スターバックス(柴田書店 月刊食堂1995年7月号)

グルメコーヒーの旗手「スターバックス」
急成長を支える「番茶ではないコーヒー」
に目覚めたアメリカ人

<2000年に1,500店舗をめざすスターバックス>

現在、米国西海岸で最も伸びている外食チェーンが、シアトルで生まれたスターバックスである。サンフランシスコからサンディエゴまでを縦貫するエルカミーノにできた新しいショッピングモールの中には、必ずといっていいほど、このスターバックスが入っているし、ベイアリアだけでもここ数年で30店舗も増えていた。
現在総店舗数は442店舗。全店直営である。全店を直営で展開することによってイメージを高め、展開していくというのが同社の戦略である。

先月号でも触れているように、スターバックスと並ぶ急成長チェーン、ボストンマーケットはフランチャイズ展開であり、スターバックスとは好対照をなしている。

スターバックスの94年の年商は2億8,990万ドルで前年比61.4%の伸び。利益高は1,020万ドルで同23.2%の伸びを記録している。すさまじいばかりの伸長ぶりだ。 既存店も9%の伸びを示しており、1店舗あたりの平均売上高は80万5,000ドル。

グルメコーヒーメニューとはいえ、日本に比べれば大幅に単価の低い米国で、ひとつの喫茶店チェーンが年間80万ドルを売り上げているのだ。これまでの米国の常識では考えられないことだといってよい。

スターバックスで面白いのは、メールオーダーで商品を販売している点である。要するに通信販売だ。現在メールオーダーでの売り上げは800万ドル。

全体の売り上げから見ればまだ微々たるものだが、前年比では49%の伸びを示している。その内の10%はカップやコーヒーミルなど、ハード部門の物販売り上げである。店舗でコーヒーを売って、テイクアウトビジネスもやる、なおかつコーヒー、コーヒー器具などをメールオーダーでも売る、というのがスターバックスの特徴。ドトールコーヒーなどと同じ考え方である。

テイクアウトができて、しかもメールオーダーでも買うことができる商品を持っているという点では、アメリカのフードビジネスの中でも得異なケースであろう。

スターバックスでは、西暦2000年までには1,500店舗を展開するという。

展開圏もカリフォルニア全域から、シカゴ、ニューヨーク、アトランタなど、全米の大都市へと広がっている。いままではオフィス街が中心であったが、郊外立地やショッピングセンターなどにも進出している。

こうした拡大戦略を支えている理由のひとつが、店舗形態の多様性であろう。スターバックスにはエスプレッソバーから、ワゴンスタイルの店舗まであるのだ。

ノードストロームという百貨店の入り口には1坪ショップ的な形態でも出店している。 店舗の形態は多様だが、出店立地にはこだわりが見られる。例えばフードコストにはほとんど出店していない。米国ではフードコストは安っぽいイメージで見られることが多いためである。

だから、独立店舗か、百貨店や空港など、高級イメージのあるところに限定して出店している。他のチェーンとは違うんだ、高級なんだというイメージをアピールしているわけである。

<「おいしいコーヒー」にめざめはじめた米国民>

スターバックスをはじめとするグループコーヒーチェーンが急増している背景には、米国におけるコーヒーの消費性向が変化してきた点がある。
米国の1人あたりのコーヒー消費は1940年がピークであった。当時、全人口の74.7%にあたる10歳以上の人間は、ひとり1日あたり5杯のコーヒーを飲んでいた。それが60年代になると、1.67杯にまで下がっている。しかし、80年代に入ってから消費量は再び上昇し、93年末には3.7杯にまで戻ってきているのだ。そしてそのうちの30%はグルメコーヒーやフレーバーコーヒーで占められている。

つまり消費量そのものはかつての数字までは至っていないものの、高級化しているのである。米国ではコーヒーに対して金を払わなくなっているといわれるが、それはいままでのような番茶のようなコーヒーに対してであり、おいしいもの、付加価値の高いコーヒーには、それなりの金を払っているということであろう。

コーヒーの消費量が伸びた一因と考えられるものに、アメリカ人の酒離れがある。 米国では飲酒運転の取り締まりが厳しくなっており、かつてほど酒を飲まなくなっているのだ。だから、アルコールビジネス、バービジネスは壊滅状態に近い。しかし、食後に何も飲まないというのはやはりさびしい。だから、酒のかわりにエスプレッソやカプチーノなど、付加価値の高いコーヒーを飲むようになった、と考えられる。

スターバックスのようなグルメコーヒーチェーンは、こうした背景を受けて、7‾8年前からシアトル界隈で偶発的に出現した。

チェーンとしては、現在スターバックスの他に、グロリアジーンズ、コーヒービーンズ、パスカ、ティモシーズ・コーヒー、チャックフロナッツ、ディーンアンドデルカなどがあるが、急成長しているのはスターバックスだけで、それに続くのはグロリアジーンスの200店ちょっと。あとは40‾50店舗程度のチェーンにすぎない。スターバックスがダントツの出店力を持っているのである。

利用動機の幅は広い。朝は出社前に飲んでいくお客や、会社で飲むためにテイクアウトするお客であふれているし、夜は夜で豆を買って帰るというお客も多くなる。

中心は朝となるが、基本的には全時間帯稼働できる。やはりドトールコーヒーと同じように、テイクアウトを持っていることが利用動機の多様化につながっているのである。

しかも、こうしたヨーロッパスタイルのグルメコーヒーチェーンのプライスは総じて高い。コーヒー1杯が普通の2倍から3倍に近いプライスになっている。だから利益率は高いはずである。売上高はそれほど高くなくとも、利益率の面では十分な魅力のあるビジネスなのである。

しかも、調理が不要で、コックを雇う必要がない。また、普通のレストランではフロアの人間だけでも何名か必要になるのに比べ、コーヒー店では最大でも4名程度で回せるはずだ。原価率が低いだけではなく、オペレーションコストの面でもメリットは大きいのである。このへんもグルメコーヒーチェーンが注目を集めている原因の一つであろう。

<こだわりのコーヒーは専門店だけの魅力>

スターバックスの新しい動きは、ソフトドリンクに力を入れている点である。コーヒーだけではビジネスのチャンスが限られてくるということから、現在のペプシコと共同でソフトドリンクを開発している。まずは、アイスコーヒーを特別容器入りで開発するが、この商品にはペプシコのマークはいれないという。
しかし、いくらソフトドリンクを強化しても、こうした業界では爆発的にマーケットを拡大していくことは難しい、という疑問を抱く人もいるだろう。

これに対して専門家は、全米でビザの店舗は5万6,000店舗あるが、グルメコーヒーはまだ、3,000‾4,000店舗しかないので、グルメコーヒーのマーケットはまだまだ伸びるだろうと答えている。

しかも、スターバックスのコーヒーは、いままでのものとは比べものにならないほど高品質なのである。まず豆そのものから品質がいい。豆の入手から焙煎まで、すべて自分たちでやって、品質を向上させることに努めている。

味的にも、本格的なエスプレッソや、フレーバーコーヒーを開発して付加価値を高めているのである。

コーヒーに関してのこだわりは、実に徹底したものだ。抽出時の温度や提供温度、量などについては、こと細かくマニュアル化されており、そのためのトレーニングも徹底的に行われている。

これに対して、フードはペストリー程度で、特に力を入れているわけではない。ドトールのように店舗調理を行う、あるいはプロントのように店内でパンを焼くなど、フードでも付加価値を高めようという考え方は、今のところない。

ソフトドリンクにしても、店でつくるのではな、パッケージで搬入している。コーヒーには徹底的に凝るけれども、他のものは既存品でいいのだと、完全に割り切っているのである。

私もスターバックスのコーヒーは何度も飲んでいるが、本当においしいと思う。現在、コーヒーは家庭でも簡単にいれることができるようになった。が、おいしいエスプレッソやフレーバーコーヒーは家ではできない。専門店が必要なのである。ここのニーズを、グルメコーヒーチェーンはタイムリーに衝いたのである。

スターバックなどのグルメコーヒーチェーンは、米国の外食業に影響を与えはじめている。マクドナルドでも、エスプレッソやカプチーノなどお堂丹生の実験を開始しているし、オーボンバンというサンドイッチチェーンもおいしいコーヒーを出すことで差別化を図ろうとしている。ファーストフードチェーンであっても、おいしいコーヒーが必要になっているのである。

この傾向はすでに日本のFFSやFRチェーンにも広がっており、これまでのレギュラーコーヒーに加えて、エスプレッソやカプチーノといったコーヒーの新メニューを実験導入するところが増えている。おざなりなコーヒーしか提供してこなかった店が多いが、ここにきて、ようやくまともな取り組みがなされはじめたようだ。

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