タコベルリエンジニアリング詳細(柴田書店 月刊食堂1994年7月号)

アメリカ発集中レポート
組織のリエンジニアリング

タコベルの厨房におけるリエンジニアリングとゼロキッチンがレストランチェーン業界に与えた影響度はたいへん大きなものであった。ゼロキッチンは単に厨房をリエンジニアリングしただけでなく、マネージメント組織のリエンジニアリングをも促した。今回はタコベルの実施した、組織のリエンジニアリングを見てみよう。

タコベルの実施したリエンジニアリングのプロセスは表1、2、3であり、その成果は表4であるので、参考にしていただきたい。

表 1
タコベル10年前の問題点
1983年にジョンEマーチン氏がC.E.0に就任、顧客の声を聞いた。
発見した問題点
1)ピラミッド型の組織で、管理職が多くお客様のために仕事をしていなかった
2)将来の明確なビジョンを持っていない
3)お客様の要望を見誤っていた

表 2
改善点
1)ベンチマークサーベイでお客様の要望を発見 お客様はおいしい食事を早く、温かいうちに、きれいな店内で、安く食べたいと思っている。
2)人材の再組織化 SV制度の廃止、店長への権限委譲、組織の簡素化。
3)ゼロキッチン化による建物のリエンジニアリング 建物が同じで、客席面積を倍増した。出店可能な場所を広げた。

表 3
ゼロキッチンの効果
作業の標準化で作業を単純化 / マネージャーの作業が軽減 / 食材コストの低減 / 集中処理により品質向上 キッチンのスペースを減少 / アルバイトのトレーニングが容易 / 店長は一人で数店を管理できる / SVの監督が不要 / 客席が増加 / 出店可能場所の増加
コストが下がるので値段を下げられる。値段を下げると来店客数が増加する。
総販売面積が増大するので客数が上昇し、売上が増加する。

売上と利益の大幅増加
<タコベルが実施した組織のリエンジニアリングとは>
1)組織上の問題点
元々のタコベルの組織はピラミッド型の組織で、管理職が多くお客様のために仕事をしていなかった。
米国のファーストフード業界が模範としていたハンバーガー業界では、フォードの大量生産方式を取り入れ、流れ作業の厨房を設計した。人事、教育訓練、組織は、米軍のピラミッド型の階級性の組織方法と教育訓練法を取り入れた。その、大量生産に適した厨房と、一糸乱れぬ組織はハンバーガチェーン各社を急成長させ、各レストランチェーンの模範とされた。

店舗では、アルバイトの上に、アルバイトマネージャー、アシスタントマネージャー、上級アシスタントマネージャー、店長の階級制度がしっかり敷かれている。6店の店長ごとに、スーパーバイザーがおり、6~7人のスーパバイザーを管理するために、地区マネージャーがいる。2~3人の地区マネージャーを管理するために、地区本部長(副社長)がいる。地区本部長は、そのほかにオフィスの店舗開発マネージャーや、購買マネージャー、人事マネージャー、教育マネージャー、フランチャイズマネージャーなど、7人以下の部下を管理する。

これは、軍隊の管理論であり、監督は7人以上の部下を管理できないという理論からきている。スーパーバイザーは軍隊の鬼軍曹と同様に部下の規律を厳しく管理するのである。

たとえば軍隊では、規律を守らせるために、銃の手入れを十分にさせるが、どれだけ技術があるかを評価するのに、銃の分解清掃を目隠しで行わせる。現代の実際の戦争では、銃の性能ではなく、どれだけ玉を相手に浴びせるのかといる物量作戦に左右されるにもかかわらずだ。

それと同様のことをハンバーガーチェーンでも実施した。どれだけ正確に複雑なシェイクマシンや、フライヤーを目隠しして組み立てられるかである。そのコンテストを店長に実施し、できたものには会社の株を賞品として出したチェーンもあったのである。当然、タコベルもハンバーガーチェーン業界を見習っていたのである。

2)その対策としての人材の再組織化
厨房の調理システムを見直し、集中加工の比率を向上させ、店舗での調理作業を簡素化し、いわゆるゼロキッチン化を実現したことにより、現場作業者と店長の業務が低減された。また、POSやコンピューターシステムの管理会計システムの導入により、店長を管理するスーパーバイザー(以下SV)業務の見直しが必要になった。
SVは日本語に直すと監督である。監督は、店長が会社のルールと違ったことをやるといる性悪説に基づき、品質のチェック、現金の監査、人事管理、人事教育、人事評価、利益管理を厳しく行っていたのである。しかし、よく考えてみれば、チェーンができてから数十年たっており、経験が深く、すでに結婚して子供もいる大人の店長が、見ていないからといっていい加減な仕事をする筈がない。厳しく監督するよりも、監督がいなくても一生懸命働くモチベーションの方が重要であり、コストも低いのではないかと気がついたのである。

もう一つの背景は、米国のファーストフードチェーンはフランチャズシステムを採用しており、一般的に店舗数の半分以上がフランチャイズ店舗なのである。フランチャイズ店舗ではフランチャージーのオーナーが5~6店舗を自分で管理し、その上には30店舗程を管理するフランチャイズ担当マネージャーがいる。つまり、スーパーバイザーのように細かく監督をしないのである。なぜかというと、フランチャイジーのオーナーは自分の店舗の運営の善し悪しにより、利益が大きく異なることを自覚しているからである。

フランチャイズ担当のマネージャーは監督ではなく、コーチである。オーナーが必要としている販売促進とか社員の教育方法の情報を与えたり、一緒に改善するという協力関係にあるのである。

直営店の経営もそれと同じくフランチャージーの経営者と同じ感覚をもたせるための、インセンティブを与えれば良いではないかということを気がついたのである。店舗の成果により報償金を与え、経営者的な見方を身につけさせれば良いではないかということである。また、ストアーマネージャーという名称から、ゼネラルマネージャーという名称に代え、その業務の重要性をより訴えたのである。

このゼロキッチンシステムの導入と、SV制度廃止などの組織の見直しにより、タコベルの業績はドラマチックに向上し表4のようになった。

表 4
タコベルのリエンジニアリングの結果の数字
店舗数 SV人数 客席面積比率 時間当可能売上
1988年 1800店 350人 30% 400ドル
1992年 2300店 100人 70% 1500ドル

1987年以来の売上の増加 毎年 22%増加
1989年以来の利益の増加 毎年 31%増加
1993年の売上増加率 対前年 22%増加
1993年の既存店昨年対比売上 対前年 7%増加
1993年の既存店昨年対比営業利益 対前年 8%増加

売上は22四半期連続増加をしている。

1993年の利益は売上の伸びに比べ余り芳しいものではない。それは、各ファーストフードチェーンがバリューミールというディスカウント戦争に参入し、そのため、タコベルもさらに、効果的なディナーミールのディスカウントを開始したため、売上は増加したが、販売コストが増加した。

また、もう一つの要因は、ダブルドライブスルーオンリーのホット&ナウが、競合の激化とドライブスルーオンリー店舗に対する、役所の規制により伸び悩んでいる。さらに、余りに急速な店舗展開から、ハンバーガーチェーンのオペレーションの確立ができず、運営上の問題が発生し、約50店舗程を閉店せざるを得なかった。その閉店のコストが利益を圧迫しているのである。

しかし、他のファーストフードチェーンの数字に比較するとたいへん優れており、ペプシコグループの優等性であり、グループ内のKFC、ピザハットも同じ戦略をとる準備を進めているところである。

<タコベルのリエンジニアリングの影響>
米国の飲食チェーンの米国国内売上ランキングでは、1ドルが100円と換算すると、マクドナルドは1兆4000億円で1位、バーガーキングは6、500億円で2位である。タコベルは3643億円で5位にすぎない。ところが、ペプシコのグループ3社を合計すると1兆2024億円で2位に躍り上がるのである。
業界で新しいチェーンが急成長するとき、業界で第1位のチェーンより、その間にある2番目のチェーンがもっとも影響を受けるのだ。つまり、トップのマクドナルドとペプシコの間に入ったバーガーキングはその影響をもろに受け、伸び悩んでいたのである。

そこで、バーガーキング社も思い切ったリエンジニアリングを実施せざるを得なくなったのだ。新しい社長のジム�アダムソン氏は異例の新聞発表を行った。

<バーガーキング社のリエンジニアリングの内容>
昨年中に実施したこと。
昨年にワッパーを99セントという値段のバリューミールを販売し、ディスカウント 戦争に参入した。
コストの高い直営店をフランチャイズ店に売却する。 カリフォルニアでは人件費などのコストが高く直営店では利益がでにくいので全部売 却した。
スーパーバイザー制度を廃止し、地区マネージャーが30店舗位を直接管理する。
店舗での調理を合理化し、キオスク店舗を開発した。そして出展可能場所を増加する 。
本年5月より実施する内容
現在1200人いる本社の社員のうち600人をカットする。
カットした人員の一部を地区の店舗のサポートに回す。
本社集中の権限を、地区本部に大幅に委譲する。
本社の重役の個室をなくし、日本のような大部屋制にして、コミュニケーションを増 す。
会社のビジョン(目標)を明確にする。 原点に戻り、フランチャイズ店舗を拡張し、ハンバーガーを売ることに専念する。具 体的には、世界的なオペレーション、世界的な店舗展開、世界的なブランドイメージ の売り込みを行い、、安定した財務内容を目指す。そして世界トップのチェーンにな る。
本社の部長職を削減し、現場のサポート人員を倍増する。
地区本部制を廃止する。従来地区本部長は副社長職であり、100店舗以上を担当し ていたが、タイトルをジェネラルマネージャーとし、7~8人の専門職のチームを管 理する。チームは、地区の販売促進、店舗運営、店舗開発、フランチャイズ担当、ト レーニングなどの機能をになう。チームは、本社に対する出先機関としての地区本部 と異なり、あたかも独立した会社の様に機能する。ジェネラルマネージャーはその会 社の社長としての働きをするのである。事務所を閉鎖し、店舗第一主義をモットーと し、チームは自宅をベースとして仕事をする。
業界第一位のマクドナルド社も大々的に新聞発表をするわけではないが、着実にリエンジニアリングを実行しつつある。

<マクドナルド社のリエンジニアリング>
TQM(トータルクリティマネージメント)を導入し、お客様が何を望んでい るか、ということを調べ、QSCや会社の組織を徹底的に洗い出しをする。
バリューミール戦略を継続し、プライスリーダーであることを維持する。
POD(ポイントオブディストリビューション。小型店舗)を開発し、ウオール マートと提携し店舗展開する。また、そのほかの出店可能場所を増加し、店舗展開の 数を倍増する。PODを世界的なレベルで展開する。
小型店舗を展開しやすくするために、店舗の投資コストを大幅に削減する。調理機器や、建物の売上に対する能力を再検討し、特別注文の機械をなくし、コストダウンす ダブルドライブスルーオンリー店舗や、プレハブ型簡易店舗を開発し、計画から 出店の時間を短縮する。 スーパーバイザー制度を検討中。従来の地区マネージャーが直接30店舗を管理する 。地区マネージャーは、社員としてではなくフランチャイジーのオーナーとしての役 割を担う。まだ慎重にテスト中である。
本社の機能を簡素化し、無駄な部を新設しない。必要なときにはプロジェクトチーム をつくり、作業が終了後は解散する。
<最後に>
タコベルのリエンジニアリングは各チェーンに大きな衝撃を与えたが、チェーン企業の行動は対照的に分かれている、バーガーキングはドラスチックなリエンジニアリングを発表したが、王者マクドナルドは慎重に行動し、リエンジニアリングという言葉すら使っていない。成果がどの様にでるか注目されるところである。 日本でも現在の不景気を突破するには従来と同じことをやっていては不可能なのである。企業を活性化するにはこのくらいの荒治療が必要な時にきているのではないだろうか。
参考文献
日本経済新聞社刊、リエンジニアリング革命、M.ハマー、J.チャンピー共著 Lebhar-Friedman発行、Nation’s Restaurant News

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