タコベルの0キッチン(柴田書店 月刊食堂1994年5月号)

アメリカ発集中レポート
<タコベ のゼロキッチン>

4月号でタコベルのリエンジニアリングを紹介したが今回はその中でゼロキッチンの考え方を説明しよう。

タコベルは店舗での食材加工を極力無くし、店舗で再加熱をした具と野菜の組み合わせだけでよいようにして、必要な最終調理も自動化した。その結果店舗面積に占める厨房の面積を縮小でき、同じ建物で客席数を2倍にすることが可能になった。その結果損益分岐点が下がり、商品の販売価格を大幅に下げることに成功し、ファーストフードチェーンで最初にバリューミール(低価格で価値のある食事)戦略を打ち出し、大成功したのである。

ペプシコグループのタコベルが大成功をおさめたリエンジニアリング戦略に一貫して流れるのは、厨房をできる限る小さくし、最終的には無くても良いのではないかという極端な考え方である。この考え方「ゼロ・キッチン」はペプシコ本社に大きな影響を与えたのである。ではそのゼロキッチンの考え方を見てみよう。

<<調理方法の改善>>
<従来のタコスの作り方>
まずタコシェル(タコスの皮)を作る。
*タコシェルの材料(8枚)
水 :1・1/2カップ
小麦粉 :1カップ
トウモロコシ粉:1/2カップ
塩 :1/4ティースプーン
卵 :1個

<タコシェルの作り方>
小麦粉、トウモロコシ粉、塩、卵、水を混ぜる。ドウがスムーズになるまでかくはんするる。グリドルに油をしき加熱する。そこに直径6インチになるようにミックスを流し込む。皮の周囲が乾いてくるまで2分間くらい焼く。ひっくり返し、裏が狐色になるまで2分間さらに焼く。次にフライヤーで油を180℃くらいに加熱する。焼き上がった皮をシェルの形に折り曲げながら油に入れ、色がゴールデンブラウンで表面がカリットなるまで揚げる。
<具の作り方>
*材料(タコス8枚分)

牛挽き肉 :450グラム
玉ねぎみじん切り :1個
チリパウダー :2テーブルスプーン
塩 :1ティースプーン
カミン :1/2ティースプーン
ガーリック :3かけら(つぶす)
チェダーチーズ :1カップ

ソースパンに牛挽き肉を入れピンク色が消えるまで火を通す。肉汁を切る。そのほかの調味料、具を入れかき回しながら火を十分に通す。

<トマトチリソースの作り方>
*材料
トマトみじん切り :2個
ハラピーノペッパー:3個
玉ねぎみじん切り :1個
塩 :1ティースプーン
カミン :1/4ティースプーンガーリック :2かけら(つぶす)

材料を混ぜ合わせ冷却する。

以上のように、食べると簡単に見えるタコスの作り方であるが、結構手間がかかるのである。ファーストフードの店舗でアルバイトが上記の加工をすることは無理である。
<<改善した調理方法>>
そこでまず、タコシェルの加工を工場で行い、店舗でフライするだけにした。さらに、具の肉の調理と味付けを工場で行い、それをプラスチックバッグに真空パックし、冷凍または冷蔵する。店舗ではリサーモライザー(温度コントロールのできる湯煎機)を使用し、プラスチックバッグごと再加熱する。再加熱した具を加湿保温庫に保存し、オーダーにより盛りつける。
野菜は新鮮でなければならないが、洗浄とカットに手間がかかるので、工場で洗浄殺菌し、カットした状態でプラスチックバッグに真空パックする。これにより冷蔵のカットした状態で冷1週間保存をすることが可能になった。また、米国は地域が広いため、地域によっては年間を通してトマトなどの野菜を供給することは困難であるが、全世界のトマト産地を見ながら集中購買し加工して、店舗に安定したコストで供給することが可能になったのである。

この工場でほとんどの加工をし、店舗では再加熱と組立で良いようにしたため、アルバイトの作業でも安定した商品を出すことが可能になり、店舗段階での商品ロスのバラツキがなくなり、原材料コストが下がったのである。

<<調理設備の改善>>
店舗のキッチンは冷蔵庫と冷凍庫、リサーモライザー、フライヤー、アッセンブルテーブル、排気ダクトを一体にしている。また材料の流れを冷凍庫、冷蔵庫、加熱機器、アセンブルテーブル、保温庫と一直線の流れ作業ができるようにして生産性を上げるようになっている。
また、新店舗の工事の時間を短縮するために、一体型に設計し、工場で全ての機器を設置した形で組み立てておき、それを店舗に搬入するだけで、厨房を作り上げるようになっている。その結果、新店舗の施工期間が大幅に短縮し、短期間に集中出店することが可能になった。

また、工場での加工を増やすことにより現場での高い工事作業員の労働時間を短縮することが可能になり、施工コストの低減も実現した。勿論、工場で厨房を設計施工するため、現場でレイアウトを改悪することがなくなり、標準化が実現でき、高い生産性を維持することが可能になったのである。

<<調理機器の自動化による人件費の改善>>
タコベルの店舗の場合は、パートタイムの人件費をコントロールするために、店舗の作業を機械化した。特に野菜をタコで巻く作業の機械化、さらにフライ類の自動フライヤーを開発したのである。ファーストフードの調理で多いのは、グリドルでの肉類の調理であるが、それ以上に多いのがフレンチフライ、フライドチキン、ナゲットなどのフィンガーフードである。
自動フライヤーは元々大手ハンバーガーチェーンが開発していた。それは、リーチイン冷凍庫とフライヤーと産業用のロボットを組み合わせたものである。技術的にはそうむずかしくないが、問題はコストが高いということと、産業用ロボットと人間が同じ場所で混在して作業するのは大変危険であると言うことであった。また、ロボットは人間の複雑な作業を真似すると、作業スピードが遅くなると言うこともあった。

産業用のロボットは自動車産業の溶接ラインで使用されているが、作業そのものは単純であり、一定のスピードで環境の悪い場所でも正確な作業が可能なのであり、24時間作業も可能なのである。しかしファーストフードの厨房では、朝、昼、晩のラッシュとその間のアイドル時間帯があり、一定の量で生産することができず稼働率が低い。

また、設備投資を考えれば1台のロボットで複数の作業をさせないと投資効率が悪いのである。ところがロボットに複数の複雑な作業をさせようとすると途端に効率が悪くなるのである。ロボットが一つの動作から次の動作に変わるとき、判断業務が必要であり、それにかかる時間は人間よりかなり遅いのである。

そこで、タコベルは現存のフライヤーとリーチイン冷凍庫を組み合わせ、ロボットでなくフライ作業を分解し、直線の作業を機械化することを目指したのである。

フレンチフライの作業を考えて見よう。

まずフレンチフライのオーダーを3ついれる。
図のアームがバスケットを横のレールまで持ち上げる。
横移動のアームに移しかえる。
横移動のアームがバスケットを左側の冷凍庫まで移動する。
冷凍庫内部のバスケットに入った冷凍ポテトをオーダー分だけ傾けてスライドさせ
においてあるバスケットに入れる。
バスケットを元のフライヤーまで元に戻し、静かに油の中に入れる。
油の温度、時間は各フライヤーのコンピューターが管理する。30秒後にアームが
バスケットを上下に揺らし、内部の冷凍ポテトがほぐれて良く火が通るようにする。
3分間位経過し出来上がったことをコンピューターが判断し、アームに教える。
アームはバスケットをつかみ油から上げる。
30秒ほど油の上で油をきり
右のバギングステーションまで移動し、バスケットを傾けポテトを開ける。
バスケットを自動的に元の位置に戻す。

塩を振り、かき混ぜ、紙容器に詰める作業は人間が実施する。この作業まで機械化すると、もっと高度なロボットが必要で、作業スピードはかえって遅くなるのである。
作動部分はフライヤー上部のみであり、アルバイトの人間と交差する事がなく安全である。唯一危険なのは、バギングステーションで作業中にバスケットがきて手に触れて火傷をする事であるが。バスケットが来るときにブザーを鳴らすか、センサーで人間が作業中は途中で止まって待つようにする事が可能である。このシステムは従来のシステムに簡単な稼働部分の追加ですみ現実的な考え方である。3台のフライヤーと冷凍庫のセットで300万円くらいのコストを目指している。

また、自動のフイルタリングマシンを内蔵し、必要に応じて油をろ過し、品質を常時最高にしておけるし、内蔵のコンピューターを活用し故障診断、カリブレーション(温度調節など)を自動化できるのである。

現在さらに開発するしているのは,POSにオーダーを入れた時点で自動的にフライを開始するシステムである。さらには、過去の売上実績から当日の売上予測をし、自動的にフライし、お客様を待たせずかつ、廃棄商品も無いようにする事である。

現在の労働人口と人件費を考えるとまだ人間を使用する方が安いが、10年後を考えると本当に必要になるのである。また、出店をガソリンスタンドやコンビニエンスストアーの中などに広げると、人手が無くてもできるシステムが必要なのである。タコベルでは単なるコストダウンのみでなく、必要なら積極的な投資も考えており常に業界の一歩先を走っているのである。

<<販売方法の改善>>
工場でほとんどの食材を加工し店舗で再加熱すれば良いようになっているため、店舗でタコスを売るだけではなく、店舗外で販売することが可能になったのである。学校給食や、スーパーマーケットのフードコート、ガソリンスタンド、コンビニエンストアー、エアーポートターミナル、などに簡単な設備で出店が可能になったのである。そこで、ペプシコは簡易店舗の製造会社を買収し、開発を開始したのである。
店舗の製造会社は簡易型店舗のキオスク店舗を開発し、店舗と調理器具をあらかじめ組み合わせており、販売する場所に搬入し、電気、水道、配水管などを接続することにより数日で営業ができるようにした。

設備投資だけでなくランニングコストが低いのも特徴である。現在展開しているタコベルのそばに店舗を開き、タコベルのアシスタントマネージャーが店舗を運営するのである。つまり、店長が1人で2店以上の複数の店舗を管理できるので、社員の人件費を削ることが可能なのである。

設備投資コストを大幅に下げ、ランニングコストも下げることが可能になったため、従来の店舗の1/10の売上で損益分岐点を達成でき、利益率を大幅に向上させることが可能になったのである。

<<他業界への影響>> タコベルのリエンジニアリングによる低価格路線は、他のファーストフードチェーンに大きな影響を与えたのである。特にハンバーガーチェーンに与えた影響は大きかった。大手のハンバーガーチェーンでは数年前からバリューミールを売出、売上を回復することに成功している。

また、規存の店舗だけではなく、ディスカウントストアーのウオールマートや、Kマート、ガソリンスタンド、コンビニエンスストアー、エアーポートターミナルヘの小型店舗(キオスク)の出店を開始し出したのである。

M社では米国内での新規出店は従来400店前後であり、年々数が減少していたのであるが、本年は800店もの出店を目指しているのである。この新店の半数がキオスク店舗であるといっているのであり、M社の大きな収入源となると言われている。

従来の大型店では損益分岐点が高いため、売上が期待できるロケーションが必要であったが、すでに全米に9000店展開しているため、新店を開店すると近隣の規存店の売上が下がり、トータルでの売上と利益に結びつかないという問題を抱えていたのである。

ところが、小型のキオスク店舗を開店すると従来とりきれていなかった客層をとることができ、規存の店舗にまったく売上のインパクトを与えないことに気がついたのである。また、キオスク店舗の運営は近隣の大型店の店長が行い、新たな社員を増加しないで運営するなどのランニングコストの削減をはかることに成功し、損益分岐点を大幅に下げることに成功しているのである。

このキオスク店舗を展開するに当たって、ハンバーガーチェーンでもゼロキッチンの開発を実施したのである。

初期のハンガーガーの調理システムは、オーダーが入ってから調理をする、クック・ツー・オーダーであった。ハンバーガーは出来たてで温かく品質はよいが、調理に時間がかかるという欠点があった。

ハンバーガーチェーンの初期の頃のメニューはハンバーガーが1種類であり、そのため全メニューで10品目くらいであったのである。そのためハンバーガーを事前に調理してウオーマーに保管しておき、オーダーがあったらすぐに提供できるようにしていた。これをストック・ツー・オーダーシステムと呼ぶ。このシステムによりテイクアウトのビジネスを成功させることが出来、かつドライブスルーのような新しいビジネスチャンスを物にする事が出来たのである。

しかし、チェーンが出来てから15年もするとお客様は、大型サンドイッチやソースの異なるサンドイッチ、チキンサンドイッチ、朝食メニューや、多国籍料理を望むようになってきた。そのため、数多くの商品を保温する必要があるが、商品の保管時間を過ぎて破棄する必要が出たり、製造に時間がかかり、サービングタイムに問題が出るようになってきた。

完成品のサンドイッチとして保温しておくと、ソースや肉汁がバンズに染み込んでしまうという問題が出てくる。そこで、調理に時間がかかるミートなどを事前に焼いておき、それを正確な湿度コントロールが出来る保管庫に保管しておく方法が出てきた。これにより、焼いたミートを30分から1時間も保管する事が出来、作業が分散化し商品の破棄も少なくなり、オーダー後の商品のサービングタイムが格段に早くなるというメリットが出てきた。これをアッセンブル・ツー・オーダーシステムと呼ぶ。現在では、多くのチェーンで採用されるようになってきている。

ミートなどのデリケートな食材を保温するには乾いてしまってはならないので湿度のコントロールを正確に高温域でできる特殊な保管庫を各チェーンで開発し使用している。

この技術を最初に開発したのは大手のB社であるがM社もその技術を開発したのである。そして気がついたのは、アッセンブル・ツー・オーダーのシステムを活用することにより、大型のガスグリドルが不要であるということであった。近隣の大型店でミートを焼成し、キオスク店舗に搬入する。それを保温庫に保存しオーダーによりアッセンブルするのである。この技術により大型のガス器具が不要になり、キオスク店舗を人の集まる火気の使用できない良いロケーションに出店することが可能になったのである。さらに設備投資が大幅に下がるというメリットもでたのである。

本年度はM社は日本でもこのキオスク店舗の展開を考えており、業界に大きな波紋を投げかけるものと思われるのである。

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