛生手袋を使用しましょう。

<手の身だしなみ>

指輪や、時計をして調理をしてはいけません。あた、手荒れをしないように,洗い場ではゴム手袋を使用し、水仕事の後は手荒れ止めのクリームを塗る等のケアーをしましょう。

<2>食品の交差汚染を防ぐ
サラダなどの野菜、生ジュース、生水、鮨ねたなどは火を通すことがないので、細菌汚染があると食中毒を起こしやすいのです。交差汚染を防ぐには食材ごとに手,包丁,まな板,調理機器を洗浄殺菌してそれぞれの食材に固有の菌が他の食材に移らないようにしなくてはいけません。

<3>信頼のおける仕入先
仕入れをする際には値段だけで決定するのではなく、衛生管理がしっかりしていることを確認し、配送業者の食品の取り扱いまで丁寧な業者を選びましょう。

<4>受け取りの確認と正しい保管
品物の破損や損傷のチェックだけでなく、冷凍品はマイナス18ー22度C,冷蔵はプラス1ー5度Cと言う温度で搬入されていなくては行けません。

(2)増やさない。
細菌が繁殖する温度は5度Cから60度Cの間です。この温度帯に食品を4時間以上おかないと言うのが原則です。

<1>冷蔵庫冷凍庫の温度管理をしっかり行う。
冷蔵庫の温度は1-5度C、冷凍庫はマイナス18度Cーマイナス22度Cの温度帯です。

温度計はついているでしょうか?

温度計は正しく作動しますか?

<2>庫内に余裕があり冷気が循環するか
保管中の食品の中心温度が冷凍や冷蔵の温度帯になっていなければ細菌の繁殖を防ぐことはできません。冷風が循環して食品を冷却するように、庫内スペースの50%くらいの余裕を持って食材を保管するようにしましょう。

<3>冷蔵冷凍庫の環境と手入れ
冷蔵庫は風通しが良く、室温が高過ぎない場所に設置し無ければなりません。コンデンサーに油分やごみが詰まると、風通しが悪くなり冷却能力が落ちます。フィルターがついている場合は定期的にフィルターを清掃するか、コンデンサーを直接洗浄して汚れを落とします。冷風を発生するエバポレーターに霜が付着し、氷のようになると熱の伝達が不充分になり、冷風の風量も減り、冷却能力が落ちてきます。霜取りを定期的に行いましょう。

<4>保温管理
調理後の保温は60度C以上で2時間までが安全な保温時間です。中途半端な温度で保管しないで60度C以上か、冷却して5度C以下で保管するようにしましょう。

<5>調理後冷却してから冷蔵保管
カレーやシチュウなどは75度Cまで十分に加熱し、味がしみこんだ状態から、シンクなどに冷水を張り,その中に寸胴をつけ攪拌しながら急速に温度を10度C以下まで冷却し、それから冷蔵庫に入れます。夏場などはアラ熱をとった寸胴をさらに氷を入れたシンクで十分冷却をします。

翌日再加熱をして提供する場合には寸胴を攪拌しながら全体の温度が75度Cになるまできちんと再加熱をしましょう。冷蔵庫の中で繁殖した菌も再加熱をきちんとすることにより死滅し安全に食べることができます。

(3)殺す
<1>加熱調理
加熱調理は、食材の中心部が75度Cで1分間以上又はこれと同等以上まで加熱しましょう。

http://www.mhlw.go.jp/search/mhlwj/mhw/houdou/0903/h0317-3.html

<2>調理機器を過信するな
(a)温度を一定に保つサーモスタット付きの調理機器

サーモスタットの温度計の設定が正しいと言って安心してはいけません。毎日、正確なデジタル温度計でサーモスタットの設定温度と実際の温度が合っているか確認する作業をしましょう。

(b)温度の安定性

サーモスタットが付いている調理機器でも、使い方により問題が出ます。各調理機器の特性を理解しましょう。

(c)調理機器能力と食材量のバランス

いくら性能の良い調理機器を購入しても、調理能力以上の食材を投入したら温度が下がりすぎて、一定の時間内に規定の温度まで上がりません。

(d)温度の回復力

売り上げや食材に適した調理機器を使いましょう。調理機器は電気でもガスでも長く使っていくうちに熱交換機にカーボンが付着し、熱を伝達しなくなります。定期的にそのカーボンを洗い落とす等の手入れが必要です。

<3>水質の安全性
安全なはずの水道水でも、屋上の高架水槽や受水槽に水を貯めてから配水する場合は、そのタンク内で汚染が進む可能性があります。年に1回の水質検査が必要です。

<4>殺菌剤
包丁、まな板、調理機器、テーブル�などの機器類の殺菌は次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用します。市販されている次亜塩素酸ナトリウム溶液は濃度が5~6%のものが多いようです。使用する際にはそれを水で希釈し、塩素濃度が100-200PPMになるようにして使用します。

4)パート・アルバイト用のわかりやすいマニュアル
以上のように衛生管理マニュアルを作成しても、文字で書いてあると読んで退屈だし、よくわからない。パートやアルバイトにわかりやすく教育するにはビジュアルな映像を駆使したマニュアルを作成する必要がある。上記の衛生マニュアルは原理原則を述べたものでどちらかというとアルバイトパート教育用教材の台本といえる。その台本を基礎にわかりやすい映像マニュアルを作成しなくてはいけない。VTRで教材を作成するのはわかりやすいのだが、作成が大変だし、部分的な修正が効かないと言う欠点がある。

そこで、デジタルカメラを使用し、マイクロソフト社のプレゼンテーション用ソフトのパワーポイントで教材を作成する。

パワーポイントは集合教育に使用できるし、新人が作業につく前に予習として学ぶ教材に使用することも可能だ。また、部分的な修正も簡単で、各店舗で店舗の実体に会った内容に簡単に変更することが可能だ。

筆者が作ったパワーポイントの台本を紹介しよう。

1.食中毒の種類
2.新型の食中毒菌
3.食中毒の発生状況
4.最近の食中毒の状況
5.米国の食中毒の状況
6.食品スーパーの食中毒の状況
7.外食レストランの食中毒の状況
8.ホテル旅館の食中毒の状況
9.食中毒を防ぐ3つの原則
10.科学的なHACCPとは
11.菌をつけないとは
12.増やさないとは
13.殺すとは
14.手洗いの重要性
15.手洗いをしなければいけない場合
16.身だしなみ
17.アクセサリーの注意
18.手洗いの具体的なやり方
19.風邪をひいたときの注意
20.調理の際の注意
21.資材の受け取り方
22.野菜のチェック
23.食肉、魚介類のチェック
24.冷凍品のチェック
25.賞味期限の知識
26.資材の保管方法
27.洗剤、殺菌剤の取り扱い方法と種類
28.売り場、食器、調理機器の殺菌方法
上記の内容に沿ってデジタルカメラで実際の店舗を撮影し、パワーポイントに張り付けて現実に即した内容にする。

5)集中講義
上記で作成したパワーポイントを大型のテレビモニターやパソコン用のオーバーヘッドプロジェクターで映し、集合教育を行う。パソコン用のオーバーヘッドプロジェクターは従来100万円を超える高額な機器で会ったが、最近は30万円台まで価格が低下しているので本部などで集中講義をする際に使うと良い。店舗などで教育する際のオーバーヘッドプロジェクターは高価すぎるので、店舗のテレビ用のモニターにパソコンの画像を映し出すようにする。最近はノート型のパソコンに取り付けられるカード型のデジタルデーターをアナログデーターに変換する安価なものがでているのでそれを取り付ければよい。パソコン画面よりも画像が荒くなるが文字ではなく画像であれば見ることは可能だ。もし、も少し投資が可能なら、パソコン用の15インチの液晶モニターを購入し、ノートブックと接続してプレゼンテーションを行うことが可能だ。15インチのモニターは最近は6万円くらいまで値下がりしている。

集中講義をする前にまず、パートアルバイトの知識レベルチェックの簡単なテストを行う。そして、集中講義終了後に再度テストを行い、点数の上位のものは表彰する事を発表してから、集中講義を開始する。そうするとパートアルバイトも眠ることなく講義を聴いてくれるはずだ。

6)チェックリストによる定期的な現場チェック
衛生管理をしっかり行うには一回くらい集中講義を行っても頭には入らない。継続して衛生管理の意識を維持させる必要がある。パートアルバイトに衛生管理をしっかり守らせるためには監視だけでなく、楽しく衛生管理を行うというゲーム感覚を取り入れよると良い。そのためには時々抜き打ちで店舗の衛生状態をチェックし、点数をつける。チェックというと点数が悪ければ怒るという感覚になりがちだが、良い点数を獲得した売り場、担当者を表彰するようにすれば、売り場同士が競争して衛生状態を向上することが可能になる。もちろん、衛生管理の善し悪しで時給が変わることも伝えなくてはいけないだろう。

衛生管理のチェックリストについては

http://www.sayko.co.jp/article/syogyo/insyoku/2000/list.html

洗剤の詳細については以下のHPを参考にされたい。

http://www.sayko.co.jp/article/cyubou/95-03.html

http://www.sayko.co.jp/article/cyubou/95-04.html

なお、より衛生管理の詳細な内容は私のHPの新しい「衛生管理HACCP」をご参考されたい。

http://www.sayko.co.jp/article/res-news/index.html

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